ヴィオレットの夢

桃井すもも

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夜会1

「だめだ」

強い言葉に心が冷えていく。

「旦那様」
執事が躊躇いがちに声を掛ける。
侍女頭の顔色が変わる。

「だめだ」

続けて重ねられた否定の言葉に、頬が強張るのが分かった。
そんなヴィオレットの表情に気付いたのか、ディビッドが僅かに声を落とす。

「それではだめだ」

「承知しました。着替えて参ります。」


婚姻から暫くして、デイビッドはノーフォーク公爵の所有する従属爵位の一つである伯爵位を継承してアランドル伯爵となった。
それに伴い、公爵家の所有する別邸へ移った。

ディビッドに背を向けて居室に戻る。
侍女頭が気遣げ(きずかわしげ)に「奥様」と声を掛けてきた。

「着替えます。」短く答えると、承知しましたと後ろに侍る。

執事がデイビッドに小声で何か話しているのが視界の隅に映るが、振り返る事はしなかった。

「折角お美しかったのに。」

「心配してくれて有難う。もう大丈夫よ。」

気遣ってくれるマリアに答え、替えのドレスの指示をする。

僅かな時間で侍女達がフル回転でヴィオレットを整えて行く。

鏡の前で、自身が早替わりしていく様を見つめていると、冷えた心が少しだけ落ち着くのが分かった。


その日の朝、出仕するディビッドは見送りの長い口付けのあと
「早めに戻って来る。支度をして待っていてくれ。」
と言った。

夜会がある。
兄の側近であるが、婚姻して爵位も得たことから、今夜は貴族の社交として夜会に参加する。

ヴィオレットとは城で合流してもよいものを、態々戻って一緒に行くと云う。

待たせてはいけないと早目に支度をした。

それでも婦人の装いには時間が掛かって、結局デイビッドの方が先に整い待っていた。

今日はいつもと趣向を変えた装いだった。
身体に沿ったシンプルな形に生地の光沢が美しい。
濃いブルーが若い夫人の肌に合って、ヴィオレットにしては珍しいシルバーの装飾がドレスの青を引き立てていた。

「とてもお似合いです。」マリアが褒めてくれる。

胸元が空いているドレスは初めてで、大丈夫かしらと心配すると、皆が、これくらいどの御婦人もなさっています。ええ、ええ、もうこれ見よがしな方もいらっしゃいますね、等と応援する。

侍女頭が「大変お似合いです」と云ってくれたので、これで良いのだの安堵した。

デイビッドを待たせているからと、少し急ぎ足で進むと、彼はこちらに背を向けていたので執事と先に目が合う。
その笑みからも太鼓判を貰ったと胸が踊った。

それが、振り返ったデイビッドは開口一番
「だめだ」と言った。


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