転生した村人Aのはずが、気づけば神々すら恐れる最強だった件について

たまごころ

文字の大きさ
1 / 3

第1話 村人A、転生する

しおりを挟む
 目を覚ますと、まぶしい陽光と聞き慣れない鳥の声に包まれていた。草の香りが強い。寝返りを打つと、柔らかな土の感触が頬に伝わった。  
「……夢か?」  
 リクは思わず呟いた。さっきまで、確かに会社帰りの電車に乗っていたはずだ。終点を少し過ぎた辺りで意識が遠のき、そして次の瞬間――この草原にいた。  

 辺りを見回すと、一面の緑。遠くに小さな村のようなものが見える。丘を越えた先には森林、さらにその向こうには雪をいただいた山脈が伸びていた。風があたたかく、空の青がやけに澄んでいる。  
「……転生ってやつか」  
 冗談のように口にした言葉が、妙に現実味をもって響いた。胸の奥で、何かが「コクン」と答えた気がする。  

 ふと視界の端に文字が浮かんだ。  
【スキル“日常生活”を取得しました】  
【職業:村人】  
 まるでゲームのステータスウィンドウのようだった。リクは眉をひそめた。  
「村人? ま、まあモンスターよりはマシか……」  
 どういう理屈かはさっぱり分からないが、現実を受け入れるしかなかった。とにかく、あの村に行ってみよう。腹も減ってきた。  

 村に入ると、石造りの家が並び、井戸のまわりで人々が笑い合っていた。牛の鳴き声と子どもの笑い声が混じる。どこか懐かしい光景に、心が少し落ち着く。  
「おや、見ない顔だね」  
 声をかけてきたのは、白髪まじりの老婆だった。  
「旅の方かい?」  
「あー、はい。えっと……」  
 リクは言葉を探したが、ここで自分が“異世界転生してきました”と言えるわけもない。  
「……ちょっと、行くあてがなくて」  
「そうかい。なら、この村で手伝いでもしていくといい。若いもんが来るのは久しぶりだよ」  
 老婆はにこにことしながらパンを差し出した。  

 一口かじると、素朴で優しい味がした。久しく感じたことのない温もりが胸に広がり、思わず「うまい」と漏らした。  
 それからの数日は、村人としての生活に慣れることに費やした。水汲み、家畜の世話、畑の耕作。最初は戸惑ったが、その“日常生活スキル”のせいか、すべてが不思議なほどスムーズにこなせた。  
「リク兄ちゃん、もうベテランみたいだね!」  
 子どもたちがはしゃぎながら褒めてくる。リクは鼻の頭をかいて、気恥ずかしそうに笑った。  

 村の長老に頼まれ、森へ薬草を採りに行くことになったのは、転生してから一週間後だった。  
「村人の務めじゃ。崖の上に光る草がある。だが魔物に気をつけるのじゃぞ」  
 長老の言葉を胸に、リクは木の棒を手に森に入った。初めての冒険だ。  

 森は静かだった。木漏れ日が地面に幾つも円を描き、鳥の囀りが風に乗って遠ざかる。やがて、崖のあたりで光る草――たぶん目的の薬草を見つけた。しゃがんでそれを摘み取ろうとした瞬間、背後の藪がガサッと音を立てた。  
「……誰かいるのか?」  
 振り返ったその先には、体長二メートルはありそうな灰色の狼。唸り声をあげながら、こちらに牙を剥いた。  
「え、まって、こういうのまだ準備できてない!」  
 リクは慌てて木の棒を構えたが、相手の爪はそれを軽々とへし折った。風圧で体が吹き飛ばされ、尻もちをつく。  

 その瞬間、再び視界に文字が走った。  
【緊急回避:発動】  
【効果:回避率上昇(無限)】  
 ――無限? そんな馬鹿な、と思う暇もなく、狼の爪が振り下ろされる。が、リクの体はそれを紙一重で避けた。右に左に、まるで踊るように。本人は必死だが、周囲から見れば神技のように見えただろう。  
「うわっ、やめろやめろやめろっ!」  
 偶然足が岩を蹴り、勢いよく跳躍した。次の瞬間、拳が狼の頭に当たる。軽い反射的な一撃――にもかかわらず、爆風のような衝撃が走り、狼は木々をなぎ倒して吹き飛び、動かなくなった。  
 森が静まり返る。羽音一つしない。  

 リクは呆然としたまま、自分の拳を見た。  
「……俺、今何した?」  
 返事する者はない。だが空気がざわめいている。風さえリクの周囲を避けるように流れていた。  

 数分後、魔物を倒した音を聞きつけ、村の若者たちが駆けつけてきた。  
「リクさん! だ、大丈夫ですか!」  
「おい、この狼……森の主クラスじゃねえか!」  
「信じられん、どうやって倒したんだ!?」  
 問い詰められたリクは、ただ首を傾げるしかなかった。  
「いや、偶然というか……転んで殴ったら」  
「転んで魔物の主を……?」  
 その場にいた全員が言葉を失った。  

 村に戻ると、皆が英雄を見るような目で彼を迎えた。老婆は涙を流しながら手を合わせ、「神の導きだよ」とまで言った。  
 リクは困ったように笑って、倒した狼の牙を村長に渡した。  
「次からは、もうちょっと気をつけますね」  
 彼自身は本気でそう思っていた。だが村の人々にとって、その言葉は新たな守護者の宣言に聞こえたのだった。  

 夜。星空の下、リクは村の丘で寝転がりながら考えた。  
「俺、ただの村人でいいんだけどなぁ……」  
 そのつぶやきに、遠くの雲間から何かが応えるように光った。それはほんの一瞬の輝きだったが、彼の運命を大きく変える始まりでもあった。  

(第1話 終)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱と追放された俺、実は神の右腕でした。~気づけば王女も聖女も竜姫もなぜか俺に懐いている件~

たまごころ
ファンタジー
平凡な村人レオンは、勇者パーティから「最弱」と蔑まれ追放された。 だが、彼のスキル「真なる加護」は、神々が隠した最終権能だった。 無自覚のまま世界を救い、仲間をざまぁさせていくレオンに、王女・聖女・竜姫と次々惹かれていくヒロインたち。 気づけば、世界最強のハーレムが完成していた——。 ザマァあり、成り上がりあり、恋愛ありのド定番無自覚最強譚!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

月読みの巫女~追放されたので、女神様と女子会しながら隣国で冒険者ライフを楽しむことにします~

しえろ あい
ファンタジー
 リュンヌ王国の「月読みの巫女」アリアは、建国以来続くしきたりに縛られ、神殿と王家から冷遇される日々を送っていた。治癒や浄化といった「聖女らしい加護」を持たない彼女は、王太子ギルバートからも「無能」と蔑まれ、ついには身勝手な理由で婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  しかし、それこそがアリアの狙いだった。彼女が女神から授かった真の加護は、姿を変え、身体を強化し、無限の荷物を運べる「最強の冒険者セット」だったのである。 「やっと自由になれるわ!」 アリアは意気揚々と隣国へ向かい、正体を隠してBランク冒険者「リア」として第二の人生をスタートさせるのだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話

といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった

たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ、アレン。お前のような戦闘スキルのない寄生虫は、魔王討伐の旅には連れていけない」 幼馴染の勇者と、恋人だった聖女からそう告げられ、俺は極寒の雪山に捨てられた。 だが、彼らは勘違いしている。 俺のスキルは、単なる【魔力譲渡】じゃない。 パーティメンバーが得た経験値を管理・分配し、底上げする【経験値委託(キックバック)】という神スキルだったのだ。 俺をパーティから外すということは、契約解除を意味する。 つまり――今まで彼らが俺のおかげで得ていた「かさ増しステータス」が消え、俺が預けていた膨大な「累積経験値」が全て俺に返還されるということだ。 「スキル解除。……さて、長年の利子も含めて、たっぷり返してもらおうか」 その瞬間、俺のレベルは15から9999へ。 一方、勇者たちはレベル70から初期レベルの1へと転落した。 これは、最強の力を取り戻した俺が、雪山の守り神である銀狼(美少女)や、封印されし魔神(美少女)を従えて無双し、新たな国を作る物語。 そして、レベル1に戻ってゴブリンにも勝てなくなった元勇者たちが、絶望のどん底へ落ちていく「ざまぁ」の記録である。

処理中です...