追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ

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第21話 神竜の咆哮、空を裂く裁き

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帝国の艦隊を退けた翌朝、アルディナの空は静かだった。  
だが、その静寂は、戦いの終わりではなく新たな嵐の予兆だった。  
天空城アルテ・ノウアの展望デッキに立つと、雲ひとつない空の向こうに、不可解な薄い裂け目が見えていた。  

「あれは……?」  
レオンが警戒の表情を浮かべる。  
俺も息を詰めて空を見上げる。その裂け目から、かすかに光が漏れていた。  
普通の陽光ではない。何か、熱をもった怒りの光だ。  

『感じないか、人の子。これは“竜の領界”が揺らいでおる。』  
アルディネアの低い声が頭に響く。  

「竜の領界?」  
  
『我ら古き竜が封印されし領域。人が触れてはならぬ天の門――  
この空裂は、眠りについた神竜たちが目覚めようとしている兆しだ。  
汝の戦いが、あの封印を刺激した。』

「俺の、戦いが……」  
目を伏せる。  
勝利の代償として、空そのものにひびが入ったというのか。  
人類の手が届かぬはずの存在を、また呼び起こしてしまった。  

『怒りの声を聞け、アレン。神竜は“報復”を告げておる。  
かつて我を裏切り、竜と人の絆を断ち切った人類への――裁きを。』

「そんな……今ここで争えば、世界が終わる。」

『だが、既に始まった。帝国が竜の亡骸を冒涜兵器としたとき、  
神竜たちは“人間を滅ぼす理由”を取り戻したのだ。』

アルディネアの声が低く沈む。  
俺は拳を握り、視線を上空に向けた。  
裂け目が広がっていく。まるで空そのものが真二つに割れようとしている。  

「どうすれば止められる?」  

『簡単なことではない。神竜とは、我ら竜族にとってすら“神”だ。  
力ではなく、意志で世界を支配する存在。  
だが、唯一対抗できる者がいる。――それは我と契約した、お前だ。』

「俺が……?」  

『竜と人の境を越え、“両界の子”として立つ。その資格を持つものは今やお前だけ。  
ゆえに、お前が神竜と対話し、そして人の罪を断罪するのだ。』

対話。  
裁き。  
どちらを選んでも、ただでは済まない。  
だが、このまま放置すれば、空は落ちてくる。  

「分かった。行こう、アルディネア。俺たちの罪を終わらせるために。」

***

天空城の光輪が広がり、次元を超える門が開いた。  
嵐のような魔力に包まれ、俺とアルディネアはその中へと身を投じる。  
瞬きの間に、世界が反転した。

辿り着いた場所は、光の海。  
地平も空もない、無限の空間だ。  
遠く、金色の炎のような巨大な影がいくつも蠢いている。  

人の想像を越えた存在。  
それが、神竜。  

その中心、一際強い光を放つ一体がこちらを見下ろしていた。  
竜というよりも、星そのものに皮と翼が与えられたようだった。  
声が響く。それは心に直接流れ込むような震えだ。  

『――人の血を継ぐ者よ。汝はなぜ、竜の遺志を弄ぶ。』

「違う……! 俺たちは共に生きようとしているだけだ!」  

『共生など幻だ。人は欲をもって生まれた。  
我らの力を奪い、核を汚し、天を燃やした。  
貴様自身、戦いによって空を裂いたではないか。』

「確かに、俺は力を使った。でも守るためだ!」  
声を張る。  
「人は愚かかもしれない。けど、前に進むために間違いから学ぶ。  
滅ぼすことが正義だというなら、あんたが守ってきた数千年の正義も同じ穴だ!」  

空が震えた。  
神竜の瞳が光を灯す。  
雷が走り、竜の咆哮が響く。  

『黙れ、小虫が! 人の理屈など知るものか!  
証を見せよ――滅びから逃れる資格があるのか!』

途端に風が暴れ、光の空間が揺らいだ。  
巨大な尾が振るわれ、嵐が生まれる。  
炎が空を焼き、雷が地平を刻む。  
神の怒りが実体を持って暴走し始めた。  

『アレン、退がれ! あれは本気だ、魂ごと焼き払われるぞ!』

「退くわけにはいかない! 俺は今ここで、人の代表として立ってる!」  

俺は剣を抜いた。  
光の剣――人と竜の契約が形を成した、“共鳴刃”。  
アルディネアの魔力が流れ込み、刃に金の紋が浮かぶ。  

「たしかに俺は人の罪を背負った。  
だけど、その罪を越えて“生きる”のが人だ。  
力で確かめたいなら、俺が見せてやる!」  

光が爆ぜた。  
白と金の衝突。  
咆哮が空を裂き、雷鳴が時空を貫く。  
神竜の爪が降り、俺はそれを剣で受け止める。  
音も消えた世界で、ただ二つの意志だけがぶつかる。

神竜の瞳に映る俺の姿。  
恐れも怒りもない。あるのはただ、自分と向き合う心だけ。  

「俺は間違いを恐れない。  
人と竜が共に歩む未来を、絶対に捨てない!」  

叫びと同時に、共鳴刃に金の火が走る。  
炎が広がり、光が世界全体を包み込む。  
その光は破壊ではなく、癒しの力だった。  

神竜の翼が止まり、爆発した光が吸い込まれるように収束していく。  
そして、静寂。  

やがて、声が響いた。  
『……久しいな、アルディネア。汝も人の子に賭けたのか。』

『ああ。汝も見ただろう。この者の魂は偽りではない。』  

沈黙が続き、やがて神竜は巨大な頭を垂れた。  
その視線はもはや怒りの光を失い、静寂の慈愛に変わっていた。  

『ならば見届けよう。人がどこまで己の愚かさと共に歩めるかを。  
汝、アレン・グランディア。短き命の間、この空の守護を託す。  
もし裏切れば、我らは再び目覚める。』

「約束する。俺は二度と、力を間違って使わない。」

光が霧のように消え、静かに世界が戻っていく。  

***

目を開けると、そこは天空城の甲板だった。  
レオンとヴァルド、そしてリーナが駆け寄ってくる。  

「アレン様! 空の裂け目が……閉じました!」  

見上げれば、曇り一つない青空が広がっていた。  
神竜の怒りは収まり、再び調和が戻っている。  
だがその静けさは、俺たちが世界の中心に目をつけられたという証でもあった。  

『汝の戦いが、神竜すら納得させた。  
だが、世界はそれを恐れる。王も帝も、人さえも。』

「……構わない。  
怖れられてもいい。信じる者を守れるなら、俺は何度でも戦う。」  

風が頬を撫でた。  
アルディネアが空を翔け、龍光の尾を引く。  
その姿はもう、敵を討つ竜ではない。  
人と共に生きる“守護者”だった。

俺はゆっくりと空を見上げ、微笑む。  
「神竜の裁きは終わった……これで、やっと次へ進める。」

太陽が昇り、雲を金に染めた。  
新たな世界の始まりを告げる朝だった。
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