殺しの美学

村上未来

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捜査

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「…きた!美玲、さっき言った通りに受け答えてね」

 茜はリビングに響き渡る電話の呼び出し音を聞き、美玲を見詰めた。

「うむ」

 美玲はテーブルの前の椅子から立ち上がると、鳴り響く電話に近付き、受話器を掴んだ。

「…もしもし、竜二か!?」

 コール音が止んだ受話器に向かい、琢磨は大声で呼び掛けた。

「平山竜二ではない、園山美玲だが、どちら様だ?」

「…美玲さんか…竜二はそこに居るかい!?」

「平山竜二はここにはおらぬぞ。夜の十時にここに来る予定だったのだが、時間を過ぎているが、未だに来てはおらぬ」

「…そうか」

 琢磨はその言葉を残し、力無く受話器を置いた。

「…あなた…竜二は居た?」

 幸子は願いを込めながら、うなだれる琢磨の背中に問い掛けた。

「…いや…居なかった」

「そんな……け、警察に電話しましょう」

 幸子は震えながら、琢磨の背中に言葉を投げ掛けた。
 受話器を置いて戻ってきた美玲の頭を、茜は優しく撫でた。そして茜は、夢山のスマホに電話を掛けた。

「…もしもし、計画通りにあいつの親から電話掛かってきたから、もう電話しないでね…うん…ありがとう…うん、うまくやってね、じゃあね」


 電話を切ると、茜は通話履歴を全て消した。
 茜は美玲に視線を向け直し、これから起こり得るであろう事の対策を伝えた。
 三十分程経った。竜二の実家には、複数の刑事が来ている。

「…横南駅近くで息子さんが攫われたのが、午後九時四十三分頃です。そして犯人から電話があったのが、午後十時三十分…犯人はそう遠くへは行っていないでしょう」

 テーブルの上の録音機材を取り付けた電話を前に、刑事の沢崎俊也は神妙な面持ちでそう告げた。
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