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第2話 勇者パーティからの追放通告
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翌朝、森の木漏れ日が肌を打った。昨夜、初めて感じたあの不思議な熱はまだ身体の奥に潜んでいるようで、時おり微かな光となって掌を照らしていた。
俺――葵は、地面に転がっていた木の枝で簡易の杖を作り、まだ冷たい朝の空気の中で立ち上がる。
何もない。ただ、薄靄の森と、自分ひとり。
けれど昨夜見たあの現象――祈っただけで魔物を消滅させた。それは確かに現実だった。
俺の中に、わずかに残っていた自信の欠片が、静かに形を取り始めていた。
「……やってみるか」
両手を合わせ、深く息を吸う。
祈りの言葉は浮かばない。ただ、心の中に浮かんだのは“癒したい”という願い。
瞬間、光が足元から柔らかく広がり、折れていた木の枝がゆっくり元の形に戻っていく。
信じられない光景だ。生きているみたいに幹が軋み、葉が芽吹いた。
「おいおい……祈りで植物が育つって、どうなってんだよ」
ひとりごちる。
けれど同時に、体が震える。力がどんどん満ちる感覚。
――どうやらこれが、昨夜発現した“多神同調(オーバーリンク)”というスキルの力らしい。
思考を巡らせていると、藪の向こうから人の声がした。
「……この辺だ。置き去りにしたのは確か、この森の入口だったはずだ」
リオネルの低い声だ。
もう戻ってこないと思っていた仲間たちが、再び現れた。
俺は木陰に身を潜めて様子をうかがった。リオネル、レイナ、カイン、そして聖女セリナ。
4人が慎重に周囲を探っていた。
だがその様子がどこか緊張している。彼らの武器には血の跡があり、衣服は焦げていた。
「チッ、あの竜、予想以上にやべぇな……」
「もう少しで巣が見つかったのに、あの炎にやられたんだ。セリナ様がいなかったら全滅だった」
「葵がいれば、きっと……いや、どうせ役立たなかったな」
レイナの皮肉混じりの声に、リオネルが鼻を鳴らした。
一方でセリナが不安そうに口を開く。
「でも……葵様、ちゃんと帰れたのでしょうか。森は危険ですし……」
「何心配してんだ、あんなのもう勇者パーティじゃねぇよ」
「でも――」
「セリナ、あいつは足手まといだ。祈りしかできねぇ。戦いには要らない」
セリナの表情が曇った。
その時、俺の胸の奥がちくりと刺した。
けれど同時に、妙な冷静さもあった。
昨夜の奇跡を見た今、もう以前の俺とは違う。彼らの言葉に怯える必要はない。
リオネルがやけに大きな声で叫んだ。
「葵! いるなら出てこい! 王都に戻って“追放通告”を正式に伝える。お前にはもはや、勇者の肩書きも、隊列に加わる資格もねぇ!」
追放通告――その言葉が、森に木霊した。
俺の中の何かが静かに切れた。
木陰から歩み出ると、4人の視線が一斉に俺に向いた。
レイナが驚いたように叫ぶ。「まさか、生きてたの!?」
その声に皮肉を返すように、俺は肩をすくめる。
「死んだらよかったか?」
「い、いや……そういう意味じゃ――」
「いいんだ。リオネル、追放ならそれでいい。俺はもう戻る気もねぇ」
「ほう、強がるなよ。祈祷士ひとりでどうやって生きる。魔物に襲われて終わりだ」
口調だけはいつも通りの尊大さだ。だが剣の腕も、魔法の威力も、本当に昨夜の自分に通じるものではない。
俺はただ、静かに空を仰いだ。
すると光が、ふっと降りてくる。小さな粒が空気の中で弾けた。
「何だ、それ……?」
「嘘だろ……神聖術? 葵、そんな力いつ――」
リオネルが一歩後ずさった。
俺は答えずに祈る。ただ心の奥で願う。
“どうか、これ以上誰も傷つけないで”と。
光が柔らかく広がり、焼け焦げた彼らの鎧が瞬く間に修復されていく。
肌の傷も、ただの祈り一つで癒えていく。
セリナは呆然と目を見開いていた。
「葵様……こんな癒しの力、どうして……」
「俺にもわからない。でも――これが“祈祷士”の力らしい」
その場の空気が止まる。
リオネルだけが怒気を含んだ声で叫んだ。
「ふざけるな! そんな力、聞いたことねぇ! 見せびらかすつもりか!? 勇者を差し置いて神の寵愛を受けるつもりかよ!」
剣が抜かれる。だがもう俺は恐れなかった。
むしろ、不思議なほど心が静かだった。
森の風が纏わりつき、木々がざわめく。彼らの足元に淡い光が走る。
「やめろ、リオネル!」セリナが声を上げた。
「落ち着け! 彼は……」
「どけセリナ! こいつは異物だ! 勇者は俺一人で十分だ!」
剣が振り下ろされる瞬間、光が弾けた。
リオネルの刃は、空気の壁に弾かれて砕けた。
轟音とともに土が舞い上がり、光の柱が二人の間に立った。
余波でレイナとカインが尻もちをつく。
リオネルの顔が引きつる。
「な、何をした……」
「俺は何もしてない。ただ祈っただけだ」
その言葉に、誰も何も言えなくなった。
静寂の中で、葉擦れが音を立てる。
セリナが震える声で呟いた。
「葵様……もしかして……神々が貴方に――」
俺は微笑んだ。
「それでも“最弱職”なんだってさ」
リオネルは何も言わずに剣の残骸を見下ろした。
怒りとも恐怖ともつかぬ眼で俺を睨み、吐き捨てるように言う。
「もう二度と俺の前に現れるな」
その背が森の奥へ遠ざかる。残りの三人も続いた。
ただ一人、セリナだけが振り向き、小さく微笑んだ。
その表情は、哀しみと尊敬が入り混じっていた。
彼らの姿が消えたあと、森は静寂に戻った。
吹き抜ける風の音だけが、奇妙に心地よかった。
「追放か……悪くないな。これでようやく自由になれた」
手を胸に当てる。
あたたかい光がまだ残っている。
――この力の意味を、きっと探らなければならない。
俺は森を抜け、遠くに見える小さな村へ足を向けた。
太陽が昇り、誰かの新しい一日が始まるその光景に、
なぜか胸が高鳴った。
「祈祷士、最弱職ね……見てろよ。俺が証明してやる」
(第2話 終)
俺――葵は、地面に転がっていた木の枝で簡易の杖を作り、まだ冷たい朝の空気の中で立ち上がる。
何もない。ただ、薄靄の森と、自分ひとり。
けれど昨夜見たあの現象――祈っただけで魔物を消滅させた。それは確かに現実だった。
俺の中に、わずかに残っていた自信の欠片が、静かに形を取り始めていた。
「……やってみるか」
両手を合わせ、深く息を吸う。
祈りの言葉は浮かばない。ただ、心の中に浮かんだのは“癒したい”という願い。
瞬間、光が足元から柔らかく広がり、折れていた木の枝がゆっくり元の形に戻っていく。
信じられない光景だ。生きているみたいに幹が軋み、葉が芽吹いた。
「おいおい……祈りで植物が育つって、どうなってんだよ」
ひとりごちる。
けれど同時に、体が震える。力がどんどん満ちる感覚。
――どうやらこれが、昨夜発現した“多神同調(オーバーリンク)”というスキルの力らしい。
思考を巡らせていると、藪の向こうから人の声がした。
「……この辺だ。置き去りにしたのは確か、この森の入口だったはずだ」
リオネルの低い声だ。
もう戻ってこないと思っていた仲間たちが、再び現れた。
俺は木陰に身を潜めて様子をうかがった。リオネル、レイナ、カイン、そして聖女セリナ。
4人が慎重に周囲を探っていた。
だがその様子がどこか緊張している。彼らの武器には血の跡があり、衣服は焦げていた。
「チッ、あの竜、予想以上にやべぇな……」
「もう少しで巣が見つかったのに、あの炎にやられたんだ。セリナ様がいなかったら全滅だった」
「葵がいれば、きっと……いや、どうせ役立たなかったな」
レイナの皮肉混じりの声に、リオネルが鼻を鳴らした。
一方でセリナが不安そうに口を開く。
「でも……葵様、ちゃんと帰れたのでしょうか。森は危険ですし……」
「何心配してんだ、あんなのもう勇者パーティじゃねぇよ」
「でも――」
「セリナ、あいつは足手まといだ。祈りしかできねぇ。戦いには要らない」
セリナの表情が曇った。
その時、俺の胸の奥がちくりと刺した。
けれど同時に、妙な冷静さもあった。
昨夜の奇跡を見た今、もう以前の俺とは違う。彼らの言葉に怯える必要はない。
リオネルがやけに大きな声で叫んだ。
「葵! いるなら出てこい! 王都に戻って“追放通告”を正式に伝える。お前にはもはや、勇者の肩書きも、隊列に加わる資格もねぇ!」
追放通告――その言葉が、森に木霊した。
俺の中の何かが静かに切れた。
木陰から歩み出ると、4人の視線が一斉に俺に向いた。
レイナが驚いたように叫ぶ。「まさか、生きてたの!?」
その声に皮肉を返すように、俺は肩をすくめる。
「死んだらよかったか?」
「い、いや……そういう意味じゃ――」
「いいんだ。リオネル、追放ならそれでいい。俺はもう戻る気もねぇ」
「ほう、強がるなよ。祈祷士ひとりでどうやって生きる。魔物に襲われて終わりだ」
口調だけはいつも通りの尊大さだ。だが剣の腕も、魔法の威力も、本当に昨夜の自分に通じるものではない。
俺はただ、静かに空を仰いだ。
すると光が、ふっと降りてくる。小さな粒が空気の中で弾けた。
「何だ、それ……?」
「嘘だろ……神聖術? 葵、そんな力いつ――」
リオネルが一歩後ずさった。
俺は答えずに祈る。ただ心の奥で願う。
“どうか、これ以上誰も傷つけないで”と。
光が柔らかく広がり、焼け焦げた彼らの鎧が瞬く間に修復されていく。
肌の傷も、ただの祈り一つで癒えていく。
セリナは呆然と目を見開いていた。
「葵様……こんな癒しの力、どうして……」
「俺にもわからない。でも――これが“祈祷士”の力らしい」
その場の空気が止まる。
リオネルだけが怒気を含んだ声で叫んだ。
「ふざけるな! そんな力、聞いたことねぇ! 見せびらかすつもりか!? 勇者を差し置いて神の寵愛を受けるつもりかよ!」
剣が抜かれる。だがもう俺は恐れなかった。
むしろ、不思議なほど心が静かだった。
森の風が纏わりつき、木々がざわめく。彼らの足元に淡い光が走る。
「やめろ、リオネル!」セリナが声を上げた。
「落ち着け! 彼は……」
「どけセリナ! こいつは異物だ! 勇者は俺一人で十分だ!」
剣が振り下ろされる瞬間、光が弾けた。
リオネルの刃は、空気の壁に弾かれて砕けた。
轟音とともに土が舞い上がり、光の柱が二人の間に立った。
余波でレイナとカインが尻もちをつく。
リオネルの顔が引きつる。
「な、何をした……」
「俺は何もしてない。ただ祈っただけだ」
その言葉に、誰も何も言えなくなった。
静寂の中で、葉擦れが音を立てる。
セリナが震える声で呟いた。
「葵様……もしかして……神々が貴方に――」
俺は微笑んだ。
「それでも“最弱職”なんだってさ」
リオネルは何も言わずに剣の残骸を見下ろした。
怒りとも恐怖ともつかぬ眼で俺を睨み、吐き捨てるように言う。
「もう二度と俺の前に現れるな」
その背が森の奥へ遠ざかる。残りの三人も続いた。
ただ一人、セリナだけが振り向き、小さく微笑んだ。
その表情は、哀しみと尊敬が入り混じっていた。
彼らの姿が消えたあと、森は静寂に戻った。
吹き抜ける風の音だけが、奇妙に心地よかった。
「追放か……悪くないな。これでようやく自由になれた」
手を胸に当てる。
あたたかい光がまだ残っている。
――この力の意味を、きっと探らなければならない。
俺は森を抜け、遠くに見える小さな村へ足を向けた。
太陽が昇り、誰かの新しい一日が始まるその光景に、
なぜか胸が高鳴った。
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