83 / 298
モンスター
1
しおりを挟む
葵と別れて一ヶ月が経った。雅史はその一ヶ月の間、葵を尾行していた。行動パターンを把握する為だ。
葵は貧しい家計を助ける為に、駅近くにあるハンバーガーショップでアルバイトをしている。
この一ヶ月の間でいえば、アルバイトに出る曜日はバラついていた。しかし、働く時間帯は固定されていた。葵は今日もハンバーガーショップでアルバイトをしている。
夜九時十二分。いつもの時間に仕事を終えた葵が、ハンバーガーショップから出てきた。いつも通り、学校のブレザーを着ている。
葵は悲しそうな顔をしている。それもいつもの事だ。葵は雅史と別れてからずっと、一人きりになると、悲しそうな顔をしていた。雅史の事がまだ、忘れられないのだろう。
駅から遠ざかるいつもの道を葵は歩いている。その二十メートル程後ろには、帽子を目深に被った雅史がいる。葵はいつものように振り返らない。ずっと俯いたままだ。
三つ目の信号を過ぎた辺りから、ビルの群は消え、畑が多くなってきた。そして葵は、いつも立ち寄るコンビニエンスストアに入った。
雅史はコンビニエンスストアに入る事なく、通り過ぎた。そして、目的の場所を目指し歩き続けた。
それから五分後。雅史は公園に到着した。目的の場所だ。
この公園は、入り口以外は丈の短い樹木が並べられ生垣となっている。外からは樹木を掻き分けなければ、公園内は見えないだろう。
防犯カメラはこの公園にもこの付近にも設置されてはいない。それも調べ済みだ。
公園内に足を踏み入れた雅史は、周りを見渡した。いつも通り誰もいない。
この公園は駅から徒歩で三十分程掛かる場所にある。ジョギングができるような広さはない。そして、ライトは設置されてはいるが薄暗い。ライトの近くでないと、顔は認識できないだろう。
雅史は入り口から十メートル程離れたベンチに腰掛け、ある一点を見詰めた。暫くすると、入り口から誰か入ってきた。葵だ。
葵は俯きながら歩いている。ベンチに誰か座っている事は気付いていないだろう。真っ直ぐ雅史に近付いている。
「…葵」
雅史が葵に声を掛けた。
肩をぴくりとさせ立ち止まった葵は、顔を上げた。
「…雅史?」
帽子を目深に被って顔ははっきりとはしないが、それが雅史だと分かったようだ。
「あぁ」
雅史は帽子を脱ぐと、ベンチから立ち上がり、葵に歩み寄った。
「…どうしたの?」
葵は切なそうに、やっとの思いで声を出した。
「葵に話があって」
「…話?」
葵は何かを期待するような顔をした。
「葵…やり直してくれないか?」
「えっ?」
葵は泣き出しそうな顔をした。それは悲しみではなく、喜びだろう。
「なくして初めて気付いたんだ…葵が俺にとって、どんなに大事な存在なのか」
それは嘘じゃない。誰もがそう思うかもしれない程、雅史は切なそうだ。
「雅史…嬉しい…やり直したい」
葵は大粒の涙を溢れさせながら、雅史に抱き付いた。
「葵…ありがとう」
雅史は葵を力強く抱き締めながら、幸せそうな笑みを浮かべた。
雅史が抱き締めている腕を解いた。そして、葵の両肩を掴んだ。その顔付きは真剣だ。
二人はわずか数十センチの距離で見詰め合っている。距離が近付いた。二人の唇の距離が零になった。
葵は幸福感に包まれた。このまま死んでもいい。そう思える程に幸せかもしれない。
長いキスが終わった。二人の顔がゆっくりと離れていく。
雅史にとっても葵にとっても、これが人生初めてのキスだった。
葵は貧しい家計を助ける為に、駅近くにあるハンバーガーショップでアルバイトをしている。
この一ヶ月の間でいえば、アルバイトに出る曜日はバラついていた。しかし、働く時間帯は固定されていた。葵は今日もハンバーガーショップでアルバイトをしている。
夜九時十二分。いつもの時間に仕事を終えた葵が、ハンバーガーショップから出てきた。いつも通り、学校のブレザーを着ている。
葵は悲しそうな顔をしている。それもいつもの事だ。葵は雅史と別れてからずっと、一人きりになると、悲しそうな顔をしていた。雅史の事がまだ、忘れられないのだろう。
駅から遠ざかるいつもの道を葵は歩いている。その二十メートル程後ろには、帽子を目深に被った雅史がいる。葵はいつものように振り返らない。ずっと俯いたままだ。
三つ目の信号を過ぎた辺りから、ビルの群は消え、畑が多くなってきた。そして葵は、いつも立ち寄るコンビニエンスストアに入った。
雅史はコンビニエンスストアに入る事なく、通り過ぎた。そして、目的の場所を目指し歩き続けた。
それから五分後。雅史は公園に到着した。目的の場所だ。
この公園は、入り口以外は丈の短い樹木が並べられ生垣となっている。外からは樹木を掻き分けなければ、公園内は見えないだろう。
防犯カメラはこの公園にもこの付近にも設置されてはいない。それも調べ済みだ。
公園内に足を踏み入れた雅史は、周りを見渡した。いつも通り誰もいない。
この公園は駅から徒歩で三十分程掛かる場所にある。ジョギングができるような広さはない。そして、ライトは設置されてはいるが薄暗い。ライトの近くでないと、顔は認識できないだろう。
雅史は入り口から十メートル程離れたベンチに腰掛け、ある一点を見詰めた。暫くすると、入り口から誰か入ってきた。葵だ。
葵は俯きながら歩いている。ベンチに誰か座っている事は気付いていないだろう。真っ直ぐ雅史に近付いている。
「…葵」
雅史が葵に声を掛けた。
肩をぴくりとさせ立ち止まった葵は、顔を上げた。
「…雅史?」
帽子を目深に被って顔ははっきりとはしないが、それが雅史だと分かったようだ。
「あぁ」
雅史は帽子を脱ぐと、ベンチから立ち上がり、葵に歩み寄った。
「…どうしたの?」
葵は切なそうに、やっとの思いで声を出した。
「葵に話があって」
「…話?」
葵は何かを期待するような顔をした。
「葵…やり直してくれないか?」
「えっ?」
葵は泣き出しそうな顔をした。それは悲しみではなく、喜びだろう。
「なくして初めて気付いたんだ…葵が俺にとって、どんなに大事な存在なのか」
それは嘘じゃない。誰もがそう思うかもしれない程、雅史は切なそうだ。
「雅史…嬉しい…やり直したい」
葵は大粒の涙を溢れさせながら、雅史に抱き付いた。
「葵…ありがとう」
雅史は葵を力強く抱き締めながら、幸せそうな笑みを浮かべた。
雅史が抱き締めている腕を解いた。そして、葵の両肩を掴んだ。その顔付きは真剣だ。
二人はわずか数十センチの距離で見詰め合っている。距離が近付いた。二人の唇の距離が零になった。
葵は幸福感に包まれた。このまま死んでもいい。そう思える程に幸せかもしれない。
長いキスが終わった。二人の顔がゆっくりと離れていく。
雅史にとっても葵にとっても、これが人生初めてのキスだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。
その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。
全15話を予定
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる