婚約者の浮気王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢

大井町 鶴(おおいまち つる)

文字の大きさ
191 / 205
◆第15章 急転直下

誓いの鐘が鳴る日

カルロの新政権がようやく安定し始めた頃――待ちわびていた、レウルスの受爵がついに発表された。

「メッツォの音楽文化を高めたという理由での受爵だが、実際のところは新政権の策略が絡んでいると思うと、複雑な心境ではあるな」

レウルスがボヤいている。

「でも、それでも正直、嬉しいわ」
「もちろんだ。欲しくてたまらなかった」

レウルスの受爵には多くの賛成の声が挙がったが、古株の貴族たちからは反発する声も挙がっていた。

“音楽しか取り柄のない家”と、いまだに嘲る者がいるのである。

だが、政治に影響力のある公爵とカルロを支えるヘンリーを敵に回すのは得策ではない、ときちんと理解した者は多かったらしい。

「ふん、レウルスの受爵をジャマなどする者など、私が許さん」
「僕もです。ルイーズの夫はすなわち、我が家の家族ですからね」

父と兄が頼もしい。

彼らがニラミをきかせてくれたおかげで、受爵の式典は滞りなく行われた。

王城の広間で行われた式典にはレウルスの家族も出席し、誓約と剣の授与がされるとレウルスの父母が涙ぐんでいて、ルイーズもつられて涙ぐんだ。

爵位とともに、わずかながらも領地が与えられた。どうやら、音楽家という特異な立場を考慮して比較的負担の少ない土地を選んでくれたようだった。

「いやあ、まことに良かった」

父は上機嫌だった。

初めて対面したレウルスの父母とレイニーをそのまま屋敷に招くことになり、今はホームバーティーの真っ最中である。

「クリスティアンもこのタイミングに戻って来られて良かったわ」
「ぜひとも受爵の式典にも出席したかったけどね。まあ、間に合いそうになかったから仕方ないけど」

クリスティアンは午前中の式典の最中、トリアに戻って来ていた。一足先に屋敷に着いて久しぶりにマティアスと2人きりの時間を過ごしたらしい。

「レウルス、おめでとう。これで君も爵位持ちとなったわけだな」
「男爵だけどな。でも、なにもないよりはずっといい」
「きっと、君のがんばり具合でもっと爵位が上がるかもしれないぞ。なんたって君は新しい時代の象徴なのだからさ」
「そうなることを望んでいる。ルイーズのためにも。家族のためにも」

ルイーズも側にいて彼らの会話を聞いていたが、クリスティアンのことが気になった。

「クリスティアンの方はどうなったの?」
「僕?僕はきちんと自分の主張を通すためにいろいろとやってきたさ。君たちみたいに社会的には夫婦になれそうにはないけれど、一緒に住むつもりさ」
「メッツォで探すのか?」

レウルスが言うと、クリスティアンが肩をすくめる。

「なんだ、違うのか?」
「ディートマルにマティアスと戻ろうかと思ってる。実はもう屋敷も見つけて購入済さ。というわけでルイーズ、悪いがマティアスを連れて帰りたいんだ」

ルイーズが驚いてマティアスを見ると、彼も申し訳なさそうな顔をしていた。

「その表情からするに、もうマティアスも決めたのね?」
「うん。ごめんね。僕はクリスティアン様と一緒にいたい」
「分かるわ。大事な人とは離れていない方がいいもの」
「寂しくなるな」
「一生、会えなくなるわけじゃない。君たちの結婚式までは滞在するつもりだよ」
「ぜひ、そうして。お父様がさっそく教会に話をつけたのよ」

父はメッツォでも一番の大きさである教会でルイーズとレウルスの結婚式を行おうと多大な寄付を教会に行ったらしい。

しかも、父は日の良い日に結婚式を挙げさせようとした結果、その日は下級貴族の結婚式が行われるはずだったのにお金で物を言わせて譲ってもらったみたいだ。

「お父様は強引だから…」
「う~ん、でも充分なお金は渡しているのだろうし、国民全体が注目している結婚式でもあるから断りにくいだろうね」
「申し訳ないわ」
「でも、その分、君たちは早く夫婦になれるじゃないか」

クリスティアンが明るく笑って言う。

「そう言ってもらえると、少しは気が楽になるけれど」

………受爵してからスピーディーに結婚式は1ヶ月後に行われた。

出席者は家族や親族以外にも王族、フルンゼの仲間まで大勢が呼ばれ、大規模であった。

コルネ公爵家では教会前の広場で数日に渡り、食べ物を振る舞ったからちょっとしたお祭り騒ぎになったくらいである。

教会に入る前、2人でこんな会話をした。

「こんなに多くの人の前で愛を誓うのだから、もう後戻りはできないわね」
「当たり前だ。オレたちはずっと一緒だ」

緊張しながら父の腕に手を携えて祭壇の前まで歩いて行くと、とても優しく微笑むレウルスがいて幸せな気持ちでいっぱいになったのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

娯遊戯空現
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。

生徒会の期間限定雑用係 ~庶民の私が王子に囮役としてスカウトされたら、学園の事件に巻き込まれました~

piyo
恋愛
平凡な庶民の少女クィアシーナは、フォボロス学園への転校初日、いきなりこの国の第二王子にして生徒会長ダンテに目をつけられる。 彼が求めたのは、生徒会での“囮役”。 学園で起きているある事件のためだった。 褒美につられて引き受けたものの、 小さないやがらせから王位継承問題まで巻き込まれていき――。 鋭すぎるツッコミを武器に、美形の生徒会の仲間たちと奮闘する庶民女子。 これは、無自覚な恋を抱えながら学園の事件に首を突っ込んでいく少女の物語。 ※全128話  前半ラブコメ、後半第二章以降シリアスの三部構成です。 ※「私にキスしたのは誰ですか?」と同じ世界感ですが、単品で読めます。 ※アルファポリス先行で他サイトにも掲載中

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

眠り姫の憂鬱~私が視えるのはお前だけかよ?!~

ほりとくち
恋愛
ある日、左手の薬指が動かせなくなった。 一過性のものだと思われていたが、どんどん動かせない部位は増えていき、やがて寝たきりになってしまったアメリア。 「その身では、務めを果たせないだろう」 両親に告げられた婚約破棄に胸を痛めつつも、仕方がないと受け止める。 そんな彼女のもとにお見舞いに訪れた元婚約者セオルは、ひどく憔悴していた。 ……って、どこを触っているんだ! 倫理観の壊れたセオルの暴挙に、とっさにアメリアは魔法で彼を吹き飛ばしていた。 魔法の力で精神体となって肉体を抜け出せることに気づいたアメリアだが、彼女の姿は誰にも視えないーー 「は?」 はずなのに、なぜか元婚約者とは目が合ってる?! なんでよりにもよってコイツにだけ視えるんだ……! 果たしてアメリアは、健康な肉体を取り戻せるのか。 幽体離脱令嬢×愛が重い婚約者のラブコメディ。 ーーーーーーーー 「小説家になろう」にも掲載しています。 いいね・感想・お気に入り登録頂けるとすごく嬉しいです。 どうぞよろしくお願いします!

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

【4/5完結予定】春を蒔く〜芽吹きへの八年〜

ねるねわかば
恋愛
穀倉地帯バーレイ領主の娘ベアトリスは、結婚を予定していた幼馴染みの裏切りを知り領地を出た。 王都の女学校で慣れない勉強に苦心するなか、図書館で白皙の苦学生と出会う。 ​彼から教わったのは、学ぶことの意味。初めて感じた動悸とともに、ベアトリスの世界は変わった。 卒業、別れ、そして八年の月日。 『美味しい麦を作りたい』 ただそれだけを叶えるために、ベアトリスは今年も種を蒔く。 全12話です。

あなたがすき、だったから……。

友坂 悠
恋愛
 あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。  もともと、3年だけの契約婚だった。  恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。  そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。  それなのに。  約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。  だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。  わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。  こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。    ############# なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、 シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。 初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。 お楽しみいただけると幸いです。