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後日談 魔王様の天使な養分

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 まだ私が幼天使で、悪魔三兄弟とも一緒に暮らしていなかった頃。
 
 窓の外には煌々と赤い満月が煌めいていた。

「お父様」

 ベリアルお父様のスラリと長い片脚に、幼い私はしがみついた。

「お父様……今日は一緒に眠れないのですね……」

「ああ、セラフィー、今日は満月だ。だから、一緒には眠れない」

 そうして、彼はしゃがみ込みと、私と視線を同じにして、優しい口調で語りかけてくる。

「お願いだから、俺のところには来ないようにしておいてくれ」

 拒絶されたわけではないのだが、なんだか胸がきゅうっと締め付けられるようだ。
 胸に抱きかかえていたウサギのヌイグルミを、代わりにぎゅうっと抱きしめた。

「セラフィー……満月の夜はいつも一人で寂しいです」

 ベリアルお父様は沈黙するばかりだ。

「その……お父様はいつも何をされているんですか?」

 しばらく間があった。

「うまくはないし、欲しくもないが……栄養をとっている……」

「栄養……?」

「ああ、栄養だ。食事ではないがな……」

 ご飯ではない栄養とは一体何なのだろうか。

「セラフィーも、お父様とごいっしょして、食べることができますか?」

「……いいや……お前が食べることは出来ない。そろそろ頃合いだ、良い子でよく休んでおけよ」

 そうして、ベリアルお父様は私の頭を撫でると、そっと立ち上がった。
 踵を返した彼の横顔を見て、いつもよりも瞳の色が血のように赤いなと、幼心に思ったのだった。



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