落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第30話 世界最強ギルド「創星の炉」誕生

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春も半ば。王都クラウムは新緑に包まれ、街並みが眩い光を反射していた。  
だが、その中心にある創星の炉だけは、朝から異様な熱を帯びていた。  
青い炎が炉から天へと昇り、工房全体がまるで生きているように脈打っている。  

「マスター、外気温を超えています! 炉が……自動的に限界出力に移行しました!」  
アストリアの警告が響く。  
レオンは作業台から目を離さず、ただ槌を握った。  
「分かってる。だが止めるな。これは“呼ばれてる”!」  
「呼ばれてる?」ティナが訝しげに聞く。  
「そうだ。空の彼方から、新しい鉄の声がする。」  

それは、世界の果て——天の火を宿す“星祖炉《ステラ・オリジン》”から流れる呼び声だった。  
かつて神鍛冶エルヴァンが語った言葉が、レオンの胸に蘇る。  
『火とは始まりであり、終わりでもある。星を鍛える者は、世界すら鍛え直すことになるだろう。』  
その意味を、いまようやく理解した。  

「マスター……あれを受け止めるつもりですか?」アストリアの声が揺れる。  
「それしか道はない。世界の火を受け止め、再び鍛え直す。それが俺たちの運命だ。」  
エルナが腕まくりをして踏み出す。  
「じゃあ、準備させて! この炉、まだ出力上げられる!」  
ティナが魔導盤を光らせる。  
「魔力流路、問題なし! 任せてください、マスター!」  
ガルドが重い槌を構え、笑う。  
「全員、ここで星を打つ覚悟ってことか。大仕事じゃのう!」  

轟音と共に、青空が裂かれた。  
空の彼方から蒼銀の炎が流星のように落ちてくる。  
それは星祖炉のかけら——天地の原火。  
王都は一瞬で昼のように輝き、すべての人が空を見上げ息を呑んだ。  

「きれい……」ティナの声が震える。  
だが、次の瞬間、その光が地に激突し、灼熱の衝撃波が世界を覆った。  
レオンは叫ぶ。  
「アストリア! 迎え撃て!」  
「了解、炉心全解放! 創精鍛造・最終展開――“星界錬融”!」  

青と銀の火がひとつに交わる。  
その融合点で空間が歪み、王都の空に巨大な光輪が出現する。  
炎の竜巻が舞い、一瞬で夜を呼び寄せた。  
天空に満ちる無数の星が反転し、世界が鏡の裏へと変わる。  

「ここが……“星の炉心界”!」  
アストリアの声に応じるように、無限の火の粒が舞う。  
その中心に、巨大な光の柱が聳え立つ。それが星祖炉。  
数千年前に神々が作り、人が手を出すことを禁じた、世界誕生の原炉――。  

『創造の継承者よ、なぜここに来た。』  
響いたのは天地を震わせるほどの声。  
星祖炉そのものの意識が、レオンに問いかけてきた。  
「俺は鍛え直しに来た。壊すためじゃない。生きるためだ!」  
『人の愚かさを繰り返すものが、口で何を語る。火は、焼き尽くすためにある。』  
「違う。火は創るためにある!」  

レオンは槌を構えた。  
「創精鍛造・極星式――“魂の鍛え”!」  
次の瞬間、彼の全身が炎に包まれた。  
魂も肉体も溶け、槌と一体化する。  
それは人と火が完全に融合した瞬間だった。  

ティナとエルナが叫ぶ。  
「マスター! 形が……!」  
「戻ってこないで! そのまま打って!」アストリアが泣くように叫びながらも、火の調律を続ける。  
「あなたが作ってきた“すべての炎”が、今あなたを守っています!」  

星祖炉の光が押し寄せた。  
それは“終末”にも似た力。  
王都の上空が裂け、時間と空間がひとつに溶ける。  
しかしレオンは一歩も退かない。  

「俺たちは――まだ、未来を鍛え切ってねぇんだ!」  

槌が振り下ろされる。  
瞬間、すべての光が消えた。  
音も風もなく、ただ穏やかな静寂だけが世界を包む。  

◇  

数十秒か、あるいは永遠か。  
再び風が吹いた時、そこにいたのはひとりの青年――だがその髪は銀の光を帯びていた。  
炉の中心には、巨大な結晶が静かに脈動している。  
王都の人々が顔を上げる。  
夜空には、青と銀の火が混ざる新しい星が輝いていた。  

アストリアの声が震える。  
『成功……した。世界の火、再構成完了。これで、全大陸の炉が安定します!』  
ティナが涙を流しながら笑う。  
「マスターが……世界を鍛えたんだ!」  
エルナが震える声で言った。  
「これ、みんなの力だよ……」  

その瞬間、銀髪のレオンが顔を上げた。  
「火は受け継がれた。お前たちの手で続けろ。」  
彼の胸の中に、アストリアの光が宿っていた。  
『マスター……あなたは私たちの炎。消えない希望そのもの。』  

◇  

数日後。  
王都は新しい時代へと移り変わっていた。  
火と星を制御する新型の創星炉が、各大陸へと譲渡され、すべての工房に温かな炎が灯っている。  
それらを監修するのが――世界最強ギルド〈創星の炉〉。  

アストリアが青い外套を羽織り、城門前で市民に微笑む。  
その横でティナとエルナ、ガルドが次の依頼者を出迎える。  
王都中の子供たちが彼らの名を呼ぶ。  
「お兄ちゃんたちの火が、夜でも消えないんだ!」  

青い火が空を染める。  
それは破壊の火ではなく、再生の焔。  
誰かが途絶えても、必ず次の誰かが火を受け継ぐ――それが創星の炉の信条だった。  

工房の奥、眠るように座るレオンは微かに笑った。  
彼の背に、星の光が流れ、炉の中ではアストリアが囁く。  
『マスター、今日も火がきれいです。』  
「そうだな。これからの時代は、お前たちが“打ち手”だ。」  
『ええ。でも、あなたの音は今もここにあります。』  

再び青い炎が燃え上がり、空へ舞い上がった。  
その火がゆっくりと星々に溶けていく。  
創星の炉――ここに、世界最強の職人ギルドとして正式に記録される。  

そして、人と火の物語は、永遠に続いていく。  

(第30話 完)
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