18 / 20
第十八章
しおりを挟む
キャラメルみたいな甘い名前。ハニーブラウンのとろりとした艶髪に、潤んだ翠の大きな瞳。
その大きいクセに垂れてる瞳が、今は吊り上がって見えている。
名前も甘ければ顔立ちも甘いキャラメル令嬢。フルールが男子生徒だったなら、多分きっと気になるだろう。
けれども、残念ながらフルールは男子生徒ではないから、こんな風に真正面に立たれても好意なんて持てそうにない。
「ご機嫌よう、フルール様」
親の爵位で言うならフルールは伯爵令嬢である。キャラメルよりも身分が高い。先に声掛け出来るのは、社交ルールならばフルールのほうが先となる。
まあ、ここは平等を掲げる学園であるから、寛大なフルールは煩いことを言うつもりはない。だから、目の前に立ち塞がるキャラメルを無言で見つめた。
「貴女にお話があるの」
成る程、キャラメル。ヤル気だな。
寛大なフルールは、キャラメルの無礼には目を瞑り、「何を?」的な顔をしてみせた。
ここは昼時の中庭で、例の図書室の下にあるベンチにフルールは座っていた。そこに現れた飴令嬢、キャロライナ嬢であった。
「貴女、お気づきではないのかと思いまして」
噂では、飴は才媛だと聞いた。だが、この話しっぷり、貴族平民それ以前に人間としてなっていない。
物事には順序がある。物語にも起承転結があるではないか。それなのに、行き成り本題に突入したこの飴!
フルールの脳内では、「キャロライナ」という文字は既に抹消されていた。
キャロライナ=飴である。
フルールは無礼者にも寛大だから、取り敢えず黙って話を聞いていた。
「エドワード様にお縋りになるのを辞めて頂きます」
はあ?なんで「頂きます」で終わるのかしら。寛大なフルールは、脳内で飴の言葉尻を捕らえた。
反応の鈍いフルールに、飴は焦れたらしい。徐ろに腕組みをした。
飴、偉そうに。フルールは脳内で思う。
「私、エドワード様には気持ちをお伝えしているの。エドワード様の愛は貴女には無くてよ」
「で?」
「は?」
しまった、脳内に留めておけず、つい反応してしまった。
飴もそれに透かさず反応してきた。返しが早いのは認めよう。
「お認めになっては?愛されていないのに、この先どうなさるおつもりなのかしら」
平民を侮るつもりは毛頭ない。だが思い違いをしてもらっては困るのだ。
フルールは、ベンチに座ったまま飴を見上げた。飴は、相変わらず腕組みのままフルールの真正面に立ちはだかる。
「貴族を侮ると、お命に関わりましてよ」
フルールは親切なので、思いのほか強かだった飴に懇切丁寧に説明した。
「身分平等を謳うのもこの校内のみ。思い違いにお気をつけ遊ばせ。あの校門を一歩出たなら貴族の世界を甘く見てはイケないわ。甘いのはそのお顔と名前だけで十分なの。ついでに言うならオツムも甘いのかしら。先ず、その腕」
そう言って、フルールはポケットから扇を取り出し、飴の組んだ腕をパシリとはたいた。
「痛っ!何するの!?」
「躾ですわ。そこは有難うございますと言うところです」
「はあ!?」
「ガヴァネスならお給金をお支払いせねば教えを授かることは出来ません。タダでお教えしているのですから、お礼なら受け取ります」
「なに言って、むぅ」
飴はその先を発する事ができなかった。お口に扇がピタリと当てられている。
「五月蝿いですわよ。黙らっしゃい」
フルールは、扇を飴のお口に押し当てたまま語り始めた。
「貴族の婚姻の意味をお考えになってからものを言いなさい。先ずは愛とか恋とか、その空っぽの頭から追い出しなさい。私とエドワード様との婚姻は貴族と貴族の契約なのです。それを破談にしたいなら、我が伯爵家は貴女のご生家に損害の賠償を求めます。私たちの婚約は王家に届けているものです。それを破棄するならば、相応の理由を添えて手続きを致します。貴女は痛くも痒くもないのでしょう。ですが、貴女のご生家は青色吐息、虫の息。平民が貴族の婚姻に手を出すとするなら、血反吐を吐く覚悟をなさいませ。まあ、私たちお別れなんてしませんけどね。だって私、エドワード様をお慕いしておりますの。それで、なんと申しますか、その、エドワード様も、こう申しては自惚れに聞こえますでしょうけれど、私のことを、あ、あ、愛してるんですって!」
ああ、さっぱりした。
フルールは、言うべきことをすっかり言い終えて、すっきりさっぱりした。
その大きいクセに垂れてる瞳が、今は吊り上がって見えている。
名前も甘ければ顔立ちも甘いキャラメル令嬢。フルールが男子生徒だったなら、多分きっと気になるだろう。
けれども、残念ながらフルールは男子生徒ではないから、こんな風に真正面に立たれても好意なんて持てそうにない。
「ご機嫌よう、フルール様」
親の爵位で言うならフルールは伯爵令嬢である。キャラメルよりも身分が高い。先に声掛け出来るのは、社交ルールならばフルールのほうが先となる。
まあ、ここは平等を掲げる学園であるから、寛大なフルールは煩いことを言うつもりはない。だから、目の前に立ち塞がるキャラメルを無言で見つめた。
「貴女にお話があるの」
成る程、キャラメル。ヤル気だな。
寛大なフルールは、キャラメルの無礼には目を瞑り、「何を?」的な顔をしてみせた。
ここは昼時の中庭で、例の図書室の下にあるベンチにフルールは座っていた。そこに現れた飴令嬢、キャロライナ嬢であった。
「貴女、お気づきではないのかと思いまして」
噂では、飴は才媛だと聞いた。だが、この話しっぷり、貴族平民それ以前に人間としてなっていない。
物事には順序がある。物語にも起承転結があるではないか。それなのに、行き成り本題に突入したこの飴!
フルールの脳内では、「キャロライナ」という文字は既に抹消されていた。
キャロライナ=飴である。
フルールは無礼者にも寛大だから、取り敢えず黙って話を聞いていた。
「エドワード様にお縋りになるのを辞めて頂きます」
はあ?なんで「頂きます」で終わるのかしら。寛大なフルールは、脳内で飴の言葉尻を捕らえた。
反応の鈍いフルールに、飴は焦れたらしい。徐ろに腕組みをした。
飴、偉そうに。フルールは脳内で思う。
「私、エドワード様には気持ちをお伝えしているの。エドワード様の愛は貴女には無くてよ」
「で?」
「は?」
しまった、脳内に留めておけず、つい反応してしまった。
飴もそれに透かさず反応してきた。返しが早いのは認めよう。
「お認めになっては?愛されていないのに、この先どうなさるおつもりなのかしら」
平民を侮るつもりは毛頭ない。だが思い違いをしてもらっては困るのだ。
フルールは、ベンチに座ったまま飴を見上げた。飴は、相変わらず腕組みのままフルールの真正面に立ちはだかる。
「貴族を侮ると、お命に関わりましてよ」
フルールは親切なので、思いのほか強かだった飴に懇切丁寧に説明した。
「身分平等を謳うのもこの校内のみ。思い違いにお気をつけ遊ばせ。あの校門を一歩出たなら貴族の世界を甘く見てはイケないわ。甘いのはそのお顔と名前だけで十分なの。ついでに言うならオツムも甘いのかしら。先ず、その腕」
そう言って、フルールはポケットから扇を取り出し、飴の組んだ腕をパシリとはたいた。
「痛っ!何するの!?」
「躾ですわ。そこは有難うございますと言うところです」
「はあ!?」
「ガヴァネスならお給金をお支払いせねば教えを授かることは出来ません。タダでお教えしているのですから、お礼なら受け取ります」
「なに言って、むぅ」
飴はその先を発する事ができなかった。お口に扇がピタリと当てられている。
「五月蝿いですわよ。黙らっしゃい」
フルールは、扇を飴のお口に押し当てたまま語り始めた。
「貴族の婚姻の意味をお考えになってからものを言いなさい。先ずは愛とか恋とか、その空っぽの頭から追い出しなさい。私とエドワード様との婚姻は貴族と貴族の契約なのです。それを破談にしたいなら、我が伯爵家は貴女のご生家に損害の賠償を求めます。私たちの婚約は王家に届けているものです。それを破棄するならば、相応の理由を添えて手続きを致します。貴女は痛くも痒くもないのでしょう。ですが、貴女のご生家は青色吐息、虫の息。平民が貴族の婚姻に手を出すとするなら、血反吐を吐く覚悟をなさいませ。まあ、私たちお別れなんてしませんけどね。だって私、エドワード様をお慕いしておりますの。それで、なんと申しますか、その、エドワード様も、こう申しては自惚れに聞こえますでしょうけれど、私のことを、あ、あ、愛してるんですって!」
ああ、さっぱりした。
フルールは、言うべきことをすっかり言い終えて、すっきりさっぱりした。
3,694
あなたにおすすめの小説
私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。
ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。
いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。
そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる