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◆第1章 一目惚れ
婚約者は隣国の王女様が好きなようです
ルイーズには、小さな頃から決められていた婚約者がいた。相手はこの国、メッツォの第2王子、ヘンリー殿下。
ちなみに第1王子はすでに同盟国の姫と結婚していて、子どももいる。
だからこそ、国内筆頭の名門・コルネ公爵家の娘であるルイーズと、ヘンリー王子の婚約は“当然”とされていた。
ただ──ヘンリー本人は、そのつもりがなくて……。
「リリアン姫……ですか」
隣国から“交流”を名目にやって来た王女、リリアン。
ピンクブロンドのふわふわした髪に、子ウサギのような小柄な体格。まさに“可愛い”を体現したお姫様だ。
ルイーズは可愛らしいというよりも美人タイプだから、リリアンのような容姿を持つ女性に憧れる気持ちをひそかに持っている。
(正直、羨ましい。私はブルネットで瞳も同じ色だったから、落ち着いて見えてしまうのよね……)
そんな可憐なリリアンを追いかけ回している人物がいる。兄のルースだ。
彼は学園を卒業してから、第1王子の補佐官として働いているいわゆるエリートだ。でも、彼は困ったことに女性に惚れやすい。彼はリリアンを宮中で見かけると、すかさず話しかけているらしい。
「よりによって私の婚約者に言い寄る女性にいかなくても良いでしょうに……」
「全くですわね。最低です!」
辛辣な言葉を吐いているのはルイーズの侍女であるジーナだ。彼女はルースと幼馴染なので、ルイーズと2人の時は容赦なく文句を言う。
とは言え、本心ではルースを大切にしているのを知っていたから、彼女に自由に発言させている。
「お嬢様、ルース様は地位も見た目も能力も完璧な方ではあります。ただ、どうして女性を見る目がないのでしょう」
「さあ。お母様が早くに亡くなられたから反動かも。寂しいのかもね」
「やはり、そのことが関係しているのでしょうか……」
「そうではなければ、学園でも有名なプレイボーイにならないでしょう」
次期公爵でもあるし、文武両道の優秀な生徒であったから兄は女性から異様にモテる。そして、彼も女性が嫌いではない。だから、よくトラブルに巻き込まれている。
「騙されてばかりなのに懲りないんだから」
「ホントですね」
ジーナが肩をすくめた。
「で、そのお兄様がそろそろ帰られる頃かしら?たまには出迎えて差し上げましょうか」
玄関ホールに行くと、ちょうどルースが帰宅してきたところだった。
「お、出迎えてくれるとは珍しいな」
「哀れなお兄様に会いたくなりまして」
「どういう意味だ?……それより、今日はリリアン姫と話すことができたぞ!」
「嫌味ですの?」
ジロリと見ると、兄がたじろぐ。
「……あのな、誤解しているぞ。女性から大人気の僕がリリアン姫を口説くのには意味があるのだぞ?」
「どういうことです?」
「お前の婚約者である殿下から、僕に関心が移るようにしているのではないか」
胸を張りながら言う兄には迷いがない。
「そんなことでリリアン様に接近していたわけですの?大した自信家ですわ」
「そうだよ。お前のためだ。そもそも、僕の好みはキレイ系でカワイイ系じゃない」
「それでも、ありがとうなんて言葉は言いませんわよ。……お兄様、世間ではお兄様がどう言われているかご存じ?」
「次期公爵で見た目も美しい、仕事もできる優秀な男、だろう?」
「これを忘れているわ。“節操のない男”というのを」
「なんだって!?」
まったく予想していない様子の兄はショックを受けている。膝を床につけて頭を振っている。
「おかしい……僕はいつだって人気で優秀で……」
「お兄様のショックよりも、私の方がショックを受けているとは思いませんの?普通、妹の婚約者にまとわりつく女性を口説きます?お兄様は確かに優秀だけど、変なところでお馬鹿さんなんですから。とにかく、もうやめてくださいね」
「でも!ルイーズがこのままじゃあ……!」
ヘンリーとルイーズは同じ歳で、ついこの前まで同じ学園に通っていた。だから、接点はあった。でも、学園を卒業してから彼とはなかなか会いにくい状況だ。
普通なら、城に会いに行けば彼とは顔を合わせられるのだが……彼は日中、城にいない。
なぜなら、ヘンリーはまさかの留年をしていたから。
彼は真面目に学園に通わず、気ままに過ごしてばかりした。それで、卒業できなかった。王族であっても学業をしっかり学ばない者は容赦なく留年させるのが、メッツォ国の学園ポリシーだ。
そんな中、リリアンが留学してきて学園に通うことになり、ヘンリーと仲良くなってしまったというわけだ。
(殿下がしっかりとしていれば良い話だけど。情けないわ)
ヘンリーという人物は、長年一緒に過ごしてきたルイーズにとっても未知の部分を持つ人だ。基本的に彼とは考え方が違う。発想自体がルイーズにはない考えをする。
だから、リリアンという人物が現れて彼らがうまくいっているらしいと聞くと、どうやって意思疎通をしているのだろうと思ってしまって現実感がない。あからさまな浮気の現場を見たわけでもないから余計にそう感じる。
ただ、周囲が当然のように“殿下はリリアン姫に夢中”などと言うたびに、胸の奥がひどく痛んだ。
(嫉妬心はあまりないはずなのに……)
心は、ひどく傷ついていた。
ちなみに第1王子はすでに同盟国の姫と結婚していて、子どももいる。
だからこそ、国内筆頭の名門・コルネ公爵家の娘であるルイーズと、ヘンリー王子の婚約は“当然”とされていた。
ただ──ヘンリー本人は、そのつもりがなくて……。
「リリアン姫……ですか」
隣国から“交流”を名目にやって来た王女、リリアン。
ピンクブロンドのふわふわした髪に、子ウサギのような小柄な体格。まさに“可愛い”を体現したお姫様だ。
ルイーズは可愛らしいというよりも美人タイプだから、リリアンのような容姿を持つ女性に憧れる気持ちをひそかに持っている。
(正直、羨ましい。私はブルネットで瞳も同じ色だったから、落ち着いて見えてしまうのよね……)
そんな可憐なリリアンを追いかけ回している人物がいる。兄のルースだ。
彼は学園を卒業してから、第1王子の補佐官として働いているいわゆるエリートだ。でも、彼は困ったことに女性に惚れやすい。彼はリリアンを宮中で見かけると、すかさず話しかけているらしい。
「よりによって私の婚約者に言い寄る女性にいかなくても良いでしょうに……」
「全くですわね。最低です!」
辛辣な言葉を吐いているのはルイーズの侍女であるジーナだ。彼女はルースと幼馴染なので、ルイーズと2人の時は容赦なく文句を言う。
とは言え、本心ではルースを大切にしているのを知っていたから、彼女に自由に発言させている。
「お嬢様、ルース様は地位も見た目も能力も完璧な方ではあります。ただ、どうして女性を見る目がないのでしょう」
「さあ。お母様が早くに亡くなられたから反動かも。寂しいのかもね」
「やはり、そのことが関係しているのでしょうか……」
「そうではなければ、学園でも有名なプレイボーイにならないでしょう」
次期公爵でもあるし、文武両道の優秀な生徒であったから兄は女性から異様にモテる。そして、彼も女性が嫌いではない。だから、よくトラブルに巻き込まれている。
「騙されてばかりなのに懲りないんだから」
「ホントですね」
ジーナが肩をすくめた。
「で、そのお兄様がそろそろ帰られる頃かしら?たまには出迎えて差し上げましょうか」
玄関ホールに行くと、ちょうどルースが帰宅してきたところだった。
「お、出迎えてくれるとは珍しいな」
「哀れなお兄様に会いたくなりまして」
「どういう意味だ?……それより、今日はリリアン姫と話すことができたぞ!」
「嫌味ですの?」
ジロリと見ると、兄がたじろぐ。
「……あのな、誤解しているぞ。女性から大人気の僕がリリアン姫を口説くのには意味があるのだぞ?」
「どういうことです?」
「お前の婚約者である殿下から、僕に関心が移るようにしているのではないか」
胸を張りながら言う兄には迷いがない。
「そんなことでリリアン様に接近していたわけですの?大した自信家ですわ」
「そうだよ。お前のためだ。そもそも、僕の好みはキレイ系でカワイイ系じゃない」
「それでも、ありがとうなんて言葉は言いませんわよ。……お兄様、世間ではお兄様がどう言われているかご存じ?」
「次期公爵で見た目も美しい、仕事もできる優秀な男、だろう?」
「これを忘れているわ。“節操のない男”というのを」
「なんだって!?」
まったく予想していない様子の兄はショックを受けている。膝を床につけて頭を振っている。
「おかしい……僕はいつだって人気で優秀で……」
「お兄様のショックよりも、私の方がショックを受けているとは思いませんの?普通、妹の婚約者にまとわりつく女性を口説きます?お兄様は確かに優秀だけど、変なところでお馬鹿さんなんですから。とにかく、もうやめてくださいね」
「でも!ルイーズがこのままじゃあ……!」
ヘンリーとルイーズは同じ歳で、ついこの前まで同じ学園に通っていた。だから、接点はあった。でも、学園を卒業してから彼とはなかなか会いにくい状況だ。
普通なら、城に会いに行けば彼とは顔を合わせられるのだが……彼は日中、城にいない。
なぜなら、ヘンリーはまさかの留年をしていたから。
彼は真面目に学園に通わず、気ままに過ごしてばかりした。それで、卒業できなかった。王族であっても学業をしっかり学ばない者は容赦なく留年させるのが、メッツォ国の学園ポリシーだ。
そんな中、リリアンが留学してきて学園に通うことになり、ヘンリーと仲良くなってしまったというわけだ。
(殿下がしっかりとしていれば良い話だけど。情けないわ)
ヘンリーという人物は、長年一緒に過ごしてきたルイーズにとっても未知の部分を持つ人だ。基本的に彼とは考え方が違う。発想自体がルイーズにはない考えをする。
だから、リリアンという人物が現れて彼らがうまくいっているらしいと聞くと、どうやって意思疎通をしているのだろうと思ってしまって現実感がない。あからさまな浮気の現場を見たわけでもないから余計にそう感じる。
ただ、周囲が当然のように“殿下はリリアン姫に夢中”などと言うたびに、胸の奥がひどく痛んだ。
(嫉妬心はあまりないはずなのに……)
心は、ひどく傷ついていた。
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