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第1話 最弱職に転生した少年
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目を開けた瞬間、世界が白く燃えていた。
高く伸びた神殿の天井、輝く光柱、そして肩に刺さるような視線の群れ。
俺――葵(あおい)は、見知らぬ場所でぼんやりと立ち尽くしていた。
「召喚成功です! ついに……異世界に勇者様がおいでになりました!」
甲高い声が響いた。ローブ姿の神官たちが歓喜に沸いている。
足元には魔法陣。光の紋がまだ淡く脈動していた。
どうやら本当に、異世界召喚というやつらしい。
「えっ、俺が勇者……?」
「その通りです、葵様! 女神マレリアの神託により、貴方こそ異界の勇者!」
目の前に立つ金髪の聖女が、手を合わせて俺を見つめていた。
柔らかい微笑、眩いほどの神聖な気配。まるでRPGの導入そのものだ。
夢じゃなければ、完全にファンタジー世界の住人たちである。
状況を呑み込めずにいるうちに、俺の身体が勝手に光に包まれ、ステータスのような文字が空中に現れた。
――――――――――
名前:葵(アオイ)
職業:祈祷士(しとうし)
レベル:1
スキル:祈り、加護、癒光
――――――――――
「……祈祷士?」思わず声が漏れた。
周囲の神官たちの表情が一瞬で固まる。
背後で誰かが、「また祈祷士かよ……」と小さく呟いたのが聞こえた。
その響きには、落胆と失望が混ざっていた。
「お、おい、ステータス間違ってないのか?」
「確認しましたが、間違いありません。勇者様は……祈祷士です」
勇者様という呼称は続いていたが、誰も俺を勇者のようには見ていなかった。
その後、王宮へ案内された俺は、同じく召喚された仲間と顔を合わせた。
俺以外にも四人。剣士、魔法使い、僧侶、弓使い。いずれも見た目からして強そうだ。
その中心にいたのは、才覚と自信に満ちた男――リオネル。異世界組のリーダー格だった。
「おい葵、祈祷士って補助職だろ? 戦闘じゃ役に立たねぇじゃねえか」
「まぁまぁ、最初はそうでも、成長したら化けるかもしれねえだろ?」
「いや、祈祷士はどれだけ鍛えても支援専門だ。最弱職だ」
リオネルの笑みに残酷な棘が混ざる。
あっという間に、俺の立場は“足手まとい”として決まった。
それから数週間、俺は勇者パーティに同行した。
森での魔物討伐、ダンジョンの探索、王女からの宴会招待――
この異世界は、驚くほど典型的なファンタジー世界だった。
ただし、俺にとっては地獄でもあった。
「葵、後ろで祈ってろ。前に出るな」
「すみません……」
「魔力の消費、遅いな。鍛えてんのか?」
「……努力してます」
いくら祈ろうが、“祈り”は光の粒を少し散らすだけ。
回復量も雀の涙。戦闘貢献度ゼロ。
仲間たちは次第に俺を“お荷物”扱いし始めた。
転移直後から俺を支えてくれていた聖女セリナでさえ、次第に言葉を濁すようになった。
「葵様……どうか気を落とさずに。神の試練、なのかもしれません」
その優しささえ、どこか表面的に感じられた。
やがて決定的な日が訪れる。
王都近郊の古竜退治。
勇者リオネルの初の大任務。
まだ未熟な俺も、当然同行を命じられた。
しかし――
「葵、ここでお前は帰れ」
「え……?」
「お前がいても足手まといだ。竜と戦うには荷が重い」
「でも、俺も勇者パーティの一員で――」
「はっ、誰が決めた? お前は神官の慰め役だろ。せいぜい王都で祈ってろ」
どっと笑いが起きた。リオネルの仲間たち、魔法使いのレイナも、弓使いのカインも、口を歪めていた。
ただ一人、セリナだけが困ったように目を伏せる。
「……俺だって、戦うために来たんだ」
「それが祈祷士じゃ無理なんだよ。悪いな、これは全員一致だ」
そのまま、彼らは村外れで俺を置き去りにした。
夕暮れの風が、まるで何かを終わらせるように冷たかった。
……あっけなかった。
想像していた異世界冒険は、始まる前に終わった。
無力感と悔しさで、頭の中が真っ白になる。
何のために召喚されたのか。何を信じればいいのか。
そんなときだった。胸の奥で、静かに声が囁いた。
『祈りとは、神と同調すること。君はまだ“扉”を開いていないだけだよ』
「……え?」
誰もいないはずの夜の森。
心の中に流れ込むような、穏やかで圧倒的な声。
言葉と同時に、体の奥から熱が溢れ出した。
ステータスの表示が勝手に切り替わる。
――――――――――
隠し特性【多神同調(オーバーリンク)】を発現しました。
――――――――――
光が弾け、身体全体が包まれる。
祈っただけで、周囲の小動物が傷を癒し、倒木が蘇った。
心臓が跳ね、あり得ないほどの力が身体に流れる。
ただ立っているだけで、周囲の木々がざわめく。
風がまるで、祈りに応じて歌っているようだった。
「これが……俺の祈り……?」
そう呟いた瞬間、森の奥から魔物の唸り声が響く。
狼のような巨大な獣、黒い影が飛び出した。
戦う準備もできていないのに、体が勝手に動いた。
「祈りよ、守れ!」
光が炸裂した。
轟音とともに、黒獣は灰燼と化す。
自分のしたことが理解できず、ただ茫然と立ち尽くした。
……祈っただけで魔物を消し飛ばした。
まるで神話の奇跡みたいに。
夜空を見上げる。
満天の星が静かに輝いていた。
その瞬間、俺の中で何かが決まった。
「捨てられて正解だったな。……ここから、俺は始める」
もう、誰に認められなくてもいい。
俺は俺の力で、生きてやる。
祈祷士――最弱職と呼ばれたこの力で。
世界に、祈りの本当の意味を見せてやる。
(第1話 終)
高く伸びた神殿の天井、輝く光柱、そして肩に刺さるような視線の群れ。
俺――葵(あおい)は、見知らぬ場所でぼんやりと立ち尽くしていた。
「召喚成功です! ついに……異世界に勇者様がおいでになりました!」
甲高い声が響いた。ローブ姿の神官たちが歓喜に沸いている。
足元には魔法陣。光の紋がまだ淡く脈動していた。
どうやら本当に、異世界召喚というやつらしい。
「えっ、俺が勇者……?」
「その通りです、葵様! 女神マレリアの神託により、貴方こそ異界の勇者!」
目の前に立つ金髪の聖女が、手を合わせて俺を見つめていた。
柔らかい微笑、眩いほどの神聖な気配。まるでRPGの導入そのものだ。
夢じゃなければ、完全にファンタジー世界の住人たちである。
状況を呑み込めずにいるうちに、俺の身体が勝手に光に包まれ、ステータスのような文字が空中に現れた。
――――――――――
名前:葵(アオイ)
職業:祈祷士(しとうし)
レベル:1
スキル:祈り、加護、癒光
――――――――――
「……祈祷士?」思わず声が漏れた。
周囲の神官たちの表情が一瞬で固まる。
背後で誰かが、「また祈祷士かよ……」と小さく呟いたのが聞こえた。
その響きには、落胆と失望が混ざっていた。
「お、おい、ステータス間違ってないのか?」
「確認しましたが、間違いありません。勇者様は……祈祷士です」
勇者様という呼称は続いていたが、誰も俺を勇者のようには見ていなかった。
その後、王宮へ案内された俺は、同じく召喚された仲間と顔を合わせた。
俺以外にも四人。剣士、魔法使い、僧侶、弓使い。いずれも見た目からして強そうだ。
その中心にいたのは、才覚と自信に満ちた男――リオネル。異世界組のリーダー格だった。
「おい葵、祈祷士って補助職だろ? 戦闘じゃ役に立たねぇじゃねえか」
「まぁまぁ、最初はそうでも、成長したら化けるかもしれねえだろ?」
「いや、祈祷士はどれだけ鍛えても支援専門だ。最弱職だ」
リオネルの笑みに残酷な棘が混ざる。
あっという間に、俺の立場は“足手まとい”として決まった。
それから数週間、俺は勇者パーティに同行した。
森での魔物討伐、ダンジョンの探索、王女からの宴会招待――
この異世界は、驚くほど典型的なファンタジー世界だった。
ただし、俺にとっては地獄でもあった。
「葵、後ろで祈ってろ。前に出るな」
「すみません……」
「魔力の消費、遅いな。鍛えてんのか?」
「……努力してます」
いくら祈ろうが、“祈り”は光の粒を少し散らすだけ。
回復量も雀の涙。戦闘貢献度ゼロ。
仲間たちは次第に俺を“お荷物”扱いし始めた。
転移直後から俺を支えてくれていた聖女セリナでさえ、次第に言葉を濁すようになった。
「葵様……どうか気を落とさずに。神の試練、なのかもしれません」
その優しささえ、どこか表面的に感じられた。
やがて決定的な日が訪れる。
王都近郊の古竜退治。
勇者リオネルの初の大任務。
まだ未熟な俺も、当然同行を命じられた。
しかし――
「葵、ここでお前は帰れ」
「え……?」
「お前がいても足手まといだ。竜と戦うには荷が重い」
「でも、俺も勇者パーティの一員で――」
「はっ、誰が決めた? お前は神官の慰め役だろ。せいぜい王都で祈ってろ」
どっと笑いが起きた。リオネルの仲間たち、魔法使いのレイナも、弓使いのカインも、口を歪めていた。
ただ一人、セリナだけが困ったように目を伏せる。
「……俺だって、戦うために来たんだ」
「それが祈祷士じゃ無理なんだよ。悪いな、これは全員一致だ」
そのまま、彼らは村外れで俺を置き去りにした。
夕暮れの風が、まるで何かを終わらせるように冷たかった。
……あっけなかった。
想像していた異世界冒険は、始まる前に終わった。
無力感と悔しさで、頭の中が真っ白になる。
何のために召喚されたのか。何を信じればいいのか。
そんなときだった。胸の奥で、静かに声が囁いた。
『祈りとは、神と同調すること。君はまだ“扉”を開いていないだけだよ』
「……え?」
誰もいないはずの夜の森。
心の中に流れ込むような、穏やかで圧倒的な声。
言葉と同時に、体の奥から熱が溢れ出した。
ステータスの表示が勝手に切り替わる。
――――――――――
隠し特性【多神同調(オーバーリンク)】を発現しました。
――――――――――
光が弾け、身体全体が包まれる。
祈っただけで、周囲の小動物が傷を癒し、倒木が蘇った。
心臓が跳ね、あり得ないほどの力が身体に流れる。
ただ立っているだけで、周囲の木々がざわめく。
風がまるで、祈りに応じて歌っているようだった。
「これが……俺の祈り……?」
そう呟いた瞬間、森の奥から魔物の唸り声が響く。
狼のような巨大な獣、黒い影が飛び出した。
戦う準備もできていないのに、体が勝手に動いた。
「祈りよ、守れ!」
光が炸裂した。
轟音とともに、黒獣は灰燼と化す。
自分のしたことが理解できず、ただ茫然と立ち尽くした。
……祈っただけで魔物を消し飛ばした。
まるで神話の奇跡みたいに。
夜空を見上げる。
満天の星が静かに輝いていた。
その瞬間、俺の中で何かが決まった。
「捨てられて正解だったな。……ここから、俺は始める」
もう、誰に認められなくてもいい。
俺は俺の力で、生きてやる。
祈祷士――最弱職と呼ばれたこの力で。
世界に、祈りの本当の意味を見せてやる。
(第1話 終)
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