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第5話 フェンリルが美少女化したので、採れたてトマトをご馳走してみた
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翌朝。
俺はいつもより早く目が覚めた。
というのも、昨夜仕込んだ『特製イナゴ肥料』の状態が気になって仕方がなかったからだ。
「よし、発酵具合は……完璧だ」
畑の端に掘った堆肥用の穴。
そこを覗き込むと、昨日は黒い甲殻の塊だったものが、一晩でさらさらの金色の土へと変化していた。
俺の【農業】スキル派生【肥料生成】と、タマの周囲に満ちる高濃度の魔素、そして何より素材となった『蝕のイナゴ』が持っていた生命力が、化学反応を起こしたらしい。
鑑定してみる。
【王蟲の黄金堆肥】
品質:幻級(ファンタズム)
説明:災害指定生物の命を凝縮した奇跡の肥料。これを撒かれた土地は、神界の庭に匹敵する肥沃さを得る。枯れた世界樹ですら一発で蘇生可能。
「……うん、まあ、よくあることだ」
俺は慣れた手つきで、その黄金の土を畑に撒いた。
パラパラと撒いた瞬間、土が「ゴクリ」と養分を飲み込むような音が聞こえた気がした。
「さて、今日はこの肥料を使って、トマ大根の収穫祭だ」
俺はクワを振るった。
すると、肥料を撒いたそばから、既存のトマ大根たちがさらに変異を始めた。
茎がガラス細工のように透き通り、実がルビーのように赤く輝き出す。
大きさは昨日の倍。
もはや野菜というより、宝石のなる木だ。
「よしよし、いい子だ」
俺が作業に没頭していると、背後で「クゥ~ン……」という弱々しい鳴き声が聞こえた。
「ん? どうしたポチ」
振り返ると、愛犬(フェンリル)のポチが、地面に伏せって苦しそうに荒い息を吐いていた。
全身の毛が逆立ち、体から湯気が上がっている。
「おい、大丈夫か!? 昨日のイナゴとの戦いで無理をしたのか?」
俺は慌てて駆け寄り、ポチの額に手を当てた。
熱い。
火傷しそうなほどの高熱だ。
それに、体の中で莫大な魔力が暴れ回っているのが分かる。
『ピロリン♪ 警告。個体名「ポチ」の魔力回路が許容量を超過。進化の前兆(プレ・エボリューション)状態です』
タマが冷静に解説を入れてきた。
「進化? 魔物の進化ってやつか?」
『回答:肯定。過去数日間に摂取した「神話級野菜」と「高濃度魔素」、さらに昨日の戦闘経験値により、フェンリルとしての限界種族値を超えました。現在、新たな形態へ再構築中です』
なるほど、栄養の摂りすぎか。
俺の作る飯が美味すぎたのが原因なら、責任は俺にある。
「苦しいのか……。何か、俺にできることは」
ポチは潤んだ瞳で、畑の方をじっと見つめていた。
その視線の先にあるのは、さっき収穫したばかりの、最高傑作のトマ大根――名付けて『ルビートマト(根は大根)』だ。
「……これが食いたいのか?」
「ワフッ……」
ポチが小さく頷く。
進化にはエネルギーが必要ということか。
俺は一番赤くて大きいのを選んで、きれいに泥を拭き取った。
「ほら、食え。栄養満点だぞ」
俺が口元に差し出すと、ポチは最後の力を振り絞るように、ガブリとトマトにかじりついた。
瞬間。
カッッッッッッッ!!!
直視できないほどの強烈な閃光が、ポチの体を包み込んだ。
俺は思わず腕で顔を覆う。
光の中で、ポチの巨大なシルエットがぐにゃりと歪み、縮んでいくのが見えた。
『おおおおお!?』
『光った!』
『進化キターーー!』
『ポケモンかな?』
『いや、このシルエット……まさか』
コメント欄が加速する中、光が徐々に収まっていく。
そして、光の粒子が晴れた後に残っていたのは――。
「……は?」
そこにいたのは、巨大な狼ではなかった。
艶やかな漆黒の長髪。
雪のように白い肌。
頭の上にはぴょこんと生えた黒い犬耳。
お尻からはフサフサの尻尾。
全裸の、美少女だった。
見た目の年齢は十五、六歳くらいだろうか。
整った顔立ちは神秘的だが、その瞳はポチのままで、人懐っこい光を宿している。
『ピロリン♪ 自主規制モード「お花畑フィルター」作動中』
タマのナイスな仕事により、配信画面上では彼女の際どい部分は綺麗な花畑のエフェクトで隠されているらしい。
だが、目の前にいる俺には丸見えだ。
「あ、あわわ……」
俺は慌てて自分の着ていた上着を脱ぎ、彼女にバサッと被せた。
「ポ、ポチ……なのか?」
恐る恐る尋ねると、少女はキョトンとした顔で自分の手足を見つめ、それからニパッと満面の笑みを浮かべた。
「主様ーッ!」
「うおっ!?」
彼女は人間離れした跳躍力で飛びかかってきた。
俺はそのまま押し倒され、地面に仰向けになる。
彼女は俺の胸の上で、頬をスリスリと擦り付けてきた。
「ポチ、新しい体! 軽い! すごい!」
「し、喋った!?」
「うん! 言葉、分かる! 主様の言葉、ずっと分かってたけど、口が動くようになった!」
ポチ――いや、ポチ子(仮)は、尻尾をブンブンと振っている。
その速度は相変わらず残像が見えるレベルだ。
風圧がすごい。
『うおおおおおおお!』
『ケモミミ美少女爆誕!!』
『やっぱりな! フェンリルは美少女になるって相場が決まってんだよ!』
『黒髪ロング最高』
『性格が犬のままなのが尊い』
『アレン、そこ代われ』
『※この映像は世界中に配信されています』
俺はどうしていいか分からず、とりあえず彼女の頭の犬耳を撫でてみた。
「あぅん……♡」
ポチ子はとろけるような声を上げて、力の抜けた顔になった。
どうやら撫でられるのが好きという習性は変わっていないらしい。
「えっと……とりあえず、その格好じゃなんだから、服を着ようか」
俺は彼女を一旦どかして、アイテムボックス(以前タマのギフト機能で拡張された)から、予備の服を取り出した。
勇者パーティ時代に使っていた、シンプルな麻のシャツとズボンだ。
サイズはだぶだぶだが、裸よりはマシだ。
不器用な手つきで服を着るポチ子。
袖が余って萌え袖になっているのが、妙に可愛らしい。
ズボンの後ろには、尻尾を通すための穴を俺が即席で開けてやった。
「へへっ、主様の匂いがする~」
ポチ子は袖の匂いをくんくんと嗅いで嬉しそうだ。
完全に忠犬だ。見た目は美少女だけど。
「さて、ポチ。……いや、女の子にポチって名前もあれだな」
「ポチがいい! 主様がくれた名前!」
「そうか? まあ、本人がいいならいいけど」
俺は苦笑した。
それにしても、腹が減った。
朝飯前の作業のつもりだったのに、とんだハプニングだった。
「お腹空いただろ? ご飯にするか」
「ご飯! 食べる!」
ポチ子の目が輝いた。
俺たちは家の前のテラス(切り株を置いただけ)に座った。
今日のメニューは、もちろん採れたての『ルビートマト』だ。
それと、昨日の残りのパン(硬くなっていたので、水で戻して焼いた)と、イナゴ肥料のおかげで急成長した『エメラルドレタス』のサラダ。
俺はナイフでルビートマトをスライスし、岩塩を少々振った。
シンプルだが、これが一番素材の味を楽しめる。
「はい、あーん」
俺がフォークで刺して差し出すと、ポチ子は大きな口を開けて待機した。
「あーーーん!」
パクッ。
ポチ子は口いっぱいにトマトを頬張ると、動きを止めた。
目を大きく見開き、頬を赤く染め、やがてその目からポロポロと涙がこぼれ始めた。
「……おい、どうした? 不味かったか?」
俺が焦ると、ポチ子はフルフルと首を横に振った。
「ううん……おいしい……おいしすぎて、びっくりした……」
彼女は涙を流しながら、咀嚼を続けた。
「体が、熱い……力が湧いてくる……。主様の魔力が、体中に染み渡るの……」
「そ、そうか。よかった」
どうやら感動してくれたらしい。
俺も一切れ食べてみる。
「んっ!?」
口の中でトマトが弾けた瞬間、濃厚な甘みと酸味が爆発した。
果汁というより、極上のネクターだ。
喉を通ると、カッ! と熱い塊が胃に落ち、そこから全身の血管に魔力が駆け巡るのが分かった。
疲れが一瞬で消し飛び、視界がクリアになる。
ステータスを確認すると、『魔力:限界突破』『敏捷性:超大幅アップ』『夜目』『野生の勘』などのスキルが追加されていた。
「これ、ドーピングアイテムじゃん……」
俺は戦慄した。
こんなものを毎日食べていたら、そりゃあフェンリルも人間に進化するわけだ。
「おかわり!」
ポチ子が皿を差し出してきた。
涙は止まったようで、今は満面の笑みだ。
「よしよし、たくさん食えよ。畑には腐るほどあるからな」
俺は次々とトマトを切ってやった。
ポチ子はそれをリスのように頬張り、時折俺の指をペロリと舐める。
平和だ。
昨日のイナゴ襲撃が嘘のような、穏やかな朝食風景。
『ただの朝食風景なのに、絵画みたいだ』
『美少女とイケメン(無自覚)の戯れ』
『あのトマト、市場に出したら一個で城が建つぞ』
『それをバクバク食ってる……』
『俺もアレンのペットになりたい』
タマがせっせと配信を続けている。
俺はもう、カメラの存在を半分忘れていた。
と、その時だった。
ガサッ。
近くの茂みが揺れた。
ポチ子の耳がピクリと動き、瞬時に食べるのを止めて、茂みの方を睨んだ。
「……誰?」
ポチ子の声色が、甘えたものから、冷徹な捕食者のものへと変わる。
彼女の手から、鋭い爪がジャキンと伸びた。
「待て、ポチ。いきなり攻撃するな」
俺はポチ子を制して、茂みに近づいた。
昨夜のイナゴの生き残りか?
それとも、また別の魔物か?
「出てきなさい。何もしないから」
俺が声をかけると、茂みが激しく揺れ、そこから小さな影が飛び出してきた。
「ひ、ひぃぃぃっ! 食べないでぇぇぇっ!」
現れたのは、銀色の髪に、長い耳を持つ少女だった。
ボロボロのドレスを着て、泥だらけの顔をしている。
その特徴は、間違いなく――。
「エルフ……?」
彼女は俺とポチ子(爪が出ている)を見て、腰を抜かして震えていた。
その視線は、テーブルの上のルビートマトに釘付けになっている。
そして、グゥ~……と、可愛らしい音が彼女の腹から響いた。
「……お腹、空いてるのか?」
俺が尋ねると、彼女は涙目でコクコクと頷いた。
どうやら、俺の農園には、次から次へと腹ペコな客がやってくる運命らしい。
「ポチ、爪をしまえ。お客様だ」
「……ん。主様が言うなら」
ポチ子は不満げに鼻を鳴らしながらも、爪を引っ込めて席に戻った。
俺はエルフの少女に手を差し伸べた。
「ほら、こっちに来て座りなよ。トマト、まだあるから」
少女はおずおずと俺の手を取り、立ち上がった。
その手は小枝のように細く、冷たかった。
この時の俺はまだ知らなかった。
この腹ペコのエルフが、滅亡したエルフの国の唯一の生き残りであり、この後、俺の農園にとんでもないトラブル(主に俺を巡る嫁レース的な意味で)を持ち込むことになるなんて。
『新キャラキターーー!』
『エルフだ! しかも姫っぽい!』
『ハーレム形成が順調すぎる』
『ポチ子が嫉妬してる顔w』
『ざまぁ展開もいいけど、このほのぼのハーレムも最高だわ』
世界中の視聴者たちが、新たなヒロインの登場に沸き立っていた。
そして、王都で見ている勇者レオナルドは、画面に映ったエルフの顔を見て、持っていたパンを喉に詰まらせていた。
「ご、ごふっ!? あ、あれは……『森の巫女姫』!? 探しても見つからなかった重要NPCが、なんであいつの家に!?」
俺の農園は、今日も世界を騒がせているようだった。
(第6話へ続く)
俺はいつもより早く目が覚めた。
というのも、昨夜仕込んだ『特製イナゴ肥料』の状態が気になって仕方がなかったからだ。
「よし、発酵具合は……完璧だ」
畑の端に掘った堆肥用の穴。
そこを覗き込むと、昨日は黒い甲殻の塊だったものが、一晩でさらさらの金色の土へと変化していた。
俺の【農業】スキル派生【肥料生成】と、タマの周囲に満ちる高濃度の魔素、そして何より素材となった『蝕のイナゴ』が持っていた生命力が、化学反応を起こしたらしい。
鑑定してみる。
【王蟲の黄金堆肥】
品質:幻級(ファンタズム)
説明:災害指定生物の命を凝縮した奇跡の肥料。これを撒かれた土地は、神界の庭に匹敵する肥沃さを得る。枯れた世界樹ですら一発で蘇生可能。
「……うん、まあ、よくあることだ」
俺は慣れた手つきで、その黄金の土を畑に撒いた。
パラパラと撒いた瞬間、土が「ゴクリ」と養分を飲み込むような音が聞こえた気がした。
「さて、今日はこの肥料を使って、トマ大根の収穫祭だ」
俺はクワを振るった。
すると、肥料を撒いたそばから、既存のトマ大根たちがさらに変異を始めた。
茎がガラス細工のように透き通り、実がルビーのように赤く輝き出す。
大きさは昨日の倍。
もはや野菜というより、宝石のなる木だ。
「よしよし、いい子だ」
俺が作業に没頭していると、背後で「クゥ~ン……」という弱々しい鳴き声が聞こえた。
「ん? どうしたポチ」
振り返ると、愛犬(フェンリル)のポチが、地面に伏せって苦しそうに荒い息を吐いていた。
全身の毛が逆立ち、体から湯気が上がっている。
「おい、大丈夫か!? 昨日のイナゴとの戦いで無理をしたのか?」
俺は慌てて駆け寄り、ポチの額に手を当てた。
熱い。
火傷しそうなほどの高熱だ。
それに、体の中で莫大な魔力が暴れ回っているのが分かる。
『ピロリン♪ 警告。個体名「ポチ」の魔力回路が許容量を超過。進化の前兆(プレ・エボリューション)状態です』
タマが冷静に解説を入れてきた。
「進化? 魔物の進化ってやつか?」
『回答:肯定。過去数日間に摂取した「神話級野菜」と「高濃度魔素」、さらに昨日の戦闘経験値により、フェンリルとしての限界種族値を超えました。現在、新たな形態へ再構築中です』
なるほど、栄養の摂りすぎか。
俺の作る飯が美味すぎたのが原因なら、責任は俺にある。
「苦しいのか……。何か、俺にできることは」
ポチは潤んだ瞳で、畑の方をじっと見つめていた。
その視線の先にあるのは、さっき収穫したばかりの、最高傑作のトマ大根――名付けて『ルビートマト(根は大根)』だ。
「……これが食いたいのか?」
「ワフッ……」
ポチが小さく頷く。
進化にはエネルギーが必要ということか。
俺は一番赤くて大きいのを選んで、きれいに泥を拭き取った。
「ほら、食え。栄養満点だぞ」
俺が口元に差し出すと、ポチは最後の力を振り絞るように、ガブリとトマトにかじりついた。
瞬間。
カッッッッッッッ!!!
直視できないほどの強烈な閃光が、ポチの体を包み込んだ。
俺は思わず腕で顔を覆う。
光の中で、ポチの巨大なシルエットがぐにゃりと歪み、縮んでいくのが見えた。
『おおおおお!?』
『光った!』
『進化キターーー!』
『ポケモンかな?』
『いや、このシルエット……まさか』
コメント欄が加速する中、光が徐々に収まっていく。
そして、光の粒子が晴れた後に残っていたのは――。
「……は?」
そこにいたのは、巨大な狼ではなかった。
艶やかな漆黒の長髪。
雪のように白い肌。
頭の上にはぴょこんと生えた黒い犬耳。
お尻からはフサフサの尻尾。
全裸の、美少女だった。
見た目の年齢は十五、六歳くらいだろうか。
整った顔立ちは神秘的だが、その瞳はポチのままで、人懐っこい光を宿している。
『ピロリン♪ 自主規制モード「お花畑フィルター」作動中』
タマのナイスな仕事により、配信画面上では彼女の際どい部分は綺麗な花畑のエフェクトで隠されているらしい。
だが、目の前にいる俺には丸見えだ。
「あ、あわわ……」
俺は慌てて自分の着ていた上着を脱ぎ、彼女にバサッと被せた。
「ポ、ポチ……なのか?」
恐る恐る尋ねると、少女はキョトンとした顔で自分の手足を見つめ、それからニパッと満面の笑みを浮かべた。
「主様ーッ!」
「うおっ!?」
彼女は人間離れした跳躍力で飛びかかってきた。
俺はそのまま押し倒され、地面に仰向けになる。
彼女は俺の胸の上で、頬をスリスリと擦り付けてきた。
「ポチ、新しい体! 軽い! すごい!」
「し、喋った!?」
「うん! 言葉、分かる! 主様の言葉、ずっと分かってたけど、口が動くようになった!」
ポチ――いや、ポチ子(仮)は、尻尾をブンブンと振っている。
その速度は相変わらず残像が見えるレベルだ。
風圧がすごい。
『うおおおおおおお!』
『ケモミミ美少女爆誕!!』
『やっぱりな! フェンリルは美少女になるって相場が決まってんだよ!』
『黒髪ロング最高』
『性格が犬のままなのが尊い』
『アレン、そこ代われ』
『※この映像は世界中に配信されています』
俺はどうしていいか分からず、とりあえず彼女の頭の犬耳を撫でてみた。
「あぅん……♡」
ポチ子はとろけるような声を上げて、力の抜けた顔になった。
どうやら撫でられるのが好きという習性は変わっていないらしい。
「えっと……とりあえず、その格好じゃなんだから、服を着ようか」
俺は彼女を一旦どかして、アイテムボックス(以前タマのギフト機能で拡張された)から、予備の服を取り出した。
勇者パーティ時代に使っていた、シンプルな麻のシャツとズボンだ。
サイズはだぶだぶだが、裸よりはマシだ。
不器用な手つきで服を着るポチ子。
袖が余って萌え袖になっているのが、妙に可愛らしい。
ズボンの後ろには、尻尾を通すための穴を俺が即席で開けてやった。
「へへっ、主様の匂いがする~」
ポチ子は袖の匂いをくんくんと嗅いで嬉しそうだ。
完全に忠犬だ。見た目は美少女だけど。
「さて、ポチ。……いや、女の子にポチって名前もあれだな」
「ポチがいい! 主様がくれた名前!」
「そうか? まあ、本人がいいならいいけど」
俺は苦笑した。
それにしても、腹が減った。
朝飯前の作業のつもりだったのに、とんだハプニングだった。
「お腹空いただろ? ご飯にするか」
「ご飯! 食べる!」
ポチ子の目が輝いた。
俺たちは家の前のテラス(切り株を置いただけ)に座った。
今日のメニューは、もちろん採れたての『ルビートマト』だ。
それと、昨日の残りのパン(硬くなっていたので、水で戻して焼いた)と、イナゴ肥料のおかげで急成長した『エメラルドレタス』のサラダ。
俺はナイフでルビートマトをスライスし、岩塩を少々振った。
シンプルだが、これが一番素材の味を楽しめる。
「はい、あーん」
俺がフォークで刺して差し出すと、ポチ子は大きな口を開けて待機した。
「あーーーん!」
パクッ。
ポチ子は口いっぱいにトマトを頬張ると、動きを止めた。
目を大きく見開き、頬を赤く染め、やがてその目からポロポロと涙がこぼれ始めた。
「……おい、どうした? 不味かったか?」
俺が焦ると、ポチ子はフルフルと首を横に振った。
「ううん……おいしい……おいしすぎて、びっくりした……」
彼女は涙を流しながら、咀嚼を続けた。
「体が、熱い……力が湧いてくる……。主様の魔力が、体中に染み渡るの……」
「そ、そうか。よかった」
どうやら感動してくれたらしい。
俺も一切れ食べてみる。
「んっ!?」
口の中でトマトが弾けた瞬間、濃厚な甘みと酸味が爆発した。
果汁というより、極上のネクターだ。
喉を通ると、カッ! と熱い塊が胃に落ち、そこから全身の血管に魔力が駆け巡るのが分かった。
疲れが一瞬で消し飛び、視界がクリアになる。
ステータスを確認すると、『魔力:限界突破』『敏捷性:超大幅アップ』『夜目』『野生の勘』などのスキルが追加されていた。
「これ、ドーピングアイテムじゃん……」
俺は戦慄した。
こんなものを毎日食べていたら、そりゃあフェンリルも人間に進化するわけだ。
「おかわり!」
ポチ子が皿を差し出してきた。
涙は止まったようで、今は満面の笑みだ。
「よしよし、たくさん食えよ。畑には腐るほどあるからな」
俺は次々とトマトを切ってやった。
ポチ子はそれをリスのように頬張り、時折俺の指をペロリと舐める。
平和だ。
昨日のイナゴ襲撃が嘘のような、穏やかな朝食風景。
『ただの朝食風景なのに、絵画みたいだ』
『美少女とイケメン(無自覚)の戯れ』
『あのトマト、市場に出したら一個で城が建つぞ』
『それをバクバク食ってる……』
『俺もアレンのペットになりたい』
タマがせっせと配信を続けている。
俺はもう、カメラの存在を半分忘れていた。
と、その時だった。
ガサッ。
近くの茂みが揺れた。
ポチ子の耳がピクリと動き、瞬時に食べるのを止めて、茂みの方を睨んだ。
「……誰?」
ポチ子の声色が、甘えたものから、冷徹な捕食者のものへと変わる。
彼女の手から、鋭い爪がジャキンと伸びた。
「待て、ポチ。いきなり攻撃するな」
俺はポチ子を制して、茂みに近づいた。
昨夜のイナゴの生き残りか?
それとも、また別の魔物か?
「出てきなさい。何もしないから」
俺が声をかけると、茂みが激しく揺れ、そこから小さな影が飛び出してきた。
「ひ、ひぃぃぃっ! 食べないでぇぇぇっ!」
現れたのは、銀色の髪に、長い耳を持つ少女だった。
ボロボロのドレスを着て、泥だらけの顔をしている。
その特徴は、間違いなく――。
「エルフ……?」
彼女は俺とポチ子(爪が出ている)を見て、腰を抜かして震えていた。
その視線は、テーブルの上のルビートマトに釘付けになっている。
そして、グゥ~……と、可愛らしい音が彼女の腹から響いた。
「……お腹、空いてるのか?」
俺が尋ねると、彼女は涙目でコクコクと頷いた。
どうやら、俺の農園には、次から次へと腹ペコな客がやってくる運命らしい。
「ポチ、爪をしまえ。お客様だ」
「……ん。主様が言うなら」
ポチ子は不満げに鼻を鳴らしながらも、爪を引っ込めて席に戻った。
俺はエルフの少女に手を差し伸べた。
「ほら、こっちに来て座りなよ。トマト、まだあるから」
少女はおずおずと俺の手を取り、立ち上がった。
その手は小枝のように細く、冷たかった。
この時の俺はまだ知らなかった。
この腹ペコのエルフが、滅亡したエルフの国の唯一の生き残りであり、この後、俺の農園にとんでもないトラブル(主に俺を巡る嫁レース的な意味で)を持ち込むことになるなんて。
『新キャラキターーー!』
『エルフだ! しかも姫っぽい!』
『ハーレム形成が順調すぎる』
『ポチ子が嫉妬してる顔w』
『ざまぁ展開もいいけど、このほのぼのハーレムも最高だわ』
世界中の視聴者たちが、新たなヒロインの登場に沸き立っていた。
そして、王都で見ている勇者レオナルドは、画面に映ったエルフの顔を見て、持っていたパンを喉に詰まらせていた。
「ご、ごふっ!? あ、あれは……『森の巫女姫』!? 探しても見つからなかった重要NPCが、なんであいつの家に!?」
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(第6話へ続く)
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一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。
「ノエル! 戻ってきてくれ!」
「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」
これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
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【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~
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「お前の『付与魔法』は地味で役に立たない。クビだ」
Sランクパーティ『栄光の剣』のお荷物扱いされていた付与術師のレントは、ダンジョンの最下層で無慈悲に追放された。
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しかし、極限状態でレントは覚醒する。
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「え、俺の筋力、ドラゴンより上になってる?」
ゴミ同然の石ころを『神剣』に変え、自分自身に『絶対無敵』を付与したレントは、ダンジョンで出会った訳ありの美少女たち――亡国の姫騎士、封印されし邪竜の娘、聖女――を救い、最強のハーレムパーティを結成する。
一方、レントを追放した『栄光の剣』は、装備のメンテナンスができずに弱体化。
さらにはレントの『運気上昇』の恩恵を失い、転落の一途を辿っていた。
「今さら戻ってきてくれと言われても、もう遅いぞ?」
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魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
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しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
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