107 / 205
◆第9章 新世界
アードルフとレウルスの衝突
「どうしてカルテットにこだわる?僕にはバイオリンの実力がある」
アードルフが強い調子で言う。
「うん、らしいね。フローレンスからコンクールでの入賞経験もある聞いているよ。でもさあ、ギターにマティアス、バイオリンにルイーズ、ビオラにコンラート、チェロにフローレンスっていうバランスがやっぱり最高なんだよ。だから、編成を変えるのはちょっとムリ」
マイペースにクリスティアンが答える。
「ガンコなヤツだな...」
「ちょっと、アードルフ兄!言い方に気を付けてよ。アードルフ兄の先輩でもあるんだよ!」
「この音楽院から卒業する生徒なんてたくさんいる。自由な発想をできないのが大変、残念だね」
「アードルフ、冷静になれ」
普段はあまり口を挟んでこないコンラートも口を出した。
「子どものワガママみたいで幼稚だな」
「なんだと!?」
レウルスの言葉に反応したアードルフが立ち上がった。はずみで椅子がガタンと倒れる。
「ちょっとアードルフ、落ち着いて!」
(こんな感情的なアードルフは初めて。どうしてここまで怒るの?)
ルイーズは戸惑いながらも、倒れた椅子を元に戻した。
「そもそもフローレンスたちも勝手だ!僕がいない間に話を進めるなんて。ルイーズは僕の恋人だ。大切にしているのは分かっているだろう!?」
「私たちに八つ当たりしないでよ!アードルフ兄がルイーズのことを放っておくからいけないんじゃん!私はチャンスをルイーズに分けただけだもん!」
いつもはアードルフの味方であるフローレンスもさすがに頭にきたらしい。
「コンラートはフローレンスのすることに、なにも言わなかったのか!?」
「私に当たるな。お前、熱くなりすぎだよ。どうしてそんなに怒る?ルイーズが成長できる機会なのだぞ?」
コンラートが冷静に言う。アードルフは息を大きく吸った。
「はあ、確かにそうだろう。だが、それでも相談もなく勝手に決めたことが気に入らないんだ。相談して欲しかった」
「それは......申し訳なく思うわ。でも、あなたは忙しそうだったし、この話自体も急だったわ」
ルイーズの言葉にクリスティアンも口を開く。
「ルイーズはね、僕が思うメンバーにピッタリだと思ったよ。だから、すぐに返事をして欲しいと迫った。だって、いい人材がいたら確保するのは当たり前だ。そういうのはタイミングなのさ。運命とも言うね」
「それを勝手だって言うんだ!」
またアードルフが熱くなる。
「オレから見たら、アードルフこそ自分の都合に合わせて考えているようにしか思えないな。ルイーズの気持ちを少しでも考えているのか?」
「お前に言われたくない!」
「なら、もっときちんと向き合うべきだったな。自分の思いばかり押し付けやがって」
「お前!フルンゼで一緒だったからって、口を出し過ぎなんだよ!目障りなヤツだ!」
「お前がそうさせているんだ」
「この野郎!!」
ついにキレたアードルフがレウルスの胸倉を掴む。
「やめて!やめてってたら!」
耐えられなくなってルイーズが叫んだ。
(アードルフはこんなに勝手な人じゃなかったはずなのに.......!)
さすがのフローレンスもオロオロしていた。
「君たち!!落ち着いて深呼吸したまえ!」
コンラートが間に入って止めた。
「多くの者がお前たちを見ている。お前たちが争ってなにになる?」
「..........」
アードルフとレウルスがやっと黙った。こちらに注がれている多くの視線にようやく気付いたらしい。
「......アードルフ、私を夏の演奏旅行に行かせてちょうだい。私にとってチャンスだもの。演奏旅行に行ったからといって、二度と会えなくなるわけではないわ。お願い」
本当は、アードルフに“許して”などと言ってお願いしたくなかった。普通に話して理解してもらうつもりだった。だが、彼は思った以上に怒っていた。
「僕は……ルイーズが側にいないと心配なんだよ」
アードルフがルイーズを抱きしめて肩に顔を埋める。
(心配させているのは、あなただというのに……)
「不安になる必要なんてないから......」
彼の背中を優しく撫でた。とにかく今は、アードルフを落ち着かせることが先決だ。
「.......演奏旅行に出掛けても僕を忘れない?」
「忘れるわけないわ」
「........なら君の願いを叶えないわけにいかないね」
アードルフにギュッと抱きしめられた。ルイーズはされるがままになる。
「.......えーっと、じゃあ演奏旅行はOKということでいいよね?」
クリスティアンが確かめるように言う。
「.........ああ。演奏旅行は僕も都合をつけてルイーズに会いに行くようにする」
「OK。それは全然、構わないよ。.........ああ、丸く収まって良かった~!」
クリスティアンがのん気な言い方をする。彼はなかなか強心臓だ。
「オレも演奏旅行の合間にルイーズたちの様子を見に行く」
レウルスの言葉にアードルフがまた反応した。
「なんでお前まで行こうとする!?」
「気になるからだろ」
「お前..........もしかして」
アードルフはルイーズをきつく抱きしめながら睨みつけていた。
(アードルフがこんな不安定になるのは、エレオーラのせいなの?)
「......ルイーズ、試験が終わったら話したいことがある」
アードルフが耳元で囁いた。
「分かったわ」
(レウルスの説教が効いたのかしら.......?)
レウルスの言葉は自身にも当てはまるはずであったが、アードルフにとって効果的であったらしい。
(ひとまず、落ち着いて良かったわ)
ホッとしたのも束の間、試験シーズンが近づいていたのだった。
アードルフが強い調子で言う。
「うん、らしいね。フローレンスからコンクールでの入賞経験もある聞いているよ。でもさあ、ギターにマティアス、バイオリンにルイーズ、ビオラにコンラート、チェロにフローレンスっていうバランスがやっぱり最高なんだよ。だから、編成を変えるのはちょっとムリ」
マイペースにクリスティアンが答える。
「ガンコなヤツだな...」
「ちょっと、アードルフ兄!言い方に気を付けてよ。アードルフ兄の先輩でもあるんだよ!」
「この音楽院から卒業する生徒なんてたくさんいる。自由な発想をできないのが大変、残念だね」
「アードルフ、冷静になれ」
普段はあまり口を挟んでこないコンラートも口を出した。
「子どものワガママみたいで幼稚だな」
「なんだと!?」
レウルスの言葉に反応したアードルフが立ち上がった。はずみで椅子がガタンと倒れる。
「ちょっとアードルフ、落ち着いて!」
(こんな感情的なアードルフは初めて。どうしてここまで怒るの?)
ルイーズは戸惑いながらも、倒れた椅子を元に戻した。
「そもそもフローレンスたちも勝手だ!僕がいない間に話を進めるなんて。ルイーズは僕の恋人だ。大切にしているのは分かっているだろう!?」
「私たちに八つ当たりしないでよ!アードルフ兄がルイーズのことを放っておくからいけないんじゃん!私はチャンスをルイーズに分けただけだもん!」
いつもはアードルフの味方であるフローレンスもさすがに頭にきたらしい。
「コンラートはフローレンスのすることに、なにも言わなかったのか!?」
「私に当たるな。お前、熱くなりすぎだよ。どうしてそんなに怒る?ルイーズが成長できる機会なのだぞ?」
コンラートが冷静に言う。アードルフは息を大きく吸った。
「はあ、確かにそうだろう。だが、それでも相談もなく勝手に決めたことが気に入らないんだ。相談して欲しかった」
「それは......申し訳なく思うわ。でも、あなたは忙しそうだったし、この話自体も急だったわ」
ルイーズの言葉にクリスティアンも口を開く。
「ルイーズはね、僕が思うメンバーにピッタリだと思ったよ。だから、すぐに返事をして欲しいと迫った。だって、いい人材がいたら確保するのは当たり前だ。そういうのはタイミングなのさ。運命とも言うね」
「それを勝手だって言うんだ!」
またアードルフが熱くなる。
「オレから見たら、アードルフこそ自分の都合に合わせて考えているようにしか思えないな。ルイーズの気持ちを少しでも考えているのか?」
「お前に言われたくない!」
「なら、もっときちんと向き合うべきだったな。自分の思いばかり押し付けやがって」
「お前!フルンゼで一緒だったからって、口を出し過ぎなんだよ!目障りなヤツだ!」
「お前がそうさせているんだ」
「この野郎!!」
ついにキレたアードルフがレウルスの胸倉を掴む。
「やめて!やめてってたら!」
耐えられなくなってルイーズが叫んだ。
(アードルフはこんなに勝手な人じゃなかったはずなのに.......!)
さすがのフローレンスもオロオロしていた。
「君たち!!落ち着いて深呼吸したまえ!」
コンラートが間に入って止めた。
「多くの者がお前たちを見ている。お前たちが争ってなにになる?」
「..........」
アードルフとレウルスがやっと黙った。こちらに注がれている多くの視線にようやく気付いたらしい。
「......アードルフ、私を夏の演奏旅行に行かせてちょうだい。私にとってチャンスだもの。演奏旅行に行ったからといって、二度と会えなくなるわけではないわ。お願い」
本当は、アードルフに“許して”などと言ってお願いしたくなかった。普通に話して理解してもらうつもりだった。だが、彼は思った以上に怒っていた。
「僕は……ルイーズが側にいないと心配なんだよ」
アードルフがルイーズを抱きしめて肩に顔を埋める。
(心配させているのは、あなただというのに……)
「不安になる必要なんてないから......」
彼の背中を優しく撫でた。とにかく今は、アードルフを落ち着かせることが先決だ。
「.......演奏旅行に出掛けても僕を忘れない?」
「忘れるわけないわ」
「........なら君の願いを叶えないわけにいかないね」
アードルフにギュッと抱きしめられた。ルイーズはされるがままになる。
「.......えーっと、じゃあ演奏旅行はOKということでいいよね?」
クリスティアンが確かめるように言う。
「.........ああ。演奏旅行は僕も都合をつけてルイーズに会いに行くようにする」
「OK。それは全然、構わないよ。.........ああ、丸く収まって良かった~!」
クリスティアンがのん気な言い方をする。彼はなかなか強心臓だ。
「オレも演奏旅行の合間にルイーズたちの様子を見に行く」
レウルスの言葉にアードルフがまた反応した。
「なんでお前まで行こうとする!?」
「気になるからだろ」
「お前..........もしかして」
アードルフはルイーズをきつく抱きしめながら睨みつけていた。
(アードルフがこんな不安定になるのは、エレオーラのせいなの?)
「......ルイーズ、試験が終わったら話したいことがある」
アードルフが耳元で囁いた。
「分かったわ」
(レウルスの説教が効いたのかしら.......?)
レウルスの言葉は自身にも当てはまるはずであったが、アードルフにとって効果的であったらしい。
(ひとまず、落ち着いて良かったわ)
ホッとしたのも束の間、試験シーズンが近づいていたのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
これでもう、『恥ずかしくない』だろう?
月白ヤトヒコ
恋愛
俺には、婚約者がいた。
俺の家は傍系ではあるが、王族の流れを汲むもの。相手は、現王室の決めた家の娘だそうだ。一人娘だというのに、俺の家に嫁入りするという。
婚約者は一人娘なのに後継に選ばれない不出来な娘なのだと解釈した。そして、そんな不出来な娘を俺の婚約者にした王室に腹が立った。
顔を見る度に、なぜこんな女が俺の婚約者なんだ……と思いつつ、一応婚約者なのだからとそれなりの対応をしてやっていた。
学園に入学して、俺はそこで彼女と出逢った。つい最近、貴族に引き取られたばかりの元平民の令嬢。
婚約者とは全然違う無邪気な笑顔。気安い態度、優しい言葉。そんな彼女に好意を抱いたのは、俺だけではなかったようで……今は友人だが、いずれ俺の側近になる予定の二人も彼女に好意を抱いているらしい。そして、婚約者の義弟も。
ある日、婚約者が彼女に絡んで来たので少し言い合いになった。
「こんな女が、義理とは言え姉だなんて僕は恥ずかしいですよっ! いい加減にしてくださいっ!!」
婚約者の義弟の言葉に同意した。
「全くだ。こんな女が婚約者だなんて、わたしも恥ずかしい。できるものなら、今すぐに婚約破棄してやりたい程に忌々しい」
それが、こんなことになるとは思わなかったんだ。俺達が、周囲からどう思われていたか……
それを思い知らされたとき、絶望した。
【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】と、
【なにを言う。『恥ずかしい』のだろう?】の続編。元婚約者視点の話。
一応前の話を読んでなくても大丈夫……に、したつもりです。
設定はふわっと。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。