虹彩

昆布

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閑話 Don’t Look Back In Anger

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 ふわり、と私に向かって放られたボールが忘れられない。
怪我に対する心配と、罪。あの瞳に、虹彩に、それ以上の何かを見出したのは、気のせいだったのだろうか。
 もしもボールが当たったのが別の誰かだったなら、私にしたように、いや、それ以上に心配しただろうか。きっとしたのだろう。思うに、彼は平等な人だから。皆に同じように、同じ量の愛を与えることができる人。その中でも、親しい人には、本当に楽しそうに笑う人。安寧より刺激を求める人。興味のある人や物事には自ら反応するけど、呼ばれればどこへも向ける人。積み上げることは苦手と言いながら、努力することができて、その環境にいる人。こんなにも羨ましいのに、その瞳が、虹彩が、心がこちらを向いていると、そんなことも忘れてしまう。話したいことがたくさんあって、思い返すと自分ばかり話して、話しかけている。一緒にいると楽しくて、影響を受けて、こんな自分も染まって、少しばかりましに思える。それが嬉しくて嬉しくて、話が楽しくて、別れを考えるとつらくて、苦しくなって、横顔を見ているだけで少し元気になれる。ときどき、話していると、陽だまりのようなあたたかさと悔しさと嬉しさが綯い交ぜになる。そのあたたかさは心の温かさで、悔しさは、横に並べない、対等ではない悔しさで、それを上回る、純粋な喜びがあるのだ。
そんなことを、怒った勢いでこんこんと語ってしまい、ふと思う。この感情は、いったい何だろう。と、友人が口を開いた。
「それ、恋だよ。」
もやもやしていたもの、友情の枠には収まらなかったそれが、すとんと腑に落ちた気がした。そうか、あれは、恋だったのか。恋と言ってもよかったんだ。こんなにも欠陥をかかえた心でも、そう言ってよかった。
 でも、もう今となってはすべてが通り過ぎて、手遅れだから。
 皮肉なことに、彼との間を繋いだ曲が、すべてを物語っている。
 もう並んで歩くことはできない。でもそれを怒っちゃいけないよ。しけた面しないで顔を上げて。過ぎたことを振り返って嘆くのはやめにしよう。
 だってきっとこの心だっていつか忘れて、泡のように儚く消えてしまうのだから。
 だったら、もう、彼とは友達でいいや、と、雪崩のように押し寄せてくる悔恨を見なかったことにした。
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