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お見合いで罵り合ったのに、仕組まれていたと知って甘い結末になりそうです
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「こんにちは」
「はじめまして」
一件、平和な挨拶のやりとりをしているが、彼らの目は笑ってはいない。
(どうして、私がこんな遊び人とお見合いしなくちゃいけないのよ!?)
(なんで、オレがこんなふしだらな女と見合いをしなければならん!?)
2人は黙ってお茶を飲んでいた。
本日は、母親同士が知り合いということで、強引に設けられた見合いの席である。
何か話せ、と言わんばかりの母の突き刺さるような視線に負けたバルタサールは、仕方なく口を開いた。
「あー、今日は天気だけはいいですね」
「……ええ、ホントですわね」
それきりまた会話がなくなり、シーンとする。
「私たちがいると話しにくいでしょう。ここは若い人たちだけにして、私たちはお部屋でお茶を楽しみましょうか」
「ええ、そうしましょう」
そう言うと、バルタサールとデレシアの母は建物の中へと去って行く。
ちなみに、ここはバルタサールの実家、アグレル侯爵家の庭であった。
そよそよと気持ちの良い風が吹いてきて、ほのかに花の香がしている。
バルタサールはこんな平和な情景になぜ、こんなにもムダな時間を過ごさせねばならないのだ、と立ち上がった。
「もう、こんなバカげた見合いも止めにしないか?母に言われて仕方なく君とお見合いをしたが。一応、こうして会ったんだ。義理は果たせただろう」
「あら、ずいぶんと気が合いますこと。私も同じことを考えていましたわ。正直、私はあなたのような遊び人と結婚なんて考えられませんでしたもの」
バルタサールの言葉に気の強いデレシアは言い返す。
「ふしだらなうえに気が強いとはな。最悪だ」
「は?あなたこそ、遊び人で有名でしょ!私の友達たちもあなたの被害に遭っているんだから」
「は? 何を言っている。オレが遊び人? 笑わせるな!」
「私こそ、ふしだらなわけないでしょう!」
2人は激しくニラみ合った。側にいたメイドたちはあまりの険悪な状況にただ震えている。
「オレはしょうもないウワサのおかげで、お前のようなふしだらな女とならばちょうどいいと見合いをするハメになったんだ。冗談じゃない!」
「それは私の方こそ言いたいことよ!私もあらぬウワサのせいでこうなったのだわ!」
言葉を発するとすぐに言い返して来るデレシアにバルタサールはイラだった。
「ふん、煙のないところにウワサなんて立つか!」
「なら、あなたは自分が遊び人だって認めるのね」
「ちがっ!」
「遊び人は頭も悪いのね。じゃ」
デレシアは立ち上がると、母たちには《素敵なお時間を頂きましてありがとうございました。でも、バルタサール様は、私をお好みではないようですわ》などと言って帰って行く。
バルタサールはワナワナして震えていた。
(くそ!何なんだあの女は!)
友人たちの話ではデレシアは男癖が悪くて、飽きるとすぐにポイッと捨ててしまうのだそうだ。
(何という性悪女め!二度と口などききたくない!)
そう思ったバルタサールであったが、3日後、学園内でバッタリと鉢合わせしたのだった。
会った瞬間にお互いにニラみ合う。
「おい、オレの方が立場は上だが。挨拶はどうした?」
いくらか学園内だからトーンを抑え目にしたが、ムカついらしいデレシアは言い返してきた。
「ごきげんよう。今日も狩猟に忙しいのですのね」
「はあ?狩猟?」
デレシアの目線を辿れば、バルタサールは自分の周りを取り囲む女子生徒に気付いた。
「はあ?これはオレが狩ったんじゃない」
「へえ」
すると、デレシアの元にも周りを囲むように男子生徒がわらわらと集まって来た。
「デレシア嬢、どこかに行ったと思ったら、ここにいたんですね!」
「僕とお茶はいかがです?」
「いえ、私と読書など」
これを見た、バルタサールはニヤリとした。
「ふん、お前こそ狩りに忙しいようだな」
「これは違うわ!」
「違わないだろう!」
火花を散らす勢いでニラみ合っていたが、授業開始のチャイムが鳴り響いたので共に引き下がった。
「悪さはその辺にしとけ!」
「そちらこそ!」
互いに捨て台詞を言うと、教室に戻る。
バルタサールが席に着くと、先ほどまでデレシアの側にいた男子生徒たちが戻って来た。
「おい、お前ら、なんであんな女に引っ付いてるんだ?」
「……え、あれはバルタサール様に被害が及ばぬように僕たちなりの盾なのです」
「オレはそんなことを頼んだ覚えはないぞ」
「気になさらず。盾になれる喜びです」
腑に落ちないバルタサールだった。
一方、デレシアの教室でも、同様のことが起きていた。
バルタサールを取り囲んでいた女子生徒になぜ、そのようなことをしているのだ、とデレシアが声を聞くと彼女たちはこう答えた。
「それは、デレシア様をお守りするためですわ。私たちが取り囲んでいれば、デレシア様が被害に遭われることはありませんもの」
「私なら大丈夫だわ。むしろ、あなた方が心配よ」
「私たちならば心配に及びません。お守りするのが使命ですから」
狐につままれた気分になったデレシアであった。
……そんなある日、課題の資料探しに図書室にやってきたバルタサールは、またしてもデレシアに遭遇した。
デレシアは図書室の奥まった席で本を片手に居眠りをしていた。
「なんだ、寝てやがる」
長いまつ毛が影をつくっており、ツヤのあるシルクのような淡い金髪が額にかかっている。頬も内側からじんわりとバラ色に色づいている。
普段は顔を合わせると罵り合ってばかりなのに、スヤスヤと眠る彼女は目新しかった。
(……寝ている姿だけは可愛いな)
自分をいつもニラみつけてくる憎たらしい顔と違ってとても……カワイイ。
そのまま放っておいてもいいと思えたが、なんだか放っておくといけない気がして、仕方なくデレシアの耳元で囁いてやった。
「おい、寝るなら帰って寝ろよ」
デレシアは、突然、聞こえた低い声にビクリとして目を醒ました。
「ハッ……あなたは」
耳元を抑えながら赤くなるデレシアはとても焦っている。
「何で赤くなる?まるで、オレが悪いことをしたみたいじゃあ……ないか」
なぜか涙目になっているデレシアにドギマギしながら言う。
「わ、悪いことをしたじゃない。レディの耳元でいきなり囁くなんて……!」
それしきのことで何で泣きそうに言うのだ、と言いかけて止めた。
なんと、彼女はやたらと動揺している。というか、震えている。
「何で震えているんだよ……」
「だって……もしかしたら私をどうにかしているんじゃないかって怖くて。普段、私はあなたに言い返してしまっているから」
確かにここは図書室の中であっても人気のない所である。途端に、自分の誤解を生んでいる状況に、バルタサールも慌てだした。
「ち、違う。オレはたまたま、居眠りするお前を見て、そのままにしておくのは良くないと思って声を掛けただけだ。大きな声で言うのは恥ずかしいだろうと思って」
「え……」
バルタサールは、課題の資料を探しに図書室に来たことなど細かく説明した。
「……そうだったのね。その、あなたは遊び人だって聞いているからつい、仕返しをされるのだと思い込んでしまって」
「そんなことするかよ。それより、どうしてオレが遊び人だと思っているんだ?」
「あなたこそ、どうして私をふしだらな女だと思っているの?」
いつもとは違う会話になったのをキッカケに、お互いにずっと思っていた疑問をぶつけた。
「オレの周りの友人たちがそう言うものだから。お前は?」
「私もそうよ」
2人してなぜそんなことに?と考えていると、図書室の窓からいつも2人の周りを取り囲んでいる男子生徒たちと女子生徒たちが裏庭に向かう姿が見えた。
「あいつら、どこに行くんだ?怪しいな」
「追いかけてみましょうよ」
「おう」
2人は急いで裏庭に向かうと、取り巻きの連中が会議の真っ最中だった。
「どうしたら、このまま2人がくっつかないでオレたちにチャンスが巡ってくるか、どう考える?」
「それは、やはりこうして地道に悪評を耳に入れてお互いに惹かれないようにすることしかないわ!」
驚くようなことを話し合っていた。
陰からバルタサールたちが姿を現すと生徒たちは慌てた。
「わあ、デレシア嬢!」
「きゃああ、バルタサール様!」
大騒ぎである。
彼らを問い詰めると、彼らの企みが明らかになったのだった。
そう、彼らはバルタサールとデレシアという学園イチの美男美女をくっつけまいと男子生徒たちと女子生徒たちが一致団結して2人にあることないことを吹聴していたのだった。
――1週間後、バルタサールとデレシアは、海が見えるオシャレなカフェでお茶をしていた。
「改めまして、アグレル侯爵家のバルタサールだ。宜しく」
「こちらこそ改めまして、バックルンド伯爵家のデレシアですわ。宜しくお願いいたします」
「あの、その、いろいろとお互いに誤解をしていたが、できれば水に流して、きちんとお互いに向き合った方がいいと思うんだ」
バルタサールが緊張した面持ちで提案する。
「そうですわね。でも、本当にお互いに好き勝手言い合いましたから、そう忘れられるものではありませんわ。私、こう見えても傷つきましたし」
下を向くデレシアの頬に長いまつ毛の影ができる。とてもキレイだった。
バルタサールはデレシアがなかなか視線を合わせてくれないので、どうにか自分を見て欲しいと願った。
「……本当に済まない。ヒドイことをたくさん言った。君はオレのことが好きじゃないだろう。でも、今まで最低な姿を見せた分、オレのいいところも知って欲しい」
「なぜです?」
顔を上げたデレシアとやっと目が合う。
「やっとこちらを見てくれたな。……その、ありがちかもしれないが、君の美しさにオレの心は奪われた」
美しいと言われて、デレシアの顔が赤くなる。
「あなたは面食いなのですか?」
「……そういうつもりはなかったんだが。今思えば、君といがみ合っていた時、今度会った時にはどう言ってやろうとか、そんなことばかり考えていた。最低だが、きっとその時から君に惹かれていたんだと思う」
「それは、喜んでいいのか、正直、微妙ですわね」
デレシアがツンと横を向く。
「そういうところも好きなんだ。しっかりと意見を言うところだ」
「あなたは物好きなのですわね」
やっとデレシアが笑った。
「どうか、きちんと向き合う機会をいただけないでしょうか、レディ?」
「ええ。私もあなたを知りたくなりました」
バルタサールはデレシアの手をそっと取った。
(柔らかくて、少し震えている手……傷つけてしまったオレだけど、これからはきっと、守り抜いてみせる)
バルタサールが決意する。
海風がカフェのテラスを優しく撫で、どこか遠くで、波の音がリズムを刻んでいた。
恋の始まりの旋律が、静かに、でも確かに奏でられ始めている――。
「はじめまして」
一件、平和な挨拶のやりとりをしているが、彼らの目は笑ってはいない。
(どうして、私がこんな遊び人とお見合いしなくちゃいけないのよ!?)
(なんで、オレがこんなふしだらな女と見合いをしなければならん!?)
2人は黙ってお茶を飲んでいた。
本日は、母親同士が知り合いということで、強引に設けられた見合いの席である。
何か話せ、と言わんばかりの母の突き刺さるような視線に負けたバルタサールは、仕方なく口を開いた。
「あー、今日は天気だけはいいですね」
「……ええ、ホントですわね」
それきりまた会話がなくなり、シーンとする。
「私たちがいると話しにくいでしょう。ここは若い人たちだけにして、私たちはお部屋でお茶を楽しみましょうか」
「ええ、そうしましょう」
そう言うと、バルタサールとデレシアの母は建物の中へと去って行く。
ちなみに、ここはバルタサールの実家、アグレル侯爵家の庭であった。
そよそよと気持ちの良い風が吹いてきて、ほのかに花の香がしている。
バルタサールはこんな平和な情景になぜ、こんなにもムダな時間を過ごさせねばならないのだ、と立ち上がった。
「もう、こんなバカげた見合いも止めにしないか?母に言われて仕方なく君とお見合いをしたが。一応、こうして会ったんだ。義理は果たせただろう」
「あら、ずいぶんと気が合いますこと。私も同じことを考えていましたわ。正直、私はあなたのような遊び人と結婚なんて考えられませんでしたもの」
バルタサールの言葉に気の強いデレシアは言い返す。
「ふしだらなうえに気が強いとはな。最悪だ」
「は?あなたこそ、遊び人で有名でしょ!私の友達たちもあなたの被害に遭っているんだから」
「は? 何を言っている。オレが遊び人? 笑わせるな!」
「私こそ、ふしだらなわけないでしょう!」
2人は激しくニラみ合った。側にいたメイドたちはあまりの険悪な状況にただ震えている。
「オレはしょうもないウワサのおかげで、お前のようなふしだらな女とならばちょうどいいと見合いをするハメになったんだ。冗談じゃない!」
「それは私の方こそ言いたいことよ!私もあらぬウワサのせいでこうなったのだわ!」
言葉を発するとすぐに言い返して来るデレシアにバルタサールはイラだった。
「ふん、煙のないところにウワサなんて立つか!」
「なら、あなたは自分が遊び人だって認めるのね」
「ちがっ!」
「遊び人は頭も悪いのね。じゃ」
デレシアは立ち上がると、母たちには《素敵なお時間を頂きましてありがとうございました。でも、バルタサール様は、私をお好みではないようですわ》などと言って帰って行く。
バルタサールはワナワナして震えていた。
(くそ!何なんだあの女は!)
友人たちの話ではデレシアは男癖が悪くて、飽きるとすぐにポイッと捨ててしまうのだそうだ。
(何という性悪女め!二度と口などききたくない!)
そう思ったバルタサールであったが、3日後、学園内でバッタリと鉢合わせしたのだった。
会った瞬間にお互いにニラみ合う。
「おい、オレの方が立場は上だが。挨拶はどうした?」
いくらか学園内だからトーンを抑え目にしたが、ムカついらしいデレシアは言い返してきた。
「ごきげんよう。今日も狩猟に忙しいのですのね」
「はあ?狩猟?」
デレシアの目線を辿れば、バルタサールは自分の周りを取り囲む女子生徒に気付いた。
「はあ?これはオレが狩ったんじゃない」
「へえ」
すると、デレシアの元にも周りを囲むように男子生徒がわらわらと集まって来た。
「デレシア嬢、どこかに行ったと思ったら、ここにいたんですね!」
「僕とお茶はいかがです?」
「いえ、私と読書など」
これを見た、バルタサールはニヤリとした。
「ふん、お前こそ狩りに忙しいようだな」
「これは違うわ!」
「違わないだろう!」
火花を散らす勢いでニラみ合っていたが、授業開始のチャイムが鳴り響いたので共に引き下がった。
「悪さはその辺にしとけ!」
「そちらこそ!」
互いに捨て台詞を言うと、教室に戻る。
バルタサールが席に着くと、先ほどまでデレシアの側にいた男子生徒たちが戻って来た。
「おい、お前ら、なんであんな女に引っ付いてるんだ?」
「……え、あれはバルタサール様に被害が及ばぬように僕たちなりの盾なのです」
「オレはそんなことを頼んだ覚えはないぞ」
「気になさらず。盾になれる喜びです」
腑に落ちないバルタサールだった。
一方、デレシアの教室でも、同様のことが起きていた。
バルタサールを取り囲んでいた女子生徒になぜ、そのようなことをしているのだ、とデレシアが声を聞くと彼女たちはこう答えた。
「それは、デレシア様をお守りするためですわ。私たちが取り囲んでいれば、デレシア様が被害に遭われることはありませんもの」
「私なら大丈夫だわ。むしろ、あなた方が心配よ」
「私たちならば心配に及びません。お守りするのが使命ですから」
狐につままれた気分になったデレシアであった。
……そんなある日、課題の資料探しに図書室にやってきたバルタサールは、またしてもデレシアに遭遇した。
デレシアは図書室の奥まった席で本を片手に居眠りをしていた。
「なんだ、寝てやがる」
長いまつ毛が影をつくっており、ツヤのあるシルクのような淡い金髪が額にかかっている。頬も内側からじんわりとバラ色に色づいている。
普段は顔を合わせると罵り合ってばかりなのに、スヤスヤと眠る彼女は目新しかった。
(……寝ている姿だけは可愛いな)
自分をいつもニラみつけてくる憎たらしい顔と違ってとても……カワイイ。
そのまま放っておいてもいいと思えたが、なんだか放っておくといけない気がして、仕方なくデレシアの耳元で囁いてやった。
「おい、寝るなら帰って寝ろよ」
デレシアは、突然、聞こえた低い声にビクリとして目を醒ました。
「ハッ……あなたは」
耳元を抑えながら赤くなるデレシアはとても焦っている。
「何で赤くなる?まるで、オレが悪いことをしたみたいじゃあ……ないか」
なぜか涙目になっているデレシアにドギマギしながら言う。
「わ、悪いことをしたじゃない。レディの耳元でいきなり囁くなんて……!」
それしきのことで何で泣きそうに言うのだ、と言いかけて止めた。
なんと、彼女はやたらと動揺している。というか、震えている。
「何で震えているんだよ……」
「だって……もしかしたら私をどうにかしているんじゃないかって怖くて。普段、私はあなたに言い返してしまっているから」
確かにここは図書室の中であっても人気のない所である。途端に、自分の誤解を生んでいる状況に、バルタサールも慌てだした。
「ち、違う。オレはたまたま、居眠りするお前を見て、そのままにしておくのは良くないと思って声を掛けただけだ。大きな声で言うのは恥ずかしいだろうと思って」
「え……」
バルタサールは、課題の資料を探しに図書室に来たことなど細かく説明した。
「……そうだったのね。その、あなたは遊び人だって聞いているからつい、仕返しをされるのだと思い込んでしまって」
「そんなことするかよ。それより、どうしてオレが遊び人だと思っているんだ?」
「あなたこそ、どうして私をふしだらな女だと思っているの?」
いつもとは違う会話になったのをキッカケに、お互いにずっと思っていた疑問をぶつけた。
「オレの周りの友人たちがそう言うものだから。お前は?」
「私もそうよ」
2人してなぜそんなことに?と考えていると、図書室の窓からいつも2人の周りを取り囲んでいる男子生徒たちと女子生徒たちが裏庭に向かう姿が見えた。
「あいつら、どこに行くんだ?怪しいな」
「追いかけてみましょうよ」
「おう」
2人は急いで裏庭に向かうと、取り巻きの連中が会議の真っ最中だった。
「どうしたら、このまま2人がくっつかないでオレたちにチャンスが巡ってくるか、どう考える?」
「それは、やはりこうして地道に悪評を耳に入れてお互いに惹かれないようにすることしかないわ!」
驚くようなことを話し合っていた。
陰からバルタサールたちが姿を現すと生徒たちは慌てた。
「わあ、デレシア嬢!」
「きゃああ、バルタサール様!」
大騒ぎである。
彼らを問い詰めると、彼らの企みが明らかになったのだった。
そう、彼らはバルタサールとデレシアという学園イチの美男美女をくっつけまいと男子生徒たちと女子生徒たちが一致団結して2人にあることないことを吹聴していたのだった。
――1週間後、バルタサールとデレシアは、海が見えるオシャレなカフェでお茶をしていた。
「改めまして、アグレル侯爵家のバルタサールだ。宜しく」
「こちらこそ改めまして、バックルンド伯爵家のデレシアですわ。宜しくお願いいたします」
「あの、その、いろいろとお互いに誤解をしていたが、できれば水に流して、きちんとお互いに向き合った方がいいと思うんだ」
バルタサールが緊張した面持ちで提案する。
「そうですわね。でも、本当にお互いに好き勝手言い合いましたから、そう忘れられるものではありませんわ。私、こう見えても傷つきましたし」
下を向くデレシアの頬に長いまつ毛の影ができる。とてもキレイだった。
バルタサールはデレシアがなかなか視線を合わせてくれないので、どうにか自分を見て欲しいと願った。
「……本当に済まない。ヒドイことをたくさん言った。君はオレのことが好きじゃないだろう。でも、今まで最低な姿を見せた分、オレのいいところも知って欲しい」
「なぜです?」
顔を上げたデレシアとやっと目が合う。
「やっとこちらを見てくれたな。……その、ありがちかもしれないが、君の美しさにオレの心は奪われた」
美しいと言われて、デレシアの顔が赤くなる。
「あなたは面食いなのですか?」
「……そういうつもりはなかったんだが。今思えば、君といがみ合っていた時、今度会った時にはどう言ってやろうとか、そんなことばかり考えていた。最低だが、きっとその時から君に惹かれていたんだと思う」
「それは、喜んでいいのか、正直、微妙ですわね」
デレシアがツンと横を向く。
「そういうところも好きなんだ。しっかりと意見を言うところだ」
「あなたは物好きなのですわね」
やっとデレシアが笑った。
「どうか、きちんと向き合う機会をいただけないでしょうか、レディ?」
「ええ。私もあなたを知りたくなりました」
バルタサールはデレシアの手をそっと取った。
(柔らかくて、少し震えている手……傷つけてしまったオレだけど、これからはきっと、守り抜いてみせる)
バルタサールが決意する。
海風がカフェのテラスを優しく撫で、どこか遠くで、波の音がリズムを刻んでいた。
恋の始まりの旋律が、静かに、でも確かに奏でられ始めている――。
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