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モンスター
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「怪しい?具体的にどこが?」
横を歩く相田は、いつものように尋ねた。相田は相棒である彩花と、考えを共有したいようだ。
「…具体的と言われても」
彩花は口を尖らせた。直ぐには浮かばなかったようだ。
「…刑事の勘かな?」
相田はにこやかに尋ねた。
「いえ、女の勘です」
彩花は真剣な表情で即答した。
その様子を二階の窓から雅史は唇を噛み締めながら見ていた。
それから三日が経った。警察は依然犯人を逮捕出来ずにいる。学校側は二人の生徒が殺された事実があるが、休校にはしていない。警察が連続殺人だと正式に発表していないのも、理由の一つだろう。
雅史はここ数日間、苛立っていた。警察にマークされている可能性がある為、動けないのだ。
殺したい。絶望する顔が見たい。雅史は人を殺したい欲求を抑えるのに、必死だった。しかし、とうとう欲求は爆発した。
時刻は夜の九時を過ぎている。静香はまだ仕事から帰っていない。自宅で一人過ごす雅史は、交際している内の一人である、二階堂琴音に電話を掛けた。
「琴音…今から会いたいんだけど」
「わたしも今、雅史君の事考えてて、めっちゃ会いたいって思ってたんだ」
声からでも琴音が笑顔なのが分かる。
「…じゃあ、会おう…一時間後、学校の校門の前で」
雅史は涌き出る唾を飲み込んだ。
「うん」
琴音は幸せそうに答えた。
電話を終えた雅史は、リュックサックに黒のベンチコート、タオル、そして愛用の鋏を入れ、家を飛び出した。その顔は実に幸せそうだ。しかし、理性はあまり働いていないようだ。学校には防犯カメラがいくつか設置されている。待ち合わせした校門にも設置されているのだ。殺す事が目的なら、言い逃れはできないだろう。
雅史が校門に到着すると、すでに琴音は来ていた。校門付近に設置されている灯りが琴音を照らしている。琴音は赤色のワンピースに赤いヒール、そして真っ赤な口紅を付けている。全身真っ赤にコーディネートした琴音は、いつもより大人びて見えた。
「雅史君」
琴音は雅史に駆け寄り抱き付いた。雅史は蕩けそうな笑顔を浮かべ、琴音を強く抱き締めた。そんな二人を防犯カメラが捉えている。
「…会いたかったよ琴音…付いて来て」
抱き締めた腕を解くと、雅史は閉まる校門の方を向き、琴音に背中を見せた。そして、軽やかに校門をよじ登り、学校の敷地内に足を踏み入れた。
「学校に入るの?」
校門の前で琴音は戸惑っている。
「あぁ…さぁ、おいで」
雅史は手を差し伸べた。
「…ちょっと待っててね」
琴音はヒールを脱ぎ、校門の向こう側に投げた。
校門の高さは、身長が百五十センチの琴音と同じぐらいだ。よっぽどの事がなければ、落ちても死にはしないだろう。琴音は校門に手を掛けた。
雅史は門の隙間から両手を出して組んだ。
「ここに足を乗せて」
直ぐ近くに両手は組まれている。琴音は周りを見たが、他に足を掛けられるような所はない。
「…大丈夫?汚れちゃうよ?」
雅史は素手だ。気が引けるのだろう。
「琴音だって、もう汚れてるだろ?大丈夫大丈夫」
自分が靴を脱いでいる事を思い出した。それでも躊躇った。
「…わたし重いかもしれないよ」
自分で言って、恥ずかしくなった。好きな男子には、軽く見られたいのだろう。体重を感じさせたくないようだ。
「そんなの気にしないよ。俺を信じて」
「…うん」
琴音は組まれた雅史の両手に右足を載せた。そしてそれを土台にし、左足を校門の天辺に掛けた。元から運動神経の良い琴音は、すんなり校門を登る事ができた。
「…ありがとう」
体の重さを知られたのが恥ずかしいのか、琴音ははにかみながらヒールを履いている。
「よし、行こう」
雅史はうずうずしていた。ヒールを履き終わった琴音の手を取り歩きだした。
学校の中は静かだった。二人の足音と、夜の音しか聞こえない。校舎の一角に明かりが灯っているが、防犯の為に点けているのだろう。それ以外にも、所々に明かりが灯っている。これもやはり防犯の為だろう。
伊織が足を止めた。そこは校舎の裏口だった。直ぐ近くには体育館がある。学校の外からでは見えない場所だ。
裏口のコンクリートのひさしに付いている照明には明かりが灯っている。それ程明るくはないが、下にある石段は認識できる。
「…この場所覚えてるかい?」
石段に腰掛けた雅史は、隣に座った琴音に笑顔を見せた。
「…わたしが雅史君に告白した場所」
吐息が聞こえる程近くにいる。琴音はドキドキと脈打つ心臓の音を聞かれやしないかと、恥ずかしそうに俯いた。
「違うよ」
「…えっ?」
雅史の言葉に琴音は顔を上げた。
「俺が琴音に恋した場所だよ」
雅史は琴音の目を見詰めて言った。
周りの景色が見えなくなった。雅史だけしかもう見えない。琴音はそんな表情で見詰め返している。
「…雅史君」
琴音はとても幸せそうな顔だ。
その顔を見て、雅史の心臓の鼓動は高鳴った。
横を歩く相田は、いつものように尋ねた。相田は相棒である彩花と、考えを共有したいようだ。
「…具体的と言われても」
彩花は口を尖らせた。直ぐには浮かばなかったようだ。
「…刑事の勘かな?」
相田はにこやかに尋ねた。
「いえ、女の勘です」
彩花は真剣な表情で即答した。
その様子を二階の窓から雅史は唇を噛み締めながら見ていた。
それから三日が経った。警察は依然犯人を逮捕出来ずにいる。学校側は二人の生徒が殺された事実があるが、休校にはしていない。警察が連続殺人だと正式に発表していないのも、理由の一つだろう。
雅史はここ数日間、苛立っていた。警察にマークされている可能性がある為、動けないのだ。
殺したい。絶望する顔が見たい。雅史は人を殺したい欲求を抑えるのに、必死だった。しかし、とうとう欲求は爆発した。
時刻は夜の九時を過ぎている。静香はまだ仕事から帰っていない。自宅で一人過ごす雅史は、交際している内の一人である、二階堂琴音に電話を掛けた。
「琴音…今から会いたいんだけど」
「わたしも今、雅史君の事考えてて、めっちゃ会いたいって思ってたんだ」
声からでも琴音が笑顔なのが分かる。
「…じゃあ、会おう…一時間後、学校の校門の前で」
雅史は涌き出る唾を飲み込んだ。
「うん」
琴音は幸せそうに答えた。
電話を終えた雅史は、リュックサックに黒のベンチコート、タオル、そして愛用の鋏を入れ、家を飛び出した。その顔は実に幸せそうだ。しかし、理性はあまり働いていないようだ。学校には防犯カメラがいくつか設置されている。待ち合わせした校門にも設置されているのだ。殺す事が目的なら、言い逃れはできないだろう。
雅史が校門に到着すると、すでに琴音は来ていた。校門付近に設置されている灯りが琴音を照らしている。琴音は赤色のワンピースに赤いヒール、そして真っ赤な口紅を付けている。全身真っ赤にコーディネートした琴音は、いつもより大人びて見えた。
「雅史君」
琴音は雅史に駆け寄り抱き付いた。雅史は蕩けそうな笑顔を浮かべ、琴音を強く抱き締めた。そんな二人を防犯カメラが捉えている。
「…会いたかったよ琴音…付いて来て」
抱き締めた腕を解くと、雅史は閉まる校門の方を向き、琴音に背中を見せた。そして、軽やかに校門をよじ登り、学校の敷地内に足を踏み入れた。
「学校に入るの?」
校門の前で琴音は戸惑っている。
「あぁ…さぁ、おいで」
雅史は手を差し伸べた。
「…ちょっと待っててね」
琴音はヒールを脱ぎ、校門の向こう側に投げた。
校門の高さは、身長が百五十センチの琴音と同じぐらいだ。よっぽどの事がなければ、落ちても死にはしないだろう。琴音は校門に手を掛けた。
雅史は門の隙間から両手を出して組んだ。
「ここに足を乗せて」
直ぐ近くに両手は組まれている。琴音は周りを見たが、他に足を掛けられるような所はない。
「…大丈夫?汚れちゃうよ?」
雅史は素手だ。気が引けるのだろう。
「琴音だって、もう汚れてるだろ?大丈夫大丈夫」
自分が靴を脱いでいる事を思い出した。それでも躊躇った。
「…わたし重いかもしれないよ」
自分で言って、恥ずかしくなった。好きな男子には、軽く見られたいのだろう。体重を感じさせたくないようだ。
「そんなの気にしないよ。俺を信じて」
「…うん」
琴音は組まれた雅史の両手に右足を載せた。そしてそれを土台にし、左足を校門の天辺に掛けた。元から運動神経の良い琴音は、すんなり校門を登る事ができた。
「…ありがとう」
体の重さを知られたのが恥ずかしいのか、琴音ははにかみながらヒールを履いている。
「よし、行こう」
雅史はうずうずしていた。ヒールを履き終わった琴音の手を取り歩きだした。
学校の中は静かだった。二人の足音と、夜の音しか聞こえない。校舎の一角に明かりが灯っているが、防犯の為に点けているのだろう。それ以外にも、所々に明かりが灯っている。これもやはり防犯の為だろう。
伊織が足を止めた。そこは校舎の裏口だった。直ぐ近くには体育館がある。学校の外からでは見えない場所だ。
裏口のコンクリートのひさしに付いている照明には明かりが灯っている。それ程明るくはないが、下にある石段は認識できる。
「…この場所覚えてるかい?」
石段に腰掛けた雅史は、隣に座った琴音に笑顔を見せた。
「…わたしが雅史君に告白した場所」
吐息が聞こえる程近くにいる。琴音はドキドキと脈打つ心臓の音を聞かれやしないかと、恥ずかしそうに俯いた。
「違うよ」
「…えっ?」
雅史の言葉に琴音は顔を上げた。
「俺が琴音に恋した場所だよ」
雅史は琴音の目を見詰めて言った。
周りの景色が見えなくなった。雅史だけしかもう見えない。琴音はそんな表情で見詰め返している。
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琴音はとても幸せそうな顔だ。
その顔を見て、雅史の心臓の鼓動は高鳴った。
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