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第6話 語られる過去
17 過去
数千年前。
天界の司令官トルクアレトが副官であるタルクアムとグアバレルを連れて、秋が深まってきた地上へと出向いていた。
一行に力天使ベリアルは同伴することになった。
(かったりぃな……)
ただでさえ美しい容姿の天使だが、その中でも力天使ベリアルは見目麗しく、弁舌が立ち、一際目立つ存在だった。
サラリとした黄金の髪には天使の輪が光輝き、キリリとした眉、紫水晶の瞳にすっと通った鼻梁、薄い唇は緩い弧を描く。
その麗しい見た目に反して、本人はわりと怠惰な人物だった。
(視察とか、とにかく面倒すぎる……)
言葉巧みにトルクアレト達を煙に巻いたベリアルは、池の畔に立つ巨木の枝で羽を休めて過ごしていた。
その時、ちょうど眼下に一人の少女の姿が映った。
(もう成人ってとこか……人間にしちゃあ、珍しい髪色だな……)
彼女は淡い桃色の緩やかな髪に、透き通るような蒼い瞳をしている。
もしかしたら、人間だが半分だけ悪魔の血が流れている可能性だってある。
(とにかくあんまり関わり合いにならないようにしないとな……)
だが、今すぐ羽ばたけば音で天使である自分の存在に気づかれてしまうだろう。
そう思って、ベリアルはその場で息を潜めはじめた。
そうこうしていたら、ちょうど樹の真下で、少女が纏っていた修道服を脱ぎはじめるではないか――。
人間の着替えなど――興味が全くないとは言い切れなかったベリアルはついつい目をやってしまう。
小柄な背丈のわりにふっくらと大きな乳房にくびれた腰、すらりと伸びた手足。
(まずいな……)
枝の上から乗り上げたベリアルは、少女の姿に見惚れてしまっていたことに気づいた。
(なるほど……人間の女ってのは綺麗なわけだ――そのまま参っちまう天使がいてもおかしくはない)
身を持って体験していた彼が、ふっと気づいた瞬間――。
(これは……)
「……ッ……」
ぐらりと自分の身体が傾いていくのが分かった時にはもう時すでに遅く、枝の上から彼は滑り落ちてしまう。
急いで羽ばたこうとしていたのだが――。
(なんだ……!? どうなってる……!?)
――なぜだか羽を自由に動かせないまま、樹の下へと落下していく。
「あ……!」
ベリアルは思わず声を漏らしてしまったため、こちらを見上げてくる少女と目があった――そう思った時には――。
「うわあ……!」
「きゃあッ……!」
天使ベリアルは少女の身体の上にどしゃりと墜ちてしまった。
「一体全体、何が……」
「それはこちらも同じ気持ちです」
ベリアルが慌てて身体を起こすと、少女の蒼い瞳と出会う。
「あなたは……」
怯えた様子もなく、彼女は口を開く。
「天使様……」
少しだけ彼女の声が歓喜に震えた。
「あなたの……名前は……?」
「……名前……お前……いいや、貴女の方こそ名前は……?」
そうして、動じない少女はポツポツと呟きはじめた。
「――セラフィー……」
胸を焦がし、人生を狂わすほどの恋が待っていることを、この頃のベリアルは知らなかったのだった。
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