雨の日は君と踊りたい 〜魂の半分を探して…切ない練習生BL〜

tommynya

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第6章:運命のオーディション

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 朝6時、窓から差し込む太陽の光が眩しくて目を覚ました。今日は運命の日だ。月末評価であり、同時にデビューメンバー選考オーディションでもある。

 ベッドから身を起こし、昨夜用意しておいた黒いジャケットに手を伸ばす。高級感のある生地が指先に心地よく、デビューへの希望を乗せてこの衣装を選んだのだ。

 鏡の前に立ち、深呼吸をする。「今日で全てが決まる」と自分に言い聞かせ、決意を固める。

 寮の共有キッチンに向かうと、すでにレオがいた。彼も同じ黒いジャケットを着ていて、目が合った瞬間、互いに微笑みを交わす。

「オーディションでも双子コーデかよ!黒ジャケット、最高!」

 声の方を振り向くと、アントニーが朝食を準備しながら明るく声をかけてきた。彼は常に場を和ませる存在だ。

「似合ってるだろ?」

 レオが答え、僕に温かい紅茶を差し出してくれる。

「レイン、準備はいい?」

「ありがとう」紅茶を受け取り、一口飲む。
「まだ少し緊張してるんだ」

 レオは僕の横に座り、肩に手を置いてくれた。

「大丈夫だ。昨日までの特訓で完璧になってるから」

 彼の言葉に少し安心する。この一ヶ月、僕たちは毎日遅くまで練習を重ねてきた。僕の曲とレオのダンス、二人の力を合わせて作り上げた特別なパフォーマンス。

 ◇

 練習室に着くと、すでに何人かの練習生が最終調整をしていた。誰もが真剣な表情で、この日のために全てを注ぎ込んでいることが伝わってくる。

 僕は隅のピアノに向かい、ウォーミングアップを始める。指を動かすたび、プラハでの誓いが脳裏によみがえる。「クラシックの伝統と新しい表現の融合」。今日こそ、その全てを形にする時だ。

 レオは僕の横でストレッチをしている。彼の動きには無駄がなく、風のように軽やかだ。

「レイン、少し外へ出ないか?」レオが声をかけてきた。
「頭を整理したい」

 僕は頷き、彼についていった。練習棟の裏手にある小さな庭は、この施設の中で唯一の自然が感じられる場所だ。木々の間から漏れる日差しが、地面に揺れる影を作っていた。

「レイン」レオが僕の正面に立ち、両手を僕の肩に置く。
「俺たちの奇跡を見せるぞ」

「レオ...」僕は彼の真剣な瞳を見つめ返した。

「俺たちは違うんだ」彼は続ける。
「お前のピアノと俺のダンス、他の誰にもできない表現がある」

 僕は彼の手を取った。

「レオ、どんな結果でも一緒に...」

 その時、レオは僕の腕に触れ言う。

「レイン、一緒に舞台に立とう」

 その言葉に脈拍が早まる。二人で気持ちを1つにして。僕たちはそうやって繋がっている。

 ◇

 オーディション会場は、普段のレッスン室とは違う厳かな雰囲気に包まれていた。大きな鏡張りの壁、天井の高いステージ空間、そして最前列に並ぶ審査員席。

 社長と事務所のスタッフもゾロゾロ入ってくる。練習生はみんな集合して社長の前に集まった。

「今日は皆に伝えたいことがあります。スターエンターテイメントでは来年新しいユニット『ネクセラ』のデビューが決まりました。デビューできるのは七人です。今日の結果によって練習生の中から七人選びます」

 一瞬、空気が凍りついたように感じた。デビューできるのは7人だけ。アイドル練習生は大勢いるが全員がデビューできるわけではない厳しい世界だ。今回選ばれなければアイドルの夢を諦める決意をしている練習生もいるし、事務所を移る者もいる。デビューユニットは数年に1組しか作られないからだ。

 皆が人生をかけている。選ばれればアイドルのスタート地点に立てる。人気が出る保証も成功する保証もないけれど、この一握りのダイヤモンドになるために原石たちは命をかける。

 僕はレオを見た。彼も緊張した様子だったが、目が合うと勇気づけるように微笑んでくれる。

 順番が近づいてきた。僕は自分の楽譜を何度も確認し、頭の中でメロディを反芻する。

「レインとレオ、準備をお願いします」

 スタッフの声が聞こえた。

 僕たちは同時に立ち上がり、ステージへと向かう。黒いジャケットの二人が同時に振り向くと、まるで鏡に映ったように同じ動きが生まれた。周りの練習生が小さく息を飲む音が聞こえる。

 スポットライトが僕たちを照らし始める。僕はピアノの前に座り、レオはステージの中央に立つ。深呼吸をして、審査員に向かって簡潔に挨拶をした。

「本日は『橋の向こうの世界へ』という楽曲を披露します。クラシックの伝統と現代的表現の融合を目指した作品です」

 僕は鍵盤に指を置いた。プラハの朝霧、カレル橋の記憶、そして今ここにあるレオとの絆。全てを音に込めて、演奏を始める。

 最初は静かに流れるメロディ。ワルシャワの冬の静けさを表現するような繊細な音色。そして徐々に展開していく。

 レオが動き始めた。彼の動きは風のように軽やかで、同時に力強い。僕の音楽に完璧に同調しながら、彼だけの物語を紡いでいく。

 演奏が高まるにつれ、あの不思議な現象が再び起こり始めた。空気中の水分が揺れ、微かな水滴が光を受けて輝き始める。レオの周りに、風が小さな渦を巻いている。

 演奏パートを終えた僕もレオと一緒に踊る。審査員たちが驚きの表情で見つめる中、僕たちのパフォーマンスは頂点へと向かっていった。クラシックの技法と現代音楽の要素が融合し、二人のダンスが新たな表現として花開く。

 風と水の共鳴。二人が1つの魂として、この瞬間に完全に1つに混ざりあう。水飛沫は跳ねて飛び散り、風がそれを優しく空へ運ぶ。

 最後の和音を奏でると同時に、二人は完璧なポーズで踊りを終えた。僕たちの周りの光る水滴が、ゆっくりと床に落ちていく。

 会場は一瞬の静寂に包まれた後、社長が立ち上がり、拍手を始めた。他の審査員たちも続いて拍手を送る。

「素晴らしい」社長が言った。
「これこそ我々が求めていた新しい表現だ」

 僕とレオは深々と頭を下げる。頭の中では、プラハのカレル橋での誓いを思い出していた。

 ◇

 全ての演技が終わった時、社長が立ち上がった。

「みんなお疲れ様。一週間後、デビューメンバーを発表します」

 そう言って、その日は解散となった。

 僕たちは無言で荷物をまとめ、会場を後にする。外に出ると、小雨が降り始めていた。道が濡れて、街灯が水面に映り込んでいる。

「レイン」レオが僕の横を歩きながら言った。
「今日のパフォーマンス、完璧だったよ。よく頑張ったね」

「うん。でも結果はどうなるかな...」

「どんな結果でも」レオは僕の手を取る。
「俺たちは一緒だ」

 小雨の中、二人で並んで歩く。水滴が僕たちの黒いジャケットに小さな星のように光っていた。

「レオ……あの時、プラハで見た未来が、今ここにある気がする」

「そうだな」彼は目を細める。
「俺たちの奇跡は、まだ始まったばかりだ」

 雨の中を歩きながら、僕たちは夢を語り合った。デビューしたら、どんなステージに立ちたいか。どんな音楽を作りたいか。どんなパフォーマンスを見せたいか。

「レイン、もしデビューできたら」レオが真剣な表情で言う。
「プラハに連れて行ってくれないか?あのカレル橋を、一緒に渡りたい。橋から見る景色を一緒に見てみたいんだ」

 僕は感激で言葉を失う。彼が僕の原点を共有したいと思ってくれていることが、こんなにも嬉しいなんて。

「もちろん!そして今度は、二人で新しい目標を立てよう」

 雨は次第に強くなり、僕たちは寮への道を急いだ。水と風の物語は、これからも続いていく……。

 ◇

 オーディションから三日間、レッスンは一時休止となり、練習生たちには束の間の休息が与えられたが、誰もが結果発表のことばかり考えて、本当の意味での休息はできていなかった。

 僕は寮の屋上で夕焼けを見ていた。空が茜色に染まっていく。

「ここにいると思った」

 振り向くと、レオが扉から出てきた。彼は僕の隣に座り、同じ景色を眺め始める。

「みんな、結果のことで頭がいっぱいみたいだね」

「ああ」レオは頷く。
「でも俺は違う」

「え?」

「俺が考えてるのは、レインのことだよ」

 レオの直球の言葉に、息をのむ。身体の芯から熱が広がり、肌がピリピリと電気を帯びたように感じた。

「な、何言ってるの...」

 僕は顔が熱くなる。

 レオはクスリと笑い、僕の方に体を寄せる。

「正直だろ?緊張してるお前を見てると、守ってあげたくなる」

「もう子供じゃないよ」

 視線をそらす。

「知ってる」レオの声が低くなった。
「だからこそ、俺はレインに正直に言いたいんだ」

 彼の指が僕の頬に触れ、ゆっくりと顔をレオの方に向けさせられる。僕たちの目が合った瞬間、周囲の景色が霞んだように感じた。

「レイン、俺たちが出会ったのは偶然じゃない」

「レオ...」

 彼の顔がゆっくりと近づいてくる。僕は動けなかった。アイドルになることだけを考えてきた僕にとって、これは予想外の展開だ。でも、心の奥では、この瞬間を待っていたのかもしれない。

 屋上のドアの開く音がして、僕たちは慌てて離れた。アントニーが顔を出している。

「おい、二人とも!夕食の時間だぞ。はやく来て」

「わ、わかった!今行く」

 僕は慌てて立ち上がった。

 レオはため息をつき、片方の口角をあげる。

「タイミング悪いな」

 その夜は、なかなか眠れなかった。レオの言葉、彼の温かい指の感触、近づいてきた顔。全てが頭の中でリプレイされて、体中を波のような感覚が押し寄せる。

 あのままアントニーが来なかったら、キスしてたのかな……止めなきゃいけないって分かっているけど、自分の気持ちを抑えられそうにない。

 ◇

 翌日、僕は早朝から練習室のピアノで気持ちを整理していた。鍵盤に触れると、いつも心が落ち着く。

 しばらく演奏していると、ドアの開く音がした。

「やっぱりここにいたか」

 レオだ。

「おはよう」

 僕は演奏を止めず、軽く挨拶する。

 レオは僕の横に座り、しばらく演奏を聴いていた。彼の存在感に、指がかすかに震える。

「昨日のこと」レオが突然言った。
「謝るつもりはない」

 僕の指が鍵盤で躓く。

「俺、本気だから」彼は続ける。
「結果がどうなっても、レインと一緒にいたい」

 僕は演奏を止め、鍵盤を見つめたまま言う。

「でも、アイドルになったら...恋愛はダメなんだよ...?」

「知ってる」レオは僕の手に自分の手を重ねた。
「だからこそ、今伝えておかないといけないって思ったんだ。もう自分に嘘つけなくて」

 僕は彼を見あげる。レオの瞳には決意が宿っていた。

「レオ、僕も...」言葉に詰まる。
「レオのこと...特別だって思ってるよ」

 レオの表情が明るくなった。

「本当に?それだけで十分だよ。ありがとう」

 彼は立ち上がり、僕の後ろに回る。そして僕の肩に手を置き、耳元で囁く。

「でも、いつかちゃんとした答えをもらいに来るからな」

 その言葉に、背中から首筋にかけて甘い痺れが走った。レオの温かい息が耳を撫で、僕は思わず目を閉じる。

「うん。分かった。約束するよ」

 僕は小さく答えた。レオの本気の気持ちを受け取り僕は混乱していた。アイドルになるのに、本当に大丈夫なの?と心配になった。でも彼の特別な人にはなりたいと思ってしまった。

 ◇

 その後の数日間、レオと二人きりになるたび、空気が張り詰めた。言葉にはしなくても、お互いの気持ちを確かめ合うような目線が交わされる。以前より熱くて溶けそうな視線に身体も熱くなる。

 練習再開後のダンスレッスンでは、レオの手が僕の腰に触れるたび、血液が沸騰するように感じた。彼も意識していたのか、必要以上、僕に触れる機会を作っているように感じられる。

「姿勢を正して」

 彼は僕の背中に手を当てながら言う。その手が背中をゆっくりと滑り降りる。

「こ、こうかな?」

 僕は声が上ずるのを感じた。

「もう少し」レオは僕の腰を両手で掴み、ぐっと引き寄せる。
「体の中心を意識して...」

 彼の胸が僕の背中に触れて、耳元で彼の呼吸を感じた。

「レ、レオ...みんながいるよ...」

 僕は小声でレオに訴えた。

「レッスンだから」彼は揶揄うような表情を浮かべている。
「真面目にやってるだけなんだけど?」

 だが、その目は全く笑っていなかった。真剣な眼差しで僕を見つめる。

 レッスン後、シャワーを浴びながら、僕は自分の気持ちと向き合っていた。アイドルになることが全てだと思っていたのに、今はレオのことも同じくらい大切になっている。

 この感情はもう止められそうにない...。でも、事務所の人にバレたらどんなペナルティーを受けるのだろう。それが一番怖い。

 シャワーから出ると、ロッカールームにレオがいた。他の練習生はすでに帰ったようだ。

「待ってた」彼は僕に近づいてきた。
「話したいことがある」

「なに?」僕の声は震えてしまう。

 レオは周りを確認してから、僕の手を取る。
「結果発表の前に、一度だけ……幸運のおまじないしていい?」

 彼の言葉が途切れたとき、僕は理解した。レオは僕に向かって身を乗り出し、僕の顔に彼の顔を近づける。僕はぎゅっと目を瞑った。一瞬間があいて、僕の額に彼の唇が触れた。柔らかく、優しいキス。一瞬の出来事だったが、全身を電流が駆け巡った。

「これが俺の気持ちだ」彼は離れた後、真剣な表情で言う。
「結果がどうあれ、俺の気持ちは変わらないから」

 言葉が出てこない。破壊力が凄すぎて……僕はただ頷くことしかできなかった。

 その夜、僕はベッドに倒れこみ、自分の額に触れる。初めてのキスの感触がまだ残っている気がした。

 頬が熱くなるのを感じながら、明日の結果発表について思いを巡らせ始める。どんな結果になっても、僕とレオの間に生まれたこの感情は本物だ。それだけは確かだった。

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