もしも貴方が

桃井すもも

文字の大きさ
25 / 33

誓いside T

クレアが学園の卒業を迎える。

この一年、僕の地獄は変わらなかった。
卒業後文官として出仕し始めても、マリアンネの呪縛は解けなかった。

学園にもう僕はいない。クレアとマリアンネだけが残ったのだ。僕のいない学園で何か起こるのではと、戦々恐々とした一年を過ごした。

ろくすっぽクレアの邸を訪う事のない不誠実な婚約者のままであった。

マリアンネの目を掻い潜って漸く逢える時には、彼女の沈む表情も陰る青い瞳も決して見落とすまいと瞳に焼き付けた。
目を伏せがちの彼女はきっと、そんな僕の視線に気づかなかった事だろう。

これ程会えずにいるのに、僕のクレアへの思慕が薄らぐ事は無かった。

僕との婚約がなければ、クレアはもっと令嬢らしい溌剌とした青春時代を過ごせた筈であったろう。

誠意の無い婚約者は、不実を通す男だと飽きれていることだろう。
マリアンネを側に侍らせて財だけ求める卑しい婚約者だと嫌気が差しているかもしれない。くすぶる恋心を持て余し、マリアンネから逃れられずにいる自分にも僕は呆れた。

彼女に呆れられ愛想を尽かされているのが分かっても、彼女を手放す事は考えられなかった。
何がこれ程までに僕の心を捉えるのか、クレアに囚われる心とマリアンネに囚われる我が身とで、同じ囚われることなのに、クレアを思うだけで胸が熱くなり、瞳を閉じるだけであの澄んだ濃い瞳が瞼に浮かんだ。

愛している。ただその一点のみは、神にも誓える僕の真実であった。


クレアの卒業式を前に、子爵家から文が届いた。
卒業式で婚約者として同伴して欲しい。
 
天にも昇る気持ちであった。
漸くクレアが卒業する。
自分の卒業式では同伴する事が叶わなかった。クレアの卒業式をクレアのパートナーとして共に祝える。


それから程無くして文を書いた。
申し訳ないが、その日は外せぬ仕事がある。
晴れある門出の伴は是非ともお父上にお譲りしたい。

結局僕はマリアンネを退けられなかった。
何を仕出かすか分からぬ程に狂気を帯びたマリアンネが恐ろしかった。
そんなマリアンネを排除する力が伯爵家に無いことが、悔しくて堪らなかった。

誰が聞いても巫山戯た話しである。
勤めたばかりの新米文官に、夜を徹する仕事など在る筈も無い。

真実を話せたら良かったのか。今更ではないか。
クレアからもその両親からも信頼を失って尚、卒業式の夜会でドレスを纏うクレアを思った。

僕の色のドレスを贈りたかった。
艷やかなブルネットの髪を結い上げて、照明の灯りが反射する青い瞳は、どれほど美しい事だろう。
誰か変な輩に声など掛けられないでほしい。
もしダンスなど誘われたなら、婚約者がいるのだと断ってくれればいい。

不義理を重ねて来たくせに、心を照らすクレアへの思いを消すことは出来なかった。

この夜、この世界にクレアとたった二人きり、あのダンスフロアーで踊っていたかった。
碌に握ったことの無い手を握り、エスコートして向かい合い、そっと腰をとってゆっくりと、瞳を見つめながらスローステップで踊っていたかった。

彼女はどんな笑い顔をしていただろうか。
濃く青い澄んだ瞳は分かるのに、その表情を思い出せない事が虚しかった。






あなたにおすすめの小説

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。