サマードレスに憧れて 〜君の映画が撮りたくて〜

tommynya

文字の大きさ
12 / 29

第6章 眠れる美に落ちたキス ②

しおりを挟む
 
 深夜のリョウの部屋。

「マリ、何だよこんな時間に」

 リョウは眠そうな顔で、部屋のドアを開けた。俺は何も言わずに中に入り、ベッドに座り込む。

「リョウ、カナが変なんだ」
「はぁ?何それ。お前こそ変だろ、こんな時間に」

 リョウは俺の向かいの椅子に座り、寝ぐせがついた髪を掻き上げながら小さく欠伸をする。

「いや、マジで。俺が寝てたら...キスしてきたんだ」
「はぁ?」リョウの目が一瞬で大きく開いた。「カナが?」

「うん」
「お前、それはないわ。夢だろ。お前の願望の夢か何か」

「寝たふりしてたんだよ」
「なんだそれ。変態かよ」

 リョウは呆れた表情を浮かべたが、すぐに真面目な顔になった。

「で、どうするの?」
「え?」
「だから、カナのこと好きなの?」

 リョウの質問に、言葉に詰まる。カナのこと、好き?そんなの考えたこともなかった。いや、嘘だ。映画に出演してほしいと思ったのは、最初から彼に惹かれていたのかもしれない。カナの全てを映像に収めたいと思ったのは、単に映画のためじゃない……。でも、それが恋愛感情なのかは……。

「わからないよ……」
「は?何それ。お前カナのために脱いだくせに、今更何悩んでんの?それにキスされて嫌じゃなかったなら、もう答えは出てるだろ」

 リョウの言葉に、俺は黙り込んだ。確かに嫌ではなかった。むしろ、もう一度あの感覚を味わいたいと思っている自分がいる。

「好きじゃなかったら嫌な気持ちになるはずだけどな!キスなんて」

 リョウはそう言って、ニヤリと笑った。その表情が腹立たしかったけれど、反論できなかった。

「でも、俺たち男同士なんだぞ?」
「そんなの関係ないだろ。好きは好きじゃん」

 さっき自分がカナに言った言葉を、今度はリョウから返されて、俺は苦笑いした。

「俺……カナのこと、好きなのかな?」

 やっと自分の気持ちを口にした瞬間、胸の奥が熱くなる。これが、好きってことなんだ...。初めての感情に心が追いつかない。それは映画のためではなく、ただ、彼と一緒にいたい、見ていたいという気持ち。

「やっと気づいたか。鈍いな」
 リョウは笑いながら、俺の背中を叩いた。

「で、どうするの?告白するの?」

「いや、まだわからない...からかわれたのかもしれないし」

「え?そんなやつだっけ?まぁめちゃくちゃモテそうではある。何でお前に?とはちょっと思うけど」
「そうだろ?女の子に人気凄いし」

「まぁ悩める乙女、頑張れ!何か進展したら教えろよ。でも次からこんな時間に来るな。マジで殺すぞ」

 リョウの冗談に、俺たちは笑い合う。
「うん。悪かった。ありがとう」

 リョウは冗談めかして言ったが、今日はまともだった。それに、応援してくれているみたいだ。

 部屋を出て、自室に戻る途中、ふと空を見上げた。夏の星空がいつもより輝いて見える。胸の内には、不安と期待が入り混じって混乱していた。

 カナへの気持ち、それはいつから芽生えていたのだろう。気づけば、四六時中彼のことばかり考えている。

 自室に戻ると、今日の出来事が信じられないという気持ちが溢れ出た。それでも唇の感触は確かで、あれが夢ではなかったことを物語っている。

 ベッドに横になり、天井を見つめる。明日は何が待っているのだろう。どんな会話をして、どんな未来が開けるのか。興奮と不安で眠れそうにない。でも、不思議と恐怖は感じていない。むしろ、早く朝になってほしいと願う。

 スマホの画面を見ると、カナからメッセージが来ていた。
『おやすみ。明日、食堂で朝食一緒に食べない?』

 シンプルな文だけど、今までとは違う意味を持つ。返信を打ちながら、俺は微笑む。

『うん。おやすみ。また明日』
 メッセージを送り、俺は目を閉じた。今夜は、きっといい夢が見られそうだ。

 翌朝。目覚めと同時に昨夜のことが脳裏に蘇る。カナとのキス。本当に起きたことなのか、それとも夢だったのか。一瞬、現実と夢の境界が曖昧になった。

 急いで着替えて、食堂へ向かう。朝食を一緒に食べるという約束が、今日はいつもより俺を浮かれさせていた。しかし、カナとどう接すれば良いのか。何を話せば良いのか。緊張と期待が混ざり合う気持ちで、食堂のドアを開ける。

 中に入ると、すぐにカナを見つけた。いつもの席に座って、何かを読んでいる。その姿を見ただけで、胸が苦しくなる。

「おはよう」声をかけると、カナは顔を上げて微笑む。
「おはよう。寝相悪いね」

 普段と変わらない会話。でも、その目には昨夜の記憶が確かに残っていた。緊張していた気持ちが少し和らいだ。

「うるさいな」

 俺は軽く言い返して、カナの向かいに座った。何気ない日常の会話から始まり、やがて昨夜のことを話し合う時が来るのかな……。訪れる瞬間までに心の準備を整えよう。

 カナと向かい合いながら、俺は確信した。昨夜のキスは偶然ではなく、俺たちの間に確かに芽生えた何かの始まりだったのだ。夏はまだ始まったばかりで、俺たちの物語も、これからが本番なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雨とマルコポーロ――恋が香る夜に

tommynya
BL
就活十連敗、心が折れかけていた雨の夜。駅前でうなだれていた凪に、傘を差し出したのは、まるでフランス映画から抜け出したような、美しい青年だった。「濡れてる人を見ると、紅茶を飲ませたくなるんだ」── 連れていかれたのは、裏通りにある静かなティーサロン・Salon de Thé ―「Minuit」真夜中の紅茶店。   「この紅茶は、夜飲めば少しだけ泣ける味なんだ」   花と果実とバニラが混ざる“マルコポーロ”の香りが、疲れた心にやさしく触れていく。 名前も知らないまま始まった、不思議な会話と心のぬくもり。   だが後日、彼が人気モデル“NOA”であることを知った凪は──。   雨と、夜気、香りと詩。そして紅茶が繋ぐ、ふたりの距離はじれったくも確かに近づいていく。 この恋はまだ名前を持たない。でも、確かに始まりかけている──。 ※10章で1幕終了という感じです!  11章からは攻め視点と、その後の甘すぎる日常です。  16章がグランドフィナーレという感じです☺︎ 星川 クレール 乃亜(攻め){ホシカワ クレール ノア} • 大学2年 20歳、仏文学専攻、身長182cm • 紅茶専門サロンで働くモデルの青年 • 美しい容姿と不思議な言葉遣い(詩的) • 1/4 フランスの血を引く • 香りと記憶に関する独自の感性を持つ • 一見、人に対して興味が薄いようなところがあるが、  凪には強めの、執着や保護欲を隠し持つ            ✖️ 長谷川 凪(受け){ハセガワ ナギ} • 大学4年 22歳 心理学専攻、身長175cm • 就活に疲れている • 華奢に見えるが、趣味は筋トレ • 腹筋は仕上がっている • 嫌な事があると雨に濡れがち • 真面目で素朴、努力家だが、自己肯定感が低め • 落ち込んでいたとき、乃亜の紅茶とことばに癒される • “名前も知らない相手”に心を救われ、また会いたいと思ってしまう ✴︎ 本文の詩は、ポール・ヴェルレーヌとジャック・プレヴェールの詩にインスパイアされた、完全オリジナルの創作です。引用は一切ないですが、彼らのロマンチックな雰囲気を感じてもらえたら嬉しいです。 ジャンル:青春BL・日常系 シリーズ名:「Minuit」詩的パラレル

雨の日は君と踊りたい 〜魂の半分を探して…切ない練習生BL〜

tommynya
BL
ワルシャワで「次世代のショパン」と呼ばれたレインは13歳でK-POPに出会い、16歳で来日。 芸術高校ピアノ科に通いながら、アイドル練習生生活をスタート。 高校1年の時、同じ事務所の舞踊科の先輩・レオと出会う。 彼の踊る姿は妖精のようで、幽玄の美の化身。 二人は似ていた。服装も雰囲気も何もかも――お互いに不思議な繋がりを感じる。 それは、まるで“もうひとりの自分”のようだった。 「人の魂は、時に半分に分かれて生まれてくる」 という祖母の言葉を思い出しながら、レオはレインを“魂の半分”だと感じはじめる。 レインもレオに特別な感情をいだき、その想いに戸惑う。 アイドル志望者として抱いてはいけない感情……。 ある日、事務所から新ユニットのデビューが決定。 メンバー選考は事務所内オーディション。 2人は練習に明け暮れるが、結果は意外な結末に――。 水のように透き通る音色と、風のように自由な舞い。 才能と感情が共鳴する、切なく眩しいローファンタジー青春BL。 魂の絆は、彼らをどこへ導くのか。 〈攻め〉    風間玲央(カザマレオ)20歳 大学1年生 180cm 実力とルックスの全てを持つイケメン。 高校時代からファンクラブがある。 天性のダンサーで昔からもう1人の自分「魂の半分」を探している。 特技「風の囁き」             × 〈受け〉    水沢玲音(ミズサワレイン)18歳 高校3年 175cm 絶対音感を持つ元天才ピアニスト。繊細で自信がない。 雨の音が好き。育ちが良く可愛い。レオに憧れている。 特技「水の記憶」

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

蒼い炎

海棠 楓
BL
誰からも好かれる優等生・深海真司と、顔はいいけど性格は最悪の緋砂晃司とは、幼馴染。 しかし、いつしか真司は晃司にそれ以上の感情を持ち始め、自分自身戸惑う。 思いきって気持ちを打ち明けると晃司はあっさりとその気持ちにこたえ2人は愛し合うが、 そのうち晃司は真司の愛を重荷に思い始める。とうとう晃司は真司の愛から逃げ出し、晃司のためにすべてを捨てた真司に残されたものは何もなかった。 男子校に入った真司はまたもクラスメートに恋をするが、今度は徹底的に拒絶されてしまった。 思い余って病弱な体で家を出た真司を救ってくれた美青年に囲われ、彼が働く男性向けホストクラブ に置いてもらうことになり、いろいろな人と出会い、いろいろな経験をするが、結局真司は 晃司への想いを断ち切れていなかった…。 表紙:葉月めいこ様

兄ちゃんの代わりでもいいから

甘野えいりん
BL
将来の夢もなく、ただ毎日を過ごしていた高校二年の青垣直汰。
 大学三年の教育実習生として来た尾原悠は、綺麗で、真面目で、少し不器用な──ほっておけない人だった。 
そんな悠が気になって仕方なく、気づけば恋にのめり込んでいく直汰。
 けれど悠には、直汰の兄に忘れられない想いがあって……。
 それでも直汰は、その兄の代わりでもいいと気持ちをぶつける。
 ふたりの距離が少しずつ縮まるにつれ、悠への想いはあふれて止まらない。
 悠の想いはまだ兄に向いたままなのか──。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...