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第15話 炎竜討伐戦、三人の絆
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北西の空に赤い光が走った。その光は一瞬で雲を焼き、夜空を真紅に染め上げる。
ルディウス、リシェル、そして竜人の戦姫アーシェ。三人はその光を見据えていた。
「“時の冠”を守護する存在――炎竜イグレイド。神々がこの地に残した監視者の一体だ」
ルディウスが静かに呟く。
アーシェの竜眼が紅く光った。
「奴は五千年の昔、父祖の代に封印されたが……生きていたか。焼き払われた竜族の里も、あの炎によるものだった」
リシェルは息を呑みながら小さく呟く。
「つまり、こいつを倒さないと“時の冠”には近づけないのね……」
風が重くなる。遠くで山が鳴動した。
岩を砕く低音が連続し、地面の下から熱気が吹き上がる。
「来るぞ」
ルディウスが手をかざすと、周囲の空気が瞬時に冷却される。彼の魔力が気流をねじ曲げ、灼熱を抑える冷波へと転換していく。
次の瞬間、山の裂け目から炎が噴き上がった。
その裂け目の中から、巨大な影が姿を現す。
紅蓮の鱗をまとい、翼の一撃だけで嵐を生む巨体。
全長百メートルを超える古代竜――炎竜イグレイドだ。
「愚かな下界の者ども……我が炎の眠りを妨げるか」
威圧だけで、空間が歪む。岩も砂も溶ける。リシェルは魔法障壁を展開した。
「一撃で消し飛ぶ……こんなの、もう“生き物”じゃない……!」
「生き物ではない。“神に捨てられた番犬”だ。」ルディウスの瞳が光る。
「だが番犬は、主の理を知らぬただの機械にすぎん。壊せばいい。」
アーシェが槍を構え、竜人族特有の言葉で咆哮した。
「血に誓いし我が祖よ、いまここに竜の名誉を取り戻す!」
炎竜が吠えた。
山全体を揺らす咆哮。そこから奔流のような炎が吐き出される。
ルディウスは片手を上げて詠唱する。
「零式障壁、展開――《アナクシウム・ドーム》!」
周囲を囲む透明の壁が輝き、炎が霧散した。
しかしその温度の余波だけで山肌が剥げ落ち、空が歪む。
アーシェが槍を構えたまま叫んだ。
「奴の炎は魔力の燃焼に干渉する。普通の魔法では貫けぬ! 一気に心核を潰すしかない!」
「ならば、突破の道を作る。」
ルディウスは掌の中に黒い光を渦巻かせた。それは闇でも光でもない灰色の力――“均衡”の魔性だった。
炎竜が翼を広げ、拳ほどの火球を雨のように降らせる。
リシェルが詠唱を始める。
「光よ、我が願いに応えよ――天結晶(セレスターライト)!」
無数の光子が弾け、火球と相殺する。
しかし爆発の衝撃で三人の体が吹き飛ぶ。
アーシェが翼を広げて体勢を立て直し、リシェルを抱きとめた。
「恩には着る!」
「まだ死ぬわけにはいかないからね!」
ルディウスが地面に着地し、灰色の魔力を圧縮する。
闇の雷が紫電となって周囲を走る。
「“虚空圧縮式”――発動だ」
世界がねじれ、空間の一点が歪む。
その歪みが光線となって天へ奔る。炎竜の左翼が焼き千切られた。
「ガアアアアッッ!!」
炎竜が怒り狂い、大地を抉る炎の嵐を放つ。
光を浴びて山そのものが融け、空が赤く染まった。
アーシェが炎を切り裂きながら叫ぶ。
「ルディウス! 奴の再生が始まる、急げ!」
「わかっている。だが完全に倒すには核を同調させねばならん!」
彼は両手を組み、リシェルに呼びかけた。
「リシェル、音を出せ。俺の魔力と合わせろ!」
「音……? 風の振動で共鳴させるのね?」
「そうだ。“創造の波”を形成する!」
リシェルは風の魔法を展開し、声を上げて詠唱した。
「調律の律(たえ)、空を駆け、息を結べ――《風詠の調歌(アリア)》!」
透明な旋律が空間を包み、魔力の波動が一定のリズムを刻む。
ルディウスの灰色の魔力がそれに共鳴し、灰と光の螺旋となって天を貫く。
アーシェがその隙を突き、全力で飛び上がった。
「竜族秘奥――《竜魂貫槍(レグリア・スピア)》!」
炎竜の胸に突き立てられた槍が閃光を放ち、その瞬間、リシェルの歌とルディウスの魔力が一点に収束した。
「いけっ、アーシェ!」
リシェルの声が響く。
灰色の閃光が全てを包み込み、天地が反転するような轟音が世界を貫いた。
炎竜の体が空中で爆ぜ、霧のように崩れ落ちる。
やがて炎の嵐が収まり、焦げた大地の中央に青白く光る物体が残された。
ルディウスが静かに歩み寄り、それを手に取る。
「……これが、時の冠の“欠片”。」
手の中の宝珠が淡く輝き、周囲の時間がわずかに止まる。
草も風も動かず、言葉さえ届かない。
ルディウスが掌を開くと、宝珠はそのまま空へと浮かび、消えた。
封印は完全ではなく、まだ本体が存在する。だが確かに、冠への道が開かれたのだ。
アーシェが槍を杖代わりにしながら笑った。
「まったく……死ぬかと思ったぞ」
リシェルが彼女の隣に駆け寄る。
「でもやったじゃない! あなたがいなかったら、絶対勝てなかった。」
アーシェはルディウスに視線を向ける。
「一つ、聞かせろ。お前はいずれ……神をも討つと言ったな。
この力を得て、なお、それを成すつもりか?」
ルディウスは青い空を見上げ、答えた。
「忘れたのか。俺は最初から世界そのものを“書き換える”つもりだ。
神が頂点であること自体が、この世界の誤謬だからな。」
静かな風が吹き抜けた。
リシェルは寂しげに空を仰ぐ。
「その先に、あなた自身は何を望むの……? 支配でも、救いでもなく――」
ルディウスは小さく笑った。
「……それを知るために、俺はまだ歩いているのかもしれん。」
三人は振り返る。焦土の向こうに、黒く焼けた竜の影がうずくまりながら残っていた。
その胸の奥から、小さな羽根のような光が浮かび上がる。
アーシェが槍を下ろし、跪く。
「祖竜の魂よ、安らかに……」
ルディウスが手を掲げると、その光が彼の胸に吸い込まれていく。
「冥に帰れ。お前の力はもう、怒りではなく希望の証として生きるだろう。」
三人の姿が沈黙に包まれる中、遠くで雷鳴が鳴った。
空に走る閃光はどこか美しく、世界の新たな息吹を告げているかのようだった。
炎竜討伐が終わり、三人は確かな絆を結んだ。
それは血よりも強く、世界を変えるための最初の“光”となった。
(続く)
ルディウス、リシェル、そして竜人の戦姫アーシェ。三人はその光を見据えていた。
「“時の冠”を守護する存在――炎竜イグレイド。神々がこの地に残した監視者の一体だ」
ルディウスが静かに呟く。
アーシェの竜眼が紅く光った。
「奴は五千年の昔、父祖の代に封印されたが……生きていたか。焼き払われた竜族の里も、あの炎によるものだった」
リシェルは息を呑みながら小さく呟く。
「つまり、こいつを倒さないと“時の冠”には近づけないのね……」
風が重くなる。遠くで山が鳴動した。
岩を砕く低音が連続し、地面の下から熱気が吹き上がる。
「来るぞ」
ルディウスが手をかざすと、周囲の空気が瞬時に冷却される。彼の魔力が気流をねじ曲げ、灼熱を抑える冷波へと転換していく。
次の瞬間、山の裂け目から炎が噴き上がった。
その裂け目の中から、巨大な影が姿を現す。
紅蓮の鱗をまとい、翼の一撃だけで嵐を生む巨体。
全長百メートルを超える古代竜――炎竜イグレイドだ。
「愚かな下界の者ども……我が炎の眠りを妨げるか」
威圧だけで、空間が歪む。岩も砂も溶ける。リシェルは魔法障壁を展開した。
「一撃で消し飛ぶ……こんなの、もう“生き物”じゃない……!」
「生き物ではない。“神に捨てられた番犬”だ。」ルディウスの瞳が光る。
「だが番犬は、主の理を知らぬただの機械にすぎん。壊せばいい。」
アーシェが槍を構え、竜人族特有の言葉で咆哮した。
「血に誓いし我が祖よ、いまここに竜の名誉を取り戻す!」
炎竜が吠えた。
山全体を揺らす咆哮。そこから奔流のような炎が吐き出される。
ルディウスは片手を上げて詠唱する。
「零式障壁、展開――《アナクシウム・ドーム》!」
周囲を囲む透明の壁が輝き、炎が霧散した。
しかしその温度の余波だけで山肌が剥げ落ち、空が歪む。
アーシェが槍を構えたまま叫んだ。
「奴の炎は魔力の燃焼に干渉する。普通の魔法では貫けぬ! 一気に心核を潰すしかない!」
「ならば、突破の道を作る。」
ルディウスは掌の中に黒い光を渦巻かせた。それは闇でも光でもない灰色の力――“均衡”の魔性だった。
炎竜が翼を広げ、拳ほどの火球を雨のように降らせる。
リシェルが詠唱を始める。
「光よ、我が願いに応えよ――天結晶(セレスターライト)!」
無数の光子が弾け、火球と相殺する。
しかし爆発の衝撃で三人の体が吹き飛ぶ。
アーシェが翼を広げて体勢を立て直し、リシェルを抱きとめた。
「恩には着る!」
「まだ死ぬわけにはいかないからね!」
ルディウスが地面に着地し、灰色の魔力を圧縮する。
闇の雷が紫電となって周囲を走る。
「“虚空圧縮式”――発動だ」
世界がねじれ、空間の一点が歪む。
その歪みが光線となって天へ奔る。炎竜の左翼が焼き千切られた。
「ガアアアアッッ!!」
炎竜が怒り狂い、大地を抉る炎の嵐を放つ。
光を浴びて山そのものが融け、空が赤く染まった。
アーシェが炎を切り裂きながら叫ぶ。
「ルディウス! 奴の再生が始まる、急げ!」
「わかっている。だが完全に倒すには核を同調させねばならん!」
彼は両手を組み、リシェルに呼びかけた。
「リシェル、音を出せ。俺の魔力と合わせろ!」
「音……? 風の振動で共鳴させるのね?」
「そうだ。“創造の波”を形成する!」
リシェルは風の魔法を展開し、声を上げて詠唱した。
「調律の律(たえ)、空を駆け、息を結べ――《風詠の調歌(アリア)》!」
透明な旋律が空間を包み、魔力の波動が一定のリズムを刻む。
ルディウスの灰色の魔力がそれに共鳴し、灰と光の螺旋となって天を貫く。
アーシェがその隙を突き、全力で飛び上がった。
「竜族秘奥――《竜魂貫槍(レグリア・スピア)》!」
炎竜の胸に突き立てられた槍が閃光を放ち、その瞬間、リシェルの歌とルディウスの魔力が一点に収束した。
「いけっ、アーシェ!」
リシェルの声が響く。
灰色の閃光が全てを包み込み、天地が反転するような轟音が世界を貫いた。
炎竜の体が空中で爆ぜ、霧のように崩れ落ちる。
やがて炎の嵐が収まり、焦げた大地の中央に青白く光る物体が残された。
ルディウスが静かに歩み寄り、それを手に取る。
「……これが、時の冠の“欠片”。」
手の中の宝珠が淡く輝き、周囲の時間がわずかに止まる。
草も風も動かず、言葉さえ届かない。
ルディウスが掌を開くと、宝珠はそのまま空へと浮かび、消えた。
封印は完全ではなく、まだ本体が存在する。だが確かに、冠への道が開かれたのだ。
アーシェが槍を杖代わりにしながら笑った。
「まったく……死ぬかと思ったぞ」
リシェルが彼女の隣に駆け寄る。
「でもやったじゃない! あなたがいなかったら、絶対勝てなかった。」
アーシェはルディウスに視線を向ける。
「一つ、聞かせろ。お前はいずれ……神をも討つと言ったな。
この力を得て、なお、それを成すつもりか?」
ルディウスは青い空を見上げ、答えた。
「忘れたのか。俺は最初から世界そのものを“書き換える”つもりだ。
神が頂点であること自体が、この世界の誤謬だからな。」
静かな風が吹き抜けた。
リシェルは寂しげに空を仰ぐ。
「その先に、あなた自身は何を望むの……? 支配でも、救いでもなく――」
ルディウスは小さく笑った。
「……それを知るために、俺はまだ歩いているのかもしれん。」
三人は振り返る。焦土の向こうに、黒く焼けた竜の影がうずくまりながら残っていた。
その胸の奥から、小さな羽根のような光が浮かび上がる。
アーシェが槍を下ろし、跪く。
「祖竜の魂よ、安らかに……」
ルディウスが手を掲げると、その光が彼の胸に吸い込まれていく。
「冥に帰れ。お前の力はもう、怒りではなく希望の証として生きるだろう。」
三人の姿が沈黙に包まれる中、遠くで雷鳴が鳴った。
空に走る閃光はどこか美しく、世界の新たな息吹を告げているかのようだった。
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