4 / 4
第4話 闇の源流と光の契約
しおりを挟む
星見の塔の図書室では深夜にもかかわらず灯りがついていた。マーリンは机の上に広げられた古い巻物や書物の間を行き来しながら、時折羊皮紙に走り書きをしていた。東の森で見た闇の顔の記憶が、彼の心を苛み続けていた。
「師匠、まだ起きているんですか」
レイラが眠そうな目を擦りながら入ってきた。彼女は寝間着の上にガウンを羽織っており、銀髪が乱れていた。
「ああ、どうしても気になることがあってな」マーリンは顔を上げずに言った。「あの闇の意思の顕現だ。自然発生の闇がここまで明確な自我を持つのは稀なことだ。何かがそれを強化している」
「強化?」
「闇そのものは無意識の存在だ」マーリンはようやく顔を上げ、疲れた目をレイラに向けた。「混沌であり、無秩序だ。だが、あれは明らかに意図を持っていた。私たちを認識し、狙い、攻撃した」
レイラは机の端に腰を下ろした。「つまり、誰かが操っていると?」
「操っているか、あるいは目覚めさせている」マーリンは深く考え込むように杖を軽く床に叩いた。「千年ほど前に封印された闇の君主の伝説を知っているか?」
「闇の君主……あの、七つの世界をまたにかけて戦ったという?」
「そうだ」マーリンの声は重々しくなった。「その名はネクロン・ザ・フォーゴトン。彼は世界の織物そのものを破壊し、全てを闇に還そうとした。当時の魔術師たちの総力戦でようやく封印されたが、完全に滅ぼすことはできなかった」
レイラの表情が硬くなった。「その封印が、今解かれようとしていると?」
「可能性はある」マーリンは立ち上がり、窓辺に歩み寄った。「東の森の裂け目は、単なる偶然の歪みではない。あまりにも強大だ。そしてあの顔……ネクロンの特徴をいくつか思い起こさせる」
「でも師匠、もし本当に闇の君主が復活しようとしているなら、私たちだけではどうにもなりません。全世界の魔術師たちに警告を……」
「そうしたいのだが、証拠が足りない」マーリンはため息をついた。「今の段階では推測に過ぎない。正式な警告を発するには、もっと確かな証拠が必要だ」
その時、ドアが静かに開いた。悠真が入ってきた。彼もまた眠れなかったようで、目には疲れの色が濃く出ていた。
「皆、起きているんですね」
「悠真か」マーリンが振り返った。「どうした?体調でも悪いのか?」
「いえ、ただ……あの顔の夢を見て」悠真は少し恥ずかしそうに言った。「何度も同じ夢で目が覚めてしまって」
レイラが心配そうに眉をひそめた。「闇の意思の影響かもしれないわ。直接対峙した者は、しばしば悪夢に悩まされることがあるの」
「そうかもしれないな」マーリンは机に戻り、何かを探し始めた。「待てよ、ここにあったはずだ……」
老人は棚から小さな水晶の小瓶を取り出した。中には銀色に光る液体が入っている。
「これを飲みなさい。夢魔除けの霊薬だ。少なくとも今夜は安眠できるはず」
「ありがとうございます」悠真は小瓶を受け取ると、蓋を開けて一気に飲み干した。液体は冷たく、ミントのような清涼感が口の中に広がった。
「それで、君が来たのはちょうどよかった」マーリンは再び真剣な表情に戻った。「君の力について、もっと詳しく調べる必要がある。特に、あの裂け目を修復しようとした時に感じたことを教えてほしい」
三人は机を囲んで座った。マーリンは新しい羊皮紙を用意し、インク壺の蓋を開けた。
「まず、糸に触れた時の感覚からだ。ただの光の糸として見えたのか、それ以上の何かを感じたか?」
悠真は目を閉じ、記憶を辿った。「最初はただの糸でした。でも、触れると……感情が伝わってきました。悲しみとか、怒りとか」
「興味深い」マーリンが書き留めた。「糸は単なるエネルギーではなく、感情や記憶も記録している可能性がある。続けてくれ」
「で、その感情に飲み込まれそうになったけど、マーリン師匠の声で我に返りました。それから糸の本来の姿を思い出そうとして、銀色の光を思い浮かべると、糸が反応し始めました」
「糸が君の意志に反応したと?」
「はい。まるで私の記憶や感情を食べているようでした。いや、食べるというより……共有しているというか」
マーリンとレイラが顔を見合わせた。これは重要な発見だった。
「世界の織物は、全ての生命の記憶と感情で編まれている」マーリンがゆっくりと言った。「古代の文献にはそう書かれている。だが、実際にそれを感じ取れる者がいるとは……」
レイラが身を乗り出した。「つまり、悠真は糸を通じて世界の記憶にアクセスできるかもしれない?」
「可能性はある」マーリンの目が輝いた。「もしそうなら、裂け目がなぜできたのか、その原因を直接知ることができるかもしれない」
「そんなこと、できるんですか?」悠真は驚いて聞き返した。
「訓練次第だ」マーリンは立ち上がり、部屋の奥にある特別な棚へ向かった。「ここに『記憶の水晶玉』というものがある。通常は過去の出来事を映し出すための道具だが、君の力と組み合わせれば、より深いレベルで記憶にアクセスできるかもしれない」
老人は慎重に黒い布に包まれた物体を取り出し、机の上に置いた。布を解くと、中から透明な水晶玉が現れた。直径は三十センチほどで、中には微かな霧のようなものが漂っている。
「これは千年ほど前の大魔術師が作ったものだ。世界の重要な出来事を記録している」マーリンは水晶玉を優しく撫でた。「君にこれを扱わせるのはまだ早すぎるかもしれない。が、時間がない」
「師匠、危険では?」レイラが心配そうに言った。
「あらゆる魔術には危険が伴う」マーリンは認めた。「だが、悠真が自力で裂け目の記憶にアクセスするよりは、この水晶玉を使った方が安全だ。こちらの方がコントロールしやすい」
悠真は水晶玉を見つめていた。中を漂う霧が、まるで生きているかのように動いている。
「やってみます。何をすればいいんですか?」
「まずは水晶玉に触れなさい」マーリンが指示した。「そしていつものように、糸を見る状態になるのだ。水晶玉は増幅器として働き、君の力を過去の記憶へと導いてくれるはずだ」
悠真は深呼吸をして心を落ち着かせた。フォーカス・ストーンのペンダントに手を当てると、微かな温もりが伝わってきた。それからゆっくりと水晶玉に両手を添えた。
冷たい。最初に感じたのはそれだった。しかしすぐに、冷たさの中から微かな振動が伝わってくる。まるで水晶玉が心臓のように鼓動している。
目を閉じ、意識を集中させる。星見の間で練習したように、心の目を開く。最初は何も起こらない。しかし次第に、水晶玉を通じて何かが流れ込んでくる感覚があった。
光の糸だ。しかし今回は、これまで見たどの糸よりも太く、複雑に絡み合っている。そしてそれぞれの糸から、かすかな声のようなものが聞こえてくる。
「……今だ、封印を……」
「……闇がまた動き出す……」
「……世界を守れ……」
古い記憶の断片が洪水のように流れ込んできた。悠真はそれらを整理しようとするが、多すぎて混乱する。頭が割れそうに痛い。
「焦るな」マーリンの声が遠くから聞こえる。「一つの記憶に集中するのだ。裂け目についての記憶を探せ」
裂け目。東の森。闇。
悠真はその言葉を心で繰り返しながら、記憶の流れの中を探った。すると突然、一つの情景が鮮明に浮かび上がった。
暗い森の中。月の光も届かない深い闇。そこに一人の人影が立っている。外套をまとった背の高い人物で、顔は影に隠れている。その人物は地面に何かを描いている。複雑な魔法陣だ。
「……目覚めよ、古き闇の力よ……」
人影が呟く。声は低く、歪んでいる。魔法陣が赤く輝き始める。地面が割れ、黒い煙が湧き上がる。
「……我が主よ、この世界を闇で満たせ……」
裂け目が広がる。最初は小さな穴だったが、次第に大きくなっていく。人影はそれを満足そうに見つめている。
そしてふと、影に隠れた顔が一瞬、月明かりに照らされる。
悠真は息を呑んだ。その顔は……人間のものではなかった。皮膚は灰色でひび割れ、目は空洞のように黒い。しかし何より驚いたのは、その人物の額に刻まれた紋章だった。
三日月が逆さになり、その中心に一つの目。見たことのない紋章だが、なぜか強い嫌悪感を覚える。
記憶はさらに流れていく。人影が去った後、裂け目から闇の落とし子たちが現れ始める。森の精霊たちが恐怖に震え、逃げ惑う。木々が枯れ、大地が腐っていく。
「……やめろ……!」
無意識に、悠真が叫んだ。水晶玉が激しく光り、記憶の流れが断ち切られる。彼は手を離し、後ずさりした。汗が額を伝って流れている。
「何を見た?」マーリンが急いで聞いた。
「誰かが……裂け目を作っていました」悠真は荒い息を整えながら話し始めた。「人間じゃないみたいです。灰色の肌で、目が真っ黒で……額に変な紋章がありました」
マーリンの表情が一気に険しくなった。「紋章はどんなものだった?」
「三日月が逆さで、中心に目があるような……」
「ネクロンの信奉者だ」マーリンの声は凍りつくように冷たかった。「闇の君主を崇拝する者たちの紋章だ。彼らは長い間、封印を解こうと画策してきた」
レイラが机に手をついた。「でも、彼らが活動しているなら、なぜもっと早く気づけなかったんですか?」
「彼らは影の中で活動する」マーリンは歯を食いしばった。「数世紀にわたって潜伏し、時折小さな事件を起こすだけだった。だが今回……これは本格的だ。東の森の裂け目は、ただの実験ではない。何か大きな計画の第一歩かもしれない」
「計画?」悠真が聞き返した。
「ネクロンが完全に復活するためには、七つの結節点で同時に闇の門を開く必要があると言われている」マーリンの説明は重々しかった。「星見の塔はそのうちの一つだ。東の森は……おそらく第二の結節点なのだろう」
図書室が重い沈黙に包まれた。三人はそれぞれが持つ情報の重みに押しつぶされそうだった。
「では、私たちがやるべきことは?」レイラが真っ先に口を開いた。
「三つある」マーリンは指を折りながら数え始めた。「第一に、東の森の裂け目の修復を続ける。第二に、他の結節点の調査を行う。第三に……ネクロンの信奉者たちの動きを探る」
「でも、私たちだけでは……」
「もちろん、私たちだけでは足りない」マ�リンは認めた。「しかし、今すぐに他の魔術師たちに助けを求めるわけにはいかない。証拠が不十分だ。まずは確実な証拠を集めなければならない」
老人は悠真を見つめた。
「そしてここで、君の力がさらに重要になる。君は記憶の水晶玉を通じて、あの信奉者の姿を見た。では次は、その人物の現在の居場所を探れるかもしれない」
「そんなこと、できるんですか?」
「訓練次第だ」マーリンはまた同じ言葉を繰り返した。「記憶の糸は過去だけではなく、現在にも繋がっている。同じ人物の『今』を感じ取れるかもしれない」
レイラが不安そうに言った。「でも師匠、それは危険すぎませんか?もし相手が気づいたら、逆にこっちが狙われるかもしれない」
「そのリスクはある」マーリンはうなずいた。「だからこそ、十分な準備が必要だ。まずは基本的な訓練から始めよう」
その時、窓の外で不気味な光が閃いた。紫がかった光だ。三人は一斉に窓辺に駆け寄った。
東の森の方角から、何本もの紫の光の柱が空へと立ち上っている。まるで巨大な牢獄の檻のようだ。
「あれは……封鎖結界?」レイラが息を呑んだ。
「そうだ」マーリンの声には怒りが込もっていた。「信奉者たちが、裂け目を保護するために結界を張ったのだ。これで外部からの干渉を防ごうというわけだ」
「私たちも入れなくなるんですか?」
「入れるが、かなり困難になる」マーリンは顎に手を当てて考え込んだ。「結界を突破するには、相当な魔力が必要だ。しかも、突破した瞬間に彼らに気づかれる」
悠真は光の柱を見つめながら、胸の内に不思議な感覚が湧き上がるのを覚えた。それは怒りに似ているが、それ以上に深い、悲しみのようなものだ。世界が傷つけられていることへの悲しみ。
その時、彼の胸元のフォーカス・ストーンが温かく輝き始めた。そして、あの声がまた聞こえてくる。
『守り……護らなければ……』
声ははっきりしないが、確かに存在する。それは彼自身の声ではない。もっと古く、深い場所から来る声だ。
「どうかしましたか?」レイラが心配そうに尋ねた。
「声が聞こえる」悠真は思わず口にした。「『守らなければ』って」
マーリンの目が細くなった。「世界の声かもしれない。『門』を持つ者は、世界そのものの意志を感じ取ることがあると言われている」
「世界の意志?」
「この世界は生きている」マーリンの説明は詩的だった。「無数の生命が織りなす一つの大きな生命体だ。そして今、その生命体が危険に晒されている。君はその傷を感じ、その悲鳴を聞いているのかもしれない」
紫の光の柱が次第に収まり、やがて消えていった。しかし、森の周りには目に見えない壁が張り巡らされたはずだ。
「今夜はここまでだ」マーリンが言った。「皆、休むように。明日から本格的な訓練を始める。悠真、君には特別な訓練が必要だ。記憶の追跡を学ばなければならない」
三人はそれぞれの部屋へと帰っていった。しかし、悠真の心は静まらなかった。あの声は何だったのか。世界が本当に声を発することがあるのか。
部屋に戻ると、シャドウが待っていた。黒猫は窓辺に座り、東の森の方角を見つめている。その背中は緊張して硬くなっていた。
「シャドウ、あれを見たか?」
猫は振り向き、悲しそうな目で悠真を見た。そして、ゆっくりと歩み寄り、彼の足元に座り込んだ。
「君も感じているんだろう?あの闇を」
シャドウは鳴き声を上げ、頭をこすりつけてきた。その仕草から、悠真は何かを悟った。シャドウは単なる守護者ではない。彼と世界を繋ぐ架け橋なのだ。
ベッドに横になりながら、悠真は今日の出来事を考えた。記憶の水晶玉で見た信奉者。あの灰色の肌、黒い目、不気味な紋章。そして紫の封鎖結界。
全てがつながっている。大きな闇の計画が進行している。
「僕に何ができるだろう」
彼が呟くと、シャドウがベッドに跳び乗り、彼の胸の上に丸くなった。猫の温もりが、不思議と安心感を与えてくれる。
「少なくとも、あの裂け目を修復することはできる。それだけでも意味があるはずだ」
ふと、マーリンの言葉を思い出した。「世界は生きている」。もしそうなら、世界もまた傷つき、苦しみ、助けを求めている。
「わかった」悠真は暗闇に向かって囁いた。「僕にできる限りのことをするよ」
その瞬間、部屋中が微かに光った。光源はフォーカス・ストーンだった。水晶が柔らかな金色の光を放ち、それがゆっくりと天井へと広がっていく。
光の中に、またあの声が聞こえた。
『契約……深まる……』
「契約?」悠真は不思議に思った。
すると、シャドウが起き上がり、彼の額にそっと鼻を押し当てた。瞬間、眩い光が二人を包んだ。
新しい記憶が流れ込んできた。しかし今回は、彼自身の記憶ではない。シャドウの記憶だ。
古代の戦場。魔術師たちが巨大な闇の存在と戦っている。その中に、マーリンに似た人物がいる。はるか昔の、若き日のマーリンだ。
そして、光の魔術師たちの傍らには、何匹もの光る獣がいる。そのうちの一匹が、シャドウにそっくりだ。ただし、今のシャドウより大きく、より強力に見える。
『守護者たちは、闇との戦いで力を失った……』
声が説明する。
『我らは長き眠りにつき、再び必要とされる時を待った……』
記憶が変わる。暗い部屋。一人の青年が窓辺に座っている。失業し、希望を失った青年。それは悠真自身だ。
『そして今、新たな契約者が現れた……』
シャドウが現れる。本棚の上から青年を見下ろす。琥珀色の目が決意に満ちている。
『我が力の残り火を、新たな契約者に託す……』
光が収まった。部屋は元の暗さに戻った。しかし、悠真の心には新しい知識が刻まれていた。
シャドウは古代の守護者だった。闇との戦いで力を失い、長い眠りから覚めたばかりだ。そして彼を選んだ。なぜなら、彼が『門』を持ちながらも、純粋な心を持っているから。
「君は……ずっと昔から闇と戦ってきたんだね」
シャドウは満足そうに鳴いた。その目は以前より深く、知性的に輝いている。
「わかった。一緒に戦おう。僕の力と君の経験で」
その夜、悠真は深く安らかに眠った。悪夢は訪れず、代わりに希望に満ちた夢を見た。光と闇の戦い、そして最終的な勝利の予感。
朝が来た。窓から差し込む光は、昨日までよりも明るく感じられた。新しい決意が、彼を満たしていた。
食堂に行くと、マーリンとレイラはすでに朝食を終えていた。二人の表情は厳しいが、どこか決意に満ちている。
「おはよう、悠真」マーリンが声をかけた。「よく眠れたか?」
「はい、とても」
「それは良かった」マーリンはうなずいた。「では、今日から本格的な訓練を始めよう。まずは記憶の追跡からだ。あの信奉者を探すために」
レイラがコーヒーカップを置きながら言った。「私も手伝います。追跡魔法は少しなら使えますから」
「ありがとう、レイラ」悠真は微笑んだ。
その時、塔の入口で鐘の音が鳴り響いた。訪問者の合図だ。
「誰だ?」マーリンが眉をひそめた。「この時間に?」
三人は玄関ホールへ急いだ。大きな扉の前には、旅装束の男が立っていた。彼は長いマントを身にまとい、顔の半分はフードに隠れている。
「マーリン・アンブローズ閣下ですか?」男の声は低く、渋い。
「そうだ。貴様は?」
男はフードを脱いだ。現れたのは中年の人間の男性で、顔には深い傷跡が走っていた。その目には、長い戦いの疲れと警戒の色が浮かんでいる。
「私はカイル・レッドウルフ。辺境の魔術師です。東の森の異変について、警告に参りました」
マーリンの目が細くなった。「どうしてそのことを?」
「私の仲間が森の近くで消息を絶ったのです」カイルの声には痛みが込もっていた。「最後の伝言で、『灰色の男たちが森で何かをしている』と。それから一週間、何の連絡もありません」
レイラが息を呑んだ。「灰色の男たち……」
「どうやら、私たちの知らないところでもう動きがあるようだ」マーリンはカイルを中へ招き入れた。「さあ、話を詳しく聞かせてくれ。そして私たちも、知っていることを話そう」
図書室で、カイルは地図を広げた。そこには東の森の周辺が詳細に描かれている。
「私の仲間たちはここで調査していました」彼は森の西側の一点を指さした。「この辺りには古い遺跡があります。伝説では、古代の魔術師たちが闇を封印した場所の一つだと言われています」
マーリンの表情が変わった。「その遺跡の詳しい位置を教えてくれ」
カイルが座標を伝えると、マーリンは急いで棚から古い書物を取り出した。
「ここだ」老人はページをめくりながら言った。「確かに記録がある。第二の結節点だ。東の森の中心部にある裂け目は、実は副産物に過ぎないかもしれない。本当の目的は、この遺跡の封印を解くことだ」
「では、裂け目は囮なんですか?」レイラが尋ねた。
「あるいは、封印を弱めるための手段だ」マーリンは考え込んだ。「裂け目から漏れる闇のエネルギーが、遺跡の封印を蝕んでいるのかもしれない」
カイルが拳を握りしめた。「ならば、一刻の猶予もありません。すぐに向かうべきです」
「待て」マーリンは手を上げた。「向かうのは良いが、準備が必要だ。まずは遺跡の状態を調査し、封印がどれほど弱まっているかを確認しなければならない。それから計画を立てる」
彼は悠真を見た。
「そしてここで、君の出番だ。遺跡の記憶を追跡し、封印の状態を直接感じ取ってほしい」
「できますか?」
「君ならできる」マーリンは確信に満ちて言った。「君はすでに裂け目の記憶に触れ、信奉者の姿を見た。同じ要領で、遺跡の記憶にもアクセスできるはずだ。シャドウの助けも借りられる」
カイルが不思議そうに悠真を見た。「この青年が?」
「彼は『門』を持つ者だ」マーリンが説明した。「世界の織物を見、記憶を追跡できる。今私たちに必要なのは、まさにその力だ」
カイルは深くうなずいた。「わかりました。では、何をすれば?」
「まずは遺跡の詳しい情報を教えてくれ。どんな場所か、どのような防御があるか。それから、悠真の訓練を手伝ってほしい。君は戦闘の専門家だろう?」
「魔術師としての訓練を受けていますが、主に実戦で鍛えてきました」カイルは腰の剣に手をやった。「二十年近く、辺境で魔物や闇の勢力と戦ってきました」
「それならちょうどいい」マーリンは満足そうに言った。「悠真とレイラには実戦経験が不足している。君の経験が役に立つだろう」
その日から、塔の訓練は新しい段階に入った。午前中はマーリンによる記憶追跡の訓練、午後はカイルによる実戦訓練だ。
記憶追跡の訓練では、悠真は小さな遺物を使って過去の記憶を追う練習をした。古いコイン、壊れた武器、色あせた布切れ。それぞれに刻まれた記憶を読み取り、その歴史を辿る。
最初はうまくいかなかった。記憶の断片がバラバラに現れ、まとまりがない。しかし次第に、コツをつかみ始めた。重要なのは、対象物に込められた感情に集中することだ。喜び、悲しみ、怒り、愛情――それらの感情が記憶の道標になる。
「よくできている」マーリンが三日目の訓練で認めた。「君は急速に上達している。これなら、遺跡の記憶にもアクセスできるだろう」
一方、カイルの実戦訓練は厳しかった。彼は悠真とレイラに、闇の勢力との戦い方を教えた。
「闇の落とし子たちは物理攻撃だけでは倒せない」カイルは訓練場で言った。「魔力を込めた攻撃が必要だ。あるいは、彼らの弱点を見つける」
「弱点?」悠真が聞いた。
「闇の生物には必ず核がある」カイルは木で作ったダミーを指さした。「通常は胸のあたりだ。そこを集中的に攻撃すれば、効率よく倒せる」
レイラが短剣を構えた。「でも、戦闘中に核を見つけるのは難しいですよね?」
「訓練で感覚をつかむしかない」カイルはうなずいた。「まずは静的な標的で練習しよう。魔力を込めた一撃で核を貫く感覚を覚えるのだ」
訓練は日々続いた。悠真は朝から晩まで、魔法と戦いの技術を学んだ。疲労はピークに達していたが、それ以上に成長の実感があった。
一週間後、マーリンは訓練の中止を宣言した。
「もう準備は十分だ」老人は三人の前に立って言った。「明日、遺跡へ向かおう。ただし、これは偵察任務だ。戦闘は最小限に抑え、情報収集を優先する」
カイルがうなずいた。「遺跡への入り口は三つあります。正面入り口はおそらく監視されているでしょう。裏口と、崩れた壁から入る地下経路があります」
「では地下経路から入ろう」マーリンが決めた。「最も目立たず、敵に気づかれにくい」
その夜、悠真は部屋で装備の最終チェックをしていた。フォーカス・ストーンのペンダント、マーリンから渡された緊急用の転送石、カイルから借りた護符。
シャドウが彼の荷物のそばに座り、何か考えているように見えた。
「心配か?」悠真が声をかけると、猫は短く鳴いた。「大丈夫だよ。みんなが一緒だ。それに君もいる」
シャドウは彼の足元に来て、頭をこすりつけた。その仕草から、深い信頼を感じた。
ドアをノックする音がした。レイラだった。
「明日の準備はできてる?」
「うん。君は?」
「一応」レイラは部屋に入り、窓辺に寄りかかった。「ちょっと緊張してる。遺跡って聞くといつも嫌な予感がするの」
「僕もだ」悠真は認めた。「でも、行かなきゃいけない」
「そうね」レイラは微笑んだ。「カイルさんが言ってたわ。勇気って、恐怖がなくなることじゃなくて、恐怖を抱きながらも進むことだって」
「彼、いいこと言うね」
「長く戦ってきたからこそ、わかるんでしょうね」レイラの表情が少し曇った。「あの傷跡、見た?顔だけじゃない。腕にも、首にもある。きっとものすごい戦いをくぐり抜けてきたんだろう」
悠真は自分の手を見た。まだ柔らかく、戦いの痕跡などない。しかし明日からは、変わるかもしれない。
「ねえ、悠真」レイラが真剣な声で言った。「もしもの時は、私が守るから。あなたは『門』の力に集中して。それが私たちの最大の武器なんだから」
「でも、君だって危険にさらされるかもしれない」
「それが弟子の務めよ」レイラはいたずらっぽく笑った。「それに、私はエルフだ。人間よりずっと長く生きられるんだから、多少の危険なんてなんでもないわ」
彼女の強がりが、逆に心配を掻き立てた。しかし悠真は、感謝の言葉を選んだ。
「ありがとう、レイラ。君がいてくれて本当に心強い」
「お互い様よ」レイラはドアの方へ歩き出した。「じゃあ、早く寝なさい。明日は朝早く出発するから」
部屋に一人残された悠真は、もう一度装備を確認した。全てが整っている。後は覚悟だけだ。
窓の外を見ると、二つの月が雲の間から顔を出している。その光は冷たく、しかしどこか優しくも感じられた。
「よし」
彼はベッドに横になり、目を閉じた。明日への不安と期待が入り混じる中、ゆっくりと眠りについた。
その夢の中で、またあの声が聞こえた。
『道は険しい……しかし、光はある……』
声は続く。
『我らは共に戦う……世界のために……』
闇の中に、小さな光の粒が無数に輝き始めた。それは希望の星々のように、道を照らしていた。
(続く)
「師匠、まだ起きているんですか」
レイラが眠そうな目を擦りながら入ってきた。彼女は寝間着の上にガウンを羽織っており、銀髪が乱れていた。
「ああ、どうしても気になることがあってな」マーリンは顔を上げずに言った。「あの闇の意思の顕現だ。自然発生の闇がここまで明確な自我を持つのは稀なことだ。何かがそれを強化している」
「強化?」
「闇そのものは無意識の存在だ」マーリンはようやく顔を上げ、疲れた目をレイラに向けた。「混沌であり、無秩序だ。だが、あれは明らかに意図を持っていた。私たちを認識し、狙い、攻撃した」
レイラは机の端に腰を下ろした。「つまり、誰かが操っていると?」
「操っているか、あるいは目覚めさせている」マーリンは深く考え込むように杖を軽く床に叩いた。「千年ほど前に封印された闇の君主の伝説を知っているか?」
「闇の君主……あの、七つの世界をまたにかけて戦ったという?」
「そうだ」マーリンの声は重々しくなった。「その名はネクロン・ザ・フォーゴトン。彼は世界の織物そのものを破壊し、全てを闇に還そうとした。当時の魔術師たちの総力戦でようやく封印されたが、完全に滅ぼすことはできなかった」
レイラの表情が硬くなった。「その封印が、今解かれようとしていると?」
「可能性はある」マーリンは立ち上がり、窓辺に歩み寄った。「東の森の裂け目は、単なる偶然の歪みではない。あまりにも強大だ。そしてあの顔……ネクロンの特徴をいくつか思い起こさせる」
「でも師匠、もし本当に闇の君主が復活しようとしているなら、私たちだけではどうにもなりません。全世界の魔術師たちに警告を……」
「そうしたいのだが、証拠が足りない」マーリンはため息をついた。「今の段階では推測に過ぎない。正式な警告を発するには、もっと確かな証拠が必要だ」
その時、ドアが静かに開いた。悠真が入ってきた。彼もまた眠れなかったようで、目には疲れの色が濃く出ていた。
「皆、起きているんですね」
「悠真か」マーリンが振り返った。「どうした?体調でも悪いのか?」
「いえ、ただ……あの顔の夢を見て」悠真は少し恥ずかしそうに言った。「何度も同じ夢で目が覚めてしまって」
レイラが心配そうに眉をひそめた。「闇の意思の影響かもしれないわ。直接対峙した者は、しばしば悪夢に悩まされることがあるの」
「そうかもしれないな」マーリンは机に戻り、何かを探し始めた。「待てよ、ここにあったはずだ……」
老人は棚から小さな水晶の小瓶を取り出した。中には銀色に光る液体が入っている。
「これを飲みなさい。夢魔除けの霊薬だ。少なくとも今夜は安眠できるはず」
「ありがとうございます」悠真は小瓶を受け取ると、蓋を開けて一気に飲み干した。液体は冷たく、ミントのような清涼感が口の中に広がった。
「それで、君が来たのはちょうどよかった」マーリンは再び真剣な表情に戻った。「君の力について、もっと詳しく調べる必要がある。特に、あの裂け目を修復しようとした時に感じたことを教えてほしい」
三人は机を囲んで座った。マーリンは新しい羊皮紙を用意し、インク壺の蓋を開けた。
「まず、糸に触れた時の感覚からだ。ただの光の糸として見えたのか、それ以上の何かを感じたか?」
悠真は目を閉じ、記憶を辿った。「最初はただの糸でした。でも、触れると……感情が伝わってきました。悲しみとか、怒りとか」
「興味深い」マーリンが書き留めた。「糸は単なるエネルギーではなく、感情や記憶も記録している可能性がある。続けてくれ」
「で、その感情に飲み込まれそうになったけど、マーリン師匠の声で我に返りました。それから糸の本来の姿を思い出そうとして、銀色の光を思い浮かべると、糸が反応し始めました」
「糸が君の意志に反応したと?」
「はい。まるで私の記憶や感情を食べているようでした。いや、食べるというより……共有しているというか」
マーリンとレイラが顔を見合わせた。これは重要な発見だった。
「世界の織物は、全ての生命の記憶と感情で編まれている」マーリンがゆっくりと言った。「古代の文献にはそう書かれている。だが、実際にそれを感じ取れる者がいるとは……」
レイラが身を乗り出した。「つまり、悠真は糸を通じて世界の記憶にアクセスできるかもしれない?」
「可能性はある」マーリンの目が輝いた。「もしそうなら、裂け目がなぜできたのか、その原因を直接知ることができるかもしれない」
「そんなこと、できるんですか?」悠真は驚いて聞き返した。
「訓練次第だ」マーリンは立ち上がり、部屋の奥にある特別な棚へ向かった。「ここに『記憶の水晶玉』というものがある。通常は過去の出来事を映し出すための道具だが、君の力と組み合わせれば、より深いレベルで記憶にアクセスできるかもしれない」
老人は慎重に黒い布に包まれた物体を取り出し、机の上に置いた。布を解くと、中から透明な水晶玉が現れた。直径は三十センチほどで、中には微かな霧のようなものが漂っている。
「これは千年ほど前の大魔術師が作ったものだ。世界の重要な出来事を記録している」マーリンは水晶玉を優しく撫でた。「君にこれを扱わせるのはまだ早すぎるかもしれない。が、時間がない」
「師匠、危険では?」レイラが心配そうに言った。
「あらゆる魔術には危険が伴う」マーリンは認めた。「だが、悠真が自力で裂け目の記憶にアクセスするよりは、この水晶玉を使った方が安全だ。こちらの方がコントロールしやすい」
悠真は水晶玉を見つめていた。中を漂う霧が、まるで生きているかのように動いている。
「やってみます。何をすればいいんですか?」
「まずは水晶玉に触れなさい」マーリンが指示した。「そしていつものように、糸を見る状態になるのだ。水晶玉は増幅器として働き、君の力を過去の記憶へと導いてくれるはずだ」
悠真は深呼吸をして心を落ち着かせた。フォーカス・ストーンのペンダントに手を当てると、微かな温もりが伝わってきた。それからゆっくりと水晶玉に両手を添えた。
冷たい。最初に感じたのはそれだった。しかしすぐに、冷たさの中から微かな振動が伝わってくる。まるで水晶玉が心臓のように鼓動している。
目を閉じ、意識を集中させる。星見の間で練習したように、心の目を開く。最初は何も起こらない。しかし次第に、水晶玉を通じて何かが流れ込んでくる感覚があった。
光の糸だ。しかし今回は、これまで見たどの糸よりも太く、複雑に絡み合っている。そしてそれぞれの糸から、かすかな声のようなものが聞こえてくる。
「……今だ、封印を……」
「……闇がまた動き出す……」
「……世界を守れ……」
古い記憶の断片が洪水のように流れ込んできた。悠真はそれらを整理しようとするが、多すぎて混乱する。頭が割れそうに痛い。
「焦るな」マーリンの声が遠くから聞こえる。「一つの記憶に集中するのだ。裂け目についての記憶を探せ」
裂け目。東の森。闇。
悠真はその言葉を心で繰り返しながら、記憶の流れの中を探った。すると突然、一つの情景が鮮明に浮かび上がった。
暗い森の中。月の光も届かない深い闇。そこに一人の人影が立っている。外套をまとった背の高い人物で、顔は影に隠れている。その人物は地面に何かを描いている。複雑な魔法陣だ。
「……目覚めよ、古き闇の力よ……」
人影が呟く。声は低く、歪んでいる。魔法陣が赤く輝き始める。地面が割れ、黒い煙が湧き上がる。
「……我が主よ、この世界を闇で満たせ……」
裂け目が広がる。最初は小さな穴だったが、次第に大きくなっていく。人影はそれを満足そうに見つめている。
そしてふと、影に隠れた顔が一瞬、月明かりに照らされる。
悠真は息を呑んだ。その顔は……人間のものではなかった。皮膚は灰色でひび割れ、目は空洞のように黒い。しかし何より驚いたのは、その人物の額に刻まれた紋章だった。
三日月が逆さになり、その中心に一つの目。見たことのない紋章だが、なぜか強い嫌悪感を覚える。
記憶はさらに流れていく。人影が去った後、裂け目から闇の落とし子たちが現れ始める。森の精霊たちが恐怖に震え、逃げ惑う。木々が枯れ、大地が腐っていく。
「……やめろ……!」
無意識に、悠真が叫んだ。水晶玉が激しく光り、記憶の流れが断ち切られる。彼は手を離し、後ずさりした。汗が額を伝って流れている。
「何を見た?」マーリンが急いで聞いた。
「誰かが……裂け目を作っていました」悠真は荒い息を整えながら話し始めた。「人間じゃないみたいです。灰色の肌で、目が真っ黒で……額に変な紋章がありました」
マーリンの表情が一気に険しくなった。「紋章はどんなものだった?」
「三日月が逆さで、中心に目があるような……」
「ネクロンの信奉者だ」マーリンの声は凍りつくように冷たかった。「闇の君主を崇拝する者たちの紋章だ。彼らは長い間、封印を解こうと画策してきた」
レイラが机に手をついた。「でも、彼らが活動しているなら、なぜもっと早く気づけなかったんですか?」
「彼らは影の中で活動する」マーリンは歯を食いしばった。「数世紀にわたって潜伏し、時折小さな事件を起こすだけだった。だが今回……これは本格的だ。東の森の裂け目は、ただの実験ではない。何か大きな計画の第一歩かもしれない」
「計画?」悠真が聞き返した。
「ネクロンが完全に復活するためには、七つの結節点で同時に闇の門を開く必要があると言われている」マーリンの説明は重々しかった。「星見の塔はそのうちの一つだ。東の森は……おそらく第二の結節点なのだろう」
図書室が重い沈黙に包まれた。三人はそれぞれが持つ情報の重みに押しつぶされそうだった。
「では、私たちがやるべきことは?」レイラが真っ先に口を開いた。
「三つある」マーリンは指を折りながら数え始めた。「第一に、東の森の裂け目の修復を続ける。第二に、他の結節点の調査を行う。第三に……ネクロンの信奉者たちの動きを探る」
「でも、私たちだけでは……」
「もちろん、私たちだけでは足りない」マ�リンは認めた。「しかし、今すぐに他の魔術師たちに助けを求めるわけにはいかない。証拠が不十分だ。まずは確実な証拠を集めなければならない」
老人は悠真を見つめた。
「そしてここで、君の力がさらに重要になる。君は記憶の水晶玉を通じて、あの信奉者の姿を見た。では次は、その人物の現在の居場所を探れるかもしれない」
「そんなこと、できるんですか?」
「訓練次第だ」マーリンはまた同じ言葉を繰り返した。「記憶の糸は過去だけではなく、現在にも繋がっている。同じ人物の『今』を感じ取れるかもしれない」
レイラが不安そうに言った。「でも師匠、それは危険すぎませんか?もし相手が気づいたら、逆にこっちが狙われるかもしれない」
「そのリスクはある」マーリンはうなずいた。「だからこそ、十分な準備が必要だ。まずは基本的な訓練から始めよう」
その時、窓の外で不気味な光が閃いた。紫がかった光だ。三人は一斉に窓辺に駆け寄った。
東の森の方角から、何本もの紫の光の柱が空へと立ち上っている。まるで巨大な牢獄の檻のようだ。
「あれは……封鎖結界?」レイラが息を呑んだ。
「そうだ」マーリンの声には怒りが込もっていた。「信奉者たちが、裂け目を保護するために結界を張ったのだ。これで外部からの干渉を防ごうというわけだ」
「私たちも入れなくなるんですか?」
「入れるが、かなり困難になる」マーリンは顎に手を当てて考え込んだ。「結界を突破するには、相当な魔力が必要だ。しかも、突破した瞬間に彼らに気づかれる」
悠真は光の柱を見つめながら、胸の内に不思議な感覚が湧き上がるのを覚えた。それは怒りに似ているが、それ以上に深い、悲しみのようなものだ。世界が傷つけられていることへの悲しみ。
その時、彼の胸元のフォーカス・ストーンが温かく輝き始めた。そして、あの声がまた聞こえてくる。
『守り……護らなければ……』
声ははっきりしないが、確かに存在する。それは彼自身の声ではない。もっと古く、深い場所から来る声だ。
「どうかしましたか?」レイラが心配そうに尋ねた。
「声が聞こえる」悠真は思わず口にした。「『守らなければ』って」
マーリンの目が細くなった。「世界の声かもしれない。『門』を持つ者は、世界そのものの意志を感じ取ることがあると言われている」
「世界の意志?」
「この世界は生きている」マーリンの説明は詩的だった。「無数の生命が織りなす一つの大きな生命体だ。そして今、その生命体が危険に晒されている。君はその傷を感じ、その悲鳴を聞いているのかもしれない」
紫の光の柱が次第に収まり、やがて消えていった。しかし、森の周りには目に見えない壁が張り巡らされたはずだ。
「今夜はここまでだ」マーリンが言った。「皆、休むように。明日から本格的な訓練を始める。悠真、君には特別な訓練が必要だ。記憶の追跡を学ばなければならない」
三人はそれぞれの部屋へと帰っていった。しかし、悠真の心は静まらなかった。あの声は何だったのか。世界が本当に声を発することがあるのか。
部屋に戻ると、シャドウが待っていた。黒猫は窓辺に座り、東の森の方角を見つめている。その背中は緊張して硬くなっていた。
「シャドウ、あれを見たか?」
猫は振り向き、悲しそうな目で悠真を見た。そして、ゆっくりと歩み寄り、彼の足元に座り込んだ。
「君も感じているんだろう?あの闇を」
シャドウは鳴き声を上げ、頭をこすりつけてきた。その仕草から、悠真は何かを悟った。シャドウは単なる守護者ではない。彼と世界を繋ぐ架け橋なのだ。
ベッドに横になりながら、悠真は今日の出来事を考えた。記憶の水晶玉で見た信奉者。あの灰色の肌、黒い目、不気味な紋章。そして紫の封鎖結界。
全てがつながっている。大きな闇の計画が進行している。
「僕に何ができるだろう」
彼が呟くと、シャドウがベッドに跳び乗り、彼の胸の上に丸くなった。猫の温もりが、不思議と安心感を与えてくれる。
「少なくとも、あの裂け目を修復することはできる。それだけでも意味があるはずだ」
ふと、マーリンの言葉を思い出した。「世界は生きている」。もしそうなら、世界もまた傷つき、苦しみ、助けを求めている。
「わかった」悠真は暗闇に向かって囁いた。「僕にできる限りのことをするよ」
その瞬間、部屋中が微かに光った。光源はフォーカス・ストーンだった。水晶が柔らかな金色の光を放ち、それがゆっくりと天井へと広がっていく。
光の中に、またあの声が聞こえた。
『契約……深まる……』
「契約?」悠真は不思議に思った。
すると、シャドウが起き上がり、彼の額にそっと鼻を押し当てた。瞬間、眩い光が二人を包んだ。
新しい記憶が流れ込んできた。しかし今回は、彼自身の記憶ではない。シャドウの記憶だ。
古代の戦場。魔術師たちが巨大な闇の存在と戦っている。その中に、マーリンに似た人物がいる。はるか昔の、若き日のマーリンだ。
そして、光の魔術師たちの傍らには、何匹もの光る獣がいる。そのうちの一匹が、シャドウにそっくりだ。ただし、今のシャドウより大きく、より強力に見える。
『守護者たちは、闇との戦いで力を失った……』
声が説明する。
『我らは長き眠りにつき、再び必要とされる時を待った……』
記憶が変わる。暗い部屋。一人の青年が窓辺に座っている。失業し、希望を失った青年。それは悠真自身だ。
『そして今、新たな契約者が現れた……』
シャドウが現れる。本棚の上から青年を見下ろす。琥珀色の目が決意に満ちている。
『我が力の残り火を、新たな契約者に託す……』
光が収まった。部屋は元の暗さに戻った。しかし、悠真の心には新しい知識が刻まれていた。
シャドウは古代の守護者だった。闇との戦いで力を失い、長い眠りから覚めたばかりだ。そして彼を選んだ。なぜなら、彼が『門』を持ちながらも、純粋な心を持っているから。
「君は……ずっと昔から闇と戦ってきたんだね」
シャドウは満足そうに鳴いた。その目は以前より深く、知性的に輝いている。
「わかった。一緒に戦おう。僕の力と君の経験で」
その夜、悠真は深く安らかに眠った。悪夢は訪れず、代わりに希望に満ちた夢を見た。光と闇の戦い、そして最終的な勝利の予感。
朝が来た。窓から差し込む光は、昨日までよりも明るく感じられた。新しい決意が、彼を満たしていた。
食堂に行くと、マーリンとレイラはすでに朝食を終えていた。二人の表情は厳しいが、どこか決意に満ちている。
「おはよう、悠真」マーリンが声をかけた。「よく眠れたか?」
「はい、とても」
「それは良かった」マーリンはうなずいた。「では、今日から本格的な訓練を始めよう。まずは記憶の追跡からだ。あの信奉者を探すために」
レイラがコーヒーカップを置きながら言った。「私も手伝います。追跡魔法は少しなら使えますから」
「ありがとう、レイラ」悠真は微笑んだ。
その時、塔の入口で鐘の音が鳴り響いた。訪問者の合図だ。
「誰だ?」マーリンが眉をひそめた。「この時間に?」
三人は玄関ホールへ急いだ。大きな扉の前には、旅装束の男が立っていた。彼は長いマントを身にまとい、顔の半分はフードに隠れている。
「マーリン・アンブローズ閣下ですか?」男の声は低く、渋い。
「そうだ。貴様は?」
男はフードを脱いだ。現れたのは中年の人間の男性で、顔には深い傷跡が走っていた。その目には、長い戦いの疲れと警戒の色が浮かんでいる。
「私はカイル・レッドウルフ。辺境の魔術師です。東の森の異変について、警告に参りました」
マーリンの目が細くなった。「どうしてそのことを?」
「私の仲間が森の近くで消息を絶ったのです」カイルの声には痛みが込もっていた。「最後の伝言で、『灰色の男たちが森で何かをしている』と。それから一週間、何の連絡もありません」
レイラが息を呑んだ。「灰色の男たち……」
「どうやら、私たちの知らないところでもう動きがあるようだ」マーリンはカイルを中へ招き入れた。「さあ、話を詳しく聞かせてくれ。そして私たちも、知っていることを話そう」
図書室で、カイルは地図を広げた。そこには東の森の周辺が詳細に描かれている。
「私の仲間たちはここで調査していました」彼は森の西側の一点を指さした。「この辺りには古い遺跡があります。伝説では、古代の魔術師たちが闇を封印した場所の一つだと言われています」
マーリンの表情が変わった。「その遺跡の詳しい位置を教えてくれ」
カイルが座標を伝えると、マーリンは急いで棚から古い書物を取り出した。
「ここだ」老人はページをめくりながら言った。「確かに記録がある。第二の結節点だ。東の森の中心部にある裂け目は、実は副産物に過ぎないかもしれない。本当の目的は、この遺跡の封印を解くことだ」
「では、裂け目は囮なんですか?」レイラが尋ねた。
「あるいは、封印を弱めるための手段だ」マーリンは考え込んだ。「裂け目から漏れる闇のエネルギーが、遺跡の封印を蝕んでいるのかもしれない」
カイルが拳を握りしめた。「ならば、一刻の猶予もありません。すぐに向かうべきです」
「待て」マーリンは手を上げた。「向かうのは良いが、準備が必要だ。まずは遺跡の状態を調査し、封印がどれほど弱まっているかを確認しなければならない。それから計画を立てる」
彼は悠真を見た。
「そしてここで、君の出番だ。遺跡の記憶を追跡し、封印の状態を直接感じ取ってほしい」
「できますか?」
「君ならできる」マーリンは確信に満ちて言った。「君はすでに裂け目の記憶に触れ、信奉者の姿を見た。同じ要領で、遺跡の記憶にもアクセスできるはずだ。シャドウの助けも借りられる」
カイルが不思議そうに悠真を見た。「この青年が?」
「彼は『門』を持つ者だ」マーリンが説明した。「世界の織物を見、記憶を追跡できる。今私たちに必要なのは、まさにその力だ」
カイルは深くうなずいた。「わかりました。では、何をすれば?」
「まずは遺跡の詳しい情報を教えてくれ。どんな場所か、どのような防御があるか。それから、悠真の訓練を手伝ってほしい。君は戦闘の専門家だろう?」
「魔術師としての訓練を受けていますが、主に実戦で鍛えてきました」カイルは腰の剣に手をやった。「二十年近く、辺境で魔物や闇の勢力と戦ってきました」
「それならちょうどいい」マーリンは満足そうに言った。「悠真とレイラには実戦経験が不足している。君の経験が役に立つだろう」
その日から、塔の訓練は新しい段階に入った。午前中はマーリンによる記憶追跡の訓練、午後はカイルによる実戦訓練だ。
記憶追跡の訓練では、悠真は小さな遺物を使って過去の記憶を追う練習をした。古いコイン、壊れた武器、色あせた布切れ。それぞれに刻まれた記憶を読み取り、その歴史を辿る。
最初はうまくいかなかった。記憶の断片がバラバラに現れ、まとまりがない。しかし次第に、コツをつかみ始めた。重要なのは、対象物に込められた感情に集中することだ。喜び、悲しみ、怒り、愛情――それらの感情が記憶の道標になる。
「よくできている」マーリンが三日目の訓練で認めた。「君は急速に上達している。これなら、遺跡の記憶にもアクセスできるだろう」
一方、カイルの実戦訓練は厳しかった。彼は悠真とレイラに、闇の勢力との戦い方を教えた。
「闇の落とし子たちは物理攻撃だけでは倒せない」カイルは訓練場で言った。「魔力を込めた攻撃が必要だ。あるいは、彼らの弱点を見つける」
「弱点?」悠真が聞いた。
「闇の生物には必ず核がある」カイルは木で作ったダミーを指さした。「通常は胸のあたりだ。そこを集中的に攻撃すれば、効率よく倒せる」
レイラが短剣を構えた。「でも、戦闘中に核を見つけるのは難しいですよね?」
「訓練で感覚をつかむしかない」カイルはうなずいた。「まずは静的な標的で練習しよう。魔力を込めた一撃で核を貫く感覚を覚えるのだ」
訓練は日々続いた。悠真は朝から晩まで、魔法と戦いの技術を学んだ。疲労はピークに達していたが、それ以上に成長の実感があった。
一週間後、マーリンは訓練の中止を宣言した。
「もう準備は十分だ」老人は三人の前に立って言った。「明日、遺跡へ向かおう。ただし、これは偵察任務だ。戦闘は最小限に抑え、情報収集を優先する」
カイルがうなずいた。「遺跡への入り口は三つあります。正面入り口はおそらく監視されているでしょう。裏口と、崩れた壁から入る地下経路があります」
「では地下経路から入ろう」マーリンが決めた。「最も目立たず、敵に気づかれにくい」
その夜、悠真は部屋で装備の最終チェックをしていた。フォーカス・ストーンのペンダント、マーリンから渡された緊急用の転送石、カイルから借りた護符。
シャドウが彼の荷物のそばに座り、何か考えているように見えた。
「心配か?」悠真が声をかけると、猫は短く鳴いた。「大丈夫だよ。みんなが一緒だ。それに君もいる」
シャドウは彼の足元に来て、頭をこすりつけた。その仕草から、深い信頼を感じた。
ドアをノックする音がした。レイラだった。
「明日の準備はできてる?」
「うん。君は?」
「一応」レイラは部屋に入り、窓辺に寄りかかった。「ちょっと緊張してる。遺跡って聞くといつも嫌な予感がするの」
「僕もだ」悠真は認めた。「でも、行かなきゃいけない」
「そうね」レイラは微笑んだ。「カイルさんが言ってたわ。勇気って、恐怖がなくなることじゃなくて、恐怖を抱きながらも進むことだって」
「彼、いいこと言うね」
「長く戦ってきたからこそ、わかるんでしょうね」レイラの表情が少し曇った。「あの傷跡、見た?顔だけじゃない。腕にも、首にもある。きっとものすごい戦いをくぐり抜けてきたんだろう」
悠真は自分の手を見た。まだ柔らかく、戦いの痕跡などない。しかし明日からは、変わるかもしれない。
「ねえ、悠真」レイラが真剣な声で言った。「もしもの時は、私が守るから。あなたは『門』の力に集中して。それが私たちの最大の武器なんだから」
「でも、君だって危険にさらされるかもしれない」
「それが弟子の務めよ」レイラはいたずらっぽく笑った。「それに、私はエルフだ。人間よりずっと長く生きられるんだから、多少の危険なんてなんでもないわ」
彼女の強がりが、逆に心配を掻き立てた。しかし悠真は、感謝の言葉を選んだ。
「ありがとう、レイラ。君がいてくれて本当に心強い」
「お互い様よ」レイラはドアの方へ歩き出した。「じゃあ、早く寝なさい。明日は朝早く出発するから」
部屋に一人残された悠真は、もう一度装備を確認した。全てが整っている。後は覚悟だけだ。
窓の外を見ると、二つの月が雲の間から顔を出している。その光は冷たく、しかしどこか優しくも感じられた。
「よし」
彼はベッドに横になり、目を閉じた。明日への不安と期待が入り混じる中、ゆっくりと眠りについた。
その夢の中で、またあの声が聞こえた。
『道は険しい……しかし、光はある……』
声は続く。
『我らは共に戦う……世界のために……』
闇の中に、小さな光の粒が無数に輝き始めた。それは希望の星々のように、道を照らしていた。
(続く)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件
fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。
チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!?
実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。
「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる