雨の日は君と踊りたい 〜魂の半分を探して…切ない練習生BL〜

tommynya

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第9章:初めて溶け合った夜

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 デビューショーケースの日、コンサートホールは熱気に包まれていた。数百人のファンとメディア関係者が会場を埋め尽くし、空気が期待で震えている。

 僕は最前列の席に座り、手のひらに冷や汗をかいていた。今日はレオの夢が叶う日。「彼の半分」として、この瞬間を見逃すわけにはいかない。

「これから、スターエンターテイメントの新人グループ『ネクセラ』のデビューショーケースを始めます!」

 MCの声に会場が沸き、一斉に歓声が上がった。僕の喉が緊張で乾いていく。

 ステージが暗転し、7つのシルエットが浮かび上がる。中央に立つのはレオ。彼だけが気づくほどの小さな仕草で、レオは僕の方を一瞬だけ見た。それは「見ていてくれ」というサインだと感じた。

 音楽が流れ始め、ネクセラのデビュー曲「Miracle」が会場に響く。僕はその曲を知っていた。レオが寮の部屋で何度も練習していた曲だ。

 7人のシンクロしたダンスは完璧だった。特にレオは、風を操るかのような流れる動きで観客を魅了していく。彼の周りだけ、空気が違って見えた。

「次の曲は、メインダンサー・レオのソロダンスパフォーマンス『風の記憶』をお送りします」

 アナウンスに会場がざわめき、僕は椅子の端に体を乗り出す。これが僕の一番見たかった瞬間だ。

 ステージ中央に立つレオ。彼はゆっくりと目を閉じ、深呼吸する。そして音楽が始まると同時に、まるで別人のように変貌した。

 レオの踊りは息をのむほど美しい。幽玄の美の化身としか思えない。彼の手が空気を切り裂くたび、会場全体に風が吹き抜けているような錯覚を覚えた。観客は固唾を飲み、レオの一挙手一投足に見入っている。

 特に印象的だったのは、両腕を広げ、天を仰ぐシーン。まるで天から舞い降りた天使のよう。

 僕は、あのとき雨の中で踊ったレオを思い出していた。あの時と同じ、けれど今はもっと洗練されている。レオは毎回自分の殻を破り、限界を知らない男だ。

 レオの周りには、見る人によって違って見える淡い光が漂っていた。一般の観客には、照明効果と思われるだろう。でもこれが彼の特別な才能なんだと僕には分かる。

 ソロパフォーマンスが終わると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。僕も立ち上がり、頬を伝う熱い涙を拭きながら拍手を送る。「自分の半分」がこんなにも輝いている姿を見られることに、誇らしさが込み上げてきた。

 ◇

 ショーケースは大成功に終わった。会場を後にする人々の表情は、一様に感動で満ちていた。僕は他のファンに紛れて、ゆっくりと出口に向かう。

「レインくん」

 振り返ると、スタッフさんが僕に近づいてきた。

「レオさんから、楽屋に来るようにと」

 その言葉に、僕の血液が沸騰する。楽屋に?それは危険じゃないのかな?でも、レオに会いたい気持ちが勝った。

「分かりました」

 僕はスタッフさんについて行き、裏口から楽屋エリアに入る。他のファンには許されない特別な招待だった。

 楽屋前に着くと、スタッフさんは「5分だけですよ」と言い残して去っていく。僕はドアをノックして、中に入った。

「レオ?」

 楽屋には誰もいないようだ。いや、違う。シャワールームのドアが開き、タオルで髪を拭きながらレオが出てきた。上半身は裸で、鍛え上げられた胸板が視界に飛び込んでくる。思わず生唾を飲み込んだ。

「来てくれたんだ」

 レオの顔に花が咲いたような笑顔が広がり、彼は素早く僕に近づいて抱きしめた。シトラス系のシャンプーとレオのいつもの森の香りが混ざった匂いが、鼻をくすぐる。

「素晴らしかったよ、本当に...君の踊り、言葉にならないほど美しかった」

 僕の言葉に、レオは照れたように微笑んだ。

「見てくれていたんだね。最前列で」

「当然でしょ。約束したんだから」

 事務所のアイドルのライブでは、いつも最前列は、撮影機材と練習生たちで埋められている。

 僕たちは見つめ合い、レオがゆっくりと僕の唇に近づこうとした瞬間——。

「レオ、次のインタビューの準備ができたよ」

 突然のノックと声に、僕たちは飛び上がるように離れる。レオの同じグループのメンバー、アントニーの声だった。

「わかった、すぐ行く!」

 レオは慌てて返事をし、小声で僕に囁いた。

「ごめん、時間がない。でも...今夜、俺の部屋に来て。皆、打ち上げパーティーで帰りが遅くなりそうだから、抜けて早く帰るよ」

 僕は目を丸くしながらも、首を縦に振る。

「おめでとう、デビュー。レオの夢が叶って本当に嬉しい」

 僕は心からの祝福を込めて言うと、レオは微笑み、ドアの近くに人がいないことを確認して、素早く僕の唇にキスをした。

「これからが本当の始まりだ。そして必ず...レインを待っている。同じステージに立つぞ」

 その約束を胸に、僕は楽屋を後にした。

 ◇

 夜、僕はレオの部屋のドアの前で足がすくんだ。ノックする手が小刻みに震える。これまでも二人きりになったことはあったけれど、今夜は何か特別な空気が漂っていた。

 コンコン、と小さくノックすると、すぐにドアが開く。レオは僕の腕を掴み、部屋の中に引き入れ、抱きしめた。

「おめでとう、本当に素晴らしかったよ」

 僕がそう言うと、レオは僕の髪に顔を埋めた。

「ありがとう。レインが見てくれていたから、全力を出せたよ」

 部屋の中は静かで、かすかに香るアロマの匂いがした。プルメリアかな。レオが好きな香りだから。ベッドの上には、カラフルなバラの花びらが散りばめられている。深紅、白、ピンク――まるで絵画のように美しい。

「これは……?」

 僕が戸惑いの表情を見せると、レオは少し恥ずかしそうに笑った。

「ちょっと、特別な夜にしたくてね。レインの19歳の誕生日もまだ祝えてないし」

 彼の言葉に、全身に電流が走った。そう、先週誕生日だったけど、レオはショーケースの準備が忙しくて、まだ祝ってもらってなかったんだ。すっかり忘れていたけど、レオが覚えていてくれた事が胸に染みた。

 レオは僕の手を取り、ベッドの方へと導いていく。

「今夜は、レインだけのために時間がある。明日の朝まで……」

 その言葉に、耳まで熱くなった。

 レオは僕の顎に手を添え、ゆっくりと唇を近づけてくる。唇が触れ合った瞬間、半年間積み重ねてきた愛しさが一気に溢れ出す。

 今日のキスは、いつもと違う。深く、激しい。レオの舌が僕の唇をなぞり、隙間から侵入してくる。僕も応えるように舌を触れさせる。互いの息を奪い合うような、濃密なキス。

「んっ……」

 思わず声が漏れる。レオの手が僕の背中から腰へと滑り、シャツの中に入ってくる。温かい手のひらが素肌に触れると、身体がビクッと震えて、熱を帯びていく。

 その瞬間、僕の視界の端に淡い光が見えた気がした。

 レオのオーラ?いや、僕のオーラ?

 水色と若草色が、かすかに揺らめいている……。

「レイン……誕生日おめでとう」

 レオの声が、いつもより低く、色気を帯びて響く。今日はいつもと違うなと感じた。彼の手が僕のシャツのボタンを1つずつ外していく。その指先が肌に触れるたび、身体が固くなる。

「緊張してる?ダメかな?」

 レオの問いかけに、僕は首を横に振った。

「レオ……誕生日プレゼントくれない?」

 その言葉に、彼は驚いた表情を浮かべる。

「何が欲しい?プレゼント。今日はケーキとかしか用意してないから。今度買ってくるよ。何でも言ってみて」

 彼の目は優しい光を宿している。

「何でもいいの?じゃあ……レオが欲しい」

「えっ、俺?」

 彼は目を丸くした。僕がこんな事を言うとは思っていなかったのだろう。僕は19歳になったんだ。もう子供扱いはさせない。

「うん。誕生日だからいいでしょ?」

 彼は僕の額にキスをして、囁いた。

「ゆっくりでいいんだよ?レインが傷つくのは嫌だよ」

「大丈夫。1つになりたいんだ。レオと」

 そう言って僕からレオの唇にキスした。

 するとレオも僕を受け入れ、甘いキスを深めていく。舌が絡み合い、唇が離れても、すぐにまた求め合う。半年間、こうして愛を確かめ合ってきた。でも今夜は、その先へ進む。

 レオの手が、僕のシャツを肩から滑り落とす。布が肌を離れる感触に、急に恥ずかしくなってしまう。レオの視線が、僕の裸を愛でるように辿る。

「綺麗だね……レイン……」

 彼の囁きに、顔が火照ってしまう。でも、レオの手が僕の腰を抱き寄せると、恥ずかしさは渇望に変わっていく。

 僕も震える手で、レオのシャツのボタンに手をかける。1つ、また1つと外すたびに、彼の鍛えられた胸板が露わになっていく。

「レイン……触っていいよ」

 レオの許しに、僕は恐る恐る彼の胸に手を置く。とっても温かい。心音が手のひらに伝わってきて、彼も緊張しているのかもしれないと思った。僕の音と同じくらい大きく速いから。

 やがて二人は、薔薇の花びらが散りばめられたベッドに身を沈める。

 レオの指が僕の首筋から鎖骨へと滑り、そのまま胸を撫で、敏感な部分に触れると思わず声が漏れる。

「あっ……」

「可愛い声……もっと聞かせて」

 レオの唇が、さっき指が辿った道を辿り始める。首筋、鎖骨、胸……熱い舌が肌を這うたび、身体の奥から熱が溢れ出す。薔薇の花びらが、レオの動きに合わせて肌の上を滑っていく。

 この時、僕の視界に光がはっきりと見え始めた。

 レオの身体から立ち上る、淡い若草色のオーラ。そして僕自身からも、水色のオーラが溢れ出している。2つの光が、触れ合うたびに混ざり合い……そして――。

「レオ……光が見える……」

「僕も見えてる。レインのオーラ、綺麗だ」

 レオの手が、さらに下へと滑っていく。その手が敏感な場所に触れた瞬間、水色と若草色のオーラが激しく、パレットの中の絵の具のように混ざり合う。まるで2つの炎が、お互いを求めて燃え上がるように。

「んっ……レオ……」

「レイン……本当にいい?」

「うん……怖くない。レオとなら」

 レオが優しく僕を抱きしめる。薔薇の花びらがシーツの上で踊り出す。甘い香りが、僕たちを包み込む。

「愛してる、レイン」

「僕も……レオ……」

 その瞬間、僕たちの周りで光が爆発した。

 水色と若草色のオーラが激しく絡み合い、混ざり合い、溶け合っていく。まるで2つの川が合流し、1つの大河になるように。

 レオとの距離が、どんどん近くなる。心も、身体も、魂も。

「レイン……」

 レオが僕の名を呼ぶ。その声には、愛おしさと渇望が混ざり合っている。僕も彼の名を呼び返す。何度も、何度も……。

 二人は深く抱き合い、互いの鼓動を確かめ合う。薔薇の花びらが、二人の動きに合わせて舞い上がる。深紅、白、ピンク――光の粒子のように、空中を漂う。

 二人のオーラは完全に混ざり合い、もう水色と若草色の区別がつかない。純白の光が、僕たちを包み込んでいく。薔薇の花びらも、その光を浴びて輝いている。

 時間の感覚が消えていく。あるのは、レオの温もりと、二人の魂が溶け合っていく感覚だけ。

 二人は宇宙の果てまでも深く愛し合い、やがて、2つの魂は完全に1つになった。

 その瞬間、僕は強くレオの背中にしがみついた。少しの痛みはあったけれど、それ以上に心が満たされていく。

 まるで2つに分かれていた魂が、やっと1つに戻ったかのように――。

「レオ……」

 僕が彼の名前を呼ぶと、レオは僕の瞳をじっと見つめた。

「愛してる、レイン」

 彼が僕を満たして、溶け合っていく。二人の息は荒くなり、部屋には吐息が響いていく。やがて、至福の波が押し寄せ、まるでこの世界から解き放たれたような感覚に包まれた。

 その瞬間、純白のオーラが眩い光を放ち、キラキラと砕けたダイヤモンドのような光の粒子が、部屋中に舞い散った。薔薇の花びらも一緒に舞い上がり、まるで祝福の雨のように降り注ぐ。

 この時、純白の「1つの魂」が僕たちの周りを回っていた。キラキラと砕けたダイヤモンドのように光の粒子も一緒に輝いて。

 その光景に感動して涙が溢れてくる。レオと「1つの魂」になれたことの喜びと共に。

「レイン……泣いてる?」

 レオが優しく僕の涙を指で拭う。

「嬉し涙……レオと1つになれて」

「俺も嬉しい。やっと……1つになれたんだな」

 レオが僕をそっと抱きしめ、汗ばんだ額に優しいキスを落とす。薔薇の花びらが、僕たちの髪に絡まっている。

「……半分同士がやっと1つになれたね。心も肉体も。もう離れられないぞ」

 レオの言葉に、僕は頷く。二人の魂は見事に溶け合って混ざり合い1つになったのだ。もう何も二人を引き離すことはできないと確信した夜だった。

 薔薇の花びらに埋もれながら、僕たちはただ抱き合って眠る。純白のオーラが、優しく二人を包み込み、僕は幸せを感じていた。


 ◇

 デビュー後のレオは、想像以上に忙しくなった。テレビ出演、ラジオ、雑誌の撮影...スケジュールはびっしりと埋まり、二人が会える時間は限られている。

 それでも、彼は時間を見つけては僕に会いに来てくれた。僕の部屋、閉館後の練習室、時にはレオの部屋で……二人だけの大切な時間を過ごした。

「最近、全然寝てないでしょ?」

 ある夜、僕の部屋でレオの顔を見て、心配になった。彼の目の下にはクマがくっきり浮き出ていたから。

「大丈夫、これも夢のため。それに……」

 レオは僕の手を取り、胸に当てる。

「レインと会える時間があるから、頑張れるんだ」

 僕はレオの胸に頭をつけ、彼の心臓の音を聞いてみる。その鼓動が、僕の体の中で共鳴するようだった。

「いつか、この秘密を打ち明ける日が来るのかな...」

 僕の言葉に、レオは黙って僕の髪を撫でた。

「いつか必ず。だから、一緒に頑張ろう。レインも練習をサボるなよ?」

 僕は頷く。僕もまた、休む暇なく練習と作曲の勉強に打ち込んでいた。レオと同じステージに立つという誓いを果たすために。

「あのさ...」

 レオは少し照れくさそうに言った。

「実は、次のアルバムのための曲を作ってほしいんだ。もちろん、まだ社長には言ってないけど...レインの作った曲で踊りたい」

 その言葉に、僕は息を呑んだ。

「本当に?でも、僕なんかの曲で大丈夫?」

「大丈夫どころか、最高だよ。レインと俺の感性が1つになる曲...想像しただけでぞくぞくする」

 レオの言葉に、言葉にできない感情で胸が満たされた。これは二人だけの秘密の計画。でも、いつか実現させる。必ず。

「分かった。精一杯の曲を作るよ。レオのために...僕たちのために」

 二人は互いを強く抱きしめ、月明かりに照らされながら、長いキスを交わした。外の世界では二人は別々の道を歩いているように見えても、心は常に1つだった。二人で1つだから。

「僕も必ず、デビューするから...待っていて」

 僕の言葉に、レオは強く頷いた。それは約束ではなく、必ず果たすべき誓い。

 二人の物語は、まだ始まったばかりだ。
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