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◆第9章 新世界
不機嫌なアードルフ
放課後になると、アードルフは宣言通りに教室の前でルイーズを待っていた。
「アードルフ、本当に待っていたのね」
「そう言っただろう?」
アードルフはまだ不機嫌だった。
(私こそ話してもらいたいことを話してもらえないのに、不機嫌になられるなんて理不尽だわ)
いっそのこと、エレオーラのことを言おうかと思ったが、話せば自分がアードルフを見張っていたことも知られることになるだろう。あまり得策とは思えなかった。
「ルイーズ、その主催者というのはいつ来るんだ?」
「もう来ているかもしれないわ。彼は、夏の演奏旅行の許可を取るだけでなく、恩師に会うと言っていたから」
「その主催者とは男なんだな?それでウイナ音楽院出身者か」
アードルフがつんけんした言い方をする。やりとりを見ていたレウルスが口を挟んだ。
「お前、いなかった割に偉そうだな。ルイーズの側から離れていたのはお前のくせに」
「……事情があったんだ!」
「事情ってなんだよ?」
レウルスが分かっていながら突っかかる。
「......それについては今度、きちんとルイーズに話すつもりだ」
アードルフはエレオーラの件を説明するつもりではいるようだ。
(でも、今度っていつ?それまでこの状態を続けるつもりなのかしら.......)
もう、すっかりアードルフとはおかしな空気になりかけている。これが続くのかと思うとつらかった。
「クリスティアンは、職員室にいると思うから行きましょう」
職員室の前にやって来ると、部屋の中から賑やかな声が聞こえてきた。
「......ベンヤミン先生の音楽構成論は面白かったですよ!すぐ話が脱線して!」
上機嫌に話すクリスティアンがいた。ベンヤミン先生も楽しそうに話している。
「あの陽気に話している人がクリスティアンよ」
ルイーズが言うと、アードルフはクリスティアンの元へズンズンと近づいて行った。
慌ててルイーズが追いかける。
「ご歓談中のところ申し訳ございません。ベンヤミン先生、僕も話に混ぜて頂けませんか?」
「ああ、アードルフ君。君の恋人であるルイーズ嬢がクリスティアン主催の演奏旅行に参加するんだってね」
「そうみたいですね。僕は一言も聞いていなかったのですが」
「え!?......ならクリスティアン、しっかりと説明してあげないと!ほら、食堂でお茶でもして来るといいよ」
ベンヤミン先生は、アードルフがなにも聞いていないと知って、慌てだした。彼はトリアの王室と親交があるからアードルフに気を使っているらしい。
「おお!僕も食堂に行きたかったのですよ。じゃあさっそく行こう!」
クリスティアンはアードルフの発言など意に介さず、楽し気に職員室を出て行く。
(クリスティアンもいい意味で鈍感だわ。逆に良かったけれど)
「レウルス、フローレンスとコンラートも食堂に呼んできてもらえないかしら?説明するなら彼らもいた方がいいわ」
「分かった」
先にアードルフと食堂に向かうと、クリスティアンは懐かしそうに食堂を見渡していた。
「懐かしい!ほら、僕はかつてあの辺りに座ってランチしていたんだ!」
メニューもルンルンした様子で見ている。
「......ルイーズ。あの人はああいう人なのか?」
毒気を抜かれたらしいアードルフが尋ねる。
「そうよ。あなたは知らないみたいだけど、彼はフローレンスたちの幼馴染でもあるわ」
「へえ」
クリスティアンが少々ズレた人物だと分かると安心したのか、アードルフの表情が柔らかくなった。ルイーズの顔に触れてくる。
「さっきは厳しい言い方をして悪かった」
「いえ......」
(どうやら、少し落ち着いたみたい。これなら演奏旅行に行くのも理解してくれるわよね)
しばらくすると、フローレンスとコンラートも食堂に駆けつけて来た。
「フローレンス!コンラート!」
昨日会ったばかりだというのに、クリスティアンは久々の再会であるかのように手を広げて、彼らを歓迎した。
「クリスティアンたら大げさ。昨日ぶりでしょ」
「いやあ、僕は久々にこの懐かしい音楽院に来て感動しているのさ。なにか曲が思いつきそうだ」
「そう。それよりほら、ルイーズの恋人もいることだし、演奏旅行に連れて行く前に彼にも説明しておかないと」
フローレンスが仕切ってくれる。
...........一通り話し終えると、腕を組んでいたアードルフは口を開いた。
「言うことは分かったが、僕はその演奏旅行に反対だな」
アードルフの言葉に皆、驚いた顔をした。レウルスも同じく驚いていたから、彼に反対する気持ちがなかったのが分かる。
「なんで?ルイーズのためになるよ?」
「なんでって、僕がいないじゃないか。この夏、ルイーズと離れ離れになってしまう」
「心配なら、アードルフ兄も付いて来ればいいじゃない」
「ただの付き添いで?僕にだってプライドがある。演奏もしないのに行くわけにいかない」
クリスティアンがアードルフの不満を聞いて、困った顔をした。
「えーと、アードルフ君的には自分も参加したいということかな?.........でも、ごめん。僕としてはこのメンバーのバランスが良いと思っていてさ。四重奏で進めたいんだよね」
折れる様子のないクリスティアンの言葉に、アードルフの表情が険しくなったのだった。
「アードルフ、本当に待っていたのね」
「そう言っただろう?」
アードルフはまだ不機嫌だった。
(私こそ話してもらいたいことを話してもらえないのに、不機嫌になられるなんて理不尽だわ)
いっそのこと、エレオーラのことを言おうかと思ったが、話せば自分がアードルフを見張っていたことも知られることになるだろう。あまり得策とは思えなかった。
「ルイーズ、その主催者というのはいつ来るんだ?」
「もう来ているかもしれないわ。彼は、夏の演奏旅行の許可を取るだけでなく、恩師に会うと言っていたから」
「その主催者とは男なんだな?それでウイナ音楽院出身者か」
アードルフがつんけんした言い方をする。やりとりを見ていたレウルスが口を挟んだ。
「お前、いなかった割に偉そうだな。ルイーズの側から離れていたのはお前のくせに」
「……事情があったんだ!」
「事情ってなんだよ?」
レウルスが分かっていながら突っかかる。
「......それについては今度、きちんとルイーズに話すつもりだ」
アードルフはエレオーラの件を説明するつもりではいるようだ。
(でも、今度っていつ?それまでこの状態を続けるつもりなのかしら.......)
もう、すっかりアードルフとはおかしな空気になりかけている。これが続くのかと思うとつらかった。
「クリスティアンは、職員室にいると思うから行きましょう」
職員室の前にやって来ると、部屋の中から賑やかな声が聞こえてきた。
「......ベンヤミン先生の音楽構成論は面白かったですよ!すぐ話が脱線して!」
上機嫌に話すクリスティアンがいた。ベンヤミン先生も楽しそうに話している。
「あの陽気に話している人がクリスティアンよ」
ルイーズが言うと、アードルフはクリスティアンの元へズンズンと近づいて行った。
慌ててルイーズが追いかける。
「ご歓談中のところ申し訳ございません。ベンヤミン先生、僕も話に混ぜて頂けませんか?」
「ああ、アードルフ君。君の恋人であるルイーズ嬢がクリスティアン主催の演奏旅行に参加するんだってね」
「そうみたいですね。僕は一言も聞いていなかったのですが」
「え!?......ならクリスティアン、しっかりと説明してあげないと!ほら、食堂でお茶でもして来るといいよ」
ベンヤミン先生は、アードルフがなにも聞いていないと知って、慌てだした。彼はトリアの王室と親交があるからアードルフに気を使っているらしい。
「おお!僕も食堂に行きたかったのですよ。じゃあさっそく行こう!」
クリスティアンはアードルフの発言など意に介さず、楽し気に職員室を出て行く。
(クリスティアンもいい意味で鈍感だわ。逆に良かったけれど)
「レウルス、フローレンスとコンラートも食堂に呼んできてもらえないかしら?説明するなら彼らもいた方がいいわ」
「分かった」
先にアードルフと食堂に向かうと、クリスティアンは懐かしそうに食堂を見渡していた。
「懐かしい!ほら、僕はかつてあの辺りに座ってランチしていたんだ!」
メニューもルンルンした様子で見ている。
「......ルイーズ。あの人はああいう人なのか?」
毒気を抜かれたらしいアードルフが尋ねる。
「そうよ。あなたは知らないみたいだけど、彼はフローレンスたちの幼馴染でもあるわ」
「へえ」
クリスティアンが少々ズレた人物だと分かると安心したのか、アードルフの表情が柔らかくなった。ルイーズの顔に触れてくる。
「さっきは厳しい言い方をして悪かった」
「いえ......」
(どうやら、少し落ち着いたみたい。これなら演奏旅行に行くのも理解してくれるわよね)
しばらくすると、フローレンスとコンラートも食堂に駆けつけて来た。
「フローレンス!コンラート!」
昨日会ったばかりだというのに、クリスティアンは久々の再会であるかのように手を広げて、彼らを歓迎した。
「クリスティアンたら大げさ。昨日ぶりでしょ」
「いやあ、僕は久々にこの懐かしい音楽院に来て感動しているのさ。なにか曲が思いつきそうだ」
「そう。それよりほら、ルイーズの恋人もいることだし、演奏旅行に連れて行く前に彼にも説明しておかないと」
フローレンスが仕切ってくれる。
...........一通り話し終えると、腕を組んでいたアードルフは口を開いた。
「言うことは分かったが、僕はその演奏旅行に反対だな」
アードルフの言葉に皆、驚いた顔をした。レウルスも同じく驚いていたから、彼に反対する気持ちがなかったのが分かる。
「なんで?ルイーズのためになるよ?」
「なんでって、僕がいないじゃないか。この夏、ルイーズと離れ離れになってしまう」
「心配なら、アードルフ兄も付いて来ればいいじゃない」
「ただの付き添いで?僕にだってプライドがある。演奏もしないのに行くわけにいかない」
クリスティアンがアードルフの不満を聞いて、困った顔をした。
「えーと、アードルフ君的には自分も参加したいということかな?.........でも、ごめん。僕としてはこのメンバーのバランスが良いと思っていてさ。四重奏で進めたいんだよね」
折れる様子のないクリスティアンの言葉に、アードルフの表情が険しくなったのだった。
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