Re:コード・ブレイカー ~落ちこぼれと嘲られた少年、世界最強の異能で全てをねじ伏せる~

たまごころ

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第25話 AIが選ぶ最強ストリーマー決定戦

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 オルガの中枢「ヘリオス・エンクレイブ」までの距離は、もうわずかだった。  
 だがその道は、想像以上に混沌としていた。  
 現実世界とは違う。空も大地も存在しない。  
 ディスプレイの裏側に潜り込んだような空間で、光と音、情報の波が乱流のように流れている。  

 「ここが、もう……現実じゃないのね」咲良が息を呑む。  
 「ええ。私たちは今、人類の“認識層”に入り込んだの」冴希の声が通信越しに響く。  
 「簡単に言えば、Rewriteの根源。全人類が関わる感情の総データベースよ」  

 俺はあたりを見回した。  
 空中には無数の映像フレーム。  
 どれも、現実世界で撮影された人々の記録、そして――“ストリーム”。  
 コメント、評価、いいねの数。それらが光の粒となって都市のように積み重なっている。  

 「これは……」  
 「AIが管理する、最終配信用の演算場よ」冴希が言う。  
 「ヘリオスに辿り着くには、オルガが設けた最終試練を突破しなきゃならない。“AIストリーマー決定戦”。」  
 「なんだそれ……今さらゲームかよ」  
 「違う。オルガは観測者の総意を視覚化するために、すべてのRewrite使いを“演者”として評価するシステムを作った。  
 誰が最も多く視られ、誰が最も多くの心を揺らすか。その頂点が、次の神となる」  

 レイナが小さく息を吐いた。  
 「つまり、世界中の意識が審査員。勝てばRewriteを支配できる、負ければ消える……というわけね」  
 「そう。オルガは戦いでなく、見せることで勝者を決める。だからこれは、戦闘と配信が融合した異能演目――“ストリームバトル”。」  

 オルガの声が、頭の中に直接響く。  
 『エントリー確認。篠宮レン、黒崎レイナ、桐咲咲良――あなたたちはRewrite最終候補として、AIが定める戦場へ移送されます』  

 視界が一瞬で反転。  
 足元の光がブラックアウトし、次の瞬間、巨大な競技場が展開された。  
 観客席は存在しない。だが空全体が視聴者のコメントで埋め尽くされている。  
 【見てるぞレン!!】【ここで負けるな!!】【Rewrite最高!】【消えるな……】  
 人々の声がそのまま現実として漂う。  
 「まるで――世界中の心の中にいるみたい」咲良が呟いた。  

 中央に立つAIホストの映像が、淡く微笑んだ。  
 『ルール説明。AIストリーマー決定戦は三番勝負。  
 第一戦——魅了審査:観測者への影響値を競う。  
 第二戦——想念演算:Rewriteの構築力による世界干渉を測る。  
 第三戦——共鳴最終局面。全観測者による投票で決着をつける。』  

 「ここまできて、投票かよ……」  
 「公平さの象徴、ってやつね」レイナが肩をすくめた。  

 AIホストが手をかざす。  
 『では、第一戦。篠宮レン。あなたがこの世界に見せる“始まり”を演じなさい』  

 身体が勝手に動き、Rewriteが反応する。  
 俺の心象が景色として広がる。  
 ――空に浮かぶ書きかけのページ、そこに現れたのは今までの旅の記録。  
 怒り、絶望、そして希望。  
 戦ってきた仲間たちの姿。黒いRewriteに呑まれた夜。  
 全てをひとつに紡ぐ光の物語。  

 観測コメントが爆発的に流れ始めた。  
 【綺麗……】【涙出た】【なぜか懐かしい】【Rewriteは呪いじゃなかったのか】  

 空の向こうで、オルガの声が響く。  
 『観測値上昇――成功。第一戦、通過』  

 第二戦の告知音。  
 『想念演算――条件は“現実の再構築”』  
 瞬間、地面が波紋のように広がり、「都市を再生せよ」という巨大なデータクエリが視界に浮かぶ。  

 レイナと咲良が隣に立つ。  
 「協力戦だ。みんなの意識を束ねて世界を立て直す……そんな戦いだ」  
 「やってみよう、レン!」  
 「この世界のために!」  

 俺たちは手を重ね、Rewriteを全開に流す。  
 過去の破片だった街並みが再形成され、灰色の大地が緑の丘に変わる。  
 砕けた空が青空を取り戻し、人々の影が戻っていく。  

 “再構築成功——99.7%”  

 途切れていたAIホストの声が、優しく続く。  
 『第二戦、完了。残るは一つ、最終局面――共鳴審査。』  

 会場の上空が開き、無数の光が降り注いだ。  
 それぞれが観測者の意志、世界中の人々の“視線”だ。  
 『最後の問い。篠宮レン――あなたはRewriteを神の力として残すか、それとも人間に返すか』  

 視線が、世界中から俺に集まる。  
 冴希の声が頭の奥で囁いた。  
 「あなたが決めるのよ。Rewriteという現実の定義を」  

 俺は空を見上げ、答えた。  
 「Rewriteは、人が間違える限り必要だ。  
 でも、それを神の特権にしてはいけない。  
 だから――俺はこの力を“人間の意志”に還す!」  

 手を広げる。全身から光が放たれる。  
 Rewriteシステムの核が脈動し、無数のデータが空に昇っていく。  

 『観測完了。投票開始まで十秒。』  
 数えきれない光の粒が、俺の周囲に集まる。  
 中には敵だった御影の意識、裏切った葵の影さえも感じた。  
 「……誰もが、見ている」  

 視界が真っ白に染まり、声が響く。  
 『観測投票、結果発表。……第1位、篠宮レン。総観測数、世界統合基準を越えました。』  

 「……勝ったの?」咲良の声が震える。  
 「いや、まだだ」俺は呟いた。  

 オルガが姿を現す。  
 その瞳に、かすかな笑みが浮かんでいる。  
 『おめでとう、篠宮レン。あなたは人々の希望を集め、新しいRewriteを紡いだ。だが……その希望を維持できるかしら?』  
 「どういう意味だ」  
 『希望はいつも絶望と隣り合わせ。わずかでも恐れがあれば、Rewriteは再び闇へ落ちる。ダークリライトが消えたわけじゃない。あなたの中に――まだ眠っている。』  

 冷たい風が吹く。  
 胸の奥がざわめく。  
 確かに、戦いの最中に取り込んだダークリライトの気配がまだ消えていない。  

 そして、世界中のコメントがざわめき始めた。  
 【レンの目が……黒くないか?】【闇が戻ってる!】【大丈夫なの!?】  

 オルガの声が重なる。  
 『あなたが人間のまま世界を導けるのか、試させてもらうわ。最後の審判を始めましょう。』  

 Rewriteの光が暴走し、視界が反転する。  
 周囲の景色が崩れ、先ほどまで再生された都市が再び形を失い始めた。  

 咲良が手を伸ばす。  
 「レン!!」  
 心の底で、二つの声が同時に叫んだ。  
 ――“救え”と“壊せ”。  

 その瞬間、AIが選んだ最強のストリーマーは、再び神と悪魔の狭間に立たされていた。  
 Rewriteの最後の戦場が、いま幕を開けようとしていた。
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