ドラゴン&リボルバー

井戸カエル

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○記憶の中
イチカは夢を見て、それが夢でなく記憶だと理解した。途切れ途切れに色々な場面が出てくる。
イチカ:(今の記憶じゃない。昔の記憶だ…あの男がお袋を殴っている。時々、その矛先は俺に向く。…気がつくと、俺はあの男を殴り倒していた)
場面が変わり、灰色の壁が続く。
イチカ:(壁から出るときには、俺の体は蝕まれていた。 そうだ…スーツの男と取引したんだ)
真っ白な病室に多くの人間の呻き声がする。
イチカ:(俺は生き延びた。人形になりながらも…でも仲間ができた)
炸裂音で真っ赤な血が降り注ぐ、強烈で醜悪な光が包む。
イチカ:(これで無くした…何もかも… 腕も皮膚も仲間も… また、繰り返すのか。)
駅のホームが崩れ、女の子が微笑みながら話す。
女の子「「あ…り…とう…」」
イチカ:(なんて言ってる?あの子はなんて…)

○イチカの寝室
 イチカは目が覚めるとベットの上にいた。ベットの横では母親のティアが泣きながら両手を合わせて祈っていた。
ティア:「神様…どうかお救いください。この子はこんな私を救ってくれたんです。だから…どうか」
イチカ:「こんなって…言わないでよ」
ティア:「イチカ!あぁぁ…良かった。目を覚ましてくれて良かった」
イチカは母親の姿を見てまだ死ねない、死んではいけないと心に言い聞かせた。

○イチカ達の家、リビングにて
ゲイル:「三人の様子はどうだ?」
治癒師:「娘の父親は恐らくだめじゃ。内臓まで深く傷ついとる。大丈夫そうなのは打撲や軽度の火傷を負ったあの娘だけじゃな」
二人は思い空気に飲み込まれるのを感じ、老いた治癒師はゲイルに恐る恐る質問した。
治癒師:「その… あれはやはりイチカなのか?この前は大丈夫じゃったじゃろ…なぜ…」
治癒師にも分かっていた、あの無残な姿の者がイチカだと。だが、同時に信じられないでいた。生まれた時から孫同然に見てきたあの子がこんな姿になっているなど受け入れられなかった。ゲイルは治癒師の目を真っ直ぐに見つめて答えた。その目は治癒師の知る優しい父の目ではなく、必死に煮えたぎる怒りを堪える戦士の目だった。
ゲイル:「あぁ間違いない。傷を負った男から話が聞けたよ。イチカは二人を追っている何者かに捕まり、遊び半分で実験台にされた。…あれは…外せないのか?」
あれと言われたときに二人は寒気を感じ、治癒師はあれほどおぞましいことを人間ができるのかと神に問いたかった。
治癒師:「胸にある高純度の魔鉱石か… 完全に体と混じって、無理に取ることはできん。それに鉱石と一体化している包帯が破れた皮膚の変わりになっておる。…ただの   実験じゃなかろう。完全に別の何かへと作り変えようとしたんじゃ」
治癒師の言葉に必死に堪えていた怒りの一部が漏れ出し、ゲイルは拳をテーブルに叩きつけた。
ゲイル:「くそぉっ! 俺がもっと注意しておけば!」
治癒師はゲイルの肩を叩きながら宥める。
治癒師:「過ぎたことを言うてもしかたがあるまい。今はあの子が目を覚ますことを祈ろう」

○イチカの家にて
イチカが目覚めてから一晩が過ぎ、朝になるとイチカは痛む体を引きずりながら鏡の前に立った。包帯で顔が見えない姿を見て、かつての自分と重なった。
イチカ:「やっぱ前世と一緒か…」
(驚きはしない。今さらだ… だが、今度は無くさない家族も腕も… )
鏡の前で左腕を触る手にギュっと力が入る。自分の姿と思いを確認した後にイチカは自分を助けた男の部屋に向かった。

○一階の寝室
 いつもはゲイルとティアが使っているベットにイチカを助けたドーラの父が横になっている。ティアからイチカが目覚めた後にその男も意識を取り戻したことを聞いていた。しかし、腹部の傷は深くて恐らく助からないだろうという話も聞いていた。だから、イチカは男と話をしなければいけないと思っていた。寝室をノックしてイチカがゆっくりと入る。寝室には馴染みの治癒師が傍らで看病をしていた。男の様子は安定しているように見えたが、同時にどこか諦めたようにも感じれた。男は治癒師を手で制して、イチカを真っ直ぐに見つめる。
博士:「すまなかった。君を巻き込んでしまって」
博士は息苦しそうに話している。イチカには目の前の男が長くないことが分かった。前世で何度も経験した感覚だった。ろうそくの炎が消える瞬間のような寂しさと切なさが胸を締め付ける。
イチカ:「いや、俺が迂闊だった。助けてくれてありがとう。」
博士:「感謝など…その鉱石を外すことはできないだろう。それを外せば君は死んでしまう。だが…まさか適応できるとは…」
イチカ:「頑丈さだけが取り柄でね。何か言い残したことがあるんじゃないか?」
博士:「ふっ…君は鋭いな。君をそんな姿にしたのに…」 
イチカ:「生きているだけましさ」
博士は苦しそうに息も絶え絶えになりながら話を続ける。
博士:「図々しい頼みだと思うが。君と私の娘は追われることになる。だから、頼む。私は…何もしてやることができなかっ…た…あの娘をっ…たの…む」
イチカ:「分かった。約束するよ」
イチカは博士が最後の力を振り絞った言葉に答え、その直後にドアが開きドーラが入ってきた。博士は入ってきたドーラを見て顔に表れていた苦悶の表情が和らぎ、安心したような顔に変わった。
ドーラ:「父様が目覚めたってほんと…う…」
博士:「あ…り…とう」
ドーラ:「と、父様…そんな…」
イチカ:「安らかにあれ。」
博士はそのまま安らかに目を閉じた。ドーラはその姿を見てベットに駆け寄り、泣き崩れている。その泣いているドーラを見ながらイチカは一つの覚悟を決めた。


○応接室
 博士が亡くなった後、夕暮れ時にイチカは両親に話したいことがあると言った。ゲイルとティアはイチカと共に応接室に入り、ティアは何事かと不安そうな表情をしている。対照的にゲイルは真剣な顔つきでイチカを見つめている。ゲイルにはイチカが何を話すのか、察しがついていた。だからこそ、父親として息子に目を反らすことはできない。
ティア:「どうしたのイチカ?体も治りきってないのに。」
イチカ:「母さん、不安にさせてごめん。でも、二人にどうしても話したいことがあるんだ」
ティア「なに?」
ゲイルは黙って聞いている。イチカはいつもは優しい父の雰囲気が違うことを感じているが、不思議と威圧感はなかった。
イチカ:「実は…俺をバルクート家名から除名して欲しい」
〔家名からの除名〕、その言葉にティアは驚きと衝撃のあまり、固まっている。言葉を失っているティアを横目にゲイルは聞いた。
ゲイル:「なぜだ?イチカ。家名からの除名ということは絶縁を意味する。もう…何も関係ない赤の他人…いや、なかったものとして扱われる」
イチカ:「分かってる。」
ゲイル:「例え王や神の名を以てしても、再び元に戻ることはできない!それだけ重いものだ!」
イチカ:「分かってるよ。重い重いものだというのは。ただ…若造の気まぐれや英雄ごっこで話をしてるわけじゃなんだ」
じっと二人は互いの目を見つめる。親子であり、同じ男としてその覚悟を確認するように。二人の様子にティアはただ服の端をギュッと握るしかなかった。
ゲイル:「本気だな 」
イチカ:「本気だ 」
ゲイルはそっと立ち上がり、イチカにも立つように促す。イチカがゲイルの前に立った時、パンと乾いた音がした。強い力でゲイルは頬を叩いた。それでもイチカは父親の目をじっと見つめる。初めてのことだった。今までゲイルは叱ったことはあったが、手を上げることはなかった。イチカはそんな優しく強い父を尊敬し、この頬にある以上の痛みに耐えた。そのイチカの姿を見て、ゲイルは涙を堪えながら強く抱きしめる。
ゲイル:「バカ野朗…一人で抱え込みやがって!それこそ、若造の気まぐれじゃじゃーか」
ゲイルの体は震えている。吟遊詩人が歌うほどの男が震えている。そのことにイチカは自分がひどく動揺し、同時に父親の愛情を感じてうれしく泣きそうになる。
イチカ:「お、親父…」
ゲイル:「お前を家名から外すことは許さん。だから、お前はそのまま堂々とすればいい。たまには家族を頼れ。」
イチカ:「ありがとう」
ゲイルはイチカに離れ、涙を拭いた。ティアも泣いていた。妻と息子につらい思いをさせたとゲイルは不甲斐ない思いでいっぱいになりながら、二人を見る。
ゲイル:「俺もお前に話すことがある」
イチカ:「なに?」
ゲイルはすぅっと息を飲んでゆっくりと呼吸する。戦いのときに戦士が自らの精神を統一する最良の方法だった。そして、イチカに生母のルフィアとで出会った時の話とそこから生まれた疑問を話した。イチカは静かに聞いていた。
ゲイル:「今回、お前達を捕らえていた者達の遺体をコールが調べてくれた。すると、洞窟内からさっき話した首飾りと同じようなものが発見された」
イチカはその首飾りを見た覚えはなかった。〔光の家〕のシンボルは丸の下に三角形がある簡単な形だ。イチカからすれば前世の日本にあった前方後円墳のような鍵穴形として理解していた。しかし、ゲイルの話からその首飾りは鍵穴形の下に三本線がる特殊なものらしい。イチカは何者かが自分の生まれる前から暗躍していたことに怒りを感じ、次にすべきことが見えた気がした。ゲイルの話の後にイチカは考えていた計画を伝えた。イチカは両親が心配しながらも納得してくれたことに感謝し、明日から忙しくなると心の中でつぶやいた。


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