王妃の手習い

桃井すもも

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視察1

「ヘンドリック、それは言ってはいけないわ。」

アリスティアの涼やかな声にヘンドリックは苦笑いを浮かべている。


「そうでしょう?当然過ぎるもの。」

アリスティアも苦笑いを浮かべていた。

お茶は渋くはない。


オフィーリアは、ヘンドリックとアリスティアと共に学園のテラスにいる。

春摘の茶葉は香り豊かで果実を思わせる爽やかな味わいであるのに。

何故かアリスティアにも渋く感じてしまう。


「君、愛されているじゃないか。」

ぶほっとお茶を吹いてしまったオフィーリアに

「汚いわ、オフィーリア。」

と、アリスティアがハンカチを渡してくれた。

令嬢として有り得ない失態に情けなくなったアリスティアは、有難うございますと云いながらハンカチを借りる。



********


アンドリュー王太子殿下の帝国視察は、学園訪問からスタートした。

帯同を求められていたオフィーリアは、「婚約者」の体を取らねばならないので、制服ではなく訪問用のワンピースを着ている。

ロイヤルブルーのシルク地も滑らかなAラインワンピースは、見覚えのある蒼い色だ。

誰が用意をしたのか、ウォルポール侯爵夫人より「今日はこれを着て頂戴」(お願いだから)と聴こえない声と共に手渡された。

あれからオフィーリアは学園寮に戻っていない。

ウォルポール侯爵邸に滞在している。
アンドリューと共に。


「ああ、此処だ。オフィーリア、こちらへおいで。」

アンドリューに手を引かれてオフィーリアは歩みを進める。

立ち止まれる筈もない。
腰にも手を添えられているのだから。


「ほら、見える?」

と、オフィーリアと視線の向きを合わせるようにアンドリューの顔が並ぶ。

で、殿下、それ以上近づかれては、ほっぺたがくっついてしまいます!

オフィーリアの頬が蛸の如く赤く染まる。


「ここから見るのが一番美しいんだよ。」

蛸さん状態のままオフィーリアは、言われた通りの方角を見やった。

「まあ..」

視線の先に、白い頂が視えた。

帝国の北側に位置する山峰である。
標高が高く、一年を通して白く輝く美しい姿をみせている。 

学園は王都の中心にある。高い建造物が犇めく目抜き通りにあるのだから、遥か遠くの山並みなど視界が遮られて見えよう筈もない。

ないのに、

「ここからだと見えるんだよ。君にも見せたいと思ったんだ。」

アンドリューは、まるで独り言の様に囁いた。

学園の四階、北西の角に位置する物品庫。
雑多な用具が溢れる部屋の小さな明り取り窓から、建物の間を縫うように伸びた路の向こうに、美しい山峰の頂が見えていた。

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