追放された錬金術師、森の奥で作った薬が最強すぎて貴族令嬢たちが跪いた件

たまごころ

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第9話 王都からの使者と不穏な影

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扉の隙間から、冷たい夜気とともに魔力の压が流れ込んできた。  
レオンは身じろぎもせずに杖を握りしめ、相手を視線で射抜く。  
現れたのは白衣に身を包んだ年配の男、カーネル博士だった。  
王都錬金師ギルドの重鎮にして、かつてレオンを追放処分に導いた張本人である。  

「……珍しいですね。あなたが辺境まで直接出向くなんて」  
「お前の残した“失敗作”が世界を揺るがしたとあれば、来ざるをえまい。それに、お前がまだ生きていたと知ってはな」  
男の笑みには歪んだ優越感が滲んでいた。  

セリアがそっと体を前に出して言った。  
「博士、今さら何をしようというのです? 貴方たちの研究こそが王都の災厄を引き起こしたのでは?」  
「王家の令嬢までもが反逆者とつるむとはな。時代は変わったものだ。だが、王都は我々が支える。貴族風情が口を出すことではない」

その言葉に、セリアの表情から血の気が引いた。  
レオンが一歩、前に出る。  
「博士。あの時もそうでしたね。俺の理論を“稚拙な妄想”と切り捨て、資料ごと封印した。結局あなたたちは、理解しきれなかっただけじゃないですか」

「戯言を……。我々は“完全な賢者式”を再現しつつある。あの魔素の嵐はたしかに失敗だったが、今や制御の段階に入ったのだ」  
「制御? 何をです。あれは災厄の芽ですよ」  

博士の目が細く光る。  
「災厄でも力は力だ。いずれ王は老いる。国も変わらねばならぬ。新たな秩序に必要なのは、理を越えた力――“神の模倣”だ」  

部屋の空気が張り詰めた。  
レオンの周囲でポコ太が震え、青白い光の膜がふわりと広がる。  
(マスター、このひと、あぶない)  
「分かってる。……博士、もう引き返せません。理に背いた人間に“錬金師”を名乗る資格はない」

カーネル博士の口元に笑みが浮かんだ。  
「ならば、証明してみせろ。誰が真の“理の担い手”かをな――!」

博士の背後から靄のような影が噴き出した。  
一瞬で工房内の空気が凍り、光が歪む。  
漆黒の霧が集まり、四足の怪物が姿を成す。  
硬質な外殻に光を吸い込む瞳、魔素の化身とも言うべき存在。  

「“闇式同調体”……!? もうそんな段階まで……」  
「協力者のおかげでな。賢者式を模倣するために、お前の理論を参考にさせてもらった。つまり――お前自身が、この怪物の生みの親だ」

レオンの胸が痛くなった。  
ほんの数年前、理想と信念を胸に研究に没頭していた頃の自分が、今こうして歪められた現実を生んでいる。  
後悔と怒りが渦巻き、杖を握る手に力がこもる。  

「……それでも、今の俺は“無自覚の最強”じゃない。ちゃんと自覚して止めに来た」  
「ほう、言うじゃないか。ならば見せてみろ!」  

闇獣が咆哮を上げ、黒い衝撃波を放つ。  
床が抉れ、金属の壁が一瞬で溶ける。  
セリアが悲鳴を上げるより早く、レオンは腕を突き出して詠唱した。

「構成再定義――“光壁形成”!」

光の防壁が現れ、黒い波を受け止める。  
しかし勢いは凄まじく、床一面が裂ける。  
ポコ太が爆ぜるように身体を広げ、膜で衝撃を吸収した。  

(マスター、魔力強すぎ!)  
「無理するな、ポコ太――!」

つぶやきながら杖を振ると、賢者ノ書が自動的に宙に浮かび、ページがめくれた。  
光が走り、古代語が響く。  

「“創世式、対負反応構文、展開”!」

白と黒の光が衝突した。  
衝撃で壁が吹き飛び、夜の街に爆音が響く。  
通りの者たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、白い光が消えた瞬間、闇獣の姿は半分溶け落ちていた。  

「……おのれ、“欠陥式”の分際で……!」  
カーネル博士は再び魔力を放つが、その様子は不自然だった。  
血のような赤い文様が肌を蝕み、体が崩れ始めている。  

「博士、その体……っ!」  
「ふ、ふはは……理を喰わせた。私の中に“神”が在る! この身が滅んでも、我が意志は次代を創るのだ!」  

博士が振り上げた手の中で、闇の珠が砕けた。  
瞬間、まばゆい閃光が走り、建物全体が震えた。  
レオンは咄嗟にセリアとポコ太を抱えて身を沈める。  

爆音。  
床が崩れ、瓦礫が雨のように落ちてきた。  
やがて静まり返る頃には、そこに博士の姿はなかった。  

煙の中で立ち上がると、壁に焼き付いた影が一つだけ残っていた。  
周囲の温度が下がり、残留魔素が渦を巻く。  
焼けた床の中心に黒い結晶――見たことのない“核”が転がっていた。  

レオンは慎重にそれを拾い上げた。  
「……魔素の核じゃない、これ。“意志の結晶”だ。自分の精神を封じた?」

セリアが顔をしかめる。  
「まるで、自分を器にしたみたいですね」  
「嫌な予感しかしない。たぶんこの核が、王都の暴走の中枢に関わる」

ポコ太が光を放ち、結晶を包み込む。  
(マスター、これ、こわいね。だけど、少しあったかい)  
「……もしかして、まだ博士の意識がどこかに?」

反応はなかった。ただ、かすかに耳鳴りのような声が響いた。  
“記せ……理は汝を選ぶ……”  

レオンは息を詰め、核を懐へしまう。  
「——行こう。王都の暴走を止めなきゃならない。そして……博士が何を見たのか、確かめる」  

セリアは静かに頷いた。  
「私も覚悟を決めました。これは一国の問題ではありません。理を狂わせれば、世界そのものが壊れます」  
「だから止める。もう“失敗作”なんて呼ばせない」  

外では雨が降り出していた。  
黒い雲が低く垂れこめ、稲光が街を照らす。  
辺境の街ロックスはざわつき、王都からの不穏な影が着実に迫っていた。  
レオンは濡れた外套を締め、湿った風を背に受けて歩きだした。  

その瞳の奥で、波打つ決意が光を帯びる。  

(第9話 終)
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