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第8話 地獄の試練
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しおりを挟む相手の話の意図に関して私が考えていると、突然、頭上に煌々とした光の渦が出現した。
「なに……!?」
『魔王ベリアル、天使セラフィー』
頭の中に直接男性の声が――天上の神の声が響きはじめる。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
『もう魔王ベリアルの肉体は死に瀕しています。地獄から魔界に戻ったとしても、人間達と同じほどしか生きることは出来ないでしょう……』
「たとえ短い時間でも、私はベリアルお父様と一緒に過ごしたい……」
そうして、ぎゅっと拳を握った後、私は光に向かってきっぱりと告げる。
「だって私は……お父様のことを愛しているから」
力強く告げる。
だけど、それは私の身勝手な我がままだろうか?
視線を移すと、ベリアルお父様の紫水晶の瞳が揺れ動いていた。
「セラフィー……」
『素晴らしい……セラフィー、天使だというのに悪魔を愛せる貴女の本気をどうか、私にもっと見せていただけますか……?』
「私の本気を……?」
『ええ。一度だけ機会を与えましょう。今からセラフィーとベリアルの小指同士に見えない糸を繋ぎます。そうして、セラフィーがベリアルを導き、この地獄から彼を連れ出すのです。ただし、絶対に振り向いてベリアルの姿を見てはいけません。無事に魔界へと連れていくことが出来たら、ベリアルを魔王から解放し、残り少ない余生を過ごしてもらいましょう』
ぱあっと胸の内が明るくなっていくと同時に、漠然とした不安に苛まれる。
「本当に……? お父様を連れて行くだけで好いのですか? そんな簡単で良いのですか?」
……罠なのではないだろうか――?
すると――。
『もちろん、罠などではありません。私は天上の神、嘘を吐くことは許されない。ただし……』
「ただし……?」
『ベリアルには人として生きてもらおうと思います――ベリアルはどうでしょうか?』
身体がズシンと重くなっていき、心臓がバクバクと落ち着かない。
魔王として名を馳せてきたベリアルお父様が人として生きる……。
彼はどう答えるだろうか――?
すると――。
「俺がどんどんジジイになる姿を見て、セラフィーに愛想を尽かされるは勘弁だな……」
「……私はベリアルお父様がおじいさんになったとしても、一緒に生きていきたいんです」
「強情な娘に育っちまったな……だったら、俺も覚悟を決めてやるよ」
「お父様……」
彼の優しさが胸いっぱいに広がっていく。
『セラフィー、どんな姿になってもという言葉に二言はありませんか?』
「もちろんです」
『地上に近付けば近づくほど、ベリアルの真の姿が曝け出されてしまいます。先ほど、何があっても振り向いてはいけないと伝えましたが、一度だけなら振り向いてもらっても構いません。真実のベリアルの姿を見て、貴女が動揺すれば、ベリアルは地獄へとまた引き戻されてしまうことでしょう。その時は、貴女の聖なる力を彼に触れて分け与えなければなりませんよ』
それを聞くと、ベリアルが眉を顰めた。
「はい、ありがとうございます、神様」
『ええ、あなた達の絆をどうか私に見せてください』
すると、光は収束して、消えていったのだった。
気づけば小指には糸が伸びている。
(もう試練は始まっているのね……)
「お父様、行きましょう!」
「ああ……セラフィー……お前のためにも俺のためにも、絶対にこっちを振り返らないでくれ」
彼の言葉を胸に、私は地獄から魔界への道を戻りはじめたのだった。
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