王妃の手習い

桃井すもも

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母国の香り

この頃のオフィーリアは多忙である。

学園の帰りに件の書店に寄る事が日課となりつつある。

ある日、母から文が届いた。

文が入れられていた荷物には、誕生日を迎えてから描いたと云うセシルの姿絵と、オフィーリアが幼い頃から好物である領地の焼菓子に、縁者の貴族夫人からの細々とした贈り物、そうして幾冊かの絵本が入っていた。


セシルの3歳の誕生日にオフィーリアは絵本を贈った。

絵本は帝国のもので、オフィーリアが悩み悩み選んだものに母国語の訳を、思い思い色とりどりのインクにてしたためた。

セシルが大層喜んだと云う文を既に貰っている。

どうした事かという困惑は、母の文にて解決した。

帝国語の訳を書き添えて欲しい。
貴女の了承も得ずに申し訳ないと思うのだけれど、無理を承知で送ります。

という内容から始まる。

セシルの絵本は反響を呼んだ。

初めは、セシル自身が読み楽しんでいたのが、幼友達やらその母等を通して、じわりじわりと評判が広がって行った。

セシルが貸出すことを嫌よ嫌よと渋るので、読み倒して少しばかり余裕が出た頃合いで、茶会や子供達の集まりの席で親しい貴族家の子息女等に読み聞かせた。

そうこうする内に、ご令嬢のおられる家からもお手本にしたいと貸出しの願いを受けたり、果ては教材にと教育者からも望まれて、皆まで聞いてはいられないので屋敷に招待して閲覧させることもある。

一冊程、止むに止まれぬ筋合いより貸出しを請われて、これのみお貸ししたものの、一向に戻って来る気配は無い。


大まかには以上の様であった。

"止むに止まれぬ一冊"に、思い当たる節があったが、考えないことにした。

気ままに、思い付くまま訳を添えた絵本である。
言葉選びだって、オフィーリアの感性による所が大きい。


そう思いながら送られて来た絵本を手に取ると、懐かしい母国の香りがした。

もうそれだけで、むずむずと居ても立っても居られずに、取り敢えずと一冊書いてみた。

母国の文字の横に、帝国の文字が並ぶ。

厳格なイメージの帝国語も、貴族令嬢であるオフィーリアの手になると柔らかさと流麗さを持つから不思議である。

ふふ、逆になったわ。と帝国と母国が入れ替わった絵本を手に笑みが零れた。

またインクを買い足そう。
そう思うオフィーリアの胸が弾む。

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