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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

9:間話 女神と神獣

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 魔王が神の間からいなくなった後、最近サボり続けていた女神クリスはずっと忙しなく動き続けていた。神獣ミーファは、忙しそうなクリスを尻目にあくびしながら毛繕いに励んでいる。元々のんびりするのが好きなミーファだったが、最近は魔王の動向を見つめながらのんびりする時間が増えていた。

「ミーファ、魔王あいつは動いた?」
「みゃぁ。女の子捕まえてからずっと修行してるにゃ」

 最初こそ戦闘があり、ちょっとワクワクしたミーファだったが、その後は地味な修行ばかりで見飽き始めていた。ただ、世界が渇望して呼び寄せた「勇者召喚」ではなく自ら赴いた「特異点」には興味がある。そのうちクリスもミーファも考えつかないような事をし始めるのではないかと内心期待しているのだ。

「そういえば、あの森になんであんな魔獣がでたにゃ?」
「……ふっふーん!」

 ミーファの質問に手を止めたクリスが振り返る。

「あの森は知っての通り彼女によって平和じゃない? それでも魔素溜まりは出来ちゃうからね。 どうせなら魔王あいつを仕留められたらいいかなってけしかけたのよ」
「みゃっ!? 干渉したのかみゃ!?」
「干渉って言ってもそんな大事じゃないわよ?」

 そこからクリスの語る内容にミーファは空いた口が閉まらなくなった。
 世界座標を渡して飛んだ場所は完全にランダムになるところを少しいじって、その場所を指定し飛び終わるまでの間に人間を用意しておいたと。魂の状態でも世界に干渉できるかも知れないが、実態がない状態で色々された結果女神による行動だと思われたら困ること。
 だから元々寿命を迎えそうで身寄りも何もない人間を用意しておいたと。あの子が冒険者に登録してあったのは元々一人で生きるためで、世界に大量にいる人間の、さらに一番下のランクである冒険者がいなくなるのは日常茶飯事のため、魔王が肉体を手に入れるのも簡単になること。
 そして肉体と魂が融合した後なら魔王を倒すことが出来るかも知れないと思ったことなど。

「…………干渉しすぎみゃ」
「ん? 結果魔王を倒すことは出来なかったし、まぁあいつもまんざらでも無さそうだから問題なしよ」
「……みゃぁ」
「それにね?」

 クリスが言うには、魔族の大侵攻はまだ最低でも3年ぐらいはかかるであろうこと。その間に魔王が力をつけて、魔族との戦いが起きれば人間達も勇者とは別の戦力を手に入れて侵攻を食い止めることも出来るだろうと。
 魔族に魔法能力が完全に負けている状態も、魔王によって改革が行われる可能性もあると考えている。

「みゃぁ。まぁそこまで考えているなら何も言わないみゃ」
「まーねー、わたし女神だし?」

 クリスが考えていることはそれだけではない。自身の事を信仰している人間族達を助けたいとは元々ずっと考えていた事だ。この世界に存在する生き物は、魔に侵されおらず自我が芽生えていれば基本的にクリスを信仰している。
 魔族の自我を持った存在は逆に魔神を信仰しており、人間族達とは相入れない存在だ。
 はるか昔に天帝創造神が取り決めた善神と邪神の戦争。世界すら巻き込み破壊する戦争を天帝創造神が仲裁に入り、神同士での争いを禁止し、その代わり存在する世界で争う事が取り決められた。世界を破壊することは許されず、神からの干渉もしすぎてはいけないと。
 そしてクリスが持つ世界の中で、完全に負け越しているのが魔王が向かった世界だ。

「担当の魔神はアイツなのよね……。ほんと性格が悪くて最低な奴! 世界の人族達を滅ぼせるぐらいの力つけてるくせに、こっちを弄んでるのが気に食わない! いつか絶対にギャフンと言わせてやるんだから!!」

 魔族は世界で生まれる瘴気や負の感情を糧にしている。数百年前に魔族が人間達の住む場所を1/10まで減らした時に、人族の数も大幅に減って負の感情が魔族の消費する量に対して少なくなりすぎたことがあった。そこから魔族が侵攻するのは2/3までと制限し始めており、侵攻後人族達が領土を取り戻していくと、50年に一度大きな戦争が生まれ始めた。
 ただ、クリスは魔神が侵攻を止めているのはそれだけでは無さそうだと疑っている。

 そんな考えをしながら難しい顔をしていると、ミーファが魔法でお茶を取り出した。
 お茶請けはクリスの大好物であるポテトチップスだ。

「みゃぁ。そろそろ一息入れたらどうみゃ?」
「それもそうね。魔王あいつが魔獣倒したから魔素溜まりも解消されたし、残ってるのは簡単なダンジョンぐらいだしね。それにこのペースなら魔族の侵攻もまだまだ先だしねー」

 クリスがおもむろに立ち上がると大きく背伸びをした。服の上からでもわかる大きな双丘が揺れ、背中からパキパキと音が鳴る。
 ミーファが用意してくれたお茶を飲みながら休憩していると、ミーファが思い出したかのように口を開いた。

「そういえば勇者はどこから連れてくるみゃ?」
「うーん、同じような世界だと争いは続いてるでしょうし無理ね。今私が管理している世界でもそんなに大きな力を持ってるのはいないわ。あ、魔王あいつは世の理から外れてるから別ね。そうなると別の世界からねー」
「みゃぁ。またお願いしにいくみゃ?」
「えぇ。やっぱ一番簡単なのは地球ねー。重力も強いし環境の変化も大きいから、そもそも人間族の能力値が高い。特に日本は地震や台風なんかの自然災害にも耐えられるような進化をしているし、そもそも異世界召喚に明るいしね。向こうの神も干渉を一切しないって決め込んでるし、良さげな人が見つかったらお願いするわよ」
「みゃぁ。日本人は特に強いみゃ」
「そうね。それでも魔王あいつには何回も負けたけどね」

 日本人は何人も転生させたことがあるが、魔法技術が向上したことはない。転生時にクリスが世界が崩壊しない程度の能力を与えており、その能力を見た人族達の世界のレベル向上も目論んではいたが、そもそも魔法に関してだけは感覚で使う日本人のイメージが広がらなかった。
 なんでもそつなくこなす日本人転生者に世界は「そういうものだ」との認識が広がっている。

 ただ、あっちの世界の魔王を討伐するためにえげつないチートを与えたこともあったが、魔王はそれを何度も屠ってきた。追い詰めたこともあったが、何処かに消えたと思うと必ず復習しにくる。
 元々魔族の干渉がなかった世界とはいえ、一人の特異点に世界を征服されるとは考えてもいなかったのだ。

「そういえば魔王のいた世界はどーなったみゃ?」
魔王あいつがいなくなった世界は人族同士での戦争ばかりよ。土地も財宝も資源も魔王あいつのいた場所に全部あるからね」
「みゃ。人族も飽きないみゃぁ」
「ま、あんな特異点は魔王あいつだけで十分よ。それに今はこっちの世界でしょ? 止めるのが無理なら力をつけてもらって魔族を倒してもらわなきゃ。あー、そのためには信託でも周りに授けなきゃだけど……」
「みゃー。特異点がどーなるかみゃ?」
「ふふっ。ちょっとね、私も楽しみなのよ」

 人種としては間違いなく人間族の魔王。人族と一緒に行動しやすいように、あのハーフエルフもその場所まで誘導してあり、思った通りハーフエルフも助けた。
 さらに2人で修行を始めたのもいい傾向だとクリスは考えていた。このままいけば魔王は間違いなく人間族達の味方になり、あの憎き魔神の尖兵達を退けるだろうと。

「さ、休憩もしたし魔王あいつが何をしてるか見ましょうかねー」
「どーせまた修行みゃ。うちは寝るみゃー」

 ミーファが専用のベットを亜空間から取り出すと、いつものように丸くなる。
 クリスはミーファの寝顔を見ると、同じように寝顔を晒している魔王の寝顔を見ながら微笑んだ。
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