ヴィオレットの夢

桃井すもも

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不融

デイビッドとの「閨」が可怪しいらしい。

ヴィオレットは無知であった。

幼い内に学園寮に入り、令嬢が親元で本来受ける秘めやかな教育も行われなかった。

全てをデイビッドに委ねるままに、大海に飲み込まれる小舟の状態で翻弄され続けた。夜は長く果てが無かった。

侍女達が余りに心配するので、それが尋常ではないことを知った。

デイビッドが出仕するのを家令や侍女等と見送る。

見送りの口付けを求められるまま受けていたが、それもやはり可怪しいらしい。

「若奥様は愛されていらっしゃるのです」と侍女達が云う。

実のところ、ヴィオレットはデイビッドの「愛」と云うものに用心をしていた。

何かの拍子に、少年の頃ヴィオレットを拒んだあのデイビッドがまた現れるのではと、視えない壁を今も張っている。


「私に近寄らないでくれ」
あの時、デイビッドはヴィオレットの何を拒絶したのだろう。

幼い頃の些細な出来事、
一体何がいけなかったのか。

結局確かめられずに終いになってしまった事を、ヴィオレットは未だ精査している。

あの出来事は、自分の立場と身の置き方を考える、始まりであった。

きっとデイビッドは、そんな出来事など忘れてしまっているだろう。

けれどもヴィオレットは、傷付いた小さな自分が可愛そうで、兄と並ぶ背中を遠い回廊の奥から見つめる小さな自分が可愛そうで、今も忘れずにいる。

兄との時間はヴィオレットに光を齎していた。
それはデイビッドに対しても同じであった。
仲の良い従兄弟であった。

彼の拒絶があってから、ヴィオレットの光は霞みはじめた。

そこまでを理解して、融けない小さな塊を心の内に仕舞い込む。

デイビッドと共に積み重ねる人生は始まったばかりだ。
この塊は、長い年月のどこかで融けて無くなるのだろうか。



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