追放された雑用係、実は世界最強の魔導具師だった 〜気づいたら女神も勇者もひれ伏してました〜

たまごころ

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第1話 追放された雑用係の静かな朝

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レオンが目を覚ましたのは、カラスの鳴き声と柔らかな朝日が差し込む、森の外れの小さな小屋の中だった。  
昨夜は焚き火の火が尽きる直前まで作業していたせいで、工具やら古びた革袋やらが散乱している。だが彼にとっては、どこか落ち着く光景だった。

「……夢じゃ、ないんだな」

呟いた声は、ぽつんと静寂に沈んだ。  
昨日、勇者パーティを追放された。正式な言葉では「戦力外通告」だが、事実上の追放である。  
理由は簡単。魔法も剣術も取り立てて強くない、ただの雑用係だから。  
彼が長年、どんな想いで仲間を支えてきたかなど、誰も気にしてはいなかった。

それでも、レオンは怒ってはいなかった。  
むしろ安堵していた。重苦しい空気の中で、自分だけが浮いていたのを感じていたのだ。  
「正直、よくここまで持ったな……」  
小さく笑いながらパンをかじる。固いが、心は妙に軽い。

だが、彼にはひとつだけ隠していた秘密がある。  
それは——彼が“魔導具師”であるということ。  
この世界で数少ない、魔力を具現化して道具に宿すことができる職業だ。とはいえ、彼自身もそれを「珍しい趣味」程度にしか思っていなかった。  
子供の頃から物を作るのが好きで、壊れた剣や杖を修理しているうちに、なぜか魔力が宿るようになっていたのだ。

「さて、今日はこの壊れたランタンを直してみるか」

机に腰を下ろし、魔石の欠けたランタンを手に取る。  
掌に魔力を流すと、紫の光がゆらりと灯り、金属の継ぎ目を滑るように走る。  
カチリという音とともに、ランタンの灯りが再び息を吹き返した。

「……よし、今日もいい感じだ」

どこにでもある田舎の朝。魔導具を作って、冗談を呟く。  
だがそのわずかな作業が、やがて世界を変える出来事の始まりになることを、レオンはまだ知らなかった。

昼過ぎ、小屋の外では村の子供たちが騒がしく走り回っていた。  
近くに羊飼いの娘マリアがいて、慌てた様子でレオンの小屋に駆け寄ってきた。

「レオンさん! 大変なの! 村の井戸が詰まって、水が出なくなっちゃったの!」

「井戸?珍しいな……わかった、すぐ行こう」

レオンは工具袋を肩にかけて小屋を出た。  
村の中央にある古い井戸は、確かに止まっていた。  
大人たちが必死に桶を下ろしては泥を汲み上げているが、水はまるで出てこない。

「おいレオン、またお前か。雑用なら任せとけってか?」  
農夫のディランが皮肉混じりに笑うが、レオンは気に留めない。慣れている。

「ちょっと見せて」  
彼は井戸の縁に手をかけ、底に意識を向けた。  
微かに魔力の流れが歪んでいる。魔石鉱脈の影響か——いや、魔物の気配だ。  
「……これ、ただの泥詰まりじゃないな。下に何かいる。」

そう言って手をかざし、小さな魔導球を作り出す。  
淡い光がふわりと浮かび、地下を照らした瞬間、子供たちが歓声を上げた。

「レオンさんの魔法、きれいー!」  
「いや、魔法ってほどじゃないんだ。ただの照明道具さ」

そう言いながらも、彼の魔導球は井戸の奥をまんべんなく照らし、やがて金属音を鳴らした。  
「やっぱりな、金属製の何かが詰まってる」  
ロープを結び、軽く引き上げると、泥にまみれた黒い塊が現れた。

「これは……古代の魔導具だな」

それは壊れかけの小型の守護装置だった。  
古代文明期に使われた防衛装置で、長い年月の間に暴走し、自らを守るために周囲を封鎖していたらしい。  
放置しておけば、村全体を呑み込むほどの事態になっていた可能性もあった。

「危なかったな……これ、多分もう動かないけど、念のため封印を——」

彼が手をかざした瞬間。  
壊れた装置の中心に残っていた青い魔核が、ふいに光を放った。  
眩い閃光。マリアが悲鳴を上げた。

「レオンさんっ!」

しかし、次の瞬間、光はすっと消え、辺りは静まり返った。  
レオンは立ち尽くしたまま、泥だらけの黒い機械を見下ろしていた。

「……大丈夫だ。もう止まってる」

騒ぎが収まり、村人たちは口々に彼に感謝を述べた。  
その光景を少し照れくさそうに受け止めながら、レオンは改めて思う。

「追放されたはずなのに、なんか、こっちのほうが落ち着くな」

その日の夕暮れ、マリアがパンとスープを差し入れてくれた。  
「さっきの、すごかったね。みんな助かったよ」  
レオンは笑って頷いた。

「まあ、偶然だろ。ちょっと道具を弄っただけだからさ。」

無頓着な口ぶりだったが、井戸の底で発した光を見た村の長老は、しばらく言葉を失っていた。  
彼は心の中でこう呟いていた。  
——あれは、“創造の加護”。かつて神々の時代にのみ授けられた力。

翌朝。村の噂話は一気に広まっていた。  
「井戸の中から魔物が出そうになったところを助けたらしい」  
「魔導具を一瞬で直したんだって!」  
「いや、むしろ新しい魔法を生み出したらしいぞ!」  

当の本人は、そんな話をよそに小屋で寝坊していた。

「……うるさいな、みんな何の騒ぎだ?」

無精髭をかきながら窓の外を覗くと、村に見知らぬ馬車が停まっている。  
豪華な紋章入り。王都のものだ。

「王都の……使者?」

戸を開けた瞬間、甲冑姿の騎士が一歩前に出た。  
「レオン=グレイブ殿で間違いないな? 急ぎの要件だ。陛下が貴殿をお呼びだ。」

「……は?」

ぽかんとした表情のレオンに、騎士は真剣な目を向ける。  
「新たに目覚めた“創造の権能保持者”。その名が王都に届いている。」

レオンは短く息を呑んだ。昨日のあの光のことだろうか。  
だが自分には大それた力などない。ただの雑用係だ。  
そう思いつつも、何か胸の奥がざわついていた。

「……いやいや、俺はただの村の修理屋で——」

「とにかく同行願う。抵抗するなら、それも命令により——」

「わかったよ。行けばいいんだろ、行けば。」

渋々と頷いたレオンは、工具袋だけを持って馬車に乗り込んだ。  
平和な田舎の朝。  
だがそれはもう、二度と戻らない穏やかな日々の最後だった。

馬車が森を抜けて遠ざかっていく。  
マリアはその背中を不安げに見送りながら、小さく呟いた。  
「レオンさん……どうか、無事でいてね。」

(第1話 終)
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