ヴィオレットの夢

桃井すもも

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六の姫の存在

ヴィオレットは寮に帰ると、兄へ手紙を書いた。

困り事があったなら、いつでも頼る様に姉達は言ってくれたが、兄も同じ事を言ってくれた。

長期休みに、帝国侯爵領を訪問したい、ついては国の許可を願うと云う旨をしたためた。
程なくして返信が届く。書簡の往復の日数を考えると、学業と執務に忙しい兄が、直ぐ様、父王及び関係各所に確認を取ってくれのが窺えて申し訳なく思った。

学園の休みは有意義に使いなさい。
不足がある場合は、大使に相談する様に。

帰って来ずとも良いから、帝国で好きに過ごすが良い。困ったら大使へ。

そう云うことなのだろうと理解した。
突き放された。端(はな)から帰国など望まれていなかった。

望まれない王女。

兄は飽くまでも、父王の言葉を伝えている。だから、ヴィオレットが傷付かないように "いつか兄がお前に会いにゆくよ。それまで学びに勤しむのだよ" と書き添えてくれている。

幼心に感じていた事。
自分は疎まれているのではないか。
両親に、いや、母に疎まれている。
無関心なのではなく、避けられているのだ。帰国を望んでいないのは、母なのだろう。

二人目の男児(スペア)を、願を掛けるほど切望していた母を裏切り絶望を与えたヴィオレットを、母は恨み疎んでいるのだ。幼い頃より殊更距離を置かれていると感じていた。
そして、そんな母を父王が諌めることは無かった。

帰る場所など無い。存在を許される場所など元より無かったのだ。

肩を落としかけたヴィオレットは、でも、と思い返す。

それがどうしたことか。
母の胸の内を知ったからと、影の薄い旨味の無い王女である事に何も変わりはない。
妙な後ろ向きな自信がヴィオレットを支える。

そもそも母は弟を偏愛している。
私は、姉達にも兄にも愛情を貰って、もうそれで十分ではないか。
姉達ですら、母には不足を感じているのだ。

一の姉と三の姉の、柔らかくて温かな抱擁を思い出す。

ヴィオレットは何か吹っ切れる思いがした。


それからアルフレッドに、可能であるならば次の長期休みに侯爵領を訪問したいと打ち明けた。

アルフレッドは「ようこそ我が領へ」と笑った。


それから、帝国学園に在籍した六年間、ヴィオレットが帰国する事は一度も無かった。



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