約束ノート

村上未来

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いつもの夢

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「健太君…僕等も死のう」

 零士はにこやかに健太に囁いた。

「…えっ?しのう?し、しのうって何?」

「僕達は必要のない子供なんだよ。だから捨てられたんだ」

「えっ?」

「必要ないって事は、この世にはいらないって事なんだ」

「えっ?」

 健太は零士の言葉が何一つ理解できなかった。しかし、意味は分からずとも、恐怖している。
 健太が恐怖に引きつり困惑していると、零士は持っている血塗れのハンマーを投げ捨て、健太のその小さな手を握り締めた。

「ひぃ!」

 振り払うとしたその手を、零士は決して放さない。

「行こう」

 零士は洋子の亡骸に背を向け、嫌がる健太を連れて部屋から出て行った。
 健太を引き摺るようにして歩く零士が、とある部屋の前で止まった。
 ドアを開けた零士は、部屋の電気を点けた。部屋の中には、スコップや脚立、大小様々なダンボール箱等が置かれている。どうやら、物置として使われている部屋のようだ。
 部屋の中から零士は赤いポリタンクを掴むと、引きずりながら部屋を出て行った。

「…これが必要なんだ」

 零士はぼそっと呟いた。

「…何それ?」

 恐る恐る健太は聞いた。

「…ガソリンだよ」

「…ガソリン?」

「これを今からいっぱい撒くんだ…ちょっと待ってて」

 零士はそう言うと、ポリタンクを引きずりながら健太から離れた。
 徐々に遠ざかる零士の足跡を聞き、健太は安堵する。頭では理解出来ないが、本能が零士を危険だと教えているのだ。
 健太は電気が零れる物置部屋の前でうずくまった。そして頭の中で鳴り響く「ぐちゅっ!」という音を、必死で頭を振り、振り払おうとした。しかし、音は消える事はなかった。
 体の震えが先程よりも増している。健太は溜まらず嗚咽した。
 鼻、口、目。至る所から液体を垂らし、頭を必死で降り続けた。
 何分…いや何十分経っただろう。
 うずくまる健太は、何かを感じ顔を上げた。目の前には、ポリタンクを掴んだ零士が立っている。

「お待たせ…さぁ行くよ」

 零士は満面の笑顔を浮かべ、うずくまる健太の腕を掴んだ。

「ひぃ!」

 健太は堪らず、小さな悲鳴を上げた。
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