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モンスター
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葵の顔は溶けてしまいそうな程、トロンとしている。
雅史は幸せだった。だが、まだ足りない。
「…葵…愛してる」
雅史が囁いた。
「…私も、愛してる」
この上なく幸せそうな顔をしている葵は、心の底から思う言葉を口にした。
「グサッ!」
静かな公園にその音が響き渡った。
その音は自分の真下から聞こえた。葵は反射的に音がした方へ顔を向けた。
「…え?」
葵はそんな声を洩らした。その一瞬では、理解出来なかったようだ。
葵の腹部に何かが突き刺さっている。そしてその何かを誰かが握っている。
葵はゆっくりとその腕を辿った。そこには、この上なく幸せそうな顔をしている雅史の顔があった。
雅史が葵の腹部に突き刺した物を引き抜いた。それが鋏である事を、そこで漸く葵は認識した。
「痛い?」
その問い掛けに、気付かなかった痛みに気付かされた。激しい痛みだ。
葵の口が叫び声を上げる瞬間、雅史の左手がそれを塞いだ。鷲掴んだその左手には、布が巻かれている。
右手で握られている鋏が、再び葵の腹部に突き刺さった。
葵は叫び声を上げた。しかし、口は塞がれている。呻き声程度にしか聞こえない。
「ねぇ、痛い?」
雅史は幸せそうに問い掛けた。しかし、本当の幸せはこれからやってくる。
「何で?」
葵の目はそう語っている。その目を見た瞬間、雅史は今まで以上の幸せに包まれた。
もっと見たい。信頼が絶望に変わる顔を。愛が憎しみに変わる時を。その恐怖する様を。
それは言葉にするにはあまりにも酷い行為だった。雅史はその行為を笑顔を浮かべ繰り返した。その姿は実に幸せそうに見える。
肉を貫く感触がその手に伝わっている。赤い血がその体に飛び散っている。
抵抗する力もなくなっている葵は、崩れ落ちそうだ。しかし、口元を鷲掴む雅史の左手が、それを許さない。
口を塞がれている葵の目が訴えている。その恐怖と絶望と信じたくないという気持ちを。
不意に雅史が左手を開いた。支えを失った葵は、その場に崩れ落ちた。
雅史はまだ満足していないようだ。仰向けに倒れた葵の上に、馬乗りになった。
口がぱくぱくと動いている。しかし、もう叫ぶ力は残されていないようだ。
「葵…気持ちいい?私は凄く気持ちいいよ」
雅史は葵の右肩に鋏を突き刺した。葵はもう、痛がる素振りを見せなくなった。死が近付いているのだろう。
「葵、葵、葵」
意識が朦朧としている葵の耳元で、雅史は名前を呼び続けた。呻き声が聞こえた。意識が戻ったのかもしれない。
「葵、聞こえる?」
その問い掛けに、葵の首が動いた。頷いたのかもしれない。
雅史がにんまりと笑った。そして、心臓目掛けて鋏を突き刺した。
葵は目を見開いた。その顔は、絶望を超越している。そして葵は短すぎる人生をここで終えた。
その死に顔を見詰め、雅史は幸福感に包まれた。
その死に顔から暫く目が離せなかった。しかし、それをアラームの音が邪魔をした。幸せな時間を邪魔されたように、眉根を寄せた雅史は、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。そして、アラームを解除した。
アラームは雅史が前もって設定していた。自分が死に顔に見とれる事をちゃんと分かっていたのだ。
我を忘れていた意識を現実に戻した雅史は、葵を抱えた。連れて帰るには、やはり重すぎる。諦めるしかない。
雅史は血に染まった靴と衣服をその場で脱ぎ捨てた。直ぐ近くには水道がある。そこで血に染まった両手と顔を洗い流した。
ベンチに置いたリュックサックから荷物をいくつか取り出した。真新しいタオルで、両手と顔を拭いた雅史は、大きなビニール袋の中に、脱ぎ捨てた血塗れの靴と衣服を入れた。そして、ジャージに着替えると、黒いベンチコートを羽織った。
視線を葵へと移した。頼りないライトに照らされている葵は、仰向けで死んでいる。その胸には墓標のように鋏が突き刺さっている。
雅史は鋏を引き抜いた。そして鋏をリュックサックに仕舞うと、もう一度手を洗い、名残惜しそうに何度も振り返りながら、公園を後にした。
葵の遺体が発見されたのは、それから二時間後の事だ。遺体を発見したサラリーマンの連絡を受けた警察は、公園を立ち入り禁止にし、早速捜査を始めた。
雅史の元に警察が来たのは、それから二日後だった。
雅史は幸せだった。だが、まだ足りない。
「…葵…愛してる」
雅史が囁いた。
「…私も、愛してる」
この上なく幸せそうな顔をしている葵は、心の底から思う言葉を口にした。
「グサッ!」
静かな公園にその音が響き渡った。
その音は自分の真下から聞こえた。葵は反射的に音がした方へ顔を向けた。
「…え?」
葵はそんな声を洩らした。その一瞬では、理解出来なかったようだ。
葵の腹部に何かが突き刺さっている。そしてその何かを誰かが握っている。
葵はゆっくりとその腕を辿った。そこには、この上なく幸せそうな顔をしている雅史の顔があった。
雅史が葵の腹部に突き刺した物を引き抜いた。それが鋏である事を、そこで漸く葵は認識した。
「痛い?」
その問い掛けに、気付かなかった痛みに気付かされた。激しい痛みだ。
葵の口が叫び声を上げる瞬間、雅史の左手がそれを塞いだ。鷲掴んだその左手には、布が巻かれている。
右手で握られている鋏が、再び葵の腹部に突き刺さった。
葵は叫び声を上げた。しかし、口は塞がれている。呻き声程度にしか聞こえない。
「ねぇ、痛い?」
雅史は幸せそうに問い掛けた。しかし、本当の幸せはこれからやってくる。
「何で?」
葵の目はそう語っている。その目を見た瞬間、雅史は今まで以上の幸せに包まれた。
もっと見たい。信頼が絶望に変わる顔を。愛が憎しみに変わる時を。その恐怖する様を。
それは言葉にするにはあまりにも酷い行為だった。雅史はその行為を笑顔を浮かべ繰り返した。その姿は実に幸せそうに見える。
肉を貫く感触がその手に伝わっている。赤い血がその体に飛び散っている。
抵抗する力もなくなっている葵は、崩れ落ちそうだ。しかし、口元を鷲掴む雅史の左手が、それを許さない。
口を塞がれている葵の目が訴えている。その恐怖と絶望と信じたくないという気持ちを。
不意に雅史が左手を開いた。支えを失った葵は、その場に崩れ落ちた。
雅史はまだ満足していないようだ。仰向けに倒れた葵の上に、馬乗りになった。
口がぱくぱくと動いている。しかし、もう叫ぶ力は残されていないようだ。
「葵…気持ちいい?私は凄く気持ちいいよ」
雅史は葵の右肩に鋏を突き刺した。葵はもう、痛がる素振りを見せなくなった。死が近付いているのだろう。
「葵、葵、葵」
意識が朦朧としている葵の耳元で、雅史は名前を呼び続けた。呻き声が聞こえた。意識が戻ったのかもしれない。
「葵、聞こえる?」
その問い掛けに、葵の首が動いた。頷いたのかもしれない。
雅史がにんまりと笑った。そして、心臓目掛けて鋏を突き刺した。
葵は目を見開いた。その顔は、絶望を超越している。そして葵は短すぎる人生をここで終えた。
その死に顔を見詰め、雅史は幸福感に包まれた。
その死に顔から暫く目が離せなかった。しかし、それをアラームの音が邪魔をした。幸せな時間を邪魔されたように、眉根を寄せた雅史は、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。そして、アラームを解除した。
アラームは雅史が前もって設定していた。自分が死に顔に見とれる事をちゃんと分かっていたのだ。
我を忘れていた意識を現実に戻した雅史は、葵を抱えた。連れて帰るには、やはり重すぎる。諦めるしかない。
雅史は血に染まった靴と衣服をその場で脱ぎ捨てた。直ぐ近くには水道がある。そこで血に染まった両手と顔を洗い流した。
ベンチに置いたリュックサックから荷物をいくつか取り出した。真新しいタオルで、両手と顔を拭いた雅史は、大きなビニール袋の中に、脱ぎ捨てた血塗れの靴と衣服を入れた。そして、ジャージに着替えると、黒いベンチコートを羽織った。
視線を葵へと移した。頼りないライトに照らされている葵は、仰向けで死んでいる。その胸には墓標のように鋏が突き刺さっている。
雅史は鋏を引き抜いた。そして鋏をリュックサックに仕舞うと、もう一度手を洗い、名残惜しそうに何度も振り返りながら、公園を後にした。
葵の遺体が発見されたのは、それから二時間後の事だ。遺体を発見したサラリーマンの連絡を受けた警察は、公園を立ち入り禁止にし、早速捜査を始めた。
雅史の元に警察が来たのは、それから二日後だった。
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