もしも貴方が

桃井すもも

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先視2

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手を握り合って水晶珠に視入っていた私とユダ様は、そこで同時にはっと顔を上げました。

それから占い師に礼を述べて部屋を出ました。

ユダ様の馬車に乗って我が邸まで送って頂く間、握った手はそのままでした。

先視の前に握った手は、まだ一度も解かれる事なく馬車にいるのです。
まるで、先程視たばかりの光景のデジャヴの様に、二人並んで座っているのです。

ユダ様が窓辺に凭れて外を眺めているお姿は、先視でトーマス様の邸から帰る時と同じです。
違うとすれば、横から分かるほど、お耳も首元も真っ赤っかです。
多分、私もそうでしょう。

真っ赤に茹で上げられた茹で蛸が、二匹並んで座っているのでした。

我が家の門扉が見えて、玄関ポーチに馬車が静かに止まります。
どこまでも先視と同じ状況に、現実が何度も繰り返えされているような錯覚を覚えます。

御者が扉を開けて、先にユダ様が降りました。

手を差し伸べられて、私も馬車を降ります。

お疲れでしょうからと、ここでこのままお別れしようと
「ユダ様。今日はお付き合い頂きまして有難うございます。」
そう申しましたところ、

「うん、クレア。また明日学園で。」
そう仰って赤いお顔のままお帰りになったのは先視と違っておりました。
先視では..、と思い出してまた頬が熱くなります。


何があったのか不審がる両親に、今視てきたばかりの先視の事を話して聞かせました。

両親は静かに耳を傾けて、先視の内容に然程驚いた風でもありませんでした。

もし驚いたとするなら、何故、占い師に分かったのだろう。それ程まで詳細に、そして正確に、と云うことでしょか。

そうなのです。
先視で私が聴いたトーマス様との会話の内容は、ほぼ事実であったのです。
多少の違いはありますが、それは些事です。それ程、現実のトーマス様とマリアンネ様の関係は、先視のものと酷似していたのです。
私が父から先に事実を聞かされていたからでしょうか。では、もしユダ様も私と同じ映像を視ていたら?

残念ながら、赤くなるばかりですっかりお互い視た事を話していなかったのです。
明日、聞いてみよう。
そう思った翌日、我が家はそれどころではなくなっておりました。



お昼時に侍女が学園に来て
「お嬢様、至急お戻り下さい。」そう言われて急ぎ邸へ戻ったのです。

「やあ、初めまして、クレア嬢。いつも倅が世話になっているそうだね。」

「初めまして、ボーフォート侯爵閣下。」
渾身のカーテシーは足元が震えてしまいました。

ユダ様はボーフォート侯爵家の嫡男でいらっしゃるのです。
学園でなければ、私とユダ様には気安い会話など出来ようもない、純然たる爵位の隔たりがあるのです。

「ああ、楽にして。」
もう、どちらがお客様か分かりません。
カチコチのまま席につき、そろりと前に座る青年に視線を移します。

(ごめん!)
ユダ様の口パクに、思わずふっと笑いが零れてしまいました。

仕方のない人。
呆れ混じりに、長めの前髪から覗く瞳を見つめます。

先視を入れるならば、二度目のユダさまからの婚約の申し入れでした。
いえ、あの卒業式でのダンスの時、あれを勘定に入れるなら、三度目の申し入れとなるでしょう。








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