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誕生
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「…あっ、あった!」
優奈はフェンスを指差した。フェンスの向こうに鞄があった。
「どこから、向こうに行くんだろ?」
二人はフェンスを辿るように、ぐるっと回った。金網でできたドアがあった。しかし、南京錠がされている。
「…駄目だね」
そこからフェンスの向こうへ行く事を諦めた二人は、鞄があるフェンスの目の前に移動した。 フェンスの高さは、優に二メートルは越えている。登らなければ、鞄は取れないだろう。
「…ちょっと、待っててね」
優奈はそう言うと、フェンスをよじ登った。
フェンスより向こうは、コンクリートが伸びているが、一メートルもない。それより先は何もないのだ。
目の前でフェンスを登る優奈を、雅史は心配そうに見詰めている。
「…危ないよ」
雅史は本心から思う言葉を口にした。
「大丈夫、大丈夫。私、木登り得意だったでしょ」
優奈は軽やかに言って、フェンスを登り切った。後は向こうへ降りるだけだ。木登りをやっていたのは、幼い頃だ。ここが屋上だと思うと、体がすくんでくる。優奈は息を吐くと、慎重にフェンスを降りた。
しゃがめば鞄に手が届く。優奈は下を見ないようにしゃがむと、鞄を掴み取った。
「雅史、受け取って」
優奈から放たれた鞄が夜空に浮かんだ。そして綺麗な放物線を描き、雅史の両腕に着地した。
「ありがとう」
雅史は優奈の優しさに心から感謝した。そして、ホッとした。これで静香に心配させないで済む。
「お礼なんていいってば。私達、親友でしょ」
フェンスを登りながら、優奈は笑顔を作った。
衝動に駆られた。
見たい。
欲求が激しくなった。
裏切られた時の顔が見たい。
優奈がフェンスの頂点に到達した。
雅史はフェンスを掴んだ。
優奈は音と共に振動を感じた。顔を下に向けた。雅史がフェンスを激しく揺らしている。
「えっ!?雅史危ないよ!」
優奈は叫んだ。その表情には、怖さ、戸惑い、色んなものが含まれている。
「死ね死ね死ね死ね…死ね!」
フェンスを更に激しく揺らしながら、雅史の表情が笑顔に変わった。
「や、止めてぇ!雅史!」
優奈は見上げる瑠奈の笑顔を見て、これが冗談ではないと分かった。
「死ねぇぇぇぇ!」
雅史の叫び声が、静かな夜に響き渡った。
優奈がフェンスから落ちた。落ちて行く優奈と目があった。その目が訴え掛けているのは、何故という言葉だった。
優奈は理解出来なかっただろう。自分が何故、落とされたのか。そして彼女は屋上の外の世界に旅立ち、雅史の視界から消えた。
それから直ぐ、重く鈍い音が、雅史の耳に届いた。
優奈はフェンスを指差した。フェンスの向こうに鞄があった。
「どこから、向こうに行くんだろ?」
二人はフェンスを辿るように、ぐるっと回った。金網でできたドアがあった。しかし、南京錠がされている。
「…駄目だね」
そこからフェンスの向こうへ行く事を諦めた二人は、鞄があるフェンスの目の前に移動した。 フェンスの高さは、優に二メートルは越えている。登らなければ、鞄は取れないだろう。
「…ちょっと、待っててね」
優奈はそう言うと、フェンスをよじ登った。
フェンスより向こうは、コンクリートが伸びているが、一メートルもない。それより先は何もないのだ。
目の前でフェンスを登る優奈を、雅史は心配そうに見詰めている。
「…危ないよ」
雅史は本心から思う言葉を口にした。
「大丈夫、大丈夫。私、木登り得意だったでしょ」
優奈は軽やかに言って、フェンスを登り切った。後は向こうへ降りるだけだ。木登りをやっていたのは、幼い頃だ。ここが屋上だと思うと、体がすくんでくる。優奈は息を吐くと、慎重にフェンスを降りた。
しゃがめば鞄に手が届く。優奈は下を見ないようにしゃがむと、鞄を掴み取った。
「雅史、受け取って」
優奈から放たれた鞄が夜空に浮かんだ。そして綺麗な放物線を描き、雅史の両腕に着地した。
「ありがとう」
雅史は優奈の優しさに心から感謝した。そして、ホッとした。これで静香に心配させないで済む。
「お礼なんていいってば。私達、親友でしょ」
フェンスを登りながら、優奈は笑顔を作った。
衝動に駆られた。
見たい。
欲求が激しくなった。
裏切られた時の顔が見たい。
優奈がフェンスの頂点に到達した。
雅史はフェンスを掴んだ。
優奈は音と共に振動を感じた。顔を下に向けた。雅史がフェンスを激しく揺らしている。
「えっ!?雅史危ないよ!」
優奈は叫んだ。その表情には、怖さ、戸惑い、色んなものが含まれている。
「死ね死ね死ね死ね…死ね!」
フェンスを更に激しく揺らしながら、雅史の表情が笑顔に変わった。
「や、止めてぇ!雅史!」
優奈は見上げる瑠奈の笑顔を見て、これが冗談ではないと分かった。
「死ねぇぇぇぇ!」
雅史の叫び声が、静かな夜に響き渡った。
優奈がフェンスから落ちた。落ちて行く優奈と目があった。その目が訴え掛けているのは、何故という言葉だった。
優奈は理解出来なかっただろう。自分が何故、落とされたのか。そして彼女は屋上の外の世界に旅立ち、雅史の視界から消えた。
それから直ぐ、重く鈍い音が、雅史の耳に届いた。
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