殺しの美学

村上未来

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催眠術

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 次の日の昼過ぎ。伊織は屋敷にある会場の中にいた。学校の体育館程の広さがある。そこで伊織は何やら喋っていた。

「…今からお前達に催眠術を掛ける」

 伊織の言葉を聞き、パイプ椅子に座っている十人は、ざわめき驚いている様子だ。
 この十人は真田が金で集めた人間達だ。未成年はいないが、老若男女、様々なタイプの人間が集まっている。しかし、仕事の内容は知らされていなかったようだ。伊織はざわめく会場の中で、再び口を開いた。

「黙れ」

 ただ一言。そう発した。
 高飛車な言い方に、眉を寄せている者も少なくない。しかし、皆、金が欲しいようだ。暫くすると、会場は静かになった。
 伊織が次の言葉を発した。

「…こうして、手の平同士を組んで、人指し指だけを突き立てろ…そして、人指し指は付けずに隙間を開けろ」

 文句を言う者はいなかった。皆、伊織の真似をして、突き出した人指し指に隙間を開けている。その隙間は一センチもないだろう。

「…体の力を抜いてリラックスしろ」

 眉根を寄せ、伊織を睨み付ける男も手の平を組んでいるが、リラックスしているようには見えない。
 伊織は言葉を繋げた。

「リラックスしろ…体の力を抜け」

 静まり返る会場の中で、何人かの者は体の力を抜き始めた。

「人指し指を見ろ…隙間は開けたままだ…付けるなよ…付けちゃだめだぞ…しかし、付けないようにしていても、どんどん指が付いていくからな」

 伊織はその後、黙って皆の様子を観察していた。

「…付いた」

 一分もしない内に、小太りの男が呟いた。静かな会場で、呟き声は、はっきりと聞こえた。
 皆の視線は、小太りの男に集中した。

「…自分の指先を見ろ」

 伊織の言葉を聞き、皆、自分の指先を見始めた。

「…私も付いた」

「…俺も」

 何人かの者が、指先が付いたようだ。
 それから五分程経った。

「…指先が付かなかった奴は、ここから出て行け」
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