ヴィオレットの夢

桃井すもも

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六年の後

それからの六年。
ヴィオレットは、夏の長い休暇のひと時を、アルフレッドの領地を訪ねた。

揃って榛色の瞳のカニンガム侯爵一家は瞳の色そのままに温厚な人柄で、王女であることに取り立てて触れること無く、息子の級友、一人の少女として接してくれた。

そうして毎年、アルフレッドに手を引かれて山の尾根を伝って青い花に魅入る。
それから、薬草園で薬草の世話を手伝う。

毎年ほんのり日に焼けて、休暇が終わる前に会うクラリスに、毎度毎度笑われた。

「貴女、とんだ不良王女ね。」

そんなクラリスは、毎年少し送れてカニンガム領にやって来た。
毎年、第二皇子と云う強力過ぎる護衛を連れて。

カニンガム侯爵領で過ごす夏は、行き場の無い私に居場所をくれた。


いつかの夏に、湖畔を散策した後、小舟に乗ったことがある。
湧水の源泉のある湖は怖いほど青く澄んで、触れるととても冷たかった。

見つめ過ぎると引き込まれそうで、怖いのにそれでも見つめてしまう。
魅了とはこんな風なのかもしれないと、透明度の高さから底まで視える水底を見つめた。

水面を堺に生と死の狭間を見るようで、それがヴィオレットは美しいと思った。
このまま水面に沈んだら、色の薄い私など、すぐに溶けてなくなってしまうだろう。

アルフレッドに連れられて青い花を見る。
ひと足遅れてやって来るクラリスがひと足早く帝都に戻る。
そうして、日に焼けたヴィオレットが戻ってから、公爵邸の庭園の木陰でお茶を飲む。

それがヴィオレットの夏であった。



冬の休みは大抵、寮に籠もった。
聖生誕祭は大使の邸に呼ばれて晩餐を共にする。
その他は寮内で過ごすことが多かった。

毎年、国元に帰らない学生はいたし、聖生誕祭の後の年越しも年始めも、寮内でも祝いの餐があったりで、その時期だけの特別な趣があった。

学園の図書室の本を読破しようと目標を立てて敗れたり、帝国式の刺繍に没頭したり。

時間の過ごし方など幾らでも見付けられた。

平凡な一人の学生として暮らしている、そう思えた。


そうして一年一年、夏と冬を繰り返して、月日が余りに普通の人間らしかったから、真実から目を反らしていたのだろうか。

夢見てしまった。

兄や姉達とは、季節の便りを送り合っていた。聖生誕祭のギフトカードは、父王にも母妃にも、疎遠であった弟にも贈っていた。

離れた家族で良いではないか。
役割の無い王女など、もうよいではないか。


ヴィオレットは成人の祝福を帝国で受けている。
婚約者に最大の祝福を与えたかった第二皇子が聖人を呼びよせたのを、クラリスが是非とも一緒にと誘ってくれた。

聖人に祝福を受けるという光栄を、帝国で賜った


帝国で成人したのだから、ひょっとしたら王女の身分など消えているのではなかろうか。

故郷と云って思い浮かぶのは、絵本のような宮の最奥で息を潜める密やかな時間であった。

仔犬のように転げて走り、声を立ててはしゃいだ記憶は、悲しい思い出で消えてしまっている。



    

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