41 / 48
【41】
しおりを挟む
「やあ、御両人。久しぶりだね。執務を放り投げての婚前旅行は楽しかったかい?」
何故貴方様が此処に。
「ああ、クリスティナ可哀想に。顔色が全く冴えないね。夜も寝かせてもらえなかったと見える。狭量な男は独占欲も強くて見苦しいね。」
此処は私の生家なのですが。
「クリスティナ。君は何も心配せずとも大丈夫だよ。陛下は君の身を案じておられた。悪い男に捕まったとね。安心してくれ。これからは君の兄が側にいる。勝手な事は許さないからね。」
黙っていればいつまでもネチネチネチネチ嫌味を(主にローレンへ)連発し続けるフレデリック殿下。
その後ろには兄のトーマスとアラン様が侍っている。てか、殿下。貴方もう公国からお戻りに?
行き成りの声掛けに挨拶のタイミングを失って、どこで礼の姿勢を取って良いのか迷いに迷って、クリスティナはローレンを横目で見た。
駄目ですよ、上司にそんな顔しては!
顎が上がってますよ、少しは笑って下さいな!
「殿下、そろそろ二人にも座ってもらいましょう。」
流石はお父様!殿下のネチネチネチネチをすっぱり断ち切って下さった。
「お、お父様。」
一体何から説明すれば良いのだろう。
説明?いや、詫び?
「クローム領は如何だった。」
父はローレンとの関係よりも何よりも、クリスティナの当初の目的であったクローム領への旅について問うて来た。
クリスティナはそこで気持ちが切り替わる。
「ええ、素晴らしい旅になりました。クローム領はとても豊かな大地でした。山々も大河も風景も、男爵家一族領民全てが温かく力強く懐深く、再び縁を得られたことに感謝して参りました。」
「そうか。それは何よりであった。男爵は達者であったか。」
「ええ。何処か懐かしく思えるお顔立ちをなさっておられました。お人柄もお優しくて、突然伺いましたのにお心を尽くして饗して下さいました。お父様へとお土産を頂戴して参りましたの。」
「ほう、私には?」
そこで兄が割り込んだ。フレデリックの後ろに控えながら。
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「ほう、私には?」
殿下!何故貴方も参戦する?
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「皆様失礼。私の妻を、余り虐めないで頂きたい。」
ローレン様!何故貴方も参戦する?
それにまだ妻ではありませんよ!
「そうだ、クリスティナ。お前、大丈夫なのか!ローレンに無理矢理「よさないか、トーマス。」
「しかし父上、」
「クリスティナ。」父がクリスティナを見つめる。
「不安な思いをさせたな。相談出来ぬ父であったのが悔やまれる。」
父の眦は下がり気味でクリスティナの胸も苦しくなる。
「幸せにしてもらいなさい。」
「勿論ですとも、お義父上。」
ですから、ローレン様!何故貴方が参戦なさる?
「ところでクリスティナ。ローレン殿は早急の婚姻を望んでおられる。お前もそれで相違ないのか?」
「え!」
「相違ありません。」
ですから、ローレン様!何故貴方がお答えに?!
「ああ、クリスティナ。妻帯者用の宿舎なら断って「ご心配は無用です、義兄上。」
「貴様...」
「ほう。婚約式もまだであるのに婚姻だと?」
「それもこれも殿下、貴方の為です。来年の婚礼の儀には、クリスティナ共々夫婦でお仕えする所存。」
ローレンは向かって来る敵をバッサバッサと切り捨てる。
「ああ、義兄上。」
「まだ義兄では無い。」
「もうすぐ義兄上。」
「っ...」
「キャサリンは幸せにしております。」
「「何!キャサリンだと「姉上が」」
遅ればせながらアラン参戦。
「ええ、騎士に余りに懐くものですから置いて参りました。」
「「何処の??!!」」
「北の」
「「何だって!!!」」
最後は悲鳴に聴こえた。
「お兄様、馬のキャサリンですわ。キャサリン様ではございません。」
トーマスとアランが二人同時に深く息を吐く。
真逆本当にキャサリン嬢を北の騎士にくれてやったと思ったのか。
愛って全てを盲目にする。
「クリスティナ。婚約の誓約書は既に神殿へ届けられている。陛下が御認めになったからな。セントフォード伯爵も意義無しとの事だ。私はお前の気持ちを確かめてはいなかった。事後であるから何とも出来ぬが、それでもお前の口から聞きたい。
ローレン殿と将来婚姻を結ぶ事を望むか?」
「はい。お父様。」
父はそこで「そうか」と小さく頷いた。
兄はキャサリン嬢が無事であるのが分かって、もう愛馬キャサリンが北の領地にやられたのは良いらしかった。
ローレンによれば、先に大きなインパクトを与えて後出しで本来の交渉事を伝えるなら、大抵最初のインパクトに誤魔化されて結果は望む通りになるのだと言う。
流石は策士。
クリスティナはまだ知らない。
キャサリンは牝馬である。
寒さに強く山野を駆け巡り健脚で肺機能も頗る優れた仔馬達が、このあと次々と生まれることを。
勿論、夫(馬)は護衛騎士ではない。
フレデリック殿下とアランはその後、しれっと極上ウイスキー片手に帰って行った。
一体何しに此処へ来た。
「嵐が去ったな。」
「お兄様は殿下に付いて行かなくてよろしいの?」
「もうすぐ邸を出る妹と、少しばかり家族の団欒を過ごさせてもらっても良かろう。
ああ、ローレン。仕事溜まってるぞ。お前、早く戻れよ。」
「あれしきの執務で溜め込むとは情けない。果たしてその体たらく、殿下の側近が務まりますかな?」
ネチネチ合戦は続いていた。
✳誤字修正致しました。
婚姻の誓約書→㊣婚約の誓約書です。
41話の段階でクリスティナは婚約中です。
何故貴方様が此処に。
「ああ、クリスティナ可哀想に。顔色が全く冴えないね。夜も寝かせてもらえなかったと見える。狭量な男は独占欲も強くて見苦しいね。」
此処は私の生家なのですが。
「クリスティナ。君は何も心配せずとも大丈夫だよ。陛下は君の身を案じておられた。悪い男に捕まったとね。安心してくれ。これからは君の兄が側にいる。勝手な事は許さないからね。」
黙っていればいつまでもネチネチネチネチ嫌味を(主にローレンへ)連発し続けるフレデリック殿下。
その後ろには兄のトーマスとアラン様が侍っている。てか、殿下。貴方もう公国からお戻りに?
行き成りの声掛けに挨拶のタイミングを失って、どこで礼の姿勢を取って良いのか迷いに迷って、クリスティナはローレンを横目で見た。
駄目ですよ、上司にそんな顔しては!
顎が上がってますよ、少しは笑って下さいな!
「殿下、そろそろ二人にも座ってもらいましょう。」
流石はお父様!殿下のネチネチネチネチをすっぱり断ち切って下さった。
「お、お父様。」
一体何から説明すれば良いのだろう。
説明?いや、詫び?
「クローム領は如何だった。」
父はローレンとの関係よりも何よりも、クリスティナの当初の目的であったクローム領への旅について問うて来た。
クリスティナはそこで気持ちが切り替わる。
「ええ、素晴らしい旅になりました。クローム領はとても豊かな大地でした。山々も大河も風景も、男爵家一族領民全てが温かく力強く懐深く、再び縁を得られたことに感謝して参りました。」
「そうか。それは何よりであった。男爵は達者であったか。」
「ええ。何処か懐かしく思えるお顔立ちをなさっておられました。お人柄もお優しくて、突然伺いましたのにお心を尽くして饗して下さいました。お父様へとお土産を頂戴して参りましたの。」
「ほう、私には?」
そこで兄が割り込んだ。フレデリックの後ろに控えながら。
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「ほう、私には?」
殿下!何故貴方も参戦する?
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「皆様失礼。私の妻を、余り虐めないで頂きたい。」
ローレン様!何故貴方も参戦する?
それにまだ妻ではありませんよ!
「そうだ、クリスティナ。お前、大丈夫なのか!ローレンに無理矢理「よさないか、トーマス。」
「しかし父上、」
「クリスティナ。」父がクリスティナを見つめる。
「不安な思いをさせたな。相談出来ぬ父であったのが悔やまれる。」
父の眦は下がり気味でクリスティナの胸も苦しくなる。
「幸せにしてもらいなさい。」
「勿論ですとも、お義父上。」
ですから、ローレン様!何故貴方が参戦なさる?
「ところでクリスティナ。ローレン殿は早急の婚姻を望んでおられる。お前もそれで相違ないのか?」
「え!」
「相違ありません。」
ですから、ローレン様!何故貴方がお答えに?!
「ああ、クリスティナ。妻帯者用の宿舎なら断って「ご心配は無用です、義兄上。」
「貴様...」
「ほう。婚約式もまだであるのに婚姻だと?」
「それもこれも殿下、貴方の為です。来年の婚礼の儀には、クリスティナ共々夫婦でお仕えする所存。」
ローレンは向かって来る敵をバッサバッサと切り捨てる。
「ああ、義兄上。」
「まだ義兄では無い。」
「もうすぐ義兄上。」
「っ...」
「キャサリンは幸せにしております。」
「「何!キャサリンだと「姉上が」」
遅ればせながらアラン参戦。
「ええ、騎士に余りに懐くものですから置いて参りました。」
「「何処の??!!」」
「北の」
「「何だって!!!」」
最後は悲鳴に聴こえた。
「お兄様、馬のキャサリンですわ。キャサリン様ではございません。」
トーマスとアランが二人同時に深く息を吐く。
真逆本当にキャサリン嬢を北の騎士にくれてやったと思ったのか。
愛って全てを盲目にする。
「クリスティナ。婚約の誓約書は既に神殿へ届けられている。陛下が御認めになったからな。セントフォード伯爵も意義無しとの事だ。私はお前の気持ちを確かめてはいなかった。事後であるから何とも出来ぬが、それでもお前の口から聞きたい。
ローレン殿と将来婚姻を結ぶ事を望むか?」
「はい。お父様。」
父はそこで「そうか」と小さく頷いた。
兄はキャサリン嬢が無事であるのが分かって、もう愛馬キャサリンが北の領地にやられたのは良いらしかった。
ローレンによれば、先に大きなインパクトを与えて後出しで本来の交渉事を伝えるなら、大抵最初のインパクトに誤魔化されて結果は望む通りになるのだと言う。
流石は策士。
クリスティナはまだ知らない。
キャサリンは牝馬である。
寒さに強く山野を駆け巡り健脚で肺機能も頗る優れた仔馬達が、このあと次々と生まれることを。
勿論、夫(馬)は護衛騎士ではない。
フレデリック殿下とアランはその後、しれっと極上ウイスキー片手に帰って行った。
一体何しに此処へ来た。
「嵐が去ったな。」
「お兄様は殿下に付いて行かなくてよろしいの?」
「もうすぐ邸を出る妹と、少しばかり家族の団欒を過ごさせてもらっても良かろう。
ああ、ローレン。仕事溜まってるぞ。お前、早く戻れよ。」
「あれしきの執務で溜め込むとは情けない。果たしてその体たらく、殿下の側近が務まりますかな?」
ネチネチ合戦は続いていた。
✳誤字修正致しました。
婚姻の誓約書→㊣婚約の誓約書です。
41話の段階でクリスティナは婚約中です。
2,002
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務
ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。
婚約者が、王女に愛を囁くところを。
だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。
貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。
それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる