追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ

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第20話 侵攻する帝国軍と新たなる敵

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天空城アルテ・ノウアの浮上から三日後。  
朝日の照らす雲の上で、俺は復活した古代の制御核を眺めていた。  
この白金の城は、当初の兵器としての力を封印し、今ではアルディナを守護する巨大な拠点となっている。  
しかし、それは同時に世界へ“存在を知らしめる標”となった。  
静寂の中、風を裂く不穏な報せが届く。

「アレン様!」  
レオンが息を切らして駆け込んできた。  
「東境の監視塔が撃破されました。確認された敵旗は――王国ではありません。  
ガルディア帝国です!」

「ガルディア……だと?」  
思わず立ち上がる。  
王都の大陸の東に位置する強国。  
鉄と兵の力で拡大を続ける戦闘国家。  
彼らが干渉してくるのは、時間の問題だとは思っていたが、予想以上に早い。  

『予想外ではない、人の子。天空に浮かぶ要塞が新たに出現すれば、  
どの国もそれを手に入れようとする。  
王国が手を出さぬうちに、帝国が先に動いたのだ。』

アルディネアの声が頭の中を響く。  
俺は唇を引き結び、遠くの空を見た。  
雲の切れ間の向こうに、黒い影が小さく現れている。  
まるで蝗の群れのように押し寄せる無数の飛翔艦。  
空を覆う規模の軍勢だった。

「こいつは……数が違うぞ。」  
ヴァルドが隣で目を丸くした。  
「空戦型の艦隊か? 王国ですら持ってねぇ……。」

「帝国は竜技術を模倣している。  
アルフテリアの知識を略奪して兵器化していると聞く。」  
俺は低くつぶやいた。  
「つまり、あいつらの狙いはアルテ・ノウアの奪取。  
古代兵器を三つ揃えれば、世界の支配すら夢ではない。」

『放っておけば人の歴史がまた同じ過ちを繰り返す。  
汝はこの空の守護者として立たねばならぬ。』

「……ああ、分かってる。」  

俺は制御盤に手を置き、魔力を注いだ。  
城全体が微かに唸り、各部の結晶が光を放つ。  
まるで眠っていた巨獣が目を覚ますように、動力機関の音が響いた。  

「これよりアルテ・ノウアは防衛体制に入る。  
竜隊を発艦準備、地上部隊は村の民を避難経路へ誘導。  
――一人たりとも、死なせない。」  

レオンが力強く頷く。  
「了解しました。竜隊、迎撃体制に移行!」  

号令と同時に、広場の空へ金属の翼が舞い上がる。  
新設された飛竜艇と、空を駆ける竜騎士たち。  
彼らの姿は、まさしく“空の守備者”そのものだった。

***

数時間後。  
空の彼方から帝国艦隊が迫る。  
その中心には、鋼鉄の鱗を纏った巨大戦艦――帝国の新兵器〈黒鋼艦ガルデン〉。  
空気を震わせるほどの魔導エンジン音が響き渡り、同時に低い警告音が鳴った。  

「アレン様、敵艦の魔導砲がチャージを開始!  
推定出力、王国軍の三倍です!」  

「各魔障壁を最大出力! 竜隊は迎撃位置へ!  
ヴァルド、例の装置はどうだ!」

「起動済みだ、アレン様! 天空城の主砲“黎明砲”いつでも撃てる!」  

俺は大きく息を吸い込み、空へ叫んだ。  
「撃て――ッ!」  

刹那、城の中心部から金色の光が放たれる。  
雲を貫き、一直線に帝国艦隊を射抜いた。  
轟音と共に敵艦が爆裂し、黒煙と破片が空に散る。  
だが、彼らは怯まなかった。  

「敵艦隊、散開して逆襲に移ります!」  
レオンの叫びが響く。  

次の瞬間、無数の魔力弾が城を包んだ。  
衝撃波で身体が揺れる。  
結晶体が割れ、光の奔流が床を舐める。  
守り切れない……そう思った瞬間、金の竜翼が光の盾を生んだ。  

『我が加護をもって守ろう、人の子よ!』  

アルディネアが咆哮する。  
竜の光が空を覆い、降り注ぐ弾丸すべてを弾き返す。  
まるで夜空に金の雨が降るかのように、敵の攻撃が反射して返っていった。  

「……化け物め。」  
帝国旗艦の艦長が蒼ざめて叫ぶ。  
「これが竜と人の融合か……!」

そのとき、空間が揺れた。  
艦隊の後方、黒い裂け目のような魔法陣が開く。  
そこから現れたのは、漆黒に輝く竜――否、竜を模倣して造られた金属の巨影。  

「なんだ、あれは……!?」  
「反応が異常です、アレン様! 生体反応と機械反応が混在しています!」  

アルディネアが沈痛な声を漏らす。  
『まさか……奴ら、“擬竜体”を創ったか。  
竜の亡骸と人工機構を組み合わせた、禁忌の兵器だ。』  

俺は息を呑んだ。  
帝国が竜の死骸を利用して人工竜兵を作り出した――それが奴らの最終兵器。  

「竜を冒涜するとは……!」  

『怒るな、人の子。怒りに飲まれれば制御を失う。  
冷静に戦え。これは“お前の新たな試練”だ。』  

深呼吸して覚悟を決める。  
「分かった。……だが、あれを野放しにはできない。  
アルディネア、同調を上げろ。俺たちの力、見せてやる!」

『応えよう、相棒。』

二つの魂が共鳴する。  
俺の身体が光に包まれ、竜の鱗を思わせる紋様が浮かぶ。  
それは竜人化のさらなる進化、神竜融合――“神喰の形態”。  

天空と地を繋ぐ光柱が立ち上がり、アルディネアの力がさらに増す。  
その瞬間、金の竜と擬竜体が空でぶつかり合った。  

轟音。  
閃光。  
大地にまで響く衝撃波。  

「アレン様! もうこの出力は限界です!」  
「分かってる……だが、あと一撃!」  

剣を構え、全魔力を込めて跳躍。  
空で回転しながら斬撃を放つ。  
黄金の光が擬竜を貫き、胸部の黒い核が崩壊する。  

爆炎が走り、漆黒の巨体が粉々に砕け散る。  
その瞬間、帝国艦隊が一斉に後退を始めた。  

空を照らしていた炎が次第に消えていく。  
勝利の叫びが上がった。  
レオンが拳を突き上げ、ヴァルドが歓声を上げる。  
だが、俺の胸には重い予感が残っていた。  

『見事な勝利だ。だが、これは序章にすぎぬ。  
帝国はこの敗北を糧に、新たなる“兵器”を産み出すだろう。  
そして、王国はその動向を見逃さぬ。三つ巴の争いとなる。』

「分かってる。でも……今回の戦いで、民は確信したはずだ。  
俺たちは、もう誰の庇護にも縋らない。  
自らの手で、自由と未来を掴み取るんだ。」

風が吹き抜ける。  
天空城の甲板から見下ろすと、朝焼けが雲を黄金に染めていた。  
空に咆哮するアルディネアの声が響く。  
それは勝利と警告、そして希望を告げる鳴動だった。  

新たなる敵、新たなる時代。  
アルディナはようやく、真の“国”として世界史にその名を刻み始めた。
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