追放された錬金術師、森の奥で作った薬が最強すぎて貴族令嬢たちが跪いた件

たまごころ

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第8話 辺境ギルドがざわつく

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王都に近づく前に、まず情報が必要だった。  
レオンはセリアと共に、王都の外れにある交易都市《ロックス》へ向かっていた。  
ここは王都の影響を受けつつも独自の商人と職人が集う地であり、辺境の噂や裏の情報が最も早く流れる場所でもある。  

街道を進む馬車が埃を巻き上げ、遠くの丘の上には風見塔が見える。  
その光景に、セリアは落ち着かない面持ちで呟いた。  
「王都に近づくだけで、胸が締めつけられるような気分です」  
「気持ちは分かります。だが、前ばかり見ていれば足元をすくわれますよ」  
「ええ、心得ております」

街の門をくぐると、活気ある声が飛び交った。  
旅人、商人、冒険者――あらゆる身分の者がひしめき合い、酒場からは笑い声や怒鳴り声まで混じってくる。  
だがそのざわめきの中に、微かな緊張の糸があった。  
誰もが何かを恐れ、様子を窺っているように感じる。

(マスター、なんか空気ピリピリしてる)  
「そうだな。魔素暴走の影響、ここまで届いてるのかもしれない」

ポコ太が頭上で小さく震えながら警戒する。  
セリアは外套のフードを被り、人目を避けるように歩いていた。  
貴族の顔を知られるわけにはいかない。  
レオンは路地裏に入ってから小さな建物の前で足を止める。  

「ここが、《辺境ギルド・外支部》。表向きは薬商組合だけど、情報屋でもある」

古びた扉を押し開けると、奥から鼻にぬける薬草と火薬の匂いがした。  
中では十数人の錬金師や商人が忙しく行き来しており、カウンターの向こうには眼鏡をかけた中年の男が座っていた。  
レオンの姿を見るなり、彼は目を見開く。  

「お、おいおい……レオンじゃねぇか? 本気で生きてたのか!」

「久しぶりだな、ロック爺。追放してくれたおかげで、こっちはのびのびしてる」  
「はっはっ、言うじゃねぇか。だがな、お前の話題で最近この支部は持ちきりだぞ」  

レオンは眉を寄せた。「俺の話題?」  
「ああ。『奇跡の薬師が辺境に現れた』って噂だ。どこの馬鹿が言い出したか、王都ギルドが“本物を確認”するために査察団まで出してきた」  
「……もう動いてるのか」  

セリアが険しい表情になった。  
「やはり王都は早い。彼ら、私を追ってきている可能性もあります」  

ロック爺はセリアをちらりと見て、口の端を吊り上げた。  
「ふん……なるほどな。そりゃ上等な護衛を連れてると思ったぜ。で? 今回は何を探しに来やがった?」

「王都で発生した魔素暴走。原因の手がかりを知りたい。誰か“偽式”を扱ってる集団を聞いたことは?」  

その瞬間、周囲の空気がぴんと張り詰めた。  
近くにいた錬金師たちが顔を見合わせ、誰も口を開かない。  
ロック爺がしばらく考え込んでから、低く呟いた。  

「……お前は、“賢者ノ書”の名を知ってるか」  
「ああ。今も持ってる」  
「やっぱりな。最近、その写本を持ち出した連中がいたらしい。王都の研究塔──ギルド直属の中央保管庫からだ。  
“失われた理式”を再現する研究、とか言ってな。だが、それ以来そいつらの消息はぷっつりだ」  

「……つまり、暴走の発生源は研究塔の実験失敗か」  
「詳しくは知らねぇ。ただ、変な噂がある。塔の地下を封鎖したって話だ。誰も近づけねぇ“禁区”になってる。あの王都が、だぜ?」  

レオンの表情が冷たくなった。  
「それで全部つながったな。偽式、賢者ノ書の模倣、暴走する魔素……王都の上層部が本格的に理に触れた」  

セリアが小さく息を呑む。  
「つまり、私たちが向かうべき場所は決まりましたね」  
「ああ。だが無策では行けない。こちらも“準備”がいる」

ロックがにやりと笑った。  
「ならちょうどいい。お前が使ってた古い作業場、まだ残ってるぜ。ギルドが抹消したけど、名義は俺が拾っておいた」  
「……そういう悪巧みだけは感謝するよ」



夜、レオンたちは廃区画の外れにある小屋に入った。  
元々レオンが王都在籍時に研究用に使っていた工房で、半ば崩壊していたが設備は生きている。  
錬金釜、解析器、そして古い研究ノート。  
埃を払うと、自分の筆跡がまだ残っていた。

「懐かしい……でも、今見ると未熟そのものだな」  
(マスターがんばった昔の跡!)  
「そうだな。あの頃は“成功”だけを信じてた。でも、今は“失敗”こそが始まりだ」

セリアが机に手を置き、静かに問うた。  
「ここで何をなさるのです?」  
「“偽式”を砕くための薬を作る。魔素の暴走は止められても、根っこが残れば何度でも再発する。だから、理そのものを安定化させる“真式薬”を作るんだ」

「真式薬……」  
「言葉の響きは大げさだが、構造上は単純だ。“再生薬・極光”を基礎に、賢者式を限定的に定義して世界理に固定する。つまり、世界の“修復パッチ”を当てるようなものだ」  
セリアは真剣な眼差しで耳を傾けた。  
「それが完成すれば、王都を覆っている異常も……?」  
「止まる。とはいえ、作るのは容易じゃない」

レオンは試薬を並べた。  
薬草、水銀石、光素花の結晶。どれも希少だ。  
ポコ太がその中に身を沈め、淡く発光を始める。  

(マスター、まぜまぜするね!)  
「頼む。温度は一定に。あまり動かすと世界がひっくり返るかもしれん」  
(えっ!?)

冗談か本気か分からぬ口調に、セリアが呆れたように息をつく。  
二人のやり取りを見て微笑を浮かべかけたその瞬間、扉が突然叩かれた。  
ごつごつとした音。誰かが荒々しくノックしている。  

レオンは杖を取った。  
「誰だ?」  

扉の向こうから低い声が響く。  
「……懐かしい声だな、レオン・グレイス。まさか生きていたとは」  

レオンの眉が跳ねる。  
この声を忘れるはずがない。追放の決定を読み上げた、元上司にして王都ギルドの評議員、カーネル博士の声だった。  

「……こんな辺境まで、ご苦労なこったな」

「お前の“失敗”を回収しに来ただけだ。王都が破滅する前にな」  

扉が開き、光の中に現れた男の目は狂気に染まっていた。  
セリアが身構える。  
レオンの胸の奥で、久しく沈んでいた怒りが静かに熱を帯び始める。  

(マスター、どうするの?)  
「……決まってる。もう、“失敗作”のまま終わらせない」

その夜、辺境ギルドの裏で、王都と森の均衡を揺るがす対立が静かに幕を開いた。  

(第8話 終)
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