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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く
8:修行②
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俺がこの世界に来て1ヶ月が経過した。あれから俺たちは毎日修行に明け暮れている。
朝は魔力操作と座学、昼から狩りと採取をして食料を確保し、夜はまた魔力操作とイメージを明確にする練習だ。
エリィへのマッサージも定期的に行い、今では全身に魔力を流すこともできている。
魔力操作でも魔力は消費するので、少しずつだがエリィの魔力量も増えてきた。
俺も相変わらず夜には死んで生き返ってるから、この1ヶ月で最初とは比べ物にならないぐらいの魔力を手に入れている。
エリィは本当に物覚えがいい。知識として教えても、本人の理解力やセンスによってかかる時間は大幅に変わってくるが、俺が知ってる中でもエリィは上位に入るほどのセンスの持ち主だ。天才と言っても過言ではないだろう。
目に魔力を集め、解析までは出来なくとも、魔力の流れをある程度だが見るまでには成長している。
ここらで次の段階に向かうのもいいだろう。
「さてエリィ、今日はいつもと違った魔力の使い方を教える」
「おぉ! 次の段階ですね師匠! 魔法ですか!?」
「魔法っちゃ魔法だが、まだ魔力操作に近いな」
師匠と呼び続けているエリィは、すっかり言葉が敬語に近くなっている。魔法を俺から習う時だけ器用に敬語を使い、それ以外ではいつもの口調だ。
そんなエリィが次に覚えるのは、魔力操作で体の中の魔力を動かす事ができるので、魔力を外に出す操作だ。
魔法を発動するのとは違い、純粋な魔力を外に出し自由に操作できるようにする。
体の中にあったときは全身で魔力を感じる事ができるが、外に出したらそうは行かなくなるだろう。エリィを座らせると、俺も目の前に座って座禅を組む。
「まずはお手本だ。俺の魔力の流れを見ていろ」
「はい!」
まずは魔力を全身に動かす。そしてその魔力を点ではなく面にし体全体へ広げていく。魔力が体全体を包み込んで行くのが、エリィの目でも分かったのだろう。
小さく「おぉ」と声も聞こえてくる。
「エリィ、これは魔力布衣と呼ばれている魔力操作だ。この状態を意識しなくても作る事ができれば、あらゆる攻撃に耐性をつける事ができる。これから過酷な環境で生きてくためにも絶対に身につけてほしい」
「わかりました師匠!」
「最初から全身を使うのは難しいから、まずは体の一部を……って聞いてないのかよ!」
俺の助言をよそに、早速エリィが魔力を操作し始める。一度全身に魔力を巡らせるのは、その後の面で魔力を広げた時に魔力回路を通してスムーズに外へ出すためだ。
体内の魔力を巡らせた後、ゆっくりと魔力を面に広げながら体の形に沿って大きくなっていく。
そしてそのまま体の外へ魔力を出し始めると、出した瞬間から魔力が霧散し始めた。
「あれ!? 魔力が……」
エリィもその状況に気付いたのだろう。外に出した瞬間から魔力が霧散して体の周りに留められなくなる。
何度か繰り返してみるが、何度も体から出た瞬間霧散してしまう。
まぁ体全体に留めるのは順番として後だから、そんな簡単にできるわけがないんだがな。
「し、ししょぉぉ……」
「だから人の話を聞けと。まずは利き手に魔力を集めて外に出して滞留させる所からだ。体の一部にその感覚を覚えさせて、徐々に広げていくのが普通なんだからな?」
「はい! わかりました!!」
まぁ全身に魔力を面で広げて外に出せるだけでも本来は凄いことだ。魔力量が足りなければ広げても薄くなりすぎて失敗するし、そもそも面に広げるにはイメージを明確に持たなければならない。
俺の魔力の動きを見たからと言ってすぐに真似できるのは、やはり天才なんだろうな。
夜に何度も魔法を使うイメージだけをさせたのは、こうやって視覚化された魔力なども自分に取り込み同じイメージを瞬時に理解させるために必要だ。
今回の弟子はなかなか教えがいもある。
そんな思案をしていると、エリィが右手に魔力を集め外に出すことに成功していた。
だが、相変わらず魔力は外に出ると霧のようにふわふわとエリィから離れていく。
困り顔のエリィが俺を見てくるので、もう少しヒントを出すことにした。
「いいか、魔力を留めさせるには自分の周りに自然と張り付いているようなイメージを持つことだ。外に出ようとする魔力を、体内にある魔力と繋ぎ止めて出ていくのを引き止める。手の周りを包み込むように滞留させるには、外に魔力を出すことに集中しすぎても失敗するし、繋ぎ止めすぎても引っ込んでしまうからな」
「むぅ……」
「こればっかりは自身の感覚だ。幸いにもエリィの魔力は見違えるほど大きくなっている。まずは何度も繰り返して、その感覚を掴めるように頑張ろう」
魔力布衣を習得し磨きさえすれば重さのない強固な鎧へと変化する。
ただ、その留める感覚は人それぞれで、俺の感覚を全部説明してもセンスが違えば上手くいくことはない。
知識で説明できても、人のセンスまでは解明できないのと同じだ。
しばらくエリィは魔力操作をし続けたが、霧散する魔力が底をついたのだろう。疲れ切った表情と腹の鳴る音を聞いた俺は休憩を挟むことにし、日課の狩りに向かうことにした。
失敗続きに少し凹んでそうなエリィの顔が面白い。
最近はもっぱら罠を仕掛けて、そこに獲物が引っかかってるかの確認がメインだ。
気配察知を使って動物を見つけて狩ることもあるが、子供二人の量なら罠で引っかかった分で十分賄える。
今日もうさぎが2匹ほど罠にかかっていた。そのまま仕留めると、今度はテキパキとエリィが捌いていく。
汚れた手は俺がウォーターボールを小さめに出して、そこに手を突っ込んで洗い流す。完全に冷たいよりも少し温くした方が汚れも落ちやすい。手を突っ込んだエリィが、少しばかり目を輝かせている。
あれから魔獣とは出会っておらず、魔石も増えてはいないが、平和に修行が出来るのでありがたいことだ。
山菜や果物も食べる分だけもいで帰宅し、少しのんびりしてから夜の修行だ。
腹一杯食べて休憩したエリィもだいぶ魔力が回復している。修行を再開すると声をかけると、狩りに出かけた時よりも表情が明るくなっていた。そんなに飯が美味かったのか?
改めてエリィを自分の前に立たせる。朝は座らせてみたが、体制によっても若干感覚は変わるので、今回は立ったままだ。
「さてエリィ、朝と同じ修行だが悲観的になる必要はないぞ」
「はい! 絶対に成功させます!」
「うむ。エリィは常人の数百倍で成長している。この魔力布衣は最初の難関とも言われており、ここで培った感覚はその後の魔法発動にも大きな影響が出る。ただ時間はまだまだあるから、まずは手を中心に魔力布衣を」
「出来ました!」
「うむ。霧散しても繰り返すうちに感覚を掴ん……ん?」
「師匠! 出来ましたよほら!」
「……天才じゃったか……!」
朝の時点では片手すら出来なかったはずだったが、今はもう両手に魔力布衣を完成させている。両掌を合わせて魔力布衣を行なっており、少し範囲が広くなっているが、ちゃんと形にはなっている。
どうやってその感覚を掴んだのか聞いてみると、どうやらさっきのウォーターボールがヒントになったらしい。手から魔力を放出しつつその場に留めるのではなく、まずは球体に魔力が溜まっているイメージをし、そこに手を洗う時と同じように両手を重ねて突っ込んでみた、と。
俺にはよくわからん原理だが、出来たのなら問題ないだろう。ただ、それだと少し疑問が残る。
「そうなると、エリィはその状態から両手を離しても布衣は維持できるのか?」
「えっとね……」
エリィがゆっくりと手を離していく。離す際にもちゃんとイメージが出来ているのか、魔力が餅のように伸びるとそのまま二つに分裂した。
魔力を留めておく感覚をちゃんと身につけた証拠だ。ただ球体に魔力を注いでその場に留めているだけなら、手を離した時に霧散してしまう。
それが起きずにそのまま手にくっついているのは、具現化したイメージから掌へ感じる魔力を操った事になる。
そうなると次は全身に広げる操作だが、このままならすぐに出来るだろうな。
「師匠! 全身にも魔力が! 出来ました!!」
ほら、な。魔力がちゃんとエリィの体に合わせて揺らめいている。細かく見れば霧散し始めている部分もあるが、導入としては十分だろう。
軽くその場でしゃがんだり回転したりしても布衣が解ける様子はない。魔力に長けているエルフの血筋なのかわからないが、弟子の成長はゾクゾクするものだ。
「よし、そしたらその状態のまま垂直に飛び跳ねてみろ」
「はい!」
エリィが言われたままに垂直跳びをする。最近狩りのために森を走り回っているせいか、体力も向上して飛び跳ねられる高さは60cmほどにもなっている。前の世界で魔力を使わないTOPクラスの冒険者と同じレベルだ。
魔力布衣をただしているだけでは特に変わらない。
「よし、今度は魔力を意識して足に集めてから飛び跳ねてみろ」
「はい!」
今度は少し貯めてから飛び上がる。すると、今度は簡単に1mを超えるぐらいの高さが出た。急に高さが変わったことによってエリィが変な声を上げているが、こんなもんで驚くにはまだ早い。
無事に着地すると、目を輝かせながら俺に迫ってきた。
「凄い! これ凄いよ! 今私の体がブワーって! 飛んだよ!」
「はははは。これは扱える魔力量が増えればもっと高く飛べるぞ。ちょっと見てろよ?」
少し離れてから足に魔力を貯める。集まってきた魔力を足の裏へ集中させ、ジャンプするタイミングで一気に放出。俺の身体は魔力の勢いに乗り、森全体を見渡せるような高さまで跳ね上がった。
「ほう……これは……なんとも綺麗な世界だ」
生い茂った森の外には草原や山が広がっていた。前の世界に比べれば、まだまだ発展途上の世界なのだろう。日が沈もうとする山から夕陽が美しく照らしており、遠くには街のような姿も見える。地平線も水平線も遥か彼方に顔を出しており、修行が終わったらぜひ散策してこの世界を余すことなく楽しんでみたいものだ。
もし今後世界を征服するなら……そんな考えを持とうとした瞬間、身体が一気に落下し始めた。
このまま何もしなければ地面に叩きつけられて痛いダメージを負う。そこで登場するのが風魔法のクッションだ。
「ウィンドクッション」
地面まで数mの所で魔法を発動させる。柔らかい弾力を持った風が俺を包み込み、地面までの落下に急ブレーキをかけてくれる。本来は飛び道具などに対して発動する魔法だが、こんな時でも役に立つ。
出来る事なら飛翔などを使えば飛び続けることも可能だが、あれはもっと魔力が育ってからでないと、使用魔力量が多すぎて途中で枯渇し堕ちる可能性すらある。
それに今回のように一瞬だけなら、足に魔力をためて解放する方が速くて楽だ。
無事に地面に着地すると、目を爛々と輝かせながらエリィが近付いてきた。この程度ならエリィもすぐに習得できるだろう。あとは魔力量を増やしていけばいいが、本命は魔力布衣を習得する事から。
その後、完全に暗くなるまではエリィの魔力布衣維持を中心に修行を行った。
朝は魔力操作と座学、昼から狩りと採取をして食料を確保し、夜はまた魔力操作とイメージを明確にする練習だ。
エリィへのマッサージも定期的に行い、今では全身に魔力を流すこともできている。
魔力操作でも魔力は消費するので、少しずつだがエリィの魔力量も増えてきた。
俺も相変わらず夜には死んで生き返ってるから、この1ヶ月で最初とは比べ物にならないぐらいの魔力を手に入れている。
エリィは本当に物覚えがいい。知識として教えても、本人の理解力やセンスによってかかる時間は大幅に変わってくるが、俺が知ってる中でもエリィは上位に入るほどのセンスの持ち主だ。天才と言っても過言ではないだろう。
目に魔力を集め、解析までは出来なくとも、魔力の流れをある程度だが見るまでには成長している。
ここらで次の段階に向かうのもいいだろう。
「さてエリィ、今日はいつもと違った魔力の使い方を教える」
「おぉ! 次の段階ですね師匠! 魔法ですか!?」
「魔法っちゃ魔法だが、まだ魔力操作に近いな」
師匠と呼び続けているエリィは、すっかり言葉が敬語に近くなっている。魔法を俺から習う時だけ器用に敬語を使い、それ以外ではいつもの口調だ。
そんなエリィが次に覚えるのは、魔力操作で体の中の魔力を動かす事ができるので、魔力を外に出す操作だ。
魔法を発動するのとは違い、純粋な魔力を外に出し自由に操作できるようにする。
体の中にあったときは全身で魔力を感じる事ができるが、外に出したらそうは行かなくなるだろう。エリィを座らせると、俺も目の前に座って座禅を組む。
「まずはお手本だ。俺の魔力の流れを見ていろ」
「はい!」
まずは魔力を全身に動かす。そしてその魔力を点ではなく面にし体全体へ広げていく。魔力が体全体を包み込んで行くのが、エリィの目でも分かったのだろう。
小さく「おぉ」と声も聞こえてくる。
「エリィ、これは魔力布衣と呼ばれている魔力操作だ。この状態を意識しなくても作る事ができれば、あらゆる攻撃に耐性をつける事ができる。これから過酷な環境で生きてくためにも絶対に身につけてほしい」
「わかりました師匠!」
「最初から全身を使うのは難しいから、まずは体の一部を……って聞いてないのかよ!」
俺の助言をよそに、早速エリィが魔力を操作し始める。一度全身に魔力を巡らせるのは、その後の面で魔力を広げた時に魔力回路を通してスムーズに外へ出すためだ。
体内の魔力を巡らせた後、ゆっくりと魔力を面に広げながら体の形に沿って大きくなっていく。
そしてそのまま体の外へ魔力を出し始めると、出した瞬間から魔力が霧散し始めた。
「あれ!? 魔力が……」
エリィもその状況に気付いたのだろう。外に出した瞬間から魔力が霧散して体の周りに留められなくなる。
何度か繰り返してみるが、何度も体から出た瞬間霧散してしまう。
まぁ体全体に留めるのは順番として後だから、そんな簡単にできるわけがないんだがな。
「し、ししょぉぉ……」
「だから人の話を聞けと。まずは利き手に魔力を集めて外に出して滞留させる所からだ。体の一部にその感覚を覚えさせて、徐々に広げていくのが普通なんだからな?」
「はい! わかりました!!」
まぁ全身に魔力を面で広げて外に出せるだけでも本来は凄いことだ。魔力量が足りなければ広げても薄くなりすぎて失敗するし、そもそも面に広げるにはイメージを明確に持たなければならない。
俺の魔力の動きを見たからと言ってすぐに真似できるのは、やはり天才なんだろうな。
夜に何度も魔法を使うイメージだけをさせたのは、こうやって視覚化された魔力なども自分に取り込み同じイメージを瞬時に理解させるために必要だ。
今回の弟子はなかなか教えがいもある。
そんな思案をしていると、エリィが右手に魔力を集め外に出すことに成功していた。
だが、相変わらず魔力は外に出ると霧のようにふわふわとエリィから離れていく。
困り顔のエリィが俺を見てくるので、もう少しヒントを出すことにした。
「いいか、魔力を留めさせるには自分の周りに自然と張り付いているようなイメージを持つことだ。外に出ようとする魔力を、体内にある魔力と繋ぎ止めて出ていくのを引き止める。手の周りを包み込むように滞留させるには、外に魔力を出すことに集中しすぎても失敗するし、繋ぎ止めすぎても引っ込んでしまうからな」
「むぅ……」
「こればっかりは自身の感覚だ。幸いにもエリィの魔力は見違えるほど大きくなっている。まずは何度も繰り返して、その感覚を掴めるように頑張ろう」
魔力布衣を習得し磨きさえすれば重さのない強固な鎧へと変化する。
ただ、その留める感覚は人それぞれで、俺の感覚を全部説明してもセンスが違えば上手くいくことはない。
知識で説明できても、人のセンスまでは解明できないのと同じだ。
しばらくエリィは魔力操作をし続けたが、霧散する魔力が底をついたのだろう。疲れ切った表情と腹の鳴る音を聞いた俺は休憩を挟むことにし、日課の狩りに向かうことにした。
失敗続きに少し凹んでそうなエリィの顔が面白い。
最近はもっぱら罠を仕掛けて、そこに獲物が引っかかってるかの確認がメインだ。
気配察知を使って動物を見つけて狩ることもあるが、子供二人の量なら罠で引っかかった分で十分賄える。
今日もうさぎが2匹ほど罠にかかっていた。そのまま仕留めると、今度はテキパキとエリィが捌いていく。
汚れた手は俺がウォーターボールを小さめに出して、そこに手を突っ込んで洗い流す。完全に冷たいよりも少し温くした方が汚れも落ちやすい。手を突っ込んだエリィが、少しばかり目を輝かせている。
あれから魔獣とは出会っておらず、魔石も増えてはいないが、平和に修行が出来るのでありがたいことだ。
山菜や果物も食べる分だけもいで帰宅し、少しのんびりしてから夜の修行だ。
腹一杯食べて休憩したエリィもだいぶ魔力が回復している。修行を再開すると声をかけると、狩りに出かけた時よりも表情が明るくなっていた。そんなに飯が美味かったのか?
改めてエリィを自分の前に立たせる。朝は座らせてみたが、体制によっても若干感覚は変わるので、今回は立ったままだ。
「さてエリィ、朝と同じ修行だが悲観的になる必要はないぞ」
「はい! 絶対に成功させます!」
「うむ。エリィは常人の数百倍で成長している。この魔力布衣は最初の難関とも言われており、ここで培った感覚はその後の魔法発動にも大きな影響が出る。ただ時間はまだまだあるから、まずは手を中心に魔力布衣を」
「出来ました!」
「うむ。霧散しても繰り返すうちに感覚を掴ん……ん?」
「師匠! 出来ましたよほら!」
「……天才じゃったか……!」
朝の時点では片手すら出来なかったはずだったが、今はもう両手に魔力布衣を完成させている。両掌を合わせて魔力布衣を行なっており、少し範囲が広くなっているが、ちゃんと形にはなっている。
どうやってその感覚を掴んだのか聞いてみると、どうやらさっきのウォーターボールがヒントになったらしい。手から魔力を放出しつつその場に留めるのではなく、まずは球体に魔力が溜まっているイメージをし、そこに手を洗う時と同じように両手を重ねて突っ込んでみた、と。
俺にはよくわからん原理だが、出来たのなら問題ないだろう。ただ、それだと少し疑問が残る。
「そうなると、エリィはその状態から両手を離しても布衣は維持できるのか?」
「えっとね……」
エリィがゆっくりと手を離していく。離す際にもちゃんとイメージが出来ているのか、魔力が餅のように伸びるとそのまま二つに分裂した。
魔力を留めておく感覚をちゃんと身につけた証拠だ。ただ球体に魔力を注いでその場に留めているだけなら、手を離した時に霧散してしまう。
それが起きずにそのまま手にくっついているのは、具現化したイメージから掌へ感じる魔力を操った事になる。
そうなると次は全身に広げる操作だが、このままならすぐに出来るだろうな。
「師匠! 全身にも魔力が! 出来ました!!」
ほら、な。魔力がちゃんとエリィの体に合わせて揺らめいている。細かく見れば霧散し始めている部分もあるが、導入としては十分だろう。
軽くその場でしゃがんだり回転したりしても布衣が解ける様子はない。魔力に長けているエルフの血筋なのかわからないが、弟子の成長はゾクゾクするものだ。
「よし、そしたらその状態のまま垂直に飛び跳ねてみろ」
「はい!」
エリィが言われたままに垂直跳びをする。最近狩りのために森を走り回っているせいか、体力も向上して飛び跳ねられる高さは60cmほどにもなっている。前の世界で魔力を使わないTOPクラスの冒険者と同じレベルだ。
魔力布衣をただしているだけでは特に変わらない。
「よし、今度は魔力を意識して足に集めてから飛び跳ねてみろ」
「はい!」
今度は少し貯めてから飛び上がる。すると、今度は簡単に1mを超えるぐらいの高さが出た。急に高さが変わったことによってエリィが変な声を上げているが、こんなもんで驚くにはまだ早い。
無事に着地すると、目を輝かせながら俺に迫ってきた。
「凄い! これ凄いよ! 今私の体がブワーって! 飛んだよ!」
「はははは。これは扱える魔力量が増えればもっと高く飛べるぞ。ちょっと見てろよ?」
少し離れてから足に魔力を貯める。集まってきた魔力を足の裏へ集中させ、ジャンプするタイミングで一気に放出。俺の身体は魔力の勢いに乗り、森全体を見渡せるような高さまで跳ね上がった。
「ほう……これは……なんとも綺麗な世界だ」
生い茂った森の外には草原や山が広がっていた。前の世界に比べれば、まだまだ発展途上の世界なのだろう。日が沈もうとする山から夕陽が美しく照らしており、遠くには街のような姿も見える。地平線も水平線も遥か彼方に顔を出しており、修行が終わったらぜひ散策してこの世界を余すことなく楽しんでみたいものだ。
もし今後世界を征服するなら……そんな考えを持とうとした瞬間、身体が一気に落下し始めた。
このまま何もしなければ地面に叩きつけられて痛いダメージを負う。そこで登場するのが風魔法のクッションだ。
「ウィンドクッション」
地面まで数mの所で魔法を発動させる。柔らかい弾力を持った風が俺を包み込み、地面までの落下に急ブレーキをかけてくれる。本来は飛び道具などに対して発動する魔法だが、こんな時でも役に立つ。
出来る事なら飛翔などを使えば飛び続けることも可能だが、あれはもっと魔力が育ってからでないと、使用魔力量が多すぎて途中で枯渇し堕ちる可能性すらある。
それに今回のように一瞬だけなら、足に魔力をためて解放する方が速くて楽だ。
無事に地面に着地すると、目を爛々と輝かせながらエリィが近付いてきた。この程度ならエリィもすぐに習得できるだろう。あとは魔力量を増やしていけばいいが、本命は魔力布衣を習得する事から。
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