秘め事はいつも図書室

桃井すもも

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第十八章

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 キャラメルみたいな甘い名前。ハニーブラウンのとろりとした艶髪に、潤んだ翠の大きな瞳。
 その大きいクセに垂れてる瞳が、今は吊り上がって見えている。

 名前も甘ければ顔立ちも甘いキャラメル令嬢。フルールが男子生徒だったなら、多分きっと気になるだろう。
 けれども、残念ながらフルールは男子生徒ではないから、こんな風に真正面に立たれても好意なんて持てそうにない。

「ご機嫌よう、フルール様」

 親の爵位で言うならフルールは伯爵令嬢である。キャラメルよりも身分が高い。先に声掛け出来るのは、社交ルールならばフルールのほうが先となる。

 まあ、ここは平等を掲げる学園であるから、寛大なフルールはうるさいことを言うつもりはない。だから、目の前に立ち塞がるキャラメルを無言で見つめた。

「貴女にお話があるの」

 成る程、キャラメル。ヤル気だな。
 寛大なフルールは、キャラメルの無礼には目を瞑り、「何を?」的な顔をしてみせた。 

 ここは昼時の中庭で、例の図書室の下にあるベンチにフルールは座っていた。そこに現れた飴令嬢、キャロライナ嬢であった。

「貴女、お気づきではないのかと思いまして」

 噂では、飴は才媛だと聞いた。だが、この話しっぷり、貴族平民それ以前に人間としてなっていない。
 物事には順序がある。物語にも起承転結があるではないか。それなのに、行き成り本題に突入したこの飴!

 フルールの脳内では、「キャロライナ」という文字は既に抹消されていた。
キャロライナ=飴である。

 フルールは無礼者にも寛大だから、取り敢えず黙って話を聞いていた。

「エドワード様にお縋りになるのを辞めて頂きます」

 はあ?なんで「頂きます」で終わるのかしら。寛大なフルールは、脳内で飴の言葉尻を捕らえた。

 反応の鈍いフルールに、飴は焦れたらしい。徐ろに腕組みをした。

 飴、偉そうに。フルールは脳内で思う。

「私、エドワード様には気持ちをお伝えしているの。エドワード様の愛は貴女には無くてよ」
「で?」
「は?」

 しまった、脳内に留めておけず、つい反応してしまった。
 飴もそれにかさず反応してきた。返しが早いのは認めよう。

「お認めになっては?愛されていないのに、この先どうなさるおつもりなのかしら」

 平民を侮るつもりは毛頭ない。だが思い違いをしてもらっては困るのだ。
 フルールは、ベンチに座ったまま飴を見上げた。飴は、相変わらず腕組みのままフルールの真正面に立ちはだかる。

「貴族を侮ると、お命に関わりましてよ」

 フルールは親切なので、思いのほかしたたかだった飴に懇切丁寧に説明した。

「身分平等を謳うのもこの校内のみ。思い違いにお気をつけ遊ばせ。あの校門を一歩出たなら貴族の世界を甘く見てはイケないわ。甘いのはそのお顔と名前だけで十分なの。ついでに言うならオツムも甘いのかしら。先ず、その腕」

 そう言って、フルールはポケットから扇を取り出し、飴の組んだ腕をパシリとはたいた。

「痛っ!何するの!?」
「躾ですわ。そこは有難うございますと言うところです」
「はあ!?」
「ガヴァネスならお給金をお支払いせねば教えを授かることは出来ません。タダでお教えしているのですから、お礼なら受け取ります」
「なに言って、むぅ」

 飴はその先を発する事ができなかった。お口に扇がピタリと当てられている。

「五月蝿いですわよ。黙らっしゃい」

 フルールは、扇を飴のお口に押し当てたまま語り始めた。

「貴族の婚姻の意味をお考えになってからものを言いなさい。先ずは愛とか恋とか、その空っぽの頭から追い出しなさい。私とエドワード様との婚姻は貴族と貴族の契約なのです。それを破談にしたいなら、我が伯爵家は貴女のご生家に損害の賠償を求めます。私たちの婚約は王家に届けているものです。それを破棄するならば、相応の理由を添えて手続きを致します。貴女は痛くも痒くもないのでしょう。ですが、貴女のご生家は青色吐息、虫の息。平民が貴族の婚姻に手を出すとするなら、血反吐を吐く覚悟をなさいませ。まあ、私たちお別れなんてしませんけどね。だって私、エドワード様をお慕いしておりますの。それで、なんと申しますか、その、エドワード様も、こう申しては自惚れに聞こえますでしょうけれど、私のことを、あ、あ、愛してるんですって!」

 ああ、さっぱりした。
 フルールは、言うべきことをすっかり言い終えて、すっきりさっぱりした。


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