腐っている侍女

桃井すもも

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腐侍女の趣味

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王宮の人事部から指導があったのか、あれから改心したらしい出来過ぎ上司は、今度は必要以上に有給消化を命じるようになりました。

余程厳しい指導があったのでしょう。ざまあでございますね。

しかしながら、余りにしつこく休め休めと言われるものですから、その度に絵師様の元に通い詰めた私は、ちょっとそこらで自慢出来るくらいには、腕前が上がったのであります。

それで、何気に自慢をしようかななんて思い立って、ヒューバート様に殿下の絵姿をお見せしたのです。

いつも極力瞬きせずにまなこを見開いて観察しておりますので、殿下のお姿は瞳を閉じるだけでまざまざと脳裏に蘇っていらっしゃいます。

一筆ごとに瞼を閉じて「殿下、いらっしゃいませ」と脳裏にお呼びし筆を進めて行くので、なかなかに時間を要するのですが、仕上がりはもう殿下の生き写しです。

ご覧になられたヒューバート様が、うっと唸られたので、間違いございません。

ヒューバート様のお手から絵姿を取り戻し、いそいそと大判のハンカチに包みます。このハンカチには殿下のお印であります冠を頂いた蒼い獅子を刺繍しております。

目聡いヒューバート様が、ちょっと待つんだと、私の手を取ります。

乙女の手を取るなど、何と破廉恥な!
また人事部からご指導されてしまいますよ!腐ってしまえ!

「そのハンカチ、君が刺繍したのか?」

当然でございます。
えへん、と無い胸を張って威張ってみせます。

「その..それを譲っては貰えないか」

なんと。もしや貴方様、殿下のファンでいらしたのですか!
あれ程に毎日毎日殿下に触れているくせに、これ以上深い関係をお望みなどと、貴方様こそ切腹なさいませ!

怒りが込み上げて来たものの
「殿下から賜ったハンカチを譲ろう」

了解です。差し上げます。どうぞご自由にお持ち下さいませ。

右手で私の刺繍入りハンカチをお渡しして、左手で殿下のハンカチを催促致しました。

恐るべし出来過ぎ侍従。
殿下の私物を私物化しているとは。

思わぬ上司の犯罪に恐れ慄くも、それを下賜された私は共犯者なので、お口はチャックで慎みます。

それでは、と御暇おいとまを述べますと
「そのハンカチにも殿下のお印を刺繍しておくように」
と、命ぜられました。命令!

仕方ないですねー。
されど天国。
殿下私物のハンカチに殿下のお印を刺繍する。
ダブル殿下でもう天国でございます。

何だか、やけにしつこい出来過ぎ上司が、その絵姿も譲ってはくれないかとえらく低姿勢でお願いしてくるので、ええ~仕方ないですね~と散々勿体振って精神を腐らせてから譲って差し上げました。

勿論、殿下の私物ハンカチ一枚プラスですよぅ!


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