異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ

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第6話 捨て犬と薬草園のはじまり

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朝、陽光が工房の中に差し込んだ。  
湿った木の匂いと薬草の香りが混じる中、リオネルは杖を片手に立っていた。  
今日の仕事は、薬草園の拡張だった。  

畑として使える土は限られており、石や雑草が多く残っている。  
しかし、井戸の水で湿り気が戻ったおかげで、芽吹く力は確かに感じられた。  

「ここから北側を広げよう。朝日がよく当たる」  

ガルドが鍬を担ぎ、黙々と土を掘り返していく。  
音を立てながら、肥えた黒土の下から古びた根が顔を出した。  
そこに、光る虫の群れがふわりと上がる。  

「こいつら、まだ生きてやがったのか」  
「森から逃げてきた精霊虫だ。良い兆しだよ。土が蘇っている証拠だ」  

リオネルはしゃがみこみ、そっと一匹を指に乗せた。  
淡い緑色の光が、肌を温めるように照らす。  
この地にまだ“生命の循環”がある――それを思うと、胸の奥が少し熱くなる。  

「よし、ここに薬草を植えよう」  
「例の銀葉草ってやつか?」  
「ああ。それと、青蘭草、アレン草、それに耐寒性のあるハラミントもだ」  

リオネルは一つひとつの種を掌に乗せ、魔力で薄い光の膜を作る。  
風に飛ばされないよう、静かに土へと押し込んだ。  
その姿を見て、ガルドがぽつりと声をもらす。  

「魔法っていうより……祈りみたいだな」  
「そう感じるなら、それが正しい。錬金術は“繋ぐ”力だからね」  

 

昼頃になると、村の子どもたちが集まってきた。  
ピルカを先頭に、数匹の鶏や猫までぞろぞろとついてくる。  
畑の中がまるで小さな行進のようだった。  

「リオネルさん! 今日は何するの?」  
「薬草を植えるんだ。君たちも手伝ってみるか?」  
「やるー!」  

子どもたちは元気よく返事をして、素手で泥を掘り始めた。  
小さな手のひらに土と種。  
その一つひとつが、村の未来への贈り物のように見えた。  

やがて夕方、陽が傾く頃。  
畑の一角が青く光っているのに村人が気づく。  
柔らかな光が地表を照らし、風にそよぐ葉が静かに音を立てていた。  

「本当に根付いたんだな」  
モルドが息を漏らす。  
「ええ、きっと土地が応えてくれたんでしょう」  

リオネルは杖の先を軽く土に突き立て、聞こえるはずのない鼓動を感じた。  
大地が息をしている。そう確信できた瞬間だった。  

 

その夜、工房の裏口で物音がした。  
リオネルがそっと扉を開けると、そこに小さな影がいた。  
薄汚れた捨て犬――いや、ピルカとは違う、新顔だ。  
やせ細り、震えるように尻尾を巻いている。  

「おや、君も旅人か」  

リオネルはしゃがみ、パンの欠片を差し出した。  
犬は戸惑いながらも、一口、二口と食べる。  
警戒心は強いが、目だけは真っ直ぐこちらを見ていた。  

「名前はどうしようか……そうだな、ルナでいいか」  
月の光の下で出会ったその犬は、どこか誇り高く見えた。  

その様子を見ていたピルカが小さく唸る。  
「嫉妬かい? 大丈夫、お前の場所は取られやしない」  
リオネルが笑うと、ピルカも尻尾を振った。  

二匹はしばらく睨み合っていたが、やがて共にリオネルの足もとに座り込んだ。  
火の灯りの中に三つの影。  
不思議な安らぎが漂っていた。  

 

翌朝、ルナは工房の裏で寝転がっていた。  
どうやらすっかり居つく気らしい。  
それを見たガルドが笑いながら言う。  

「また家族が増えたな。村中の犬を集める気か?」  
「動物は土の調子をよくする。きっと畑の守りになる」  
「なるほどな、賢い言い訳だ」  

リオネルも笑った。  

 

その日の作業は、薬草園の境界を固める「魔除け柵」の設置だった。  
倒木を組み合わせ、枝の隙間に魔紋石を埋め込む。  
小動物は通せるが、魔物や邪気は通さない仕組みだ。  

リオネルは柵の一角に杖を置き、魔力を流した。  
淡い光が走り、土から風が吹き上がる。  
古代語で刻んだ祈りが地に刻まれ、畑に静かな力が宿った。  

「すげぇ……これで本当に魔物が入らねぇのか?」  
「完全ではないが、簡単な防御にはなる。  
ただ、本当の防衛は“人の心”だ。村のみんなが守りたいと思えば、精霊も応えてくれる」  

リオネルの言葉に、ガルドは少し照れたように頷く。  
「信じるしかねぇな。……よし、俺も柵を木槌で締めておく」  

夕暮れまでかかって作業を終えると、村の入り口から吹く風が心地良かった。  
柵の向こうでは銀葉草の葉が小さく揺れて光っている。  
まるで感謝の合図のようだった。  

 

夜になると、村の中央に焚き火がたかれた。  
モルドが煮込み鍋を持ってきて、昨日残った薬草シチューを温めている。  

「お祝いだよ。薬草畑ができた記念さ」  
「祝いってほどでも……ただ種を植えただけですよ」  
「それが大事なんだよ、リオネル。あんたがここに根を下ろしてくれた。それが村にとっての奇跡なんだ」  

モルドの言葉に、リオネルは言葉を失った。  
火の明かりが彼女の皺のある顔を照らし、優しい笑顔を浮かべている。  

ガルドが酒瓶を掲げ、子どもたちは木の笛を吹く。  
そんな中、ルナとピルカは焚き火のそばで並んで眠っていた。  

リオネルはその姿を見つめながら、胸の奥に小さな誓いを立てる。  

「この村を、守ろう。小さな命も、笑顔も、すべて」  

柔らかな炎の音が、静かに夜を撫でる。  
吹き抜ける風が薬草の香りを運び、空には丸い月が昇っていた。  

今、リステル村に確かな息吹が満ちている。  
それは“再生”の始まりであり、“癒し”の灯火だった。
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