ヴィオレットの夢

桃井すもも

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婚姻式

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婚礼の日は晴天に恵まれた。

ノーフォーク公爵夫人から譲り受けた婚礼のドレスは素晴らしかった。


「早く仕上がらないかしら」
私のドレス姿を頭から爪先まで何往復も確かめた夫人が瞳を輝かせて言った。

夫人の絵姿と向かい合わせるように、私の絵姿を描かせている。

完成すると、二幅一対の絵姿となる。

同じ婚礼ドレスを纏って、母娘の様によく似た姿の現公爵夫人と次期公爵夫人が向かい合わせに佇む。

それを公爵邸の中央、大階段を登った正面に飾るのだという。

出来上がったらお披露目のお茶会を開きましょう。

ふんふん!と鼻息を粗くして、これから婚姻の披露をするという時に次の披露の計画を立てていた。

ノーフォーク公爵家に二代続けて王女が降嫁する。
異例だらけの婚姻は、ヴィオレットの知る限り最も盛大な式典となった。

なんちゃって王女を自負するヴィオレットは足が竦む思いであったが、デイビッドが恐ろしいほどの落ち着きをもって、終始、彼に手を背を腰を、あらゆる面を支えられて乗り切った。

誓いの口付けが少々長かったらしく、神父様が制しようとなさったのを、公爵夫人が視線で制したと云うのは真なのか。



当然ながら、初めて迎える夜に、ヴィオレットは尋ねた。

デイビッドをどう呼んだら良いのかしら。
幼い頃は「お兄さま」と呼んでいた。

婚約したばかりの時に、売り言葉に買い言葉的な流れで、初めて「デイビッド」と呼んだが、なんとなく呼び難く、それからはうにゃむにゃと誤魔化していた。

デイビッドが
「貴女の好きなように」と云うので、

「旦那様」
と呼ぶと、デイビッドの瞳が少しだけ揺れた。


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