約束ノート

村上未来

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病院

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「…う、うん」

 健太は利根川の顔を見れずに、俯いたまま答えた。

「その施設に住んでた人達について聞きたいんだけど、いいかい?」

「うん…いいよ」

「先生について聞きたいんだけど」

「先生?…洋子先生?」

 洋子の名前を口にした健太の顔は、怯えの色が濃くなった。
 その変化にいち早く気付いた沢尻は、心配そうに健太の顔を見詰める。

「そう、洋子先生…どんな先生だった?優しかった?亅

 利根川は健太の顔色など気にする様子もなく、質問を続けた。

「…わ、分かんない」

 怖かったと正直に言えない健太は、か細い声で答えた。

「分からない?それは優しくはなかったって事だね?殴られたりした事はあったのかい?」

「ちょっと刑事さん!約束が違う!」

 沢尻は後ろから利根川の肩を掴んだ。
 利根川は振り向きもせず、健太の顔をじーっと見続けている。

「…言えない」

 健太はそう言うと、両手で顔を覆った。
 洋子に殴られたり蹴られたりした事は誰にも言わないと、健太は約束ノートに書いた。故に本当の事を言えずにいるのだ。
 顔を覆っている健太は、洋子の体罰を思い出したのだろうか、小刻みに震えている。

「刑事さん!もう帰って下さい!」

 沢尻は掴んでいる利根川の肩を力強く引いた。

「…まだ質問があります。では、質問を変えましょう」

 利根川は微動だにせず、淡々と口を動かした。

「帰ってくれ!」

 沢尻の怒声を聞き、健太は体を硬直させた。

「まあまあ、先生。質問を変えますから、そう怒らずに。先生が大声出すから、健太君も怖がってますよ」

 八重草にそう言われた沢尻は、はっと我に返り、体を硬直させている健太を見た。

「健太君…大丈夫?」

 沢尻の普段通りの優しい声を聞き、健太は覆わせた手を退け、顔を上げて笑顔を作った。
 その泣きそうな笑顔を見て、沢尻は言葉を失った。

「…麻生零士君について聞きたいんだけど」

 利根川は質問を再開させた。
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