約束ノート

村上未来

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約束ノート

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 二人は雲丹のクリームパスタを注文した。店員は伝票に注文の品を書き込み、厨房へと向かった。

「お腹空きましたね」

 女性は腹を空かした子犬のような、愛くるしい表情を浮かべた。

「そ、そうですね、空きましたね」

「ふふ、今日はお仕事お休みですか?」

「休みです」

 健太は質問された事を答えるばかりだ。しかし、次第に健太の緊張も解けていき、料理が来る頃には、まるで昔からの知り合いのように話が弾んでいた。

「うわ!美味しい!」

「うん!美味い!」

 二人は届いた料理を一口食べ、至福の表情を浮かべた。

「これにして正解でしたね」

 女性は嬉しそうだ。

「正解でしたね。しかし、美味いですね」

 その後、二人は会話を楽しみながら、ゆっくりとした食事を終えた。
 食事を終えた二人から、会話が消えた。
 健太は悲しんでいた。店を出れば、もうこの女性に会う事はないだろう。

「あの、お名前聞いていいですか?俺、篠原健太っていいます」

 相席になっただけ。名前を聞くのを躊躇っていた健太は、せめて名前だけでも聞いておきたくなった。

「新垣霞です」

 霞は切なそうに答えた。健太と同じ気持ちなのかもしれない。

「…新垣霞さん…お会い出来て良かったです…じゃあ、行きますね」

 健太は自分の伝票を掴むと、躊躇いがちに立ち上がった。

「はい…今日は楽しかったです…また」

 霞のその言葉は、また会いたいというメッセージなのだろう。しかし健太は、出会ったばかりの異性に連絡先を聞く勇気がなかった。

「…はい…また」

 健太は切なそうにその言葉を残し、背を向けてレジへと向かった。

「あの人が、しのはらけんたさんか…」

 そう呟いた霞は、その後ろ姿を優しい視線で見送った。
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