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第6章 眠れる美に落ちたキス ②
しおりを挟む深夜のリョウの部屋。
「マリ、何だよこんな時間に」
リョウは眠そうな顔で、部屋のドアを開けた。俺は何も言わずに中に入り、ベッドに座り込む。
「リョウ、カナが変なんだ」
「はぁ?何それ。お前こそ変だろ、こんな時間に」
リョウは俺の向かいの椅子に座り、寝ぐせがついた髪を掻き上げながら小さく欠伸をする。
「いや、マジで。俺が寝てたら...キスしてきたんだ」
「はぁ?」リョウの目が一瞬で大きく開いた。「カナが?」
「うん」
「お前、それはないわ。夢だろ。お前の願望の夢か何か」
「寝たふりしてたんだよ」
「なんだそれ。変態かよ」
リョウは呆れた表情を浮かべたが、すぐに真面目な顔になった。
「で、どうするの?」
「え?」
「だから、カナのこと好きなの?」
リョウの質問に、言葉に詰まる。カナのこと、好き?そんなの考えたこともなかった。いや、嘘だ。映画に出演してほしいと思ったのは、最初から彼に惹かれていたのかもしれない。カナの全てを映像に収めたいと思ったのは、単に映画のためじゃない……。でも、それが恋愛感情なのかは……。
「わからないよ……」
「は?何それ。お前カナのために脱いだくせに、今更何悩んでんの?それにキスされて嫌じゃなかったなら、もう答えは出てるだろ」
リョウの言葉に、俺は黙り込んだ。確かに嫌ではなかった。むしろ、もう一度あの感覚を味わいたいと思っている自分がいる。
「好きじゃなかったら嫌な気持ちになるはずだけどな!キスなんて」
リョウはそう言って、ニヤリと笑った。その表情が腹立たしかったけれど、反論できなかった。
「でも、俺たち男同士なんだぞ?」
「そんなの関係ないだろ。好きは好きじゃん」
さっき自分がカナに言った言葉を、今度はリョウから返されて、俺は苦笑いした。
「俺……カナのこと、好きなのかな?」
やっと自分の気持ちを口にした瞬間、胸の奥が熱くなる。これが、好きってことなんだ...。初めての感情に心が追いつかない。それは映画のためではなく、ただ、彼と一緒にいたい、見ていたいという気持ち。
「やっと気づいたか。鈍いな」
リョウは笑いながら、俺の背中を叩いた。
「で、どうするの?告白するの?」
「いや、まだわからない...からかわれたのかもしれないし」
「え?そんなやつだっけ?まぁめちゃくちゃモテそうではある。何でお前に?とはちょっと思うけど」
「そうだろ?女の子に人気凄いし」
「まぁ悩める乙女、頑張れ!何か進展したら教えろよ。でも次からこんな時間に来るな。マジで殺すぞ」
リョウの冗談に、俺たちは笑い合う。
「うん。悪かった。ありがとう」
リョウは冗談めかして言ったが、今日はまともだった。それに、応援してくれているみたいだ。
部屋を出て、自室に戻る途中、ふと空を見上げた。夏の星空がいつもより輝いて見える。胸の内には、不安と期待が入り混じって混乱していた。
カナへの気持ち、それはいつから芽生えていたのだろう。気づけば、四六時中彼のことばかり考えている。
自室に戻ると、今日の出来事が信じられないという気持ちが溢れ出た。それでも唇の感触は確かで、あれが夢ではなかったことを物語っている。
ベッドに横になり、天井を見つめる。明日は何が待っているのだろう。どんな会話をして、どんな未来が開けるのか。興奮と不安で眠れそうにない。でも、不思議と恐怖は感じていない。むしろ、早く朝になってほしいと願う。
スマホの画面を見ると、カナからメッセージが来ていた。
『おやすみ。明日、食堂で朝食一緒に食べない?』
シンプルな文だけど、今までとは違う意味を持つ。返信を打ちながら、俺は微笑む。
『うん。おやすみ。また明日』
メッセージを送り、俺は目を閉じた。今夜は、きっといい夢が見られそうだ。
翌朝。目覚めと同時に昨夜のことが脳裏に蘇る。カナとのキス。本当に起きたことなのか、それとも夢だったのか。一瞬、現実と夢の境界が曖昧になった。
急いで着替えて、食堂へ向かう。朝食を一緒に食べるという約束が、今日はいつもより俺を浮かれさせていた。しかし、カナとどう接すれば良いのか。何を話せば良いのか。緊張と期待が混ざり合う気持ちで、食堂のドアを開ける。
中に入ると、すぐにカナを見つけた。いつもの席に座って、何かを読んでいる。その姿を見ただけで、胸が苦しくなる。
「おはよう」声をかけると、カナは顔を上げて微笑む。
「おはよう。寝相悪いね」
普段と変わらない会話。でも、その目には昨夜の記憶が確かに残っていた。緊張していた気持ちが少し和らいだ。
「うるさいな」
俺は軽く言い返して、カナの向かいに座った。何気ない日常の会話から始まり、やがて昨夜のことを話し合う時が来るのかな……。訪れる瞬間までに心の準備を整えよう。
カナと向かい合いながら、俺は確信した。昨夜のキスは偶然ではなく、俺たちの間に確かに芽生えた何かの始まりだったのだ。夏はまだ始まったばかりで、俺たちの物語も、これからが本番なのかもしれない。
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